トライブ・オン・シャグリン
「・・・そうかもね。でもこれ、直線にしか行けないから追いかけるので精一杯だよ」
「いんやぁ、平気だって。ちょっとオイラにも乗せてくれよ」
しょうがないなぁ。
闇を集めて作った剣を光の剣の後ろにくっつけると、テリーゴが後ろの闇の剣に足を乗せながら肩に手をかけてきた。
「ちゃんと掴まっててよ?」
「オッケー」
町並みの中を突き抜けるように音波を飛ばし、掛橋のように続く音波に乗って一気にティンレイドの町を飛んでいく。
数分経ったような感覚がしたときに何となく止まった瞬間、背中に何かがぶつかるとそのまま光の剣から落ちてしまった。
「おお、危なかったぁ、なぁゆっくり止まれないのか?」
「ふぅ、そうなんだ、本来は敵との距離を一瞬で詰めるためのものだからね」
辺りを見渡すと、大きなルーベムーンが取り付けられた建物が並ぶ町並みは、所々に見える先端が細長い高層の建物が印象的な町並みに変わっていた。
「そうかぁ。まぁとりあえずシンバンには着いたみたいだけど、こっからじゃまだ交戦してるような人達は見えないな」
「一旦下りてみようよ」
屋根に降り立ち、何かを感じようとするかのように遠くを見つめ始めたテリーゴは、少しして真剣さを保ったままの眼差しでこちらに顔を向けた。
「もうちょっとあっちかも知れないけど、遠くはないから、急ごう」
「うん」
テリーゴを追いかけて屋根を飛び移っていくと、何となく騒がしい空気が近づいているのを感じ始め、ふと立ち止まった屋根から街を見下ろしたとき、何かが爆発したような音と民衆の悲鳴と思われるものが心の中の緊迫感を強めた。
・・・あれか。
「テリーゴ、あれ」
「よっしゃあ見つけたぁっ」
勢いよく屋根から飛び下りたテリーゴの後に続き、何やら全身を機械で覆った怪しい人物の前に降り立った。
「お前が擬太陽エンジンだなっ」
「・・・え?擬太陽エンジンって人だったっけ?」
「え?」
テリーゴと顔を見合わせた後に怪しい人物に目を向けると、いきなり目の前に現れた2人に驚いているのか、怪しい人物もこちらとテリーゴを黙って見つめている。
「何だお前ら・・・」
後ろを振り返ると、胸元と両手を鎧のようなもので覆った人、そしてその人の後ろに2人の男性が立っていたが、その3人共が何故か敵視する眼差しではなく、皆驚きの表情を浮かべていた。
「ん?何だ?あ、あんたらか、ホンゴウラの奴らと戦ってる奴って」
戸惑う様子もなく、ただ黙ってこちらの方を見ている男性達にテリーゴも反応を伺うように黙り込み、その場に牽制し合うような沈黙が流れる。
「あ?・・・ホンゴウラと戦ってる奴ってのは、俺達じゃない、そっちだ」
「えっ」
テリーゴと共に後ろを振り返ったときには、すでに怪しい人物はこちらと距離を取るように少しだけ後ろに下がっていた。
「じゃあ、あんた誰?」
しかし怪しい人物は一向に口を開こうとしないので、とりあえずホンゴウラの人達と思われる男性達に目線を戻した。
「もしかして、それが擬太陽エンジン?」
「見ず知らずの奴らに話す義理はねぇよ」
でも、自分達がホンゴウラだって言ったようなものだし、きっとそうだ。
「オイラ達、それが欲しいんだ。いきなりで悪いけど力ずくで貰うからな」
「あ?何だか知らないがこれは渡さない。来るなら来いよ、そいつ共々返り討ちにしてやる」
直後に擬太陽エンジンと思われるものを装着する男性の背中から細かい霧のような光が溢れ出すと、男性の後ろに立っていた2人の男性はすぐに男性から離れ始めた。
先制を取るように一瞬にして男性の頭上に移動したテリーゴが、すぐさま掌に作った光と闇の球を男性に撃ち落とすと、光と闇の爆風は霧のような光を纏いながら瞬く間に男性を覆っていった。
静かだった戦況を刺々しく緊迫させた衝撃音が消えていくと同時に男性は姿を現すが、男性は怯むことなく掌を勢いよく突き上げながら、掌から空気を激しく揺らす衝撃波のようなものを飛ばした。
「テリーゴっ」
勢いよく目の前の地面に落とされたテリーゴはすぐに立ち上がるが、あの一度の衝撃波に片翼はボロボロになり、片半身の鎧は傷だらけになった。
「つ、強ぇ」
すると男性は手負いのテリーゴに止めを刺そうと、再び掌を前に突き出した。
まずいっ・・・。
とっさにテリーゴの前に立ちはだかりながら、男性に向けて衝撃性を限界まで高めた音波を飛ばす。
空間が激しく歪み、突き刺さるような衝撃音が重たく響き渡った直後、波に呑まれるかのような衝撃に襲われて背中は強く地面に叩きつけられた。
「・・・そこまで衝撃波を軽減させるとはな、たいした野郎だ」
つ、強い、完全に力負けした・・・。
「だが、お前ら2人は、あいつらとは大違いみたいだな」
あいつら?・・・。
冷たい眼差しと共に男性が掌をこちらに向けてきたとき、先程の怪しい人物が男性の前にゆっくりと立ちはだかった。
「・・・お前だって、たった1人でこの兵器に盾突いてきた割には随分と骨が無かったな」
男性が掌を突き出す前に動いた怪しい人物は、掌から収束された光線を放ったが、男性が間一髪で上体を反らせると光線は男性を通り過ぎて何の変哲も無い細長い柱に当たり、光線はそのまま呆気なく消えていった。
「ふっ・・・どこ狙って・・・」
呟きながら男性もその柱に顔を向けた途端、柱の根元が光線の衝撃で折れると、柱はまるで狙いを定めるかのように男性目掛けて倒れていった。
「なっ」
男性が衝撃波で柱を豪快に跳ね返したとき、怪しい人物はすでに男性の懐に入り込もうとしていた。
いけるっ・・・。
怪しい人物が男性の首を掴むと、男性は驚きと恐怖に表情を歪ませたが、その表情はそのまま怒りを纏うように険しくなると同時に、男性は距離感の無い位置から怪しい人物に衝撃波を浴びせ掛けた。
あ・・・あれを、直に・・・。
こちらの頭上を通り越し、激しく地面を転がった怪しい人物だが、全身を覆うその機械にはそれほどの損傷は見られず、更にゆっくりではあるがすでに立ち上がろうと体を起こし始めていた。
「チッ・・・どこの誰かは知らないが、ヒューマノイドと同等かそれ以上の強度を持ってるとはな」
しかし疲労はしているようで、怪しい人物は片膝を地面に着きながら若干荒々しく呼吸をしている。
「あ、いや、人間である以上はヒューマノイドより下か。お前ら全員、これで一気に片付けてやる」
男性の背中辺りから溢れ出ている霧状の光が濃くなると、霧状の光は男性の掌に集まっていき、篭手のように手首を覆う機械は光を溜め込んでより一層輝きを増した。
光と闇の剣を合わせて1つにし、盾のように突き出した剣の前に光と闇を集める。
「まだ動けたか、言っとくがこれはさっきのとは比べものにならないぞ?」
「・・・それでも、迎え撃つっ」
「そうか」
男性が掌から衝撃波を飛ばすと同時に集めた光と闇を膜状に引き伸ばす。
光と闇が辺りに散らばるように消えていき、光と闇の剣が砕け散った直後に意識が遠ざかると、気がついたときには町の景色そのものが大きく傾いていた。
地面に伏していることが分かり、遠くの男性を見上げるが、体は重く、すぐには起き上がることさえ出来なかった。
「くそぉっよくもっ」
すると今度はこちらを庇うようにテリーゴが男性の前に立ちはだかった。
だめだ・・・今のテリーゴじゃ、敵わない。
目にも留まらぬ速さで男性を撹乱していくテリーゴは、男性の周りの地面に闇で作った小さなナイフのようなものをいくつか突き立てていく。
そして男性の頭上に姿を現すと同時に、手に持つ小さな闇のナイフの先を男性に向けるテリーゴの体が、ほんのりと闇を纏った。
「天蓋縛り」
男性の周りに突き立てられた4本の小さな闇のナイフから線状の闇が噴き出すと、同じようにテリーゴの持つ小さな闇のナイフからも闇が噴き出していく。
四方と頭上から放たれた5本の線状の闇は男性を貫くと、そのまま鎖のように男性の体に纏わり付いた。
「なっくそっ何だよ」
身動きが取れなくなった男性の前に降り立ったテリーゴは手に光と闇を集め始める。
「止めだっ」
「こんなものっ」
テリーゴが風車のような形の剣を持って飛び出すが、同時に男性の背中から溢れ出す霧状の光が男性に纏わり付く闇を消し飛ばすと、男性はすぐさま掌をテリーゴに向けて突き出した。
テリーゴっ・・・。
空気に溶けるように消えていく風車のような剣と共に、軽々と吹き飛んだテリーゴの翼は両方とも傷を負い、鎧の損傷も先程のものよりもその酷さを増していた。
「くぅ・・・動きを止めることすら出来ないのか」
悔しそうに表情を歪ませるテリーゴを前に、男性はどこか神妙な面持ちでテリーゴを見ていた。
「どうやら、お前は変身しないようだな。何て言ったか、確かディビエイトとか言う奴らとはやはり違うんだな」
「何だって?ディビエイトを知ってるのか?」
「おっと口が滑ったか。そろそろ止めを刺してやるよ」
どうしてホンゴウラの人がディビエイトを知ってるんだ?
まさか僕達以外にも、この世界に堕混が居るのか?
掌を前に突き出そうとした男性は、ふと何かに気を取られるかのように別の方に目を向ける。
「お前らっ」
「あぁ?・・・NAPか、意外と遅かったな」
男性の目線の先に目を向けると、3人の青を基調とした服装の男性が擬太陽エンジンを装着した男性を毅然とした態度で睨みつけていた。
「ヒューマノイドは居ないのか。まさか、腕に着けてるその見知らぬもんが代わりとでも言うのか?」
「・・・そのまさかだ」
何やら右腕に機械を装着している先頭の男性が、小さくニヤつきながら右腕を前に突き出すと、突如機械が唸り出すと共に機械の脇から後ろに向かって空気が噴き出した。
そして直後に機械の先端から青白く反射する何かが発射されると、それはきやびやかに光る空気を尾に引きながら、擬太陽エンジンを装着した男性に向かって真っ直ぐ飛んでいった。
男性がとっさに衝撃波を放つと、自身への直撃は免れたものの、氷の破片のようなものを散らばらせながら破裂した青白く反射する何かに、男性は大きく押し返された。
・・・あの衝撃波を、押さえ込むなんて。
「くっなかなかやるな、何だそりゃ?NAPの新兵器か?」
「あぁ、NAPだって、いつまでもホンゴウラの武器だけに頼ってらんねぇんだよ」
擬太陽エンジンを装着した男性から若干の悔しさが伺えたが、腕に機械を着けた男性はふと神妙な面持ちをその男性に返していた。
「まぁ、とは言ったものの、これからヒューマノイドの援軍が来る。どうする?そっちはたった1人だろ?」
「あ?まるで逃がしてくれるような言い方だな」
「まぁ、簡単に言や、とっととシンバンから出てってくれってことだ」
擬太陽エンジンを装着した男性達が逃げて行くと、腕に機械を着けた男性は一瞬こちらの方に目を向けてから怪しい人物へと目を向けていった。
「正体不明の何者かって、複数だったのか。それにしても格好に統一感がないのが気になるが」
腕に機械を着けた男性が怪しい人物に歩み寄り始めると、他の2人はこちらの方に向かってきた。
「まぁ1人だけ格好が違うなら統率者だっつう見方も出来るが、お前がリーダーか?」
怪しい人物がゆっくりと首を横に振ると、その男性はこちらの方に歩み寄る男性達に目を向けた。
「どうやら君達は口が聞けそうだ。君達は一体何者なんだ?」
「僕達は、ただ擬太陽エンジンが欲しくて、その人とホンゴウラの人が戦ってるところに乱入しただけだよ」
話しかけてきた男性が腕に機械を着けた男性に顔を向けると、その男性は小さく頷きながら再び怪しい人物に目を向けた。
「やっぱり別物か、お前は何者だ?何故ホンゴウラの奴に襲いかかった?」
男性が少し声色を落として問いただし、徐々に空気が重々しくなっていくと、怪しい人物はまるで観念したように肩を落としながら仮面を外し始めた。
・・・あ、まさか、女の人だったなんて。
「お前アウローラかっ」
男性がまるで心配していたような声色でその女性をそう呼ぶが、その女性は何かを思い詰めたような険しい表情をしていた。
「ホウゴさん」
「お前、こんなとこで何してんだよ。それにその格好・・・」
氷牙なんかより、成長を願うカイルや、力を求める総助のシーンを楽しんで頂ければと。笑
ありがとうございました。
 




