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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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取引は引き取りへ

これまでのあらすじ

ソウスケと共に異世界に来た氷牙。情報を得ようと中央管理局に入るが、そこでソウスケは別行動を取ると言って去っていった。その後、氷牙はハラン・ウィンスターという女性に研究所へ連れられる。

検体に傷が・・・あ、あれ?

研究員の誰もがレンザイ司令官に怒鳴り声を上げたい気持ちを高ぶらせたが、銃弾が空間に生えたヒビと共に宙に留まっている状況に、研究員は勿論ウィンスター捜査官やレンザイ司令官まで声を失っていた。

あれは、何だ?・・・まるで岩石性の壁にでも当たったようだ・・・。

「ほう、これは驚いたな、防壁を張っていたとは」

銃を下ろしながらレンザイ司令官が呟くように口を開くと、局長は灰皿にタバコを擦りつけながらゆっくりと腰を上げた。

「司令官、勘弁して下さいよ。こっちにとっては大事な検体なんですよ?」

怒りを通り越したのか、局長はわりと落ち着いた声色で喋り出したが、その横顔は引き攣っていて、醸し出している嫌悪感はこちらにまで痛いほど伝わってくる。

「勿論、当てるつもりは毛頭なかった。脅しをかけようとしたんだが、アスガ局長、素人目で見てもこいつの精神状態に今だ変化は見えないようだが、何故だか分かるか?」

まるで反省の色が見えず、ましてや局長に宥めるような微笑みも向けず、自分のペースを崩さずに淡々と言葉を発するレンザイ司令官に、何故か心の奥に小さく尊敬の念が立ち込めた。

「・・・通常であれば、やはり銃声には勿論、銃を向けられただけでも反射的な行動が見られるのが当然です」

それでも一瞬の沈黙で嫌悪感を押し殺した局長はいつもの究員の顔つきに戻り、そして落ち着き払った口調で話を始めた。

「それがたとえ無機物でも、人間の生体活動においての機能を代行出来るものを有しているなら、それに精神的なものも含まれてるのが自然だからです。ですがこの場合、防壁を張っていた検体にとって、銃弾は恐れるに足らないものだという絶対的確信があったとするなら、全く動じなかったということに対して理解は出来るんじゃないでしょうか」

「余裕の表れ、ということかな?」

「そうですね」

でもどうしてレンザイ司令官は脅しなんかかけようとしたんだか、全く。

出た、やはりあれは空間の歪みじゃない。

「局長、今防壁の解析が終わりましたが」

「そうか、では聞こう」

体を半分こちらに向けた局長がデスクに腰をつけながら顔を向けてくると、レンザイ司令官とウィンスター捜査官もこちらに目を向けてきた。

「結論から言えば、あれは空気中の水分が凍結したものですね。瞬間的に形成されたものかそうじゃないかは不明ですが」

「氷の壁、か・・・」

腕を組んだ局長は呟き出すが、すぐに言葉に詰まったように黙り込むと、次第に研究室も静寂に包まれていった。

まるで魔術みたいだけど、そんなこと言って片付けたらまた局長に説教されるかな。

「まるで魔術だな」

再び口を開いた局長に、その研究室の誰もが耳を疑うような表情で局長に目を向けた。

「え、局長?」

こちらに顔を向けた局長は特に取り乱す様子はないが、先程の研究者の顔つきではなくなっていたことは確かだった。

「最初に聞いただろ、あれは別次元を越えて来た。今の我々の力じゃ、あれを100%解析することは難しいだろう。それに研究者なら、分からないという事実も客観的に受け入れなければならない」

「そう、ですか。でしたら、ティンレイドの魔法学者に調べて貰ったらどうでしょう」

「・・・そうだな、あそこは魔術的なものに関しての知識は世界でもトップクラスだからな」



取引の話はどうなったんだ?

この偉い人が来たら話が進むって言ったのに。

「ねぇ、取引は?」

局長とソウジンがレンザイ司令官の方に顔を向けると、レンザイ司令官はハランと顔を見合わせる。

「では本題に入ろうか」

やっとか・・・でも確かに氷の防壁に驚くのは不思議じゃないか・・・。

「アスガ局長、我々は極力軍事機密漏洩は防ぎたい。だが、こいつの研究が国のためになるというなら話は別だが、どうかな?」

局長がソウジンに顔を向けると、まるでソウジンは何かを理解したかのように、何も言わずに気を落としたような表情を局長に返した。

その数秒間、2人の間に言葉は無いが、局長が小さく頷くとソウジンも黙って頷き返し、確実に2人はアイコンタクトだけで意思の疎通を行った。

「正直に言いますと、今段階でその検体の研究と国の兵器開発に関係性は見出だせていません。単なる研究者にとっての個人的利益というところです」

「それならこの取引は国の利益には繋がらないな」

このままだと、交渉決裂だな・・・どうしよう。

「研究材料を手放すことになるが、納得して貰えるかな?アスガ局長」

「はい、やむを得ないことと承知してます」

国の利益か・・・。

「では、この話は」

「あのさ、国の利益に繋がれば良いんでしょ?だったら僕を雇ってよ。兵器としてなら役に立つと思うよ?」

その場に沈黙が流れるが、すぐにレンザイ司令官が嘲笑うかのような笑い声を小さく漏らした。

「雇うだと?笑わせるな、国は貴様のような得体の知れないものを雇わなければならないほど弱ってはいない」

「でもどっかか独立するみたいな話があるみたいだし、対抗する新兵器が開発されるまで僕を兵器として置いておくのもアリなんじゃないかな」

するとレンザイ司令官は先程の冷たい眼差しを甦えらせ、何かを思い巡らすように目線を逸らした。

「ホンゴウラか・・・確かに新兵器には警戒が必要だが、独立の話はまだ浮き上がり始めたに過ぎないものだ。それにこの研究所がすぐに対抗する兵器を開発する、外部からの手助けは必要無い。そうだろ?アスガ局長」

レンザイ司令官は自信の伺えるような眼差しで、半ば強制的に共感を促すような雰囲気を局長に向ける。

しかし局長はレンザイ司令官のそんな思惑を知った上で、敢えてそれを拒否するように不敵な笑みを返した。

「・・・すいませんがね司令官、兵器開発ってのはそんなすぐ出来るものじゃないんですよ。研究所としては、新兵器開発まで一時的に代用する兵器があった方が有り難いですけど」

「・・・そこまで言うなら、こいつが兵器として役に立つことを裏付けるデータがもうすでにあるということか?」

すると局長はまるで痛いところを突かれたかのように目線を逸らし、小さく眉間にシワを寄せた。

「データは・・・ありません」

「何だ、話にならないじゃないか」

「ですが、これも確証はありませんが、一国の軍隊を蹴散らせる力を持つと豪語する検体に、嘘をつくときの僅かな表情の変化や行動の表れが全く見られないんです。私の見立てでは、あながちでたらめではないという可能性が非常に高いと判断出来ます」

表情を引き締めたレンザイ司令官が局長に顔を向けると同時に、レンザイ司令官から少しずつ重たい空気が流れ始めた。

「一国の軍隊を蹴散らせる、だと?・・・アスガ局長、まさかそんな話を信じると言うのか?」

「私は客観的にそう判断したまでです」

「まぁ、アスガ局長がそう言うのであれば、私にはそれを簡単に否定することは出来ないが」

この司令官とあの局長って、だいぶ歳が離れてるように見えるけど、司令官は局長を信頼してるのかな。

「じゃあ、信じてくれるの?」

「貴様を信じる訳ではない。アスガ局長、では新兵器開発までの期間のみだ、こいつを、兵器としてこの研究所で管理することを許可しよう。無論、その間は研究所がこいつを研究材料にしよう自由だ」

「そうですか、いやぁ助かりますよ、ありがとうございます」

研究室に安堵感が漂い始めると、その空気がこちらにも伝染してかハランも少し表情を緩ませ、落ち着きが見られるようになった。

「そして貴様は、ホンゴウラの反乱の際に研究所の兵器として国が使用することになる」

「それは良いけど、僕が情報を貰えないと取引にならないでしょ?」

「それは、貴様の働き次第で検討する」

何だそれ・・・検討ってことは考えるってことだよな・・・。

渡すって決めた訳じゃないのか。

「不服なら断っても良い。先程も言ったが、ホンゴウラ独立の話はまだ不確定だ、それにそもそも、ホンゴウラへの対応策が無いなどと言った覚えはない」

おっと、立場が逆転したか・・・でもまぁ良いか、話はまとまったし。

「いや、じゃあ取引は成立ってことで」



質屋のおっさんが言ってた鉱山ってのはこれだな。

ほんとすげぇなシーシーって、空から見た山の形が鮮明に映し出されてる。

こりゃ人工衛星の画像解析力が相当ってことだな。

鉱山の麓には括られた入口と発掘場の看板があるが、文字が霞むほどに錆びていて、塀の向こうに建てられた古びた小屋のような受付台がまたその寂しげな情景を物語っていた。

まぁ・・・逆に客が居ないなら独占出来るか。

カウンター越しには、小さなテレビを見ながら小さな扇風機の風に当てられていて、いかにも怠そうに受付を構えている中年の男性が座っていた。

「まさか、入場料とか必要か?」

こちらに顔を向けた中年男性は、やる気の伝わらない眼差しのままある方に目を向けた。

「あっちの良く採れる方は必要だが、どうする?」

「無料で行けるところで頼むよ。それと、道具は金かかるのか?」

「道具つってもスコップ1本だがな、無料発掘場に行くならスコップも無料だ。そっちに立て掛けてあるやつを使ってくれ」

「そうか、悪いな」

中年男性が目で差した方にはまた塀で括られた入口があるが、それとは対照的な、何の舗装も無い緩やかなカーブを描いた下り坂に向かって歩き出す。

そして辿り着いた場所は、もうすでに掘れる所など見当たらないかと思うほどの巨大な穴が発掘跡として広がっていた。

・・・どうりで無料な訳だ・・・。

大穴の淵に立って辺りを見渡すと、穴の底に何人かの人影が見えた。

でも他に客は居るみてぇだな。

骨組みだけ組まれたかのような鉄製の階段を降り、とりあえず1番下まで降りてみる。

さてと、どっから掘ってやろうか・・・。

「おい」

1人の青年が強気な声色で声をかけてくると、周りにいる若者達も皆こちらに目を向け始める。

こいつら・・・恐らくつるんでるな。

「あ?」

「ここは俺らの縄張りなんだよ、勝手に入ってくんな」

すると周りで各々佇んでいた若者達がこちらの方に集まり始める。

何だこいつら、発掘に来たような雰囲気じゃねぇな、縄張りって・・・まさかここにたむろってんのか?

「んなこと知らねぇよ。こっちは金になるもんを掘りに来ただけだ」

「だったらオレ達にも取り分よこせよ、そしたらここで掘ること許可してやるよ」

金に染めた短髪で、鉄パイプを肩に乗せながら口を開いた男性は、一際強い殺気をこちらに向けてきた。

中には女も居るのか・・・めんどくせぇな。



・・・音が聞こえる・・・。

耳全体を圧迫するような感覚の中にある、何かが泡立つような音と、誰かと誰かの話し声・・・。

・・・音が聞こえる・・・。

体の内側から全身に伝う、殻を破ろうとするかのような鼓動。

ここがどこかも、私が誰かも分からない。

けど、最近になって少しずつ湧いてきた、本能に近いところにある思い。

ここから、出たい。



「ホンゴウラの技術を政府経由で仕入れてる他国は、シャウンロッドとタイト、そしてティンレイドだ。ホンゴウラは他国との友好関係を結ぶパイプ役としても働いてたからな、もし独立が実現すると、そこらへんの関係も複雑になるだろうな」

「そうか」

別の研究室に連れられたけど、あまり派手は機械とか使わないみたいだな。

「じゃあ、人間の姿に戻って下さい」

ソウジンがキーボードの無いパソコンを画面に触れて操作すると、天井にあるセンサーがこちらに赤い光を当てる。

「他に世界情勢で聞きたいことはあるか?」

書類に目を通しながら、タイトウは何となく優しさを感じるような声色で話している。

「他に世界で注目されてる武器とかあるの?」

「お前、そんなに兵器に興味があるのかぁ?」

ハオンジュは三国にはないプラズマみたいな電気を操ってた。

もし赤い宝石が色々な力を取り込めるなら、きっと世界でも注目されるような強い力を狙うと思うし、それが分かればどの国に堕混が出るか分かるかも知れない。

「まあね」

「そうだなぁ、このクラドア大陸の西にあるバルーラやコテンは生物学の研究が盛んで、擬態生物を基に作られた生物兵器は最近になって注目され始めたな」

明日賀 レソウ(アスガ レソウ)(39)

技術開発研究社、第一開発局、局長。兵器開発担当チームのリーダーを兼任している。常にタバコを吸っているため、女性職員からは避けられることが多い。若くして局長を任されるだけの実績があり、政府からも信頼を寄せている。


ありがとうございました。

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