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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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インヴァイテッド・トゥ・ビューティー

何だろ、エイミって人を残してみんなが下がっていく。

テリーゴもアイールに支えられたネッカや団長達と一緒に下がりながら、こちらに向けて手招きしているので、すぐに天井から降下してテリーゴの隣に降り立つ。

依然として威圧的な存在感と強い殺気を放つ魔獣と1人睨み合うエイミに、皆の見守るような視線が注がれたとき、エイミは前に突き出した杖に力を溜めるように手をかざした。

「連鎖解放、ストームブリザード」

杖から水色と緑色の光が溢れ瞬間的にエイミを包むと、杖を持つ手は杖と同化するように篭手のような鎧に包まれ、杖の両端にはルーベムーンを囲むように光の輪が浮かび上がった。

その直後に魔獣の巨大な右腕が振り出されたが、エイミが杖を天高く振り上げると同時に床から現れた巨大な氷柱は、天を突くように伸びていくと共に、魔獣の巨大な右腕さえも豪快に貫いていった。

あ、あの右腕を・・・止めた・・・。



何かがすぐ横を通り過ぎていったかのように見えたが、気にも止める間もなく、流れる景色の奥に画像で確認した、デーゼルト要塞と思われるものが現れ始めた。

あれか・・・。

天魔龍牙を出し、槍の根元に紋章を出しながら更に要塞へと近づいていく。

そして間もなく、要塞からまるで雨が降り出したかのように複数のレーザーが一気にこちらの方に発射され始めた。



エイミの杖から勢いよく噴き出した冷気は瞬く間に魔獣を覆っていき、魔獣は勿論、床から壁、天井までもの広範囲を瞬間的に凍りつかせていく。

そして杖が元の姿に戻る頃には、エイミの前面のすべてが青白く光を反射する氷に覆われていた。

す、すごすぎる・・・あの魔獣を氷漬けにしちゃうなんて。

これが、魔法使いの力・・・。

「ふぅ・・・団長、なんとか・・・魔獣を仕留めました」

「あぁ良くやった」

団長に歩み寄ろうしたエイミはまるで力が抜けたように床に膝を着き、そのままその場に座り込んだ。

見た感じ激しく動いた訳じゃないのに、そんなに疲労するなんて・・・。

「そんなに力を使うものなの?」

安心したような表情でこちらに顔を向けたネッカだが、すぐに心配するような眼差しでエイミに目を向けた。

「・・・ルーベムーンの核を解放すると、エネルギーの流出量が高まってより強力な魔法を使えるようになります。ですが魔法は使う度に精神力を消費するので、核を解放すればそれだけ精神力の消費も増すんです。ましてやルーベムーンを2つ同時に扱ってるエイミにとっては、核解放時の精神力消費は人の2倍ということになります」

「そっかぁ」



3本の縦に列なった砲身が照準を合わせるようにこちらを追ってくる中、こちらもグリフォンのレールガンに向けて天魔龍ノ咆哮の狙いを定める。

・・・ちょっと、レーザーが邪魔だな。

数も予想以上だし、衝撃もなかなかだ、これは長居は出来ないな。

ふとブースターの出力を抑え、レールガンに狙いを定めようとしたとき、こちらよりも先にレールガンが火を噴き、弾は目にも留まらぬ速さですぐ横を通り過ぎていった。

続けて発射された中段のレールガンの弾はギリギリでかわしたが、直後に下段のレールガンから発射された弾はかわし切れず、体中に響く強い衝撃に大きく体勢を崩される。

まずい・・・このままここに居たら更に撃ち込まれる。

・・・退却するか・・・いや。

ブースターを紋章に戻し、10枚の紋章を花びらのように隙間なく重ねる。

「天魔蒼月光っ・・・」

・・・ダメか、レーザーが邪魔でビームが真っ直ぐ出せない。

このレーザーが止まない限り、天魔蒼月光は使えない・・・。

その直後にレールガンの怒涛の一斉射撃が始まる。

衝撃は無力化出来たものの、瞬間的ではあるが凄まじい爆音と共に爆風が視界を覆い尽くした。

・・・天魔龍ノ咆哮なら撃ち込めるかも知れないけど、レールガンをかわすために速く動いてたら狙いが定まらない。

かと言って速度を落とせばレーザーとレールガンが邪魔してくる・・・。

・・・一旦帰るか。



「じゃあ、オイラ達は分断されたと見せかけるために連れて来られたの?」

「はい。ですのですぐに避難して貰おうと思ったんですが、ゼビス人という予想外の敵が現れたので、テリーゴさん達が居て良かったです」

ネッカさんがゼビス人に恐れをなしたってことは、ゼビス人はあの魔獣よりも強いってことかな。

「でもオイラじゃそのゼビス人ってのには敵わなかったしなぁ、あまり役には立たなかったなぁ」

「そんなことないですよ、人手としては十分役に立ちましたよ」

これからの戦い、このままの戦力じゃちょっと厳しいかも知れないな。



「じゃあ結局何もしないで帰ってきたって訳か」

「でも隙を突けるところもあったし、何度か突撃して行けばコツとか掴めるようになるかもね」

ふと1人の軍人が会議室に入ってくると、テイマ少将も何気なくその軍人に目を向ける。

「テイマ少将、ウィンスター捜査官がお見えになりました」

「え?何で?」

「え・・・」

「ちょっと、何よ、何でって」

颯爽とテーブルの前に歩み寄ってきたハランに、テイマ少将は依然としてリラックスした表情を見せている。

「いやぁ、単に前もって来るって聞いてねぇなぁって。何かあったのか?」

「ええ、ホンゴウラが本社と共にすべての開発機材をティンレイド沿いの無国籍地帯に移すそうよ」

小さく眉間にシワを寄せたテイマ少将は、若干寂しそうな表情をかいま見せながら顔を上げた。

「じゃあ、もう独立したも同然って訳か。社長に関しては何も分からないのか?」

「それが・・・数日前から行方が分からないんですって」

「何だって?」

テイマ少将は声を上げながら勢いよく立ち上がるが、ハランはそんなテイマ少将に冷ややかさが伺えるほどとても落ち着いた眼差しを向けている。

「行方不明ってどういうことだよ」

「詳しいことは分からないわ?それより本題に入って良いかしら?」

「・・・あぁ、世間話しに来た訳じゃないんだな」

「ちょっとこっちも忙しいのよ。臨時兵器と一緒に来た研究員が、そろそろ技術開発研究社に戻らないといけないから、一緒に臨時兵器も引き取りたいのよ、良いでしょ?」

え・・・じゃあ、僕も戻るってことか。

こちらに顔を向けたテイマ少将は、特に残念がるような表情になる訳でもなく、ただ小さく眉を上げただけだった。

「だとさ、時間切れってやつだな」

「そうみたいだね」

「まぁ元々劣勢でもなかったから問題は無いんだがな」

もうちょっとだったのにな・・・。

「あと、テイマ少将にも異動命令が出たわよ?」

「え?」

ハランに顔を向けたテイマ少将はほんの少しだけ表情を引き締めるが、逆にハランはほんの少しだけ嬉しさが滲み出るような小さな笑みを浮かべた。



この川って、どこから来てるのかな?。

何となく川に沿って歩いていくと小さな滝壺に着き、滝の脇にある緩やかな岩場を登ると街を一望出来る丘に着いた。

何か、お腹の奥の方から力が抜けていくような感じがする。

岩の日陰で一休みしていたとき、ふと別の方からこの丘を登ってきた1人の男性と目が合った。

「・・・誰?」

「うおっ喋った」

小さく驚きの声を上げながら、その男性は恐る恐る近づくようにこちらの方に歩み寄ってくる。

「もし何か食べる物持ってたら分けてくれない?私、今お腹空いてるの」

「え・・・あ、ああ、腹、減ってんのか・・・まぁ少しくらいなら・・・」

肩に掛けている黒い鞄を開けた男性は、おもむろに小さな箱を取り出し、その箱から小さな袋のようなものを取り出す。

そして更にその袋のようなものを破るように開け、1本の長細いものを取り出した。

「・・・ほら」

「ありがとう」

・・・ん、美味しいけど、水が欲しくなるな。

ふと目の前を流れる川に目が留まったので、片手で川の水を救い上げて口元に運んだ。

「・・・ふぅ」

「あんた、ここらへんに住んでるのか?」

「分からないけど、多分違う」

「分からない?何で?」

ふと何となく見覚えのあるような建物が脳裏に浮かぶと同時に、頭の後ろ辺りに小さな痛みも浮かび上がった。

「頭を打った後から、何も思い出せなくて」

「ああ、そうか。記憶喪失ってやつか」

・・・記憶・・・。

その言葉がまるで突き刺さるように頭の奥底に食い込んだ。

そうだ、何か、やるべきことがあったんだ。

「ねぇ、ここどこか分かる?」

「え、あぁ、ちょっと待ってな」

男性は服の中から何やら四角いものを取り出し、若干力の抜けたような表情で四角いものを指でなぞり始める。

「観光地から外れた名前も無い丘みたいだな。これから行きたい場所でもありゃ調べてやるけど」

行きたい場所・・・。

「あの、白い場所」

「・・・いや、それだけじゃ分かんねぇよ」

何か、名前があったはずなんだけど、何だっけ。

「まぁ、記憶喪失じゃ仕方ねぇけどな。じゃああんた、自分が何なのかも分からないのか?」

その男性の眼差しに、何となく優しさに似た暖かいものを感じた。

自分が、何なのか。

何だろう、思い出せそうな・・・。

「私・・・オージョ」

「それは、あんたの名前か?・・・」

名前?・・・。



人間じゃあねぇが、何か、見た目はいい女だな。

「う、うんそう、多分」

けど、人間みてぇな外見だし言葉も話してる、それに名前があるってことは、人間と共生するような種類の生物なのか・・・。

オージョと名乗った人型の生物は、まるで洋服を着ているかのような形の皮膚をしていると共に、全体的に薄汚れたような印象を受けた。

まぁ、こっちも行き当たりばったりでここに着いたようなもんだしな。

「あんた、いつから記憶が無いんだ?」

「何となく歩きながら1回夜を迎えたから、その前かな」

少しぐらい話をしてくのも悪くはないか。



何か、こうやって誰かと話すの、初めてじゃないかも。

「行くあても無くか?」

「・・・うん。もしかしたら、何か思い出すかなって」

・・・もしかしたら、何か思い出す?。

何だっけ、私、何かをしてたような・・・。

「じゃあ、どっちから来たかぐらいは分かるだろ?その方角の国を調べてやるよ」

「ほんと?えっと・・・多分あっち」



オージョが指を差した方を見ながら、シーシーの地図を拡大させていく。

「あっちか・・・北はこっから右っ側だから、すぐそっちにオルベルってのがあって、その向こうにはバルーラってのとコテンってのがあるな」

「バルーラ・・・」

「知ってんのか?」

しかしオージョは変わらず浮かない表情でゆっくりと首を傾げた。

「何となく、聞き覚えあるような気がする」

何にしろ手掛かりがあるのは運が良かったな。

「とりあえずそのバルーラってところに行ってみるのが1番じゃねぇか?」

「うん」

するとオージョはすぐに立ち上がり、滝壺の方の岩場へと歩き始めた。

「お、おいちょっと待てって」

まさか人間じゃない奴の笑顔にときめくなんてな。

俺、どうかしてんのかな・・・。

「こっからだと100キロくらいあるみてぇだぞ?道分かるのか?」

「んー・・・分からない、かも」

仕方ねぇな、まったく。

「じゃあ、近くまで案内してやるよ」



「室長、これでどうですか?」

「・・・データ上は悪くないな。あとは実用性があるかどうかだ。泰藤、準備出来たか?」

実験室の検体と新兵器の試作機を右腕に装着する泰藤に、研究室中の目線が一斉に向けられていく。

「はい、大丈夫です」

「じゃ、頼む」

泰藤の持つ試作機が唸り始めると共に瞬間的に空気が排出されると、直後に銃口から青白く反射するものが、霧状の冷気を尾に引きながら発射された。

「まさか那子が採取した検体の戦闘データから新兵器を開発するなんてな」

「でも今回は昨年に開発が中止された、ジャベリンのデータを基にしただけですから」

「じゃあ、アイスジャベリンとでも付けようか」

「そうですね」

これをヒューマノイドに装備させれば、擬太陽エンジンを持つ人間にも対抗出来るかも知れない。

いや・・・ヒューマノイドは元々ホンゴウラが作ったもの、もしホンゴウラが擬太陽エンジンを装備させたヒューマノイドを使ってきたら・・・。

人間じゃないけど、見た目はいい女だから、まぁいいかっていう。笑

それが総助なんですね。笑

ありがとうございました。

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