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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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目覚めは痛みと共に

「擬態生物って?」

「バルーラ近辺に生息する、まぁ簡単に言えば、瞬時に自分の細胞を別の形に変えるっていう特技を持った生物だ。だが知能は高くないから、だからと言って人間の脅威になる存在じゃないけどな」

姿を変えるか、たいしたことはなさそうだな。

「ああ、あとは、あそこだな、ゼビスだな」

「ちょっとタイトウ、訂正書類まだ出てないの?」

遠くのデスクで仕事をしている女性が怒ったような口調で声を発すると、タイトウの表情が一変し、すぐに慌てた様子で歩き出していった。

「すいません、今出します」

ゼビス?どんなところかな。

タイトウは何やら女性の研究員と話をした後、その女性と共に研究室を出て行ってしまった。

「ソウジンはゼビスのこと知ってる?」

「・・・え、ああゼビス、あそこは、非人道的な研究をしてると言われてるところですが、島国であまり他国との交流が無いのでよく知らないんですよ」

「そうか」

「そういえば軍人の中にゼビス人が居ますので、会う機会があったら話でも聞いてみると良いですよ」



突如体中を包むように圧迫する何かが激しく泡立ち始めると、徐々に体が軽く感じ始めると共に、体を包むような圧迫感も消えはじめた。

うっすらと目を開けても痛くないので、そのまま瞼を上げると、すぐに透明な何かに閉じ込められている状況が理解出来た。

腕を動かそうとしたとき、体中が何かに繋がれているのが分かると共に、透明な壁の向こうに何人もの人影が集まって来たのも見えた。

私は、何だ?・・・何をされてる?。

あの人達は・・・。

すると透明な壁は小さな音を立てて両側に消えていき、体中を繋いでいた何かも次々と体中から抜かれていった。

動ける・・・。

低音の小さな歓声を上げている人達の前に足を踏み出したとき、突如頭の中に瞬間的な痛みが走った。

反射的に片手で頭を押さえ、崩れ落ちた体を支えるために片膝を床に着く。

「おい、どうした?」

一瞬脳裏に浮かんだのは、恐怖心を掻き立てるような誰かの叫び声と、瞬間的な破裂音、そして何かが体を通り抜けていったような衝撃。

しかしその光景はすでに見えなくなっていて、頭の痛みも無くなっていた。

「まだ調整が不十分だったんじゃないか?」

「そんなはずはない。私の調整は完璧なんだ」

体も軽くなったので立ち上がると、話をしていた2人の男性達は安心したようにため息をついた。

「ここは、どこ?」

「おーいヴリス、話してやれ」

何となく距離感を感じる、何かを観察するような眼差しの男性達が向けた目線の先に目を向けると、颯爽とこちらの方に歩き出す1人の女性が目に入った。



トラを憑依させて肉体を変化させると、すぐに威勢のいい若者達の表情が一変すると共に、若者達は少しずつ後ずさりし始める。

「何だよこいつ、おい、シオル?」

しかし金髪の若者だけは依然として強気な眼差しをこちらに向け、しかも余裕の表れなのか微笑みすら浮かべ始めた。

「知ってるぞ、こいつ。シャーマンだ」

「シャーマン?って・・・あれだろ?クラドアより南にある、何とかっていう国の奴らしかしてないっていう、珍しい職業だろ?それが何でここに?」

シャーマン?・・・俺、別に霊媒師じゃねぇし。

あ、でもさっきのトラが幽霊に見えないこともない、か?

「先週ニュースでやってただろ、シャーマンがこの国に来るって」

「いやいや、あれってまだ全然先の話だろ」

「ああ?お前だって新作ゲームの発売日に2日前から列んでんじゃねぇかっそれと同じだろっ」

「そ、そうかぁ」

いや・・・分かんねぇが違う気がする・・・。

「けど、いくらシャーマンでも人間には違いない、俺達だって、やってやれないことはない」

シオルと呼ばれた金髪の若者の好戦的な態度と強気な笑みに、距離を取って話をしていた若者の表情から、恐怖心が抜けていくような印象を受けた。

「言っとくが俺はシャーマンってのじゃねぇよ?」

「はっそんなハッタリ、通用すると思うなっ」

そしてシオルと呼ばれた金髪の若者は地面を蹴って走り出し、両手で握りしめた鉄パイプを大きく振りかざした。



見ていると何となく落ち着くような笑みを浮かべているその人に連れられ、巨大な何かの画面のようなものの前に置かれている椅子に座らされた。

「ここはバルーラの首都セロにある生物研究所よ」

バルーラ・・・何か、聞いたことあるような気がする・・・。

ふと壁沿いに並べて建てられている巨大な円筒が目に留まると共に、その中に浮かんでいる物体に何となく目を奪われる。

「あの子達は、将来国のための礎になる子達よ」

「礎?」

「あの子達から、あの子達のようなものを沢山生み出すのよ」

さっきはこの人の笑顔に安らぎのようなもの感じたのに、今は瞳の奥に熱い何かを感じる。

「何のために?」

「単に兵隊としてじゃなく、何か特化した能力を持った特殊な兵隊を作るためよ。要はあの子達はそれらのプロトタイプね」

兵隊?・・・戦うために作られるのか・・・。

「じゃあ、私も戦うために作られたの?」

するとその人の笑顔に先程の柔らかさが甦るが、同時に何かを哀れむような眼差しを感じた。

「あなたは違うわ?あなたは特別よ」

・・・特別?・・・。



慌てて階段を駆け上がっていく若者達を見送った後に、憑依を解かずにそのまま思いっきりスコップを地面に突き刺した。

「うわ、こりゃ相当硬い土しか残ってねぇな」

・・・仕方ねぇか。

背後にゴリラを出現させ、体に憑依させて更に肉体を強化する。

トラだけでも結構軋んだしな、スコップの耐久性を考えると、この姿が限界だろう。

そして再びスコップを地面に突き刺すと、手応えを感じるほど深く食い込んだので、そのまま掘り返そうと力を入れたとき、スコップの柄はたやすく曲がり、まるで超能力で曲がったスプーンのような形になってしまった。

「くっそぉ・・・やっちまった」

こうなったら、掘り当てたもので弁償しねぇといけねぇか。

くそ、絶対何か採ってやる。

ドラゴンを背後に出現させて体に憑依させ、地面に刺さった使えないスコップを抜いた勢いでそのまま後ろに投げ捨てる。

そして地面を踏み締めながら、拳を握りしめたついでに魔力も込め、苛立ちをぶつけるように目の前の岩壁に一撃を入れた。

岩壁から地面を這うような一瞬の地響きと共に、手応えをかなり感じた拳は岩壁に深くめり込んだ。

あ、あれ・・・抜けねぇ・・・。

どうやらたまたま脆い場所に拳が入ったらしく、肘までめり込んだ腕はまるで岩壁全体に掴まれてるかのようにびくともしない。

くそ、こうなったら・・・。

全身に力を入れて魔力を溜め、充満させた魔力をすべて拳に流していく。

終わったらしばらく動けそうにねぇな・・・。

岩壁の隙間から空色に輝く光が洩れてきたときに、拳に集めた膨大な魔力を爆発させ、内側から重低音の悲鳴を鳴らす岩壁に深くめり込んだ腕を思いっきり引っ張った。

・・・抜けたっ。

その瞬間に岩壁が軋むような重低音は、岩壁が砕けて崩れ落ちる凄まじい地響きに変わり、頭上からなだれ込んできた岩石が瞬く間に視界を覆っていった。



「確かにあなたの体は戦闘用に作られたものよ?でも、その体はあなたにとっては単なる器に過ぎないわ?」

私にとって・・・私は、一体誰なんだろう。

「私は、何のために作られたの?」

するとその女性は残念そうに表情を曇らせると何やら機械を操作し始め、目の前の巨大な画面に、ある人物の画像を映し出した。

「この人に見覚えはない?」

画像の女性の佇まいからは上品さが滲み出ているが、その微笑みはたくましさを感じるほどの力強い眼差しも携えていた。

「・・・ない」

「そう・・・この人はね、このバルーラ王国の王、ベガ・グランナイト王の愛娘の、エストレージャ王女よ」

・・・王女・・・そう言われれば何となく分かるような気品のある雰囲気だ。

「王族の中じゃ珍しく活発な性格で、よくデモ隊のリーダーとして政府に抗議運動を起こしたり、時には隣国にまで抗議運動を起こしたこともあったわ、とてもまっすぐな性格だったのね」

「・・・だった?」

「ええ、ある時、隣国との紛争が起こりかけた時、彼女は身を呈して両国の間を取り持とうとしたの、だけど、威嚇で撃ったはずの隣国の銃弾が、彼女の胸を直撃したの」

ふと、先程頭を過ぎった記憶の断片が、再び脳裏に静かに浮かび上がった。

「じゃあこの人、死んじゃったの?」

「いいえ、かろうじて命は取り留めたけど、1年経った今でも意識は戻ってないのよ。それである時、王は私達にあることを依頼したわ」

「あること?」

「ええ、どんなことをしてでも、娘の笑顔を取り戻してほしいとね」

・・・笑顔・・・。

とは言え、この人と私に何か関係でもあるのだろうか。

ふとした沈黙が流れたとき、女性は虚しさを乗せたような重々しいため息をついた。

「でも、それはちょっと難しそうね」

「・・・どうして?」

「依頼を受けて私達が達した結論は、擬態生物を王女に擬態させてみてはどうかというもの。けど、野生の擬態生物に人型のものはいないから、依然から研究してた、戦闘用に特化した擬態生物を人型に改良したものを器にして、王女の脳細胞を組み込んだ人型の擬態生物を作ったのよ」

・・・王女に擬態?・・・。

「まさか、それが・・・私なの?」

「そうよ。一部ではあるけど脳の各部位の細胞をそれぞれ埋め込んで、その細胞を基に王女の脳を擬態させたから、理屈では記憶も受け継ぐはずなんだけど、何も覚えてないとなると・・・」

じゃあ、私は王女になるために作られたのかな。

しかし見るかぎり自分の体は白く、質感もとても画像にある人間の肌とは思えないものに見える。

「でもこれじゃ、人間じゃないよ」

「ああ、その姿はあくまで戦闘用のものだから、この画像を見ながら意識すれば、きっと王女の姿に擬態出来ると思うわ?」

王女の画像を見ていると、どことなく初めて見るような感覚がないと共に徐々に落ち着きを感じ始めるが、それがまた妙な違和感でもあった。

「王女の姿になっても、何も思い出せない?」

「うん・・・でもさっき、一瞬だけど頭を過ぎった光景がある」

「え、本当に?それはどんな光景?」

一瞬の戸惑いを覚えるほど、その女性はすぐさま驚きの声色で小さく声を上げながら、期待感が伝わるような微笑みを浮かべる。

「はっきりとは分からないけど、私自身が何かに貫かれたような、そんな感じだった」

「・・・なるほど、それはきっと、王女の最後の記憶ね。相当強く焼き付いたから、あなたが目覚めたときにその記憶だけ甦ったんだと思うわ?」

最後の記憶、か・・・私自身、その時に王女が何を思ったのか分からない。

王女は・・・悔しかったのかな。



「でも、運良く武器を持ってるときに出くわせるかな?」

「まぁさすがにオイラとカイルだけじゃ、捜すには人手が足りないよな。だからちょっと、隣国のティンレイドにいる知り合いに相談しようと思うんだ」

隣国か・・・。

「言葉とかちゃんと通じる?」

「大丈夫だって、この大陸のほとんどの国は同じ言葉だからさ」

陽気な笑い声を上げるテリーゴと共に山沿いに街を飛んでいくと、先端が細長く伸びた建物が多く見られる町並みから、球体の飾りが多く見られる町並みに景色が変わっていった。

「ここがティンレイドってとこ?」

「あぁ。何か魔法の研究が盛んらしいね」

「へぇ」

天使や悪魔の力と似たようなものかな。

翼を消して街に入ると、建物の造りや人々の服装、扱う道具など見るものすべてが新鮮で、まるで純粋に旅行者になったような気になった。

「お、何あの動物」

「ペガサスって言って、人や物を運搬するときに使われる動物だな」

あんなに人と馴れ合える動物がいるのか、エニグマじゃ巨大過ぎて無理だな。

何だあれ、薄い板が宙に浮いてるのに、重そうな荷物を軽々と乗せてる。

すごいな・・・あ、あれは露店だ。

やっぱり見たことない食べ物が沢山ある。

一体どんな味がするんだろうな・・・。

氷牙とシンゴの出会いのように、王女になる為に造られた擬態生物とある人との出会いは、その生物にとってもある人にとっても重要なものになります。

ありがとうございました。

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