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序章2

「あ、あと1つだけ大事な話があるんです。聞いて下さい」

おじさんは今まさに飛び立とうとしている鳥たちをなだめるように話を続けようとしている。

小声ではあるが複数人の声が重なり、結果的には大きな「えー?」になったが、気合い負けする前におじさんは話を続けた。

「最初に言いましたが、皆さんは1つの組織に入っている仲間です。最後に組織のリーダー的存在を決めてから、今日は締めたいと思います」

どうやらまだ皆は納得していない様子だ。

決めるなら早くしてくれという空気が、言葉にせずとも手に取るように伝わってくる。

「ちなみに私はこの組織のオーナーですので。リーダーは私が前もって決めてあります」

決めてあります?

始めから決まっていたのか。

「実は皆さんは大きく分けると2つに分かれます。攻撃型と非攻撃型です。そう言うとちょっと悪口っぽく聞こえるので、支援型とでも言いましょう。私は攻撃型の中から、1番強いと思う人を決めました」

一瞬会場の空気が止まった気がした。

1番強い人を決めた?

いくら独断だからとはいえいきなりこの人が1番強いと言われて、皆は納得するのだろうか。

「これからその人に舞台に上がって来てもらって、挨拶してもらいます」

少しずつ会場の空気が悪くなっている気がする。

「じゃあ早速来てもらいましょう。この人です」

そして会場が暗くなり、スポットライトだけが会場の一角を照らし出した。

凄く眩しい。

見上げられないほど眩しい。

しかも若干熱さを感じる。

「ヒョウガっ」

ざわめきの会場の中で、ミサとユウコが共に驚くような声を上げたのは分かった。

・・・え、僕?

何で?

周りを見渡してみるが、強く照らされた光の中からでは闇が引き立ち、逆に皆の顔色は伺えなかった。

仕方ないな。

ゆっくりと席を立ち、仕方なく舞台に向かう最中、暗闇の中から見えたこちらを見る人達の眼差しに、妙な冷ややかさを感じた。

挨拶って言ったってな・・・。

そういえば、今ここに居る人達って皆僕みたいな人達なのかな。

さっきの話からすれば、ここにはそういう人達が集められてるってことになるよな。

それなら・・・。

舞台に上がるとスポットライトは消え、会場は元の明るさに戻っていった。

ふぅ、熱かった。

「どうも、はじめましてヒョウガ君」

「あ、はい、どうも」

お互いに会釈をすると、おじさんは手を差し出しマイクのもとへエスコートした。

マイクの前に立つと、すぐにおじさんは左斜め後ろへ後ずさりしてそのまま黙り込んだ。

どうやら喋りだすのを待っているみたいだ。

「えっと、ただ今、ご紹介に預かりましたが」

喋り出すとほとんどの人が睨んでいるような目つきでこちらを見ている気がした。

「きっと、今の状況に納得していない人の方が多いと思います。そこで・・・今から新しいリーダーを決める大会を開催しようと思います」

舞台から見下ろしているからなのか、動揺するように顔色を変えていく人達がすぐに何人も確認出来ると共に、会場の空気がざわめき始めたのも手に取るように分かった。

「エントリーは自由ですが攻撃型の人限定にします。あくまで1番強い人を決める大会なので」

おじさんの方を見てみると、おじさんはまるで像のように薄い笑みを浮かべたまま立ち尽くしている。

「内容は・・・リーグ戦を行い、その上位何人かでトーナメントを行います。もちろん優勝者がリーダーです」

ざわめきが少し収まったのを感じると同時に小さく頷いてる人達も見えたので、会場は悪くない空気になっているような気がした。

「まず、リーグ戦でエントリー者全員と戦います。きっと、純粋に強い人が上位何人かに選ばれるでしょう」

話に聴き入るかのように、ほとんどの人が黙ってこちらを見ている。

「その後でトーナメントを開くということは、一度戦った相手と再度戦うということです。もしかしたら、新しい作戦を考えなくてはならないでしょう。強さだけでなく頭も必要だということです。それで優勝すれば、リーダーに相応しい人と言えるんじゃないでしょうか」

会場が徐々に静かな空気になっていくに連れて、ほとんどの人が同意しているような雰囲気が伝わってくる気がした。

あともう一声って感じかな。

「せっかく闘技場もあることですし、それに皆さんも自分の力を試すきっかけが欲しいでしょう」

「ルールは?」

ふと気がつくとおじさんがすぐ隣まで来て、耳元で囁いてきていた。

「ルールは、もし気絶や大怪我をしてしまったら即終了。その時点で優位に立っていた者が勝利です。もちろん降参を宣言することも出来るので、無理はしないで下さい」

「あのちょっといいですか?」

「あ、はい」

おじさんがマイクに手をかけようとしてるので、一歩下がりマイクを譲る。

「これはあくまでエキシビションです。本気を出すなとは言いませんが、もし仲間の命を奪ってしまったら、力は全て剥奪、ここに来た記憶もなくなりますのでそのつもりで」

おじさんが付け加えるようにそう言うと、会場の空気が一瞬にして凍りついた気がした。

記憶を消して力を剥奪?そんなこと出来るなんて、この人は一体・・・。

「ヒョウガ君、私はリーグ表作りますので、エントリーする人を集めてくれます?」

「・・・あ、はい」

そう言うとおじさんは舞台の一角にある小さなショールームのような部屋の中に向かっていった。

何の前触れもなく開会宣言をしたのに、この気の利きようは少し不思議に思える。

そんなことを考えていると、おじさんは大きな紙とマジックペンを持ってガラス張りの部屋から戻って来た。

「じゃあエントリーする人は、あのおじさんの前に並んで下さい」

おじさんという言葉に反応したのか、おじさんの方に目を向けるとおじさんと目が合ったが、構わず会場の人達に目線を戻す。

「今日のところはエントリーだけ済ませて、リーグ戦は明日から行います。その間に闘技場に行って少しでも自分の力に慣れておくといいでしょう。僕からは以上です」

マイクから離れ始めたと同時に、再びおじさんが素早くマイクの前に立った。

「最後に1つだけ。ここに泊まる方は朝7時にバイキング形式の朝食が、夜7時に同様の夕食があります。それでは皆さん、自由にして下さって結構ですよ」

そう言うとおじさんはまた素早く持ち場に戻っていった。

とりあえずは、こんなもんかな。

せっかくだし。

正確な時間は分からないが、長い間話を聞いていたのでようやく解放されたとため息をついたり、伸びをする人達を見ていると、少しずつではあるが、おじさんの前には行列が出来始めていた。

恐らく自分の部屋に行くであろう人達や、早速闘技場に入っていく人達でようやく会場に人の動きが見えるようになったとき。

「ヒョウガ」

舞台下からそんな声がしたのでその方へ目を向けると、ユウコとミサが行列の中に居て、ミサが手招きしているので2人と共に行列に加わった。

「ヒョウガって口が上手いんだね」

するとすぐに緊張感を感じさせないような雰囲気を出すユウコがニヤつきながらそう口を開いた。

「僕もいきなりリーダーなんて言われても、納得出来ないからね」

「でもここまで話を進めるなんて、もしかして前もって打ち合わせしてたのかしら?」

そう言いながらミサもユウコと共に少しリラックスしたような笑みを浮かべている。

その瞬間、ふとある小さな疑問が胸の底に沸き立った。

「僕だってあのおじさんは知らないよ」

「そう・・・貴方もエントリーするんでしょ?」

「そうだね」

「そういえば、ヒョウガまた自己紹介忘れてたよ」

ユウコは列の隙間を確認するように進みながらそう言って笑顔を見せてくる。

「そうだった?でも新しいリーダーが決まるから必要ないよ」

「そんなのまだわかんないよ。仮にも1番強いんだし、またヒョウガがリーダーになるんじゃない?」

「そうかな?」

この2人も今の状況にそれほど動揺してないみたいだけど、気にならないのかな?

どうして自分が今ここに居るかとか、あのおじさんは誰なのかとか。

何気なく2人と話をしていると、いつの間にか列の最前列に流れついていて、2人と共におじさんに顔を向けると、階段脇に立つおじさんはペンの蓋を開けながら軽く会釈をした。

「はじめまして、オーナーさん」

ミサが落ち着いた雰囲気で挨拶すると、おじさんは依然として張り付いたような微笑みを見せながら小さく頷いた。

「どうもはじめまして、お名前を伺っていいですか?」

「ミサです」

「はい、ミサさんね」

ミサが笑顔で応えるとおじさんはリーグ表に名前を書いていく。

「よろしくねオーナーさん、私ユウコです」

「はいよろしく、ユウコさんだね」

「どうも」

「あ、ヒョウガ君の名前は最初に書きましたよ」

「そうか、気が利くね」

あれ?・・・名前は先に書いた?

舞台に上がったときも、おじさんから話し掛けてきた。

しかもいまだに自分から自己紹介なんてしていないのに。

不思議だけど、何となく気にするようなことでもない気がする。

何でだろ。

席に戻り、テーブルに置かれているカードキーに目を通す。

022。

確か50から下が舞台から見て右の扉だと聞いたような。

「ヒョウガ何番?」

舞台に目を向けていると、ユウコがカードを覗き込むようにそう聞いてきた。

「022だよ」

「そっかじゃあ、私と反対だね」

「でも家にも帰るんでしょ?」

「え?でも1泊くらいはしたいし、イマイチシールキーの使い方も不安だし。あ、でもずっとホテルじゃ学校にも行けないな」

小さく首を傾げながら目線を上げるユウコの表情から伝わる不安感の中に、若干の気楽さが混じっていることが何となく気にかかった。

「それなら、ホテルの部屋と自分の部屋のクローゼットでも繋げておけば、いつでも行き来出来るんじゃない?」

「そっか、それならホテルに泊まりながらでも普通に暮らせるね」

不安げに話していたユウコはそう言うと嬉しそうに微笑んで頷いた。

「ヒョウガは闘技場には行かないの?」

そんな時にミサが椅子を近くに寄せながら唐突にそう聞いてきた。

「僕は明日でいいかな。そういえばミサも学生なの?」

「えぇ、大学生よ」

ミサは気品のある微笑みを見せてからゆっくりとそう応えた。

ユウコは見るからに高校生だし、ミサとは何か接点はあるのかな?

「ヒョウガだって1度は家に帰るんでしょ?」

「いや、僕はこれからこのホテルに住もうかな」

「あら、そう。今日から?それも良いかもね」

ノブとシンジの姿は見当たらない。

きっと闘技場にでも行っているのだろう。

周りにはモニターに釘付けの人達が何人か見え、ついでに見渡しても時計らしきものはない。

今一体何時なのだろう。

「あら?何を見ているの?」

「そういえば、ここには時計が無い」

「そうね。何時か知りたいの?」

するとミサはこちらの顔を覗き込むように小さく首を傾げながら微笑んだ。

「いや、気にはならないけど不便と言えば不便かもね」

「腕時計や携帯は持っているんでしょう?」

・・・そういえば。

「持って無いね」

「どっちも?」

ミサは驚きの表情をうっすらと浮かべると共に、哀れむような眼差しをこちらに向けてくる。

「あぁ」

「珍しいのね、携帯が無いなんて」

ふと壁を見ると壁沿いに長いテーブルがあり、そのテーブルにはガラス製のコップやマグカップが積まれていた。

そしてその横には複数の種類のボタンがあり、それに連動して飲みたい種類の飲み物を出せる機械があった。

「何か飲みたいの?あたし持ってくるわよ?」

「え?いや悪いよ。自分で行く」

「ならあたしも行くわ」

何だかどうしてもついて行きたいって顔だな。

まぁでも別に全く気にはならないけど。

ミサと共に立ち上がり、壁沿いのテーブルに向かって歩き出しながら、ふとミサの左手に着けられている腕時計に目を向ける。

「やっぱり時間聞いていいかな?」

「えぇ。今は・・・9時半前ね」

「そうか」

目の前には紅茶のパックや4種類のコーヒーが出る機械もあった。

「色々あるのね」

「そうだね」

何となくマグカップを取り、ホットミルクを注いで席に戻るが、そこには先程はあったユウコの姿がなくなっていた。

ゆっくりとホットミルクを飲み一息つく中、ふとミサがティーカップを口に運びながらこちらの顔を見ているのに気が付いた。

5000文字前後に決めて投稿しているので、中途半端な終わり方に関しては温かく見守って貰えるとありがたいです。笑

ありがとうございました。

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