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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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戦場という名の檻

ハランが去って行くと、テイマ少将と呼ばれた軍人男性は、何かを不思議がるような眼差しでこちらに目を向けた。

「あいつ、お前のこと、これって言ったよな?まさかお前もヒューマノイドなのか?」

「違うけど、人間じゃないことは確かかな」

「そうか、見た目は全然強そうに見えないがなぁ。・・・ん、じゃああんたは先に駐屯所にでも行ってたらどうだ?すぐに案内させるぜ?」

テイマ少将の目線の先に目を向けると、何となく気弱そうな若い女性は、重そうな道具を持って静かに佇んでいた。

「あ、お気遣いどうも、じゃあ、早速準備に取り掛かります」

「おいライトっ案内してやれ」

軍人男性が研究員の女性を連れていくと、歩き出したテイマ少将はすぐに足を止め、何かを思い出したような表情でこちらに顔を向けた。

「一応言っとく。俺はテイマホウゴだ、階級は少将。お前も名前ぐらいはあるだろ?」

「あぁ、僕は氷牙だよ」

「臨時とは言え、戦場でまた顔を合わせるかも知れないからな、今この国で主に使われてる兵器を簡単に紹介しとく、ついて来い」

ふとテントのような造りの建物の傍に置かれている、人の倍以上の大きさの搭乗型のロボットが気になっていると、最初にテイマ少将はまさにそのロボットのところへと案内した。

「こいつはデカルト・ウーノっつって、対重装車用に作られたもんだ。簡単に言えば、こいつを小型化してAIに操縦を任せたもんがヒューマノイドって訳だが、前線に立つ部隊は主にこの2つを使ってる」

「なるほど。ひとつ思ったんだけど、機械人って何なの?」

「生れつき四肢に障害を持ったり、事故で身体の一部を失った人に、機械でその機能を補わせるっつう治療法がある。最初は差別されるような立場だったが、健常者よりも物理的に力が高く、一部の職場では重宝される人も居て、最近じゃ差別されることはなくなった、まぁざっとこういうもんだ」

じゃあ、機械人って兵器系のものじゃないのか。

「そうか」

ペースメーカーの進化系みたいな感じかな。



「今もまだ痛む?」

「ううんもう痛くない」

王女として生きる必要は無くなっても、やはり王女のことが気にかかる。

それにさっき見えた記憶、まだ謎が多いけど、だからこそ、今は謎を解くことを生きる理由にするのも悪くない。

「ねぇヴリス、もっと王女の記憶が知りたいんだけど、どうしたらいいかな」

「そうね、歴史書を読んでみたらどう?歴史を知った弾みで記憶がふっと甦るかも知れないわ」



まだ少し体全体が重たいが、ようやく岩石をすべて払いのけ、一旦地面を転がっている大きめな岩石に腰を掛ける。

いやぁ、疲れた・・・。

あれだけ砕きゃ、何か出るだろ。

何となく見上げていた空が少しずつ赤みを帯びていくと、ふと発掘場に乾いた風が吹き抜けた。

何か食うか、つってもカロリーメイトしか無ぇか。



「新しい動きは?」

「いえ、今は何も」

地図を広げたテーブルを囲む軍人達に緊張感という名の沈黙が降りかかる。

「そうか。少しでも動いたらこっちも動けるよう、準備だけはしっかりな」

「はい」

外を見る限り、隊の規模は結構大きいみたいだ。

「あのさ、この戦いって、大きな戦争に発展するの?」

「そうだな。オルベルとは、もう何年も前から戦争が起こってもおかしくないほど仲が悪くてな。すでに冷戦状態に入ってるって見解を示す奴がいるくらいだ。だから恐らく、この戦いが実質的に戦争の始まりを意味するだろう」

戦争か、もしも早く終わらせるとしたら、両国に共通の敵を作るか、どちらかの戦力が一瞬で消滅するか、まぁそんなとこか。

「あのさ、もしそのオルベルって国の軍事力が、呆気なく潰されたら、どうなるの?」

一瞬小さく首を傾げたテイマ少将は、呆れたような表情で遠くに目を逸らしていった。

「負けた国は、普通に植民地になるだろうが、ていうか、んなこと有り得ないだろ。戦力が互角だからこそ冷戦状態になった訳だからな、まぁその国だけに巨大な隕石でも降りゃ分からないが」

隕石か・・・。

「小さいけど、隕石ならあるよ?」

「はぁ?お前さっきから何言ってんだよ。戦争ってのは、そんな簡単に終わらせられるようなもんじゃないんだよ」

ここでどうにか結果を出さないと、もしかしたら情報が貰えなくなるかも知れないしな。

和解する気が無いなら、この戦いで兵器としての腕を見せないと。

「和解する気は無いのかな?」

「どうだろうな、多分無理だろ、和解なんて。そろそろお前も、自分の持ち場につけ、恐らくこの睨み合いは朝まで続くだろうからな」

「そうか」

じゃあここで一晩過ごすのか・・・まぁ仕方ないか、ソウスケはソウスケで何とかしてるだろう。



すっかり焼けている空を見上げながら発掘場の入口に戻り、曲がったスコップを持って受付の中年男性に顔を出す。

「よっ・・・いやぁ、悪いな、たまたま硬いところに当たったみてぇでさ、この通りだ」

中年男性がやる気の無い眼差しを何気なく向けてくると、スコップの曲がった様に男性の表情は一瞬にして驚愕の色に染まった。

「おい・・・いや確かに無料提供用のスコップだが、素材はデプス合金だぞ?人間の力じゃ絶対にそんなにはならないはずだ」

まぁ安物って訳じゃなさそうだが、全然問題は無いだろ。

「いや悪ぃなぁ、きっちり弁償はすっからよ、これでチャラってことになんねぇか?」

中年男性の前に何かしらの原石であろう石を置くと、男性はすぐさまその原石に目を向ける。

「お・・・こりゃあ、コウショウだな。まだあっちで採れたか。・・・まぁ、良いだろう、スコップはこれで許してやる」

「お、まじか」

今日はツイてんな。

そしてしばらくして質屋に戻るが、並べられた骨董品やら雑貨やらの奥にある、住居部分への道と思われる畳の前に構えられたカウンターには人の姿はなく、虚しさに似た空気が流れているだけだった。

居ないのか、おっさん。

「おーい、おっさん居るかぁ?」

店に電気が点いてんなら、居るはずだよな。

「はーい」

ん、女の声?・・・まずい、家のもんが来るのかよ、じゃあおっさん居ねぇのか?

長いのれんをくぐって出て来た、エプロンを着た女性はすぐにカウンターの脇にあるサンダルを履いて店の中に出て来た。

「お、おっさんは?」

「あ、今ちょっと手が放せないみたいで」

あれ?・・・。

のれんの方からこちらに顔を向けてきた女性と目が合うと、すぐに女性は小さく首を傾げた後、またすぐに目を見開きながら驚くように小さく声を発した。

「あの、もしかして、朝方シーシーをお借りに来て下さった・・・」

げ、あの強情女かよ。

けど店の制服も着てないし、メイクも髪型も全然違うのに気づいた俺も俺だよな・・・。

「あ、あぁ・・・でも、何であんたがここに」

「ここ、私の実家なんです」

実家・・・てことはおっさんの、家族?

「・・・そうか」

すると女性は照れるように笑みをこぼしながら、何となく店で見たような表情になった。

「でも奇遇ですね、また会えるなんて」

会えたっていうか、俺にとっちゃ、会っちゃっただけどな。

「まぁ、そうだな」

「そう言えば、お連れの方はご一緒ではないんですか?」

お連れ・・・あっ。

「ヤバっ忘れてた。うわぁ、そういやもう日暮れ時か」

まだ宿も決めてないしな、早いとこ換金して貰って、コランセンのとこに戻らないと。

一瞬のれんの方に目を向けた女性の表情から、若干の気まずさが伺えた。

「悪いけど、早いとこ迎えに行かないといけねぇから、何とかしてくれないか?」

「えっと、お売りにいらしたんですか?それとも何かお買い求めですか?」

また一瞬戸惑いを見せたが、すぐに女性は店の客を相手にするかのような笑みを浮かべた。

「あ、売りに来たんだ。ていうかあんた、ここでも商売出来るのか?」

「あ、いえ、話を聞くくらいなら」

「そうか。けどあんた、今はプライベートだろ?急いじゃいるが、おっさんが来るまで待つからよ」

すると女性の笑みが深くなると共に、少しだけリラックスしたような印象を受けた。

「大丈夫です、子供の頃からたまにお客様を相手してましたので」

「そうか」

いや、俺がちょっと気まずいだけなんだがな、まぁ、良いか。

その時にふとのれんの向こうから足音が聞こえてきて、女性がのれんに目を向けたとき、おっさんがのれんをくぐりながら姿を現した。

やっと来たか。

「おお、悪いな、ちょっと立て込んでて」

おっさんがカウンターの中に置いてある椅子に座ると、女性は静かに畳に上がってのれんの向こうに去っていった。

「ほらよ、採れたぜ?」

発掘場の男性に渡したものよりも、一回り大きな何かしらの原石をカウンターに置くと、おっさんは眼鏡を掛けながら目を細め、原石を手に取りながら職人のような眼差しで原石を凝視した。

「ほう、こりゃ立派なヒバリだな」

・・・ヒバリ?

そういや小さい方はこれより若干黒ずんでたな、違う種類だったのか。

「なぁ、コウショウってのとはどっちが高く売れるんだ?」

するとおっさんは職人の眼差しのまま、すぐさまこちらに顔を向けた。

「そらぁコウショウだ、これの半分の大きさでこれの倍の値がつく」

「ま・・・まじか」

小さい方が値打ちがあったのかよ。

「まさか、コウショウも持って来たのか?」

「ああ・・・いやぁ、スコップを曲げちまったから、その弁償代として2つ採れた内の小さい方を発掘場のおっさんにやったんだ。まさかそっちの方が高く売れるなんて知らなくてな」

「な・・・」

知らなかったとは言え、やっぱり驚くよな。

驚くように目を見開きながら、おっさんはゆっくりとヒバリという石をカウンターに置いた。

「スコップを曲げた?10年前くらいからデプスを使った合金が広く流通するようになって、発掘場のスコップにもデプス合金が使われてる。だがあれは、ヒューマノイドでもそう簡単には曲げられない代物のはずだが」

そんな硬いもんだったのか。

「そんなもん、一体どうやって曲げたんだ?」

「まぁ、あれだ、俺ぁ力には自信があんだよ」

おっさんは唸り出しながら眼鏡を外し、眼鏡をケースに戻すとすぐに考え込むように腕を組んだ。

「お前・・・まぁ良いか、それより金のことだが、数日待ってくれないか?」

「何だって?そら困るぜおっさん。俺、これの金で宿を取ろうと思ってたんだよ。それに食いもんが買えねんじゃ数日も何も待てねぇだろ」

「何だお前、丸っきり金無しか?」

「あぁ」

「なら家に泊まればいい、ヒバリでもこれだけ立派なもんなんだ、今すぐ払えるほどの金は無いからな」

「お?・・・じゃあ、これでもそれなりに値打ちがあんのか」

「まぁ、ざっと50万ショウにはなるだろう」

50万?・・・単位自体は結構なもんだが、相場が分からないから安いのか高いのか分からねぇな。

「んまぁ、じゃあロクヨンでどうだ?」

「あ?そらぁお前、少ないんじゃないか?お前1人で採ったんだ、本当なら手数料以外はお前のもんにして良いんだぜ?」

確かにどっかの会社を経由した訳じゃねぇが。

「まぁ世話になるんだからお礼としてだ。それにずっと居る訳じゃねぇから、金があり過ぎても困るっちゃ困るんだ」

するとおっさんは呆れたような笑い声を上げながら、白髪に染まった頭をゆっくりと掻き出した。

「そうかい。気前が良いな、気に入ったよ」

「じゃあちょっと、これから連れを向かい行く。1人くらい増えても良いだろ?」

「あぁ」

地面に埋められ、間接照明になった街灯に照らされた街を歩くと、街は朝とはまた違った未来都市の顔色を見せていた。

改めて見渡すと、結構読める漢字が使われてんだな・・・。

中央管理局と書かれた看板のある建物に入るが、広く見渡せるエントランスには見慣れた姿の人影は無かった。

あいつ、どこか行ったのか?・・・。

まさかあいつが忘れてるなんてことはないよな。

あ、あの受付の奴、朝からずっと居た奴か?

一応聞いてみるか。

「なぁ、白髪で金の刺繍がある着物を羽織った奴来てないか?」

鄭馬 ホウゴ(テイマ ホウゴ)(30)

NAPエヌエーピー所属。階級は少将。普段は少し気の抜けている態度や話し方だが、真剣な時は的確に指示の出せる良き班長として多方面から信頼されている。少し機械が苦手。


NAPとは、National police(ナショナル ポリス)の略称です。

ありがとうございました。

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