暗躍の先に
これまでのあらすじ
テリーゴを手伝う為に共に別の世界に来たカイル。情報をくれるというヨウから魔法捜査団のネッカを紹介され、そのままネッカを手伝うことになる。
「あぁ。まずシンバンで公にされてる情報から言うと、他国との取引をきっかけに、ホンゴウラが本格的な独立に向けて動き出すってことだな」
独立に向けて動くなら、前よりも大きな反乱とかするのかな?
「まぁ今のところは単なる独立ってだけで、特別シンバンに敵意を持ってる訳じゃないと聞いてるがな。そんでまぁ並行して別ルートからも情報収集のアプローチをかけてたんだが、そっちから面白い情報が出たんだ」
「おお、どんな?」
「実は、今ホンゴウラを動かす実権を握ってんのは社長じゃないらしい。詳しい手段までは分からないが、何らかの方法で会社の経営権を奪ったんだろう。しかもだ、経営権が移ってすぐ、社長が行方不明になったんだと」
行方不明・・・。
もしかして、命まで狙われたのかな?
「じゃあ、その社長は死んだのか?」
「いや、恐らく社長自身も身の危険を感じて行方をくらましたんじゃねぇかな?」
じゃあ、身を守るために隠れたのか。
「んでもうひとつ、ホンゴウラの取引相手のアルバート財閥なんだが、アルバート財閥は兵器売買の道じゃ有名でな、しかもコレクションだけじゃなく、独自に兵器開発の研究所まで持ってる。そんで色々と調べた結果、売却ルートの1つに、ある犯罪組織の名前が上がった。それがワイルドホーネットだ。つまり、ホンゴウラから買った武器はワイルドホーネットに流れる可能性があるってことだな。だからまぁ、ホンゴウラについて調べてるお前なら、ネッカ捜査官に紹介出来るかと思ったんだ」
ワイルドホーネット?
じゃあ、ネッカさんを手伝えば僕達の目的にも近づけるのかな?
しかしテリーゴは軽い声色ではあるが唸り出しながら考え込んだ。
「テリーゴ、もしかしたら、直接ホンゴウラと戦うよりも、ワイルドホーネットから奪った方が簡単かもよ?戦いになっても、きっと届いたばかりでまだ使い慣れてないと思うし」
「おお、そうかぁ、そうだな。いやぁカイルが居て助かるよ、オイラ考えるの苦手たがらさぁ」
「・・・決まったみたいだな、じゃあ俺は店に戻るから、何か知りたいことがあったらまた来いよな」
手首を紐で縛られ、室長と共に第1研究所の人達が集まってるところに座らされる。
何かやだな、手首がむず痒くて。
「おいゴウト」
囁くような音量の声に室長が後ろを振り向いたので、何となく共に後ろを振り返る。
「ユベラか」
心なしか、室長が落ち込んでるように見える。
こういうことってよくあるのかな?
「お前何でこんなときに限って来るんだよ」
迷彩色の服を着た人達に目線を戻すと、まるで何かを探しているかのように研究室中をうろついていた。
「いや、ちょっと様子でも見ようと思ってな。第1から第3は同じ建物内だから、もしかしたら第2の奴も来るかもな、はは」
「笑い事じゃないだろ。それよりこいつ、例の人工擬態生物だろ?こいつ使えば、あんな奴ら屁でもないんじゃないか?」
・・・戦い方を知ってたら、すぐにでもあの人達に向かっていくのに。
「いや、体の構造的にはそういうものだが・・・こいつはちょっと特別でな」
何かないかな・・・役に立つもの。
「見つかったか?」
「いや、ここじゃないんじゃないか?」
「チッ・・・警備隊が来る前には退散するぞ?ちゃんと爆弾セットしておけよ?」
爆弾?・・・ここも、さっきの扉みたいになるのかな?
時間が1秒進むごとに、集められた人達を包む空気が徐々に重くなっていくのを感じ、それは心の中にも無数の細かい針で刺されていくような感覚を覚えさせた。
「おい、お前」
「・・・え」
不意に声をかけられたので振り返ると、ユベラと呼ばれた男性はすぐに迷彩色の服の男性達を目で差した。
「あいつらの持ってる武器を真似るくらい出来るんじゃないのか?」
武器・・・そっか、私が武器になれば良いのか。
「でもどうすれば良いの?手も縛られてるし」
何か、あまり時間もないみたいだし。
「ああ・・・くそ、だったらあれだ、両腕ごと武器に変えたらどうだ?」
両腕ごと・・・でも両腕は後ろで縛られてるし。
「でもこれじゃ狙いが定まらないよ」
「何とかなるって思えば何とかなる」
・・・うーん。
「じゃあやってみる」
「じゃあこれからそのワイルドホーネットの潜伏拠点に行くの?」
「正確には潜伏拠点の1つですね、本当にそこにいるかは分かりませんが。私の担当がそこですから」
「まぁ良いかぁ、オイラ潜入は得意だからね」
海風の匂いをほんのりと感じる程度の距離で海沿いに町並みを行き、ふとあまり人気のない道に入ったとき、何となく妙な気配を感じた。
何だろ・・・またさっきのような乱暴な人達かな。
「はぁーあ」
気の抜けるようなため息をついたテリーゴに顔を向けるが、その目つきの鋭さは瞬時に張り詰めた空気感をこちらにも伝染させた。
「前に3人、後ろに2人、そして左側の坂の上にもう2人」
テリーゴがそう呟くと、足を止めたネッカ捜査官は緊迫感と戸惑いが混ざったような顔色を見せる。
「え・・・」
するとその直後、前方の建物の脇から、何やら異様な雰囲気を醸し出す男性達が姿を現した。
「カイル、上」
反射的に掌をかざしながら坂の上を見上げたとき、低めの鉄柵に乗り上げた、今にも飛び降りようとしている2人の男性が見えた。
そしてすぐに飛び降りた男性達に向けて衝撃性の高い音波を飛ばすと、男性達は地面に降り立つ前にそのまま後ろに吹き飛ぶ。
空気の激しい振動と共に男性達は強く壁に背中を打ち付けられ、そのまま地面に倒れ込んだが、後ろから来る人達に体を向ける間もなく、男性達は怯むことなく立ち上がり始めた。
あれ?さっきよりかは強めにやったのに。
あの服に何か仕掛けでもあるのかな?
一見何か仕掛けがあるようには見えない、暗い緑色でまだら模様の服を着た男性達は、すぐに手首に着けている何かの機械に手をかけた。
するとその機械から何やら短くとも剣のようなものが飛び出し、男性達の発する殺気のようなものも少しだけ強さを増した。
「おい、何だあれ」
あ、気付かれた。
「撃てっ」
ユベラが声を上げると同時に腕の先端から何かを発射させると、その瞬間に強い反動で前方に吹き飛んでしまい、更に書物の山に頭から突っ込んでしまった。
・・・どうなったんだろう、大きな衝撃音は聞こえたけど・・・。
「くっそ、何だあいつ」
遠くから迷彩色の服の男性の声が聞こえる中、頭にのしかかる書物の山を払いのけ、まだ少し意識が重たい中何とか立ち上がる。
ふぅ・・・びっくりした・・・。
迷彩色の服の男性達の方に目を向けようとしたとき、ふと壁に着いた手が目に入った。
あ、紐が無くなってる。
「なぁ・・・そろそろ退散した方が良くないか?何も無いみたいだし」
・・・何だ、誰にも当たらなかったのか、ちょっと残念だな。
「いや待て」
デスクを盾にするように身を屈めていた男性達の中で、一際鋭い眼差しをこちらに向けてくる男性にふと目を捕われる。
「イーストバルが言ってたものは、きっとあいつだろう。時間もないし、とりあえずあいつを連れて退散する」
な、何?・・・。
そして迷彩色の服の男性達は皆こちらに銃口を向け、ゆっくりとこちらの方に歩み寄り始めた。
どうしよう・・・。
とりあえず、捕まりたくはない。
迷彩色の服の男性達に背中を向けないように壁沿いを歩き、流れ弾が当たらないように室長やユベラから離れていく。
「どうしたの?撃たないの?」
男性達は誰ひとりとして表情を変えず、こちらに銃口を向けたまま一歩一歩ゆっくりと足を踏み出していく。
「なら、こっちから行くからね」
手首を合わせながら両腕を前に突き出し、先程の感覚で両腕を変化させると、男性達は皆足を止め、全身に力を入れるように身構えた。
銃弾は無くても、空気を勢いよく飛ばすことくらいは出来るし。
壁に背中を着けながら、銃を摸した腕から圧縮した空気を飛ばす。
壁に背を着け反動を分散させていたおかげか、見事に男性の1人を吹き飛ばしたが、男性達はお返しと言わんばかりにすぐさま銃を乱射し始めた。
いっ・・・うぅ・・・。
「止めろ、何だよくそ、銃が効かないのか」
ふぅ・・・収まった。
「当然だもん。私、前に1回撃たれてるから、こういうときのために銃弾を通さない物質を調べておいたの。私は今、その物質に擬態してる、だから私には銃弾は効かない」
「こいつ、擬態生物だったのか」
1人の男性に狙いを定めたとき、ふと別の男性がこちらに向けて何かを投げ込んだのが見えた。
跳ね返してやろうとその球体を真っ直ぐ見つめたそのとき、突如視界が真っ白に染まり、直後に目が開けられないほどの痛みが走った。
うっ・・・目が・・・。
「行くぞっ」
耳も少し遠くなっていたが、その声が聞こえた後に何人もの走るような足音が遠ざかっていくのは分かった。
何発か圧縮した空気を飛ばしたが、しばらくして目を開けたときにはもうすでに迷彩色の服の男性達は誰ひとりとしてその場から姿を消していた。
逃げた?・・・。
「おい、早くこれ解いてくれ」
緊迫しきった様子で口を開いたユベラにとっさに駆け寄り、手首に縛られた紐に手をかけた。
「くっそぉここで死んでたまるかよっ」
ユベラが必死に他の人の紐を解きにかかると、ふと先程の男性達の会話を思い出した。
そっか、爆弾仕掛けられてるんだった。
「おいっすぐに防火扉を下ろせっ」
1人の男性が小さな枠に嵌められたガラスを砕いて赤いスイッチを押すと、研究室全体が再び赤い光に照らされると共に警報に包まれ、同時に研究室の入口の上から頑丈そうな扉がゆっくりと下り始めた。
赤い光が緊迫感と恐怖心を掻き立てる中、皆が一斉に研究室の入口へと走り出す。
「早くしろっ」
ユベラの叫び声が警報と共に研究室に響いたとき、1人の女性が足を踏み外して転ぶと、女性は足首を掴んだまま動かなくなる。
あっ・・・。
「おいっ」
あれじゃ間に合わない。
何故か体が軽くなったように感じていると、気がついたときにはその女性に駆け寄っていて、肩を支えながら女性を立ち上がらせていた。
でも、これじゃ間に合わない。
・・・そうだ。
「そこで動かないでね」
女性を立たせたまま女性から距離を取り、銃を摸した腕を女性に向ける。
「おいっやめろっ」
室長の叫び声が響く中、腕の先から強く広範囲に空気を飛ばすように意識を集中した。
・・・分かってるよ。
この人を扉の方に飛ばせば・・・。
女性が扉の方に吹き飛んでいくと同時に、再び室長が叫び声を上げたように見えたが、強い反動を受けている最中での警報に掻き消され、室長の声は耳には届かなかった。
・・・私は扉の逆方向に吹き飛ぶってことくらい。
完全に閉まっている頑丈そうな扉を見ていると、ふと王女の記憶が甦ったときのことを思い出した。
銃口を前に仁王立ちする王女に感じた満足感が、何となく分かるような気がした。
ヴリス、王女でもきっとこうしたのかな。
直後に爆音がすべてを掻き消し、凄まじい衝撃が体全体を包み込んだ。
「何だったのかな、あの人達」
「もしかしたら、ワイルドホーネットが私達を近づけないようにしてるのかも知れないですね」
じゃあ、あの人達は、ワイルドホーネットの手先か何かなのかな。
安心したように表情を緩めていったネッカは、こちらとテリーゴを見ながらそのまま感心するような笑みを浮かべていった。
「それにしてもすごいですね2人共、そんなに腕が立つなんて」
「えへへ、まぁなぁ」
陽気な雰囲気で笑い出すテリーゴから、先程の人達が辺りにはもう居ないことが伺える。
「でもネッカさんもすごいよ。あれが魔法なんだね、初めて見た」
「いえいえ、あれは基本的なもので、魔法を学んだ人なら誰でも使えるものなんです」
誰でも、使える?
じゃあ僕達も出来るようになるのかな。
ふと小さく目線を落としたネッカは、何かを考えるように黙り込むと、すぐに少しだけ深刻さが伺えるほど表情を曇らせた。
「もしかしたら、今から行く潜伏拠点には先程のような人達が待ち伏せてるかも知れませんね・・・」
ネッカさんが魔法捜査団の人だと知ってたからさっきも襲ってきたってことだし、十分に可能性はあるかもな。
ネッカ・ビフェル(26)
探偵業から組織対策まで幅広く請け負い、事件であれば調査から標的の拘束までを独自で行う民間組織、セイント魔法捜査団の一員。団員のすべてが独自の情報屋と繋がりを持っていて、民間でありながらも国家組織にも劣らない行動力が売り。
ありがとうございました。




