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鉄壁の尻尾

しかし突如ゼビス人は何者かに行く手を阻まれ、更に強く吹き飛ばされると、ネッカの目の前に現れたテリーゴは妙にニヤついた表情でゼビス人を見つめていた。

「お前強そうだな、オイラの相手してくれよ」

「チッ邪魔すんじゃねぇよっ」

リーダー格の男性がテリーゴに向けて剣を振りかざした直後、ゼビス人に目を向けていたにも拘わらずテリーゴは一瞬にして姿を消し、また一瞬にしてリーダー格の背後に回り込んだ。

そしてすぐにテリーゴは光と闇を纏った脚を大きく振り上げる。

「くっ」

直前に動きを察知したかのように右腕を盾にしたリーダー格の男性だが、強い衝撃に吹き飛ばされ、そのまま大きく後ずさっていった。

「な、何だこいつ、いきなり消えやがった」

「へーんだ、お前なんかじゃ、一生オイラの忍術を見切れないさ」

「に、忍者?まじかよ」

じゃあ・・・僕はあの4本足の機械を叩こうかな。

「ネッカさん、僕あの機械をやるから、ネッカさんはあいつをやってよ」

「分かった」

ネッカがリーダー格の男性の方に向かっていったとき、突如4本足の機械から機械音が唸り出すと、テリーゴの方に向けられたその腕が熱を帯びるように赤く光り始めた。

とっさに音波を飛ばしたが、機械の腕から放たれた何かによって音波は打ち消され、爆発するように広がった炎が空しく宙を舞って消えていった。

すると機械はこちらに体を向けると共に、こちらに狙いを定めるように腕先を向けてきた。

とりあえずはこっちに気を逸らせればいいか。

掌に集めた光で剣を作り、再び機械音を唸らせる機械に剣先を向ける。

剣先から細くまとまった音波を飛ばすと同時に、機械の腕からも炎の塊のようなものが放たれたが、その直後に炎の塊の形は崩れ、炎は波に流されるように消えていった。

音波を放ったままの光の剣をその場に滞空させ、宙に浮いた光の剣に足を乗せる。

音波に乗り一瞬で機械の頭上まで飛びながら、掌に闇を集めて剣を作る。

重たく鈍い金属音と共に機械は勢いよく前のめりになるが、もう片方の腕から刃が回転して飛び出ると、すぐにその腕を振り回してきた。

おっと・・・。



「ここからがオルベルの領土で、ここが中心のデーゼルト要塞、国境からはざっと800キロってとこだな」

「そうか」

あのグリフォンに耐えながら800キロは飛べるかな?

それにしてもこの地図、紙なのにまるでグーグルアースより鮮明な画像をそのまま写したみたいだ。

「じゃあ、その目標を捕捉する速度ってどれほどのものなのかな?」

「さあな、だがミサイルの迎撃と違って、対巨大地上戦闘機用のものだから、そこまで速くはないと思うが。何だお前、まだ無謀な作戦立てんのか?」

「・・・んー」

会議室のテントから出て戦場を見渡すと、帰ってくるデカルト・ウーノには大きな損傷は見られず、劣勢を感じるような雰囲気も醸し出していなかった。

こっちの領土で戦ってるのに。

「何か優勢に見えるけど、互角じゃないの?」

「地上戦に関しては、デカルト・ウーノとヒューマノイドに敵う兵器はオルベルに無い。だがその2つを呆気なく破壊するグリフォンがある限り、こっちもオルベルには簡単に踏み込めない。そういう意味の互角だ」

「なるほど」

じゃあ、もしかしたら・・・。



あれ、おかしいな。

この機械、ただ剣が着いた腕を振るだけじゃなくて、腰の部分を高速で回転させて勢いをつけてる。

これじゃ、背後に回っても意味が無い。

遠距離射撃専用の兵器だと思ったのに、こんな速く動けるなんて。

ちょっと厳しいかな。

重く叩きつけられる剣を何とか受け止めながら、機械の正面に衝撃性の高い音波を放つ。

全体が軋むような音と共に機械は少しのけ反るが、すぐに炎を噴き出す方の腕を振り回してくる。

くっ・・・動きを鈍らせるので精一杯か。

今の僕の力は、こんなものなのか・・・。

足に向けて闇の剣を振り下ろすが、少しへこんだだけで機械の動きは止まらず、すぐさまその剣が振り回されていく。

2階の塀の破片と共に1階へ落とされたが、間一髪で体勢を立て直して床に着地したとき、後ずさりしてきたテリーゴが視界に入った。

「あーあ、ちょっとやばくなってきたな」

「テリーゴも?」

「やっぱさ、所詮堕混はまだ発展途上なんだよな」

何かが床を転がる甲高い音が聞こえると、腕を押さえながらネッカもこちらの方に下がってきた。

「ネッカさんっ」

「ははっ・・・はぁ、いつもいつもしぶといが・・・今回は、俺の勝ちのようだな」

「勝ち?・・・ふふっ」

息は少し荒いが、リーダー格の男性はネッカを真っ直ぐ睨みつけながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「何がおかしい?」

突如2階の窓ガラスが勢いよく割られると、同時にネッカが着ている服と同じような造りの服を着た男性が飛び込んできた。

何だ?・・・。

「やっはーっ」

そして弓を構えているその男性がすぐさま炎を纏ったような矢を放つと、直撃を受けた機械は少しのけ反りながら動きを鈍らせた。

床に着地したと同時にその男性が持つ弓の形が変わると、縦に連なった剣のような形になると共にその弓に勢いよく炎が纏う。

するとその男性はしなやかな動きで炎を纏った剣を振り、機敏な反応を見せる機械の足の1本をたやすく切り落とした。

すごいな・・・。

まるで舞うような動きで、颯爽と機械の腕や頭を切り裂いた男性は、バラバラになった鉄屑を背後にして2階の縁に立ち、満足げな表情を浮かべながらネッカを見下ろした。

「孤高の魔法弓剣士アイール、見参っ」

完全な沈黙が流れた後に入口からネッカを呼ぶ声が聞こえると、入口から弓を持つ男性と同じような造りの服を着た中年の男性と、ネッカと同年代くらいの女性が駆け寄ってきた。

「遅くなったな、思いの外時間が掛かったようだ」

「団長・・・」

「くそ・・・まさか、こうなることを知ってて・・・用心棒はカモフラージュか」

リーダー格の男性が悔しそうに表情を歪ませながら呟くと、毅然とした立ち姿の団長と呼ばれた男性は、鮮やかに黄色くほとばしる電気を纏った剣をゆっくりと持ち上げ、強気な眼差しと共に剣先をリーダー格の男性に向ける。

「ラグマリス、お前の悪運も今日で尽きたな」

しかしゆっくりと息を吐いたラグマリスと呼ばれたリーダー格の男性は、団長を睨みつけながらも口角を上げていき、おもむろに上着の中から何かを取り出した。

「言っただろ、切り札は1つじゃないって」

するとラグマリスの足元に突如何かの円陣が浮かび上がると、円陣と共にラグマリスは一瞬にしてその姿を消した。

「テレポートか、逃げ足の早い奴だ全く」

逃げた?でも切り札がどうのって・・・。

「団長、後はゼビス人だけです」

「そうだな、何故ラグマリスがゼビスと関わりを持ったかは、あいつからみっちりと聞き出すとしよう」

すべての目がゼビス人へと向けられるが、ゼビス人は佇まいから依然として強い殺気を放っている。

しかし間もなくして突如強い振動が建物全体を揺らすと、緊迫感と若干の恐怖感が静寂となってその場を包み込んだ。

「・・・何だ?」

・・・何かの声みたいな感じがしたけど・・・。

そして轟音と共に床を突き破りながら、地下から鋭い爪を持つ巨大な腕が現れると、巨大な腕は更に2階の床までも豪快に貫いていった。

「おっとー」

アイールと名乗った男性が崩れていく2階から慌てて離れると、木片やテーブルが降り注ぐ中から姿を現した、2階を貫くほどの巨体を有するそれは、再び皆に向けて建物全体を揺らすような雄叫びを上げた。

「魔獣か・・・切り札ってのはこいつのことか」

何だあの右腕、左腕の2、3倍はあるな。

あ・・・。

「団長っゼビス人が・・・」

すでにゼビス人は地下への階段を下り始めていたが、団長が魔獣と呼んだ巨大な生物を前に、皆ゼビス人を追いかけることは出来ずにいた。

「また逃げられたか。まぁいい、皆、今は街に出る前にあいつを仕留めることに集中しろっ」

「はいっ」



少し上空に飛びながら、5つ縦に列べた天魔と氷の紋章を要塞があると思われる方へと向ける。

5つ目の紋章をくぐった天魔蒼月を見送って地上に降り立ち、会議室の無線の前に佇むテイマ少将の下に歩み寄った。

少しして無線に通信が入ると、無線を取ったテイマ少将は完全に気の抜けたようなリラックスした表情をしていた。

「どうだ?」

「只今観測された弾道は、デーゼルト要塞から約80キロ離れた地点で途切れた模様です」

「了解」

80キロか、まだ少し遠いな。

「やはりダメだったか」

「やはりって?」

表情にはあまり変化は見られないが、テイマ少将は小さなため息をつきながらゆっくりと椅子に座る。

「グリフォンには、もう1つの顔があるんだ。レールガンの周りを囲むように着けられた対ミサイル用の迎撃レーザーなんだが、レールガンと違う点はその目標の捕捉速度だ。要塞から半径100キロ圏内に入ったミサイルは瞬時にそのレーザーに撃ち抜かれる」

グリフォン・・・複数の獣が合わさったような生き物だって言うけど、本当にそうみたいだな。

「じゃあ、まさに鉄壁ってこと?」

「あぁ、そうだな」

近づくことも出来ないし遠くからの攻撃も効かないのか。

これは厄介だな。

「本当は、この戦争が始まるまでにホンゴウラが対グリフォン用兵器を作る予定だったんだがな・・・」

もしかしたら、グリフォンがあるから地上の戦闘機の性能が高くなくても問題無いってことかな。

「もうさすがに策は尽きただろ?こっちに居りゃ、そのグリフォンの手も伸びないんだ、安全に戦ってりゃいいんだよ」

「じゃあ、あと1つだけ・・・」



「エイミ行くぞっ」

「はいっ」

両端に緑色と水色のルーベムーンが嵌め込まれた、短い杖のようなものを持った女性が団長と共に魔獣とやらに向かっていく。

「アイール援護だっ」

「ういっす」

アイールが再び剣を弓に変えると共に矢を引くような動作をすると、弓の中央に嵌め込まれた赤いルーベムーンから矢のような形をした炎が現れた。

こっちの世界でも天力や魔力で矢を作るし、それと似たような感じかな。

「テリーゴ、僕達も行こう」

「あぁ、じゃあ、ちょっと動き鈍らせてよ」

「うん」



「何だよ、策っていうよりただ強引に突っ込むだけか」

「レールガンさえかわせれば、僕はミサイルじゃないからレーザーは発動しないと思うんだ」

腕を組みながらテイマ少将は真剣さが伺えるような表情に変わっていく。

「レールガンをかわせたとしても、むしろそれほどの速度を持つものなら、レーザーで迎撃すべきものだと認識されるんじゃないか?」

「・・・そうか、でもレーザーくらいなら、多分平気だよ」



光と闇の剣を1つに合わせて一回り大きな剣に変え、建物の天井付近まで一気に飛び上がる。

そして剣先に集めた光と闇の中に音圧を凝縮させ、魔獣の頭上へと光と闇の弾を撃ち落とす。

魔獣の首筋辺りで光と闇の弾が破裂すると、一瞬にして響くような重低音と共に膨大な音圧が魔獣にのしかかった。

その隙にアイールが炎の矢を放ち、炎の矢に怯んだ魔獣にすかさずエイミが杖から冷気の満ちた風を飛ばしていく。



再び天魔氷王の姿で上空に飛び、出来るだけ多くの紋章を背中や翼に配置していく。

そして地図で確認した方角を頼りに、ブースターを全開で噴射しながらオルベルの領土へと飛び出していった。



まるで凍えるように動きを鈍らせている魔獣に向かって、団長は電気がほとばしる剣を振りかざし、テリーゴは光と闇で作った、巨大な風車のような形を成した刃を思いっきり投げつけた。

切り裂かれた傷口から瞬間的に全身に電気が這っていった直後、勢いよく回転していく光と闇を纏う風車が魔獣を襲っていく。

「グァアッ」

しかし大きく振り回された右腕に光と闇を纏う風車は砕かれ、しかも右腕は動きの鈍さを感じさせない迫力でそのまま皆に襲い掛かっていった。

「テリーゴっ」

「っくう・・・こりゃやばいね」

やっぱり今の僕とテリーゴじゃ、こいつには敵わない・・・。

「団長、核解放の許可をっ」

「むっ・・・そうか、よし分かった。アイール、ネッカを頼む」

魔法捜査団の人達にもその人達なりに色々あるんですね。でもカイルはたまたま少し関わっただけということです。

ありがとうございました。

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