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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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復讐を知らない天使

異世界を巡る、か。

確かに今の俺じゃこいつには敵わない。

だが、こいつの言う通り、俺の力にはまだ伸び代がある。

「ふぅ・・・もう俺は戦えないな、氷牙、付き合わせて悪かったな」

「良いよ。戦いは趣味だし」

「じゃ組織に戻るか」

2人が歩き出したときにふと信悟がこちらに顔を向けてくる。

「おい、お前はどうすんだ?」

「なぁ、お前、また異世界行くのか?」

「あぁ・・・行くけど」

「それ、俺もついて行って良いか?」

「はぁ?」

信悟はすぐに驚きの声を上げるが、氷狼はまるで表情を変えずにこちらに目を向けている。

「お前何言ってんだよ、ていうか、それより何しに行くんだ?」

「まぁ・・・何つーか、やっぱまだ強くなりてぇしなぁ。それに、まぁ足手まといにならない自信ならあるぜ?」

「やめといた方が良いぜ?氷牙。こいつ気まぐれだからな」

信悟に目を向け、再びこちらに目を向けてくる氷狼は依然として表情を変えない。

何だこいつ、全然考えが読めねぇ。

「確かに戦力としては足手まといにならないかも知れないね」

かも知れない、だと?・・・。

「ちょっと待てよ、今の俺なら、ダコンとも渡り合える自信があるって言ってんだ。例え2人だろうと3人だろうとだ」

「ダコンの中には、ダコンなんかとは比べものにならないほどに強力になったダコンがいるんだ。例えるなら、最後の切り札を出す前の姿の僕が相手にならないほどのね」

何・・・だって?

こいつが・・・相手にならない、だと?。

「まじかよ。そうか、だからさっき、この世界じゃ俺が1番って言ったのか。おいソウスケ、やめとけよ、お前じゃ無理だ」

こいつでも手こずる相手か・・・。

もちろん恐怖は感じる。

だが、それと同じくらい楽しみなのも確かだ。

「言っただろ?俺にはまだ伸び代があんだ。鉱石はまだ使ってないし、それに次はもっと強い生物と契約してやる」

すると表情こそ変わらないものの、氷狼は感心するかのように小さく頷き出した。

「まぁ、戦力は良いとして、異世界に行ったらまず宿は無いし食糧も無いし、それに仕事もなければお金も無いし人脈だって何も無いよ?」

こいつ、結構現実的に考えてるんだな。

「それは何とかなるだろ。俺、何のコネも無しにイギリスに留学して、その後も何ヶ月か住んでたし、それに俺は異世界経験者だぜ?」

「そうか」

「行きたいなら勝手に行けよ。それより立ち話はそれくらいにして、組織に戻るぞ?」

信悟が先程よりも少し軽くなった足取りで歩き出すと、すぐに氷狼も後について歩き出した。

仕方ねぇか、とりあえず戻るとするか。

「そういや1つ思い出したんだが、俺が会った3人組のダコンの他に、別に誰かいるような話をしてたな・・・だが、指揮官っていうのとは、少し違う雰囲気がしたんだよなぁ」



明日になれば、結果が出るだろうか・・・。

「最近、出現率高くないですか?統率力も上がってるみたいですし。そのうち、言葉とか喋ったりしそうです」

「えぇ?それはどうかなぁ」

結果次第じゃ、色々な作戦も考えられるようになるかな。

「でもアルマーナ大尉、新死神界の死神から聞いた話ですと、武器も使うようになったらしいです」

「えぇっ?ほんとに?そういえばクレラ、新死神界に知り合いの死神がいるんだったね」

「あ、はい。新死神界って、死神界と三国よりも北にあるじゃないですか、だからその分、北からやって来るイビルの情報も1番早く得られるんですよ、きっと」

天王様への報告が済んで宿舎に戻る頃には、窓から見上げる空はすっかり赤く焼けていた。

まだバーに行くには早いかな。

階段を上がっているときに服の中から小さな振動を感じたので、少し急ぎ足で階段を上がり、自分の部屋に入ってから通信筒を取り出した。

「こちらカイル」

「あ、カイル?あたし、クラスタシア」

「あ、うん、どうかした?もしかしてもう結果が出たの?」

「いや、ちょっと別の用で、何かさ、ロードのところに変な奴が接触して来たみたいなんだ」

接触?・・・。

「えっどんな人?」

でもロードは留守番役だし、誰か来たならロードが対応するしかないよな。

「まぁそのことで、一旦みんな集めるって、ロードから直接話したいみたい」

「・・・分かった。いつ頃?」

「今テリーゴの方がちょっと忙しいみたいだから、1時間後で」

「分かった」

通信筒をしまいながら何となくシードの袋がある棚を開ける。

あれ・・・シエッドを切らしてたか。

厨房から貰って来よう。

そして廊下への扉を開けたとき、目の前にはアルマーナ大尉が立っていた。

「あ」

まさか・・・。

するとすぐに大尉は申し訳なさそうに眉をすくめて上目遣いになる。

「ごめん・・・聞こえちゃった」

そんな・・・。

「・・・あの・・・」

まずいな、何て言えば・・・。

「あの・・・」

どうしよう・・・。

「とりあえず、落ち着いて話そうよ」

「・・・はい」

逃げるか・・・いや、そしたらもう戻ってこれなくなる・・・。

大尉を部屋に招き入れ、テーブルを挟んだ形で向かい合う椅子に共に腰を掛けた。

でも、戻ってこれなくても問題は・・・いや、まだ調査が終わってないか。

「責めるつもりはないの。ただ、隊長としてちょっと見過ごせないから。カイル、たまに急に姿を消して何かこそこそしてるみたいだし。三国に関わることなら・・・」

「いえ、三国には関係ありませんよ。実は、堕混の仲間と連絡を取ってるんです」

驚きの表情を浮かべたものの、大尉はすぐに緊張感を和らげ、安心させるような微笑みへとその表情を変える。

「その、カイルさえ良ければ、聞かせてくれる?」

まぁ、調査が終わったら、また異世界に行くし、良いかな・・・。

「正気に戻ってからも、しばらく堕混の仲間達と侵略や破壊活動をしてたんです。でもある日、仲間の間である計画を立てました。まず、異世界中に散らばった堕混は、堕混を作った人達の仲間と共に行動してるんです。それである日、堕混の仲間達で、共に行動してる堕混を作った人の仲間を、急襲したんです」

小さく唸り出したものの、大尉はすぐに微笑みを見せ、理解したように頷いた。

「作った人達の方が地位が上なら、それって、反乱ってことだよね?」

「はい。その時、僕の他に堕混が2人居たんですけど、この世界の住人じゃない2人も、僕みたいに強制的に堕混にされたので、きっと反発心があったんだと思います」

「そっかぁ、でもどうして今も連絡を?」

「実は、堕混は、ある異世界のある国の研究で作られたものなんです。自由を手に入れたついでに、その国に復讐するために、僕達は独自に更に強力な力を作ろうとしてるんです。そして僕は、研究のためにこの世界に来て、イビルのデータを取ってる、という訳です」

小さく頷いた後に大尉はため息をつくと、少し寂しさが伺える眼差しで目線を上げてきた。

「ありがとう話してくれて。事情は分かったけど、やっぱり復讐なんて、ダメだよ」

「もちろん僕自身には復讐心はありません。ですが、同じ境遇で苦しんだ仲間のために、一緒に戦いたいんです。僕1人だけ、元の世界で元の生活に戻ることは出来ません」

「・・・そっかぁ。でも、自分のこともちゃんと考えなきゃダメだよ?まだ若いんだし、カイルも、ちゃんと生き残って、ちゃんと帰ってきてね」

「・・・はい」



「すぐに行くのか?異世界」

「どうかな、たいした用が無ければ行くけど」

「そうか、じゃあ、俺ちょっと支度すっから、30分くらい経ったら組織に来てくれないか?用があったら組織にメールしてくれりゃ良いから」

「あぁ」

ソウスケ達の組織からおじさんの組織に戻り、ふとホールから外を眺めると、綺麗に焼けていた空はすでに少しの薄暗さを纏っていた。

もうすぐ夜か、ソウスケは普通の人間だしな、今行ったらすぐに宿探ししなきゃいけないし、情報も得られにくそうだ。

「おい氷牙ぁ」

ノブがこちらに手を挙げながら呼び掛けてきたので、ノブ達が居るテーブルに向かうと、ふとシンジの雰囲気の暗さが何となく気にかかった。

「なぁお前、何であんなに強ぇんだ?ってずっとシンジが悩んでんだよ」

「ちょっと、オレが言い出しっぺみたいに言わないでよ、ノブさんだってそう思ってんじゃん」

「いやまぁ、な」

ノブも何となく落ち着いた雰囲気で応えると、シンジは喋り出すのを待つかのようにゆっくりとこちらに顔を向けてきた。

シンジが僕に勝てない理由が知りたいのか、それとも単にどうしてここまでの力があるのが知りたいのか・・・どっちかな。

「僕は、鉱石で手に入れた力と元からある力を融合させたから、その分より強力な力を得られたんじゃないかな?例えば、アイリが元から持ってた風の力は氷の力と上手く混ざって、相乗効果みたいな感じで全く新しい力に生まれ変わった。だけどシンジが新しく手に入れた力は、あくまで補助的なもので、拳そのものを強くする訳じゃない。多分そこらへんが大きな差になるんじゃないかな」

「確かにそうだなぁ。俺も、逃げ足を強化することばっか考えてたからな、肝心な攻撃力は全く変わんねぇ。なるほどなぁ」

ノブが感心するように呟いていると、シンジは神妙な面持ちで目線を落としていく。

「いやでもさぁ、オレが気になるのは、元から持ってる力だって、氷牙は異常なほど強いじゃん」

やっぱりそっちか。

「でも、今となっちゃもうたいしたことないと思うよ?今さっき、伊豆半島にある組織に行ってたんだけど、極点氷牙の上の、氷王牙と渡り合える能力者が2人も居たんだ。さすがに僕もちょっと驚いたね」

「ま、まじで?ヒョウオウガか・・・」

「ほらヒロヤ、第二覚醒した力を2つ持ってるっていう、例のノブナガだよ」

「ああ、そうか・・・そいつ、そんなに強かったのか。じゃあ、あともう1人は?」

「ノブナガを名乗ってた能力者の知り合いなんだけど、その2人、僕みたいに異世界に行って、その異世界にしかない力と元から持ってる力を融合させてたんだ」

小さく眉間にシワを寄せ、理解に苦しむようにノブが唸り出すと、皆も考え込むように黙り、その場につかの間の沈黙が流れる。

「異世界・・・まぁ、オーナーに頼めば不可能じゃないんだろうが、その世界にしかない力を手に入れただけで、そんなに変わるもんなのか?」

「んー、何て言うか、鉱石で新しく力を手に入れるときって、ただ願い事するだけでしょ?でも人間の想像力はやっぱりこう、ワンパターンっていうか、でも異世界には人間の想像を超えた、オリジナリティーがあって且つ完成された力ってのがあるんだ。単に風を操れるようにとかじゃなくて、翼も生えて鎧も纏って剣も出せて魔法みたいな攻撃も出来る。そういうオールマイティなものの方が、やっぱり強いってことなんじゃないかな」

「・・・ほ、ほう・・・なるほどなぁ。そうだな、結局はそういう方が良いのかもな」

ノブが納得したように頷いていると、アイリとヒロヤにも落ち着きが見られてきたが、シンジだけは依然として神妙な面持ちでうつむいている。

「異世界か・・・オレも行こうかな」

「おいおいシンジ、確かにお前、鉱石まだ1つしか使ってねぇけどなぁ・・・異世界だぞ?ふらっと行って帰って来れる保証は無ぇだろぉ」

ノブはうなだれるような口調で言葉を返すが、シンジの眼差しにはむしろ力強さを宿していく。

「でもオレ、最近チームで足手まといになってるし・・・」

「いやぁ・・・あ、お前、一点突破はどうしたんだ?拳以外に武器は要らないんじゃないのか?」

「んー・・・」

腕を組んで唸り出したシンジだが、良いアイデアが浮かばなかったのかそのまま黙り込んでしまった。

・・・そういえばそろそろソウスケのところに行かないとな。

「よぉ、来たか」

椅子に座って待っていたソウスケの前には、肩に掛けるタイプの小さめなバッグがテーブルに置かれていた。

「支度って言っても、そんなに大事じゃないみたいだね」

その方が動きやすいって本人も分かってるか。

ソウスケの漢字は、後で自己紹介するシーンがあるので、それまで特例としてカタカナです。まぁ主人公ですから、特例ですよ。笑

ありがとうございました。


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