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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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快諾天使

本を閉じて天井を見上げたとき、少し頭が重くなると共に、周りの音が少しだけ遠ざかったような感覚になった。

「ふぅ・・・」

「あら、ちょっと顔に疲れが見えるわね、もしかして、昨日は夜遅くまで歴史書を読んでたの?」

少し重たく感じる瞼を上げるとそこにはヴリスが立っていて、心配そうな眼差しで優しく微笑みかけてきていた。

「うん」

「睡眠は取らなきゃだめよ?睡眠は記憶を整理するためにあるものだから、記憶を知りたいなら尚更夜更かしは厳禁なのよ?」

そう言うとヴリスは椅子に座り、書物を広げながら機械を操作し始めた。

「そっか。でもまた1つ思い出したよ。私が隣国の兵士と一緒にバルーラに向かう場面。何かを探してるみたいな感じだった」

「そう・・・隣国の兵士か・・・きっとそれは隣国との仲を取り持つために何かをしてた時じゃないかしら?」

仲を取り持つためか、確かに親しげに話してたな・・・。

「おーいヴリス、今朝の新聞見たか?」

ヴリスが室長と呼んでいる男性が歩み寄ってくると、何やら手に持っている何枚もの紙が重ねられた書物をヴリスの前に差し出した。

「何?科学者が好むような記事でも出たの?」

あまり乗り気ではない声色で応えながら、ヴリスは書物を手に取って大きく広げる。

「ホンゴウラの新兵器に早速買い手が現れたんだ」

「え?買い手ってアサフィル?何だ、やっぱりって感じね。こんな記事見たって何も面白くないわ?」

アサフィルって、確かクラドアの北西にある国だっけ。

「いやいや、遂にシンバン以外の買い手を受け入れたってことは本格的な独立を視野に入れてるってことだろ?記事じゃアサフィルって出てるがどうせアルバート財閥だし、もしかしたら西クラドアの戦力図が変わるかも知れない。第1研究所の奴らも更に兵器開発に忙しくなるんじゃないか?」

アルバート財閥?

すると呆れたような笑い声を漏らしたヴリスは、期待が外れたようにため息をつきながら書物を畳み始めた。

「何よ、結局第1の人達の慌てふためく姿を傍から見たいだけじゃない。でもホンゴウラは手が早いわね、まるでアルバート財閥との関係を表に出したくて反乱を起こしたみたいに思えるわ?」

「アルバート財閥って何?」

「アサフィルにね、アルバート・ハンセンっていう資産家が居るんだけど、その人は兵器売買の道じゃ有名なのよ。財閥の軍事力で、一国を相手に出来るんじゃないかって噂されてるほどにね」



新聞をテーブルに置きながらテイマ少将が重々しいため息をつくと、周りの空気にも少しだけ焦りのようなものが伝染した。

「・・・より濃厚になったか」

ふと1人の男性が会議室に入ってくると、何気なくテーブルに近づいたその男性の目線が新聞へと向けられる。

「あ、それ、いよいよホンゴウラの独立が現実味を帯びてきましたよね。オルベルの相手もしなくちゃならないってのに」

「え?いや、俺は、ナスキ・サラマンダーズが2軍に降格するっつう話がだな・・・」

テイマ少将が照れ臭そうに新聞に目を逸らしていくと、2人の間に一瞬の沈黙が流れた。

「え、スポーツ面の記事ですか。ホンゴウラは気にならないんですか?」

「ああホンゴウラか、でもあの社長だろ?本当に独立なんてするのか?」

あのって、その社長とは親しい仲なのかな?

「その社長ってどんな人?」

こちらに顔を向けたテイマ少将は気を抜くように表情を緩めながら、すぐに天井へと目を逸らした。

「簡単に言えば、一本、筋が通った奴だな。社員からの人望も厚いって聞いてるが。まぁ人と人だしな、何があるか分からないと言えばそれまでだが、社長が反乱を起こしてまで独立をするような人間じゃないっていうのは確かだ」

テイマ少将も、その社長を慕っているみたいだな。

「そうか」



テリーゴに頼まれた朝食のお使いの帰り、路地裏から聞こえた悲鳴を追ってとっさに走り出すと、路地裏では3人の男性が1人の若い女性に迫るように囲んでいた。

「おいっ」

男性達がこちらに顔を向けるとすぐに殺気を向けてきたので、戦闘に備えるために一旦買い物袋を地面に置く。

「乱暴なことはよしなよ。嫌がってるじゃないか」

「くそ、これからってときに。お前こいつ見張ってろ」

1人の男性が女性の腕を掴むと、2人の男性がこちらの方に歩み寄ってきた。

「邪魔すんじゃねぇよ」

そう言うとすぐに殴りかかってきたので、相手よりも1歩先に相手の懐に掌をかざす。

掌から発した衝撃性を高めた音波に、男性は軽々と宙に投げ飛ばされ、男性の後ろに居たもう1人の男性も勢いよく尻もちをつく。

「何だよこいつっ魔法使いかっ」

「今のは本来の力の3割も出してないよ?」

「・・・くそっ」

男性達が一目散に逃げていったのですぐに女性に近づいていくが、警戒心からか、女性はまだ少し怯えたような眼差しをこちらに向けていた。

襲われる直前だったみたいだな。

「怪我は無いですか?」

「あの、はい・・・ありがとうございました」

頭を上げた女性の表情に落ち着きが見られたので歩き出すが、すぐに少し慌てたような声色で呼び止められる。

「もしかして、魔法使い、なんですか?」

下界の人間にとっては、天力や魔力は理解を越えるものだしな。

敢えて細かい説明はしない方が良いかな。

「違うけど、でもそんな感じかな」

去っていく女性を見た後で青空を見上げると、何となく穏やかな気持ちになった。

さてと・・・あ、朝ご飯忘れるとこだった。

テリーゴの居る小屋に戻り、朝食を取っていたとき、テリーゴの持つシーシーとやらが突如小さな発信音を鳴らした。

「ヨウさんが情報掴んだみたいだから、食い終わったら会いに行こう」

「分かった。そういえばさっき、困ってる町の人を助けたときに聞いた話なんだけど、ティンレイドには魔法使いが居るらしいよ」

「あぁ、オイラ会ったことないけど、この国って世界で1番魔法に関しての研究が進んでるみたいだし、多分そんなに少なくないんじゃないかなぁ。あ、クラスタシアに渡すやつも少しだけ魔法が使われるしな」

しばらくしてティンレイドに構えられたカフェバーに入るが、奥のカウンターにヨウの姿はなく、代わりに女性の店員がカウンターの中に立っていた。

「いらっしゃいませ」

「ヨウさんは?」

「今さっき、ちょっと出て来るって行って店を出たけど」

あれ・・・行き違いになったのかな?

「何だよ、自分から呼んだくせにさぁ」

テリーゴが呆れたように口走りながら肩を落とすと、店員の女性も困ったような表情で店の入口に目を向ける。

「きっとすぐに戻ると思うから、2階で待ってたら?」

「んー、そうするかな」

突如テリーゴの持つシーシーから発信音が鳴り出すと、静かな雰囲気の店内に何となく緊張感が広がった気がした。

「あれ、ヨウさんからだ・・・セトレット教会に来てくれってさ」

教会か、確か人間が神を崇めるときに使うところだったかな。

「場所分かるの?」

「これですぐに調べられるから、大丈夫さ」

「へぇ」



ふと歴史書を1ページめくったとき、突如胸の奥まで響き渡るような甲高い警報音が研究室に轟いた。

何?・・・どうしたの?

「ヴリス、何なの?」

「分からないわ、何が・・・」

「第1研究所に侵入者を確認、第1研究所に侵入者を確認、職員は直ちに身の安全を確保して下さい」

・・・侵入者?って、何の?・・・。

「おーい、ヴリス、お前、皆連れてシェルターに行ってくれ」

「え、室長は?」

「とりあえず誰かが様子を見に行かなくちゃいけないだろ?」

様子を見に行くって、危険じゃないのかな。

「でも・・・」

「まぁ恐らく盗賊か野生の擬態生物だろ、大丈夫だって」

「じゃあ私も行く」

2人がこちらに顔を向けると、沈黙の代わりに緊迫感を湧き立たせる警報が虚しくその場を包み込む。

「だって私、戦えるんでしょ?私、室長を守るよ」

「でもあなた、体という武器は持ってても、その武器の使い方を知らないじゃない」

「あ・・・」

使い方・・・私の体の、使い方・・・。

「何とか、なるよ」

それにせっかく戦える体があるんだし、使い方を知る良い機会かも。

警報と共に赤い光で照らされた通路を抜けていくと、第1研究所と書かれた分厚そうな扉が見えてきたと同時に、その扉の真ん中に大きな穴が空いているのも確認出来た。

「何じゃこりゃ、一体誰がこんなこと・・・」

呟くように口を開きながら、室長は少し屈んで扉の穴を覗き込む。

「すごい凶暴な擬態生物が入っちゃったのかな」

「いや、違うようだ。中にまるでくり抜かれたような扉の破片があるのが見える。しかもただ爆破したんじゃなく、あらかじめ円形に切り込みを入れてから発破をかけたようだ。つまりは、人間の仕業だな」

爆破して空けた穴?

「ねぇ、そんなことが出来るなら、武器とか持ってて危険なんじゃないのかな?」

すると室長は困ったようにうっすらと笑みを浮かべながら、何故かおもむろに両手をゆっくりと上げ始めた。

ん?何して・・・。

その直後に室長が後ずさりすると同時に、扉の穴からゆっくりと室長に向けられた銃口が出て来た。

突如、一瞬頭に小さな痛みが走ると、再び銃口を向けられる王女の姿が脳裏に浮かび上がり、その後に研究所のような建物がある風景が見えた。

初めて見る・・・いや、知ってる。

私、あの建物知ってる。

そして銃を構えながら迷彩色の服を着た男性が扉から出て来たときに、何となく王女の姿から元の姿に戻った。

何が出来るか分からないけど・・・。

そういえば私、体の形を変えられるんだっけ。

しかし考える間もなく、男性は何かを察知したかのようにこちらに顔を向けると、一瞬だけ驚いたように体を硬直させた直後、すぐさま敵意と銃口を向けてきた。

「何だこいつ」

「おいどうした」

あ、もう仲間が来ちゃったのか。

「いや問題無い、人質が増えただけだ」



ここが教会か・・・。

色とりどりのガラスや、柔らかく漏れる日光に照らされた1番奥にある十字架、教会の至る所から神聖な雰囲気を感じる。

前の方の席に座る人影が動き出すと、その人はこちらの方に体を向けながら小さく手を挙げた。

あ、ヨウさんだ。

「おう来たか」

テリーゴと共に歩き出すと同時にヨウが立ち上がり始めると、ヨウの後に続くかのように1人の女性が立ち上がった。

あの人、あまり町で見ないような服だな、何かの制服かな。

「ちょっと別の客との用もあったんでな、まぁいっぺんに済まそうと思ってこっちに呼んだんだ」

「ふーん。じゃあオイラ達とは関係ないんだね」

するとヨウは何かを企んでいるのか、若干照れ臭そうに笑みをこぼした。

「最初はそうだったんだが、こっちのお客さんが少々人手が欲しいってんで、まぁ紹介も出来たらと思ってな」

紹介か・・・じゃあこの人のことを手伝えば良いのかな?

「この人は、セイント魔法捜査団の、ネッカ捜査官だ」

緊張しているような固い表情のネッカ捜査官は、軽くだが丁寧にお辞儀をしたので、とりあえず会釈を返した。

「魔法捜査団?何それ、そんな国家組織、ティンレイドにあったの?」

「まぁこの組織は国の管理下にはない、独自で動いてる組織だからな、それほど名前は知られてないと思うぜ?」

「ふーん。オイラはテリーゴだよ。そんでこっちはカイル」

「どうも」

魔法捜査って何だろ。

魔法で捜査かな、魔法を捜査かな?

「ネッカ・ビフェルです。今私達は、ワイルドホーネットという犯罪組織を追ってるんです。私達魔法捜査団は国の管理下にないので調査から標的の拘束まですべて独自で行っています。少しばかり人手が欲しいとヨウさんに相談したら、いい人を紹介してくれるということだったんですが、いきなりこっちから呼びつけてしまったので、断ってもらっても構いません。もしよろしければ、協力して貰えないでしょうか?」

「うん分かった」

「おいおい。即答は良いけどさぁ・・・とりあえず、オイラの知りたい情報を聞いてからにしてくれないかな?」

あ、そっか、そういえばまだホンゴウラとやらの情報を聞いてなかったな。

「そうだね」

「ヨウさん、とりあえず掴んだ情報聞いて良いかな?」

テリーゴ(24)

カイルの仲間。仲間の中では飛び抜けて運動神経が良く、戦いに関しては一番便りになる存在。どこか海風の匂いを感じさせる笑顔と日焼けした肌色が特徴。


ありがとうございました。

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