ドリームズ・カム・トゥルー2
これまでのあらすじ
大会が終わった後、オーナーの依頼でとある生物を調査する氷牙達。その時に発掘した鉱石を使い、組織のブレインとなったユウジ達はとある実験を始める。
精神状態に反応か。
野良猫もカラスも、人間を追い払いたいと思ったから肉体が巨大化したってことかな。
「それで実験の内容は、鉱石を使って俺達の能力を強化出来るのか、です」
鉱石を調べたのは勿論おじさんだよな。
そして助言をしたのもおじさんだ。
力を手にして、それを強化出来る物が見つかるなんてそんな都合が良すぎるもの、やっぱり最初からおじさんが関わってるんじゃないかな。
「実験はとりあえず3名にします。実験台になってくれる人は会議室に来て下さい。以上です」
なだれ込むかと思ったけど、案外全然行かないみたいだな。
「あれ?シンジは行かないの?」
席を離れないシンジに驚きの表情を向けたユウコをよそに、シンジはまるで実験に関心が無いかのような顔をユウコに向ける。
「あ、オレ裏技とか好きじゃないから」
分かるような分からないような答えだ。
「ふーん・・・氷牙も行かないの?」
「そうだね」
ふと舞台を見ると、ちょうど会議室に向かう2人の男性が見えた。
あれは確か、ショウタとセイシロウだ。
あと席は1つだな。
あら、やっと誰か来たみたいだわ。
わりと人気が無いのね。
「やあ、どうも」
扉が開くと同時に立ち上がったユウジが2人を出迎える。
「最初に言うけど、保証は無いよ。実験だからね」
「分かってるよ」
得体の知れない実験を前にしても、シバタセイシロウは特に不安がることもなく冷静な表情で頷いた。
「1つ聞いていい?」
キヌガワショウタが口を開くと、妙に緊張感が漂うこの空気でも、相変わらず呑気さのある顔でユウジはキヌガワショウタに顔を向けた。
「うんいいよ」
「根拠的なものはあるの?」
「そうだな、俺らの力の原動力はイマジネーションに近いものがあると思うんだ。念じれば動く、みたいにね。それは分かる?」
「あぁ」
「あの鉱物が埋まった付近の野生動物が、人間を追い払いたいと願ったから、巨大化して特殊な生物になった、と考えるなら、あの鉱物を使って念じれば肉体的にじゃなく、精神的にも何らかの作用が働くと思ったんだ」
ほんとに夢みたいだけど、どうしてユウジはそんな風に考えたのかしら。
オーナーに何かアドバイスでも貰ったのかしら。
「分かった気がする」
するとキヌガワショウタは眉間に小さくシワを寄せながら頷いた。
「それは良かった、ちょっと待ってて今持ってくるから」
しかしユウジはそんなキヌガワショウタを気にも留めずに奥の扉へと入っていくと、間もなくして戻ってきたユウジはすぐに親指くらいの大きさの鉱石を2人に差し出した。
「こんなに小さいのか」
鉱石を手に持ったシバタセイシロウは、神妙な面持ちでまじまじと鉱石を見つめながら呟く。
かわいいわね。
アクセサリーにしたら良いかも。
「いや、砕いた」
ユウジが平然と応えると、2人は揃って驚いたような表情でユウジを見る。
「まぁ確かに、あれじゃ持ち運べないものね」
「節約しないとね」
マナミが微笑みながら一言を加えると、2人は各々理解したかのように小さく頷き始めた。
「よく分かんないけど、つまりこれを使って、その力の原動力ってのに自分の意思で手を加えられるってこと?」
「解釈は間違ってないと思うよ」
「俺、今炎を操れるけど、新しく風も操りたいと願ったらそうなるのか?」
するとそれを聞いたユウジは何故か少し嬉しそうにニヤつき出した。
「・・・面白いね、やってみてよ。実験ってのは想像したことを実際にやってみるってことだからさ」
そんなこと出来たら、ただの夢が叶う石じゃないのよ。
「セイシロウはどうする?」
「オレは、今持ってる力を強くするよ」
「分かった。じゃあここじゃ狭いから、闘技場に行こうか」
ユウジ達が会議室を出て行くと、すぐにマナミが笑顔を浮かべながら顔を寄せてきた。
「ミサちゃん、見に行こうよ、モニター」
「そうね。アキは?」
「僕はまだ誰か来るかも知れないから、ここにいるよ」
「そうね、分かったわ」
会議室を出るとユウジ達が入った番号のモニターの下には人が集まっていて、会場全体から注目を浴びていた。
「それじゃ用意出来たかな?」
モニターからユウジの声が聞こえるところまで近づく。
「じゃあ・・・どうぞ」
しかしユウジがそう言うと闘技場と会場、その両方共に沈黙がキレイに流れていった。
「・・・え?」
「どうすれば?」
「多分ただ念じればいいと思うけど」
すぐにユウジが真顔でそう応えると2人は目をつぶり念じ始める。
すると2人の体がほんのりと光を帯びていき、期待を膨らませる少しの沈黙の後、光が消えると2人はゆっくりと目を開けた。
「なんか変わった感じする?」
ユウジが待ちきれず口を開くが、2人は黙って自分の体を見回している。
「・・・いや、これと言って・・・」
シバタセイシロウと顔を合わせたキヌガワショウタが首を傾げながら応えると、ユウジも腕を組みながら2人と同じように期待感を寄せていた表情を落ち着かせていく。
「んー、失敗したかどうかも分からないね」
「精神的に働いたんなら、肉体的には変わらないんじゃないかな?」
「そうかもね。じゃあ、力を使ってみてよ」
シバタセイシロウに応えながらユウジはすぐに2人から少し離れ始める。
「そうだな」
キヌガワショウタが手を前に出すと、間もなくしてキヌガワショウタの手からユウジに向かって風が吹き出した。
「んーいい風だ」
「すげぇ、出たっ、おおっ」
キヌガワショウタが喜びながら驚きの声を上げると、モニターに注目してる人達にも驚きのざわめきが小さく沸き上がった。
「俺が思うに、セイシロウの場合は強制的に覚醒したと考えるのが妥当だね」
「なるほどな」
シバタセイシロウが頷くと、ユウジがホールに向かい始めた後も2人は闘技場に残り、各々力を試し始めた。
ショウタのようになれば、良心が力に負ける人がより増えるかもな。
「ショウタ君、風も出せるようになったんだね」
モニターからテーブルに目線を戻したユウコは妙に落ち着いた表情を浮かべていて、その顔からはどことなく若干の寂しさのようなものが伺えた。
「実験、成功だね、私もやろうかな」
なるほど、ヒカルコのように実際に見てから決めるために、皆動かなかったのか。
そりゃすぐに信じられる訳ないから、当たり前か。
すると最後の実験台の席を求めて会議室に数人が向かっていった。
「あんたは行かなくていいのか?」
やはり席を立たないシンジは、少し距離感のある雰囲気を出しながらヒカルコに話し掛ける。
「実験が成功したってことはこれから正式に使えるってことだから、焦ることはないよ」
ヒカルコはいつだって冷静に考えてるんだな。
「そうか」
「戻るわよ?マナミ」
「うん」
舞台に戻る頃には、すでに何人も会議室の前に集まっていた。
「皆さん、どうかしたの?」
「あと1人実験出来んだろ?」
「出来るけど、これからみんなも使えるようになるかも知れないから、それまで待てないかしら?」
「そうかっああっ分かった」
そう言って1人が舞台から降りると、他の人も続いて舞台を降りて行った。
「成功したみたいだね」
会議室に入るとすぐに口を開いたアキからも、どことなく嬉しさが伝わってきた。
「そうみたいね」
「2つも力を使えるなんてすごいよね」
「場合によっては、覚醒よりも強くなるかも知れないね」
マナミに頷いて見せながら、アキは再び冷静さを感じさせる表情を浮かべ、壁越しにホールを見つめた。
「ミサちゃんも使うんでしょ?」
「まだ分からないわ」
たまたま2人が成功しただけかも知れないし。
また実験台として使って、データをとらないといけないわ。
「アキ、力を強化するのは差ほど問題は無いかも知れないけど、新しい力を得ることに関して、まだ実験は必要じゃないかしら?」
「そうだね、僕もそう思うよ。きっと炎と風だから成功したんじゃないかと考えていたんだ」
「なるほどぉ」
マナミが笑顔で相槌を打ちながらこちらとアキに目線を向けていく。
「相性があるってことよね?」
「そうなるね」
変わり種の力は相性を考えるのが大変ね。
「例えば、ミサさんの糸を操る力なら、炎よりも雷かな」
おもむろに目線を上げたアキはそう言いながら照れるように口元を緩ませる。
「あら、そうね、糸は燃えちゃうけど、帯電させたり電気を通したり、色々使えるかも知れないわね」
「マナが使えば攻撃も支援も出来る女って訳だね」
「あらいいじゃない」
「盛り上がってるみたいだね」
声がした方に振り向くと、ユウジがちょうど会議室に入って来ていた。
「2人は?」
「なんかあのまま闘技場で力を試すって」
「そっか、話し合ったけど、2回目の実験をやろうよ。力の相性についてのデータが必要だよ」
どことなく安心したような表情で椅子に腰掛けるユウジに、アキは早速話を切り出した。
「そうかい?そうだね、データをとるのは必要だよね」
「ユウジ君は使わないの?」
ふと考え込むような表情を見せるユウジにマナミが問いかけると、ユウジはゆっくりとマナミに顔を向けながら、照れ臭そうに微笑みを浮かべる。
「俺はまだいいかな。そういえば今何時かな?」
「9時前ね」
あら、ユウジも腕時計してないわね。
「ならもう1回実験しようか」
「またやるの?」
そう言ってユウジがアキと顔を合わせたときにすぐにマナミが問いかける。
「あぁ、データもとれるし仲間も強くなるし、一石二鳥だよ」
マナミに応えたユウジはまるでやり甲斐に駆り立てられるように、そそくさと会議室を出て行った。
「皆さん、ちょっといいですか」
ユウジだ。
まだ何かあるのかな。
「実験は無事に成功したみたいです。ショウタは2つの力を持つ事になった訳ですが、また新しい疑問が生まれたので再度実験をやります」
すると風が止むように静寂が訪れると共に、会場の目が一気にユウジを注目した。
「今持ってる力とは別に、新しい力を望む人を優先して実験をやります。人数は5名にします。ちょっとした説明があるので実験台になってくれる人は会議室まで来て下さい」
するとすぐに何人かが舞台に向かって駆け出して行った。
さっきの実験を見たから、信用出来ると思ったんだな。
別の新しい力か・・・。
覚醒することも、別の力を持てることも、おじさんは知ってたのかな。
「そういえばユウコは行かないの?」
「うーん、でもなぁ、私あんまり戦うの好きじゃないしなぁ」
でも悩んでるってことは、鉱石を使いたい気持ちは少なからずあるってことだよな。
「支援型になれば?」
「あ、それ良いかも。あれ?ヒカルコまだ行かないの?」
そう言ってユウコは顔を少し近づけるが、ヒカルコは依然として落ち着いた微笑みを見せている。
「今のって、単にデータが欲しいだけでしょ。また今度でいいよ」
「そっか」
データ集めか。
何にしろ、たった1回で実験が終わる訳無いか。
「シンジ、強くなる人が増えたら修業の相手も増えるかもね」
「あぁそうかもな。まぁ氷牙も取り残されないようにな」
「そうだね」
余裕と不安が入り混じった複雑な表情を見せながら応えたシンジはすぐに目線をあるモニターの方へ戻すと、そのモニターでは未だにショウタとセイシロウが自分の力を試していた。
ショウタが手に炎を燃え上がらせながら風を出すと、炎は風に乗り勢いよく前面に噴射されていく。
もしかしたら、相性が良いと覚醒よりも強くなるかも知れないな。
「ショウタ君すごいね。風が炎を強くしてる」
するとユウコも再びショウタ達の様子を見始めた。
「シンジだって、一点突破だけじゃ取り残されるかもよ?」
ユウコと同じくモニターを眺めていたヒカルコは、横目でシンジを見ながらそう言って小さくニヤつき出す。
「最後の最後で一点を貫く者が勝つんだよ」
しかしシンジはヒカルコと張り合うように、同じようにニヤついた表情で言葉を返している。
シンジはストイックなのかな。
ショウタとセイシロウが闘技場から出て来たところで、ユウジが5人を連れて闘技場に入って行き、色々と指示を出しながら実験を始めると、モニターで見える限り5人の内で何人かは1回での成功はしなかった。
たまにあらすじ書きます、忘れた頃に。笑
ありがとうございました。