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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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コーモンプレイス

「朝方、あなたとご一緒していた方ですか?」

「あぁ」

「少々お待ち下さい」

男性は全く表情を変えずにキーボードのようなものを叩き始める。

「なるべく早くしてくれよな」

しかし男性はキーボードから手を引くと、イヤホンマイクに集中するように少し目線を落とした。

反応はしろよ・・・。

「ウィンスター捜査官をお願いします」

・・・捜査官?まさか警察か?

いきなり通報されたってのか?

「氷牙の連れの方がお見えになりました」

何となく緊張感を感じる中でふと聞き慣れた名前を聞くと、依然として表情を変えない男性への敵意も少し薄れた気がした。

まぁ・・・もうちょっと待ってやるか。

少し経ってカウンターの奥からヒールの足音が徐々に聞こえてくると、やがてスーツに軍服の装飾を施したような格好の女性が姿を現した。

女?・・・あいつが、捜査官?

「やっと来たわね、待ってたのよ?」

「待ってた?」

捜査官の女性はカウンターに腰を当て、若干リラックスしたような体勢になるが、その眼差しは強気なもので、若干見下すような鋭さすらも感じる。

「氷牙を色々と調べた後に話を聞いて、あなたのことも知りたくなったのよ。だからあなたが来るのを待ってたの」

あいつを調べたって・・・。

「あいつに何かしたのか?」

「何って聞かれたら、まぁ取引したわね」

「取引?」

あいつ、まさかまじで軍から情報を聞き出したのかよ。

「国の兵器として働く代わりに、軍事機密を渡して欲しいって、まぁそんなところかしら?」

「・・・それは、つまり傭兵になるってことか?」

「まぁ、そうね、遠くはないわね」

まじか、すげぇな、あいつまじで傭兵になりやがった。

ってことは、あいつの宿はもう決まったようなもんだな。

本格的な別行動になるが、まぁ帰るときはまたそん時考えるか。

「そうか。じゃあもうここには用は無くなったみてぇだから、あいつによろしく言っといてくれ」

「・・・待ちなさい」

捜査官の女性に背中を向けたと同時に、女性は強い口調で一言を発した。

「何だ?」

「言ったでしょ?私達はあなたのことも知りたいの。任意で良いから、ついて来て貰えるかしら?」

任意?やっぱ事情聴取的なものか・・・。

真っ直ぐ立っている捜査官の女性の眼差しは先程よりも威圧感を増していて、まるでそれは警官が職務質問するときの表情に何となく似ていた。

断っても素直に引き下がりそうにねぇよなぁ。

「明日にしてくれないか?俺はあいつと違ってまともな人間なんでね」

すると捜査官の女性は一瞬目線を落とした後、こちらに目線を戻しながら警戒心をあらわにするかのように小さく目を細めた。

「まともな人間?それなら、力で捩じ伏せられるって訳ね。人間は嘘をつくしすぐに裏切る。けれど物理的に力の差を前にすれば簡単に動けなくなるのよ」

物理的な・・・まさか、断ったら実力行使ってか、ちょっと強引じゃねぇか?

「あ、いや悪い、やっぱ俺まともじゃねぇわ。確か、NAPってのが人間みてぇなロボットを従わせてたよな?俺はあのロボットを簡単に押さえ込めるし、あ、そうだ、たとえホンゴウラってのが相手でも負けねぇよ?」

言葉に詰まったのか、捜査官の女性はただ小さく息を漏らしながら呆れるように天井を睨みつけた。

「何なの?氷牙と言いあなたと言い、虚勢を張るにしてもまるで現実感がないわ?」

虚勢、じゃねぇし。

「いやまぁ、確かに戦ったことはないが、俺の見立てじゃそう見えるんだ。だから、力じゃあ捩じ伏せられないぜ?」

苛立ちを吐き捨てるようなため息をつきながら、捜査官の女性は周りを見渡しながらおもむろにカウンターの裏へと回り込んだ。

「私は研究員じゃないから客観視なんて出来ない。だから実際にこの目で確かめるわ?」

何の話だ?

「中央管理局はその名の通り、国のあらゆる情報を管理するところ。だからテロの標的になることも少なくないの。そのために受付は警備員としても兼務させるために、ヒューマノイドにやらせてるのよ。さぁ立ちなさい」

ヒューマノイドか・・・こっちじゃそう呼ぶのか。

あ、ロボットだから無表情なのか。

「話し込むより、見た方が早いでしょ?力があるって言うなら見せてみなさいよ」

確かにそうか・・・。

仕方ねぇ、壊さない程度にやってやるか。

トラとゴリラを体に憑依させ、ロボットの頭を掴んで天に掲げる。

こちらの腕を掴み、必死に抵抗するロボットを強めに投げ飛ばすと、ロボットは音を立てて床にめり込みながら転がっていった。

まぁこんなもんか。

関節の所々から軋むような機械音を鳴らしながらロボットが立ち上がると、捜査官の女性は慌てた口調でロボットの戦闘体勢を静めた。

「俺はもう一段階姿を変えられる。その姿は今よりも遥かに強いぜ?」

そう言ってから憑依を解くが、そんな威嚇は必要無いほど捜査官の女性の表情はすでに慌てたように引き攣っていた。

「あ、あな、あなた・・・あなた・・・シャーマンなの?」

またそれか。

まぁそんだけ似たような力がこの世界には存在するってことなんだろう。

「いや、違う。そういやあいつのこと調べたって言ったよな?だったら俺だって異世界から来たって考えるのが普通だろ」

「・・・そうね」

「じゃあ、そろそろ行って良いか?」

「力で捩じ伏せられないなら、拒否するあなたを私達はどうすることも出来ないわ?」

間接照明のネオンに照らされた町並みの中で、最後に見た捜査官の女性の表情に、何となく罪悪感に似たものを感じた。

ちょっと、ビビらせすぎたかな・・・涙目になってたし。

それにしても、あいつが軍にいるってなったら、シーシー渡す必要は無くなったってことか?

暗い夜道の中、かろうじて見える楠原の看板を確認しておっさんの店に戻るが、店内の電気は消されていたので、のれんの向こうから洩れる明かりを頼りに店内を進んでいく。

「おーい、おっさん居るかぁ?」

「はーい」

またかよ。

おっさんを呼んでるのに何であんたが返事するんだよ。

のれんから顔を出すと、女性は若干緊張したような微笑みを浮かべながら軽く会釈をした。

「あ、どうも」

「どうぞ?」

「あぁ」

畳に上がってのれんをくぐると左手に障子があり、障子を引くと目の前には狭さを感じない程度の居間があった。

少し高級感はあるが何の変哲も無い木製のテーブルに、薄型のテレビはでかいが押し入れやタンスは見慣れたもので、まるで普通に日本の家に上がったような印象を受けた。

「おお、おっさん、じゃあ少しだけ世話になるよ」

「1人か?」

「あぁ。連れは連れで用があるんだ」

「そうか、明日知り合いがやってる鉱物の仕入れ業者に持ってって磨いて貰うから、遅くても明々後日には値段が決まるはずだ」

「そうか」

なるほど、原石のままじゃあ売買はまだ出来ないってか。

「残り物でよかったら支度するけど」

すると突如中年の女性がふすまが取り外された隣の部屋から顔を出しながら、そう問いかけてきた。

「いやぁ残りもんでも十分有り難いっす」

「あらそう?じゃあ、そこで待っててよ、すぐに出すから」

居間の隣はフローリングで、まさに日本でよく見るダイニングキッチンとなっていたが、ただひとつ、冷蔵庫の隣に並べられた見知らぬ機械が気になった。

洗濯機じゃ、ねぇか。

「観光で来たの?」

IHクッキングヒーターのようなもので小さい鍋を温めながら、いかにも主婦の雰囲気を感じる中年の女性は何気なく話すようにふと口を開いた。

「まぁそんなとこかな」

「でもあんた、運が良いねぇ、たった1日で原石掘り当てるなんて。業者にでも頼んだの?」

「いや1人で掘った、スコップ1本でな」

まぁ最終的には素手でいったが。

「ほんとにぃ、そりゃたいしたもんだね」

予想よりかはリアクションが薄い中年女性は冷蔵庫に向かい、ラップがかけてある皿を電子レンジと思われる機械に入れる。

「お姉ちゃん、私のワンピース知らない?」

「そういえばミラが借りてくって言ってたよ」

「また?もう・・・」

何となく後ろを振り返ると、引き戸に隠れながら部屋を覗くようにして中年女性を見ていた、先程の女性とふと目が合った。

「そんなとこで何してんの?こっち来れば?」

「え、だってお客様居るし」

「接客業してる人間が何言ってんの。そうだ、えっと・・・」

中年女性に目線を戻すと、皿をテーブルに置きながら戸惑ったような眼差しをこちらに向けていた。

「あんた名前は?」

「桐沢総助っす」

「桐沢さんの寝具とか歯ブラシとか用意しなさい」

そう言いながら中年女性はお茶碗を片手に炊飯器の蓋を開ける。

「歯ブラシだけは持ってます」

「あらそう。部屋は2階の奥使って良いからね」

「はい」

いきなり世話になるっつうのに、おっさんもこの人も全然普通だな。

こういうことには慣れてんのか?

そして目の前に出されたお椀には真っ黒な味噌汁が入っていて、お茶碗には薄く黄色に色づいた米が盛られていた。

落ち着け・・・ここは異世界だ、とりあえず先入観は取り払おう。

「いただきます」

箸とお椀を持ち、恐る恐るではあるが、真っ黒に染まった何かしらの汁をゆっくりと啜ってみる。

「んんっ」

何だこれ普通に味噌汁じゃねぇか。

しかもただの味噌味じゃねぇ、胡麻に似た風味がプラスされてる。

「うまっ・・・これ、普通に味噌なのか?」

「普通の味噌じゃないよ。黒味噌って言って、発酵させる段階から黒胡麻を大量に入れて作る、黒胡麻の栄養とうま味がすべて溶け込んだ味噌だよ」

「ほう・・・」

期待してなかった分、逆に驚きがでかいな。

「黒味噌を知らないなんて、あんた、出身はどこだい?」

「え・・・」

まずいな、何も思いつかねぇ。

「日本ってんだが、まぁ知らないだろうな」

「聞いたことないねぇ、どこの大陸だい?」

「いや、大陸には無いな、島国だからな」

「そうかい」

卵でもくぐらせたかのように薄く黄色に色づいた米を口に運ぶが、食感や粘り気、味でさえもまるで白米そのものを思わせるものだった。

「あの、どれくらいの滞在予定とか決まってるんですか?」

中年女性の隣に座りながら、その女性は若干恥ずかしがるような微笑みを向けてくる。

「そういやはっきり聞いてないな。俺はあいつについて来ただけだからな」

軍に世話になっちゃ、そうすぐには帰らないだろうな。

「ところであの、シーシーはお役に立ってます?」

「あぁ、いやぁあれすげぇな。画がすげぇ鮮明だ」

おかずの野菜炒めらしきものを口に入れると、まるで豚肉とキャベツ、そしてパプリカの類のものを食べている感覚になった。

「あれ、もしかしてマキナのとこに来たの?」

マキナと呼ばれた女性は照れるような笑みを浮かべながら頷くと、中年女性は納得するように大きく頷いた。

「何だ、顔見知りだったんだ。なのに、何でそんなに恥ずかしがってんの?」

「だって、お客様に家に居る私見られることなんてないし。あ、あの、私、楠原マキナです。こっちが従姉妹のカタナお姉ちゃん」

か、刀?・・・いや、イントネーションが違うか。

「どうも。てことは、おっさんはどっちの・・・」

「お姉ちゃんのお父さんだよ、私の両親は私が小さい頃に事故で死んじゃったから」

「そうか、悪いな」

小さく首を横に振ったが、やはりマキナの表情には寂しさがかいま見えた。

そういや金が出来るまで暇だよな、その間に新しく契約する生物でも探すか。

・・・いや、その前に本当にドラゴンを鉱石で強化出来るかやってみるか。

「いやぁ、悪いな風呂まで使わせて貰って」

「良いんだよ、お父さんのお客さんだし」

居間はもう電気が点いてないのか、おっさんはもう寝たんだな。

「昔から、たまにお父さんが気の合った旅人を家に上がらせたりしてたから、こっちとしてはもう慣れてるんだよ」

「そうなのか」

だから食器も余分にあったように見えたのか?

もしかしたら、部屋が空いてるのも偶然じゃないのかもな。

「それじゃあ、俺も休ませて貰うよ」

楠原 マキナ(クスハラ マキナ)(22)

旅行代理店員。子供の頃から変な所で意固地になることがあり、お酒が入ると友達からはお姫さまと言われ、子供のようにあやされている。


楠原 カタナ(クスハラ カタナ)(31)

専業主婦。3年前に離婚したが、実家の質屋の稼ぎでそれほど苦労はしていない。


ありがとうございました。

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