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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第一章

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スロースターター

どこまで無理がきくのか試しているのか。

まぁ実験だからな。

今のところ、強化の余地は未知数ってことかな。

「ヒカルコの光の力なら、何にでも相性が良いかもね」

「そうだね、わりと変わった力でも光と結び付くかも知れないね」

相性の良し悪しを考えるのは、簡単じゃなさそうだな。

野生動物みたいに、ただ肉体を強くするのも有りかな。

「シンジはブースターに代わる新しい力でも考えたら?」

「・・・それくらいなら、良いかな」

それでもあまり乗り気じゃないみたいだな。

「じゃあ炎のジェットしかないよねー」

「おいおい、勝手に決めんなって」

「えぇ?じゃあ他に何があるの?」

ユウコがからかうような目線ですぐに言い返すと、シンジは迷うように表情を曇らせながら腕を組み始める。

「んー・・・蒸気とか」

「ふーん、良いんじゃない?」

ユウジが会議室に戻っていくのが見えると、少しして再び会議室から出て来てマイクの前に立った。

「色々検証した結果、やっぱり相性というのは大事みたいです。相性が悪いといくら念じても、力は手に入らないみたいです。とりあえず、実験を終了して正式に皆さんが使えるようにしようと思います」

すると会場のあちこちで小さい歓喜が湧いた。

「準備がありますので、鉱石は明日の朝まで待って下さい。以上です」

「ヒカルコの予想が当たったね」

ユウコが静かに口を開くと、ユウコと顔を見合わせるヒカルコは得意げにニヤついて見せた。

「ね、言ったでしょ?」

「そういえば、氷牙は使うんでしょ?」

ヒカルコに返した笑顔のまま、再びユウコがこちらに顔を向ける。

「いや、まだ全然考えてないよ」

「ふーん、ちょっと意外だね」

小さく眉をすくめて軽く頷いたユウコがコップに目線を向けたとき、シンジがおもむろに席を立つと、ショウタを捕まえてそのまま闘技場に向かって行った。

また修業かな。

「あーほんと、よくやるよね、シンジ」

するとそんなシンジの背中を目で追っていたユウコは呆れた様子でそう呟く。

早速強くなった人と戦うんだな。

何か飲みながら見物でもしようかな。

飲み物がある場所に向かうと同時に舞台を降りてきたミサが見えると、ミサはこちらよりも早く機械の前に立ちホットミルクを注いだ。

「ありがとう。ミサも十分仕事熱心だね」

「あら、ありがとう」

ミサに笑顔でホットミルクを渡されると何やら手招きされ、そのまま人がいないテーブルに連れられた。

「ミサは鉱石使うの?」

「まだ分からないわ?」

気品のある落ち着いた表情で応えながら、ミサはゆっくりと隣の椅子に腰掛ける。

「そういえば、どこかの組織と軽い同盟を結ぶって言ってたけど」

「えぇ、2つの組織からオファーが来たのよ」

するとこちらに顔を向けたミサは、何となく若干の距離感を感じさせる微笑みを見せる。

向こうから言い寄ってくるなら、案外簡単に話が進みそうだけど。

「鉱石の情報を使えば、そこまで難しくはないかもね」

「あら、情報を武器にするのね?」

「あぁ、でも同盟って言っても、情報交換しかすることが無いような気がするけど」

勢力を作ったりなんかしたら、より戦争が起こる可能性が高くなるんじゃないかな。

ふと目が合ったミサの微笑みが、一瞬だけ深くなったように見えた。

「でも、いざという時の味方は多い方が良いわ?」

「まぁそうだね」

「勢力を作ること、貴方だったらどう考えるのかしら?」

するとミサはこちらの顔を覗き込むように顔を近づけてくる。

「戦う仲間は近くにいた方が良いけど、情報をくれる仲間は、大阪とか、北海道とか、遠い場所にいる仲間の情報の方が世の中の把握がしやすいかな」

「なるほどね、情報を大事にするタイプなのね」

「そうだね」

「あたし達の意見としてユウジに言ってみようかしら」

そう言いながら笑顔で小さく首を傾げながら、ミサは再び顔を寄せてきた。

「え?」

「冗談よ」

2人の意見にすることなのか、ユウジに言うことなのか、どっちが冗談なのだろう。

「ねぇ、どうしてリーダーにならなかったの?」

ふと真剣な眼差しを見せたミサはまた少しだけ顔を近づけながら、少し音量を落とした声で囁くように聞いてきた。

まるでわざとユウジに負けたみたいな言い方だ。

「そうだな、1番強いとは言われたけど、それがそのままリーダーに相応しいとは思わないし、それに1番強い人がやっぱり1番だったなんて、つまらないじゃん」

「・・・ほんとに、わざと負けたのね・・・」

ミサは驚いた顔でこちらを見つめてテーブルに目を逸らした後、残念がるように喋り出した。

気を失ったのは予想外だったけど、手加減してたのは事実だしな。

「がっかりした?」

「そんなことはないけど・・・欲が無いのね」

「そうかもね」

「もしかしてまだ何か隠してたりするの?」

すると再びミサが小声で話しながら、何故か寂しさのようなものが伝わる表情で顔を覗き込んでくる。

「隠すって?」

「勝てるのに、勝たないってことでしょ?」

まぁ、ヒントくらいなら良いかな。

「・・・誰にも言わない?」

「絶対に言わないわっ」

素早く首を小さく横に振ったミサは真っ直ぐな眼差しを見せながら小声で応える。

「まだ、早いかなって感じかな」

「それは・・・みんなが強くなるのを待ってるってこと?覚醒や鉱石のこと、最初から知ってたの?」

「そうじゃなくて。ほんとは使わないつもりだけど、弱いままだと取り残されちゃうからね」

まるで少ないヒントに苛立ちを感じるように眉間にシワを寄せながら、少しの間ミサは黙った。

「・・・そう、たまたま覚醒を知ったから力を解放しようと思ったのね」

「そうだね」

「もし、全部解放しても勝てなかったら?」

「それはそれでいいよ」

「絶対負けない自信があるように聞こえるわ?」

すると再び首を小さく横に振りながら、真顔で問いかけてくるミサの眼差しに若干の怒りと嫌悪感を感じた。

「僕はそんな傲慢じゃないよ」

「あらそう、でもおかしいわね、力を持ってるのに使わないなんて」

どうやら少しは落ち着いてきたみたいだな。

「いや、力はあるけど使えないんだよ」

「どうして?」

「いきなり全部使えたらつまんないよ」

「・・・それで負けてもいいの?」

するとミサは心配そうに眉をすくめて再び顔を覗き込んできた。

「そうかもね」

「変わってるのね」

闘技場の扉が開いた音が微かに聞こえたのでふと目を向けると、シンジとショウタが闘技場から出て来たのが見えた。

すっかりミサと話し込んじゃったか。

ふと腕時計に目を向けたミサは、まるで焦りを見せるような素振りで席を立ち始めた。

「もう部屋に戻らなくちゃ。また明日ね」

「あぁ」

ミサはしっかりと生活のリズムを守るタイプなのかな。

周りを見渡すと人も少なくなって来たみたいで、ふとモニターを見ると鉱石を使い強くなった者同士が戦っていた。

あれはヒロヤだ。

剣の力とは別に光を操る力を手に入れたんだな。

あの剣、まるで光そのもので出来たような剣だ。

2つの力を持つのは、単に2つの力を使えるということじゃなく、2つの力を1つにして全く新しい力を生み出せるということか。

もう1人の方も風と氷で吹雪を作り出してる。

カズマみたいな変わった力の持ち主には、単に炎とか雷とか単純な物は逆に合わないのかも知れないな。

部屋に戻り時計を確認し、夜景を見ながら眠りにつき、そして朝日の光が部屋をほんのりと明るくしているのに気づいて目を覚まし、時間を確認して部屋を出てホールに入った。

その直後に名前を呼ばれて振り返ると、そこにはミサが居たが、昨日とは服のコーディネートスタイルが違っていると共に髪型も変わっていた。

「おはよう」

「あぁ」

料理をテーブルに運び間もなくすると、ユウコがミサの隣に座ってきた。

「ミサちゃん今日カワイイね。どうしたの?」

「どうもしないわよ」

どことなく自信が滲み出るような笑顔で応えながら、ミサはフォークとナイフを手に取る。

料理が引き上げられる時間になる頃、ユウジがマイクの前に立った。

「どうも皆さん」

するとすぐに会場が静まり返り、皆はユウジに注目していった。

昨日の今日だからそうなるかな。

「まず、昨日の実験の影響で体調不良を訴える人が出ました。2つ使うとより強い副作用が懸念されるので、鉱石は1人1つにして下さい。それじゃ、使うと決めた人だけ会議室に来て下さい。鉱石はその場で渡します。以上です」

ユウジがマイクから離れた直後、数人が会議室に駆け出して行った。

「そういえば組織の名前って決まったの?」

飲み物を飲み干し、コップを口から離したユウコがおもむろにそう口を開くと、ユウコに顔を向けたミサの微笑みは、何故か困惑しているような雰囲気を漂わせていた。

「まだ集計が終わってないのよね。マナミったらのんびり屋さんなのよ」

「そうなんだぁ」

「ねぇ氷牙、暇なら手伝ってあげてもらえないかしら?」

まぁ、いいか。

「分かった」

「それじゃあたし学校行くわね」

「あぁ」

「私も行くね」

ミサが立ち上がったのに続いてユウコもすぐに席を立ち始める。

「あ、シンジ連れて行けば?」

「あ、そうだね、捕まえなきゃ」

そう言ってホールを見渡すと、別のテーブルでくつろいでいるシンジを見つけたユウコはすぐにシンジの下へと駆け寄って行った。

舞台に目を向けると、鉱石を受け取った人はすぐに闘技場に入り、思い思いの願いを叶えていく。

鉱石を持って目を閉じた後に体が光ると、成功したサインなのかな。

そうだ、マナミの様子を見に行こう。

会議室の前に行くとふと後ろから声をかけられたが、振り返っても後ろには誰もいなかった。

おかしいな。

周りを見渡すが名前を呼んだらしき人物は見当たらない。

「うふふっ」

すると小さな笑い声が後ろの方から聞こえた。

「レベッカぁ?おーい」

そんな時に舞台の下で名前を呼びながらカズマが歩いているのが見えた。

ああレベッカか。

「呼んでるよ」

後ろに首を回して小声でそう言ってみた。

「バレちゃったか」

後ろから小さい声が聞こえたと思った直後、視界の隅から現れたレベッカはゆっくりと肩に降り座った。

「そこにいたのか」

ふとこちらに顔を向けたカズマがすぐにレベッカに気がつくと、安心したようにため息をつきながら舞台に上がって来た。

「部屋に戻ろうよ」

カズマは少し困ったような顔でレベッカを見る。

「やだっ退屈だもん」

そう言いながらレベッカはゆっくりと飛び立つと、まるで粉雪が落ちるようにふわりとカズマの肩に降り座った。

「でもオレ学校行かなきゃいけないから」

「じゃあ、今度は氷牙を付き人にするからいいでしょ?」

レベッカはこちらに指を差しながらカズマに顔を向ける。

「まぁそれなら・・・」

「ちょっと」

こんな小さいレベッカが1人でいたら不安なのは分かるが。

するとカズマは申し訳なさそうに表情を緩ませながらこちらの顔を伺う。

「氷牙、頼まれてくれないかな?」

まぁ、いいか。

「いいよ」

「学校から帰るまででいいからさ」

「あぁ」

「やったぁ」

するとレベッカが再びこちらの肩に飛び移ってきて、カズマが廊下に戻るのを見送ってから会議室に入ると、マナミは何やらホワイトボードの前に立ち、何かを書いていた。

「マナミ」

「あっ氷牙・・・あ・・・妖精さん?」

微笑みを浮かべようとしたマナミがレベッカに気がつくと、すぐに驚いたようにその表情を変えていった。

「レベッカだよ」

しかしレベッカがマナミに近づいていくにつれ、マナミが少しずつ笑顔に戻っていく。

「そっかぁ。マナミだよ、よろしくね」

頷いたレベッカが目安箱に座ると、マナミは改めて眺めるようにまじまじとレベッカを見つめる。

「すごい、ほんとにいたんだね」

「集計してるの?」

「うん」

「手伝うよ」

「ほんと?じゃあ、お願いするね。目安箱から紙を取って、組織の名前をここに書いていくの。同じのがあったらスルーしてね」

「分かった」

候補を一通り並べるんだな。

ふと目を向けたテーブルには目安箱の他に本やお菓子が置いてあった。

本当にのんびり屋みたいだな。

異世界に関してはこの話自体もスロースターターでございます。笑

まぁ世界観をゼロから作ってるんだなこの人はと、思って頂ければいいですかね。笑

ありがとうございました。

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