ドリームズ・カム・トゥルー
「な、なぁ、先に氷牙相手に修業させてくれないかな?」
シンジがテンジに向かって振り返ると、テンジはまるでシンジの醸し出す雰囲気に一瞬だけ尻込みような表情をかいま見せた。
「ああ、まぁ良いけど」
左腕を機械で覆ったテンジと距離を取って離れ、氷牙の鎧を身に纏う。
しばらくしてテンジが戦いを止めると先に闘技場を出て行ったので、観戦がてらに休憩していたシンジと再び向かい合った。
闘技場を出た頃にはすっかり日も落ちていて、ホールに戻ってくるなりシンジは壁になだれ込むように座り込んだ。
「お前・・・はぁ、はぁ・・・人間じゃないだろ?・・・はぁ」
「スタミナは結構あるみたい」
「みたい、じゃねぇ・・・」
すると心配そうな表情のマナミがシンジに駆け寄ってくる。
「大丈夫?水だよ」
人が多いな。
学校とかから帰って来たのかな。
「氷牙」
声がした方に振り返ると、そこにはカナコが居た。
「リーダー達帰って来てるよ?」
「そうか、ヒロヤは?」
「先に行ってるよ」
「そうか、マナミ、会議室に行こう」
「え?・・・あ、うん」
会議室に入るとマナミ以外の3人は何故か各々呆れたような表情でこちらに目を向けていた。
「氷牙、あんまり無理しちゃダメよ」
「何時間も戦ってたなんて、シンジもシンジだけど氷牙も氷牙だよね」
ミサが首を小さく振りながら微笑むと、ユウジもミサに続いて呆れ口調で口を開く。
「そうか」
「まぁ、それじゃまず、これ、説明してよ」
そんな中少し真面目な顔になったユウジはテーブルの真ん中にある得体の知れない塊にそう言って指を差した。
「これは多分、調査した生物に関係してると思って持って来たんだ」
「あら、関係ってどんな?」
「これ、例の生物の縄張りの地面の中に埋まってたんだ」
「どういうこと?」
珍しくユウジも冷静に話を聞いてるみたいだな。
「足跡や爪痕は、これのせいで巨大化した野良猫のものだと思うんだ」
「巨大化?」
ミサとユウジが声を揃えて顔を見合わせたりすると、アキは1人考え込むように目線を落とした。
「その、調査した生物とこれが関係してるっていう根拠は?」
アキの問いかけにカナコは首を小さく傾げ、目線を少し斜め上へと向けていった。
「私がね、これを掘り当てた時にカラスが降りて来てね、そしたらカラスも急に怪物になったの」
「なるほど」
「大変ね・・・」
ミサが宝石を見ながらアキに続いて呟くと、ユウジが呑気さのある笑みをこちらに向けてきた。
「分かった。報告ありがとう、もう行って良いよ」
「あぁ」
会議室を出るとホットミルクを持ち、ユウコとヒカルコの居るテーブルに向かった。
「それにしてもこれが何か分からないわね」
地面に埋まってたって、こんなもの一体誰が埋めたのかしら?
「そうだね・・・おじさん?いいかな?」
ユウジが舞台に繋がる扉とは別の扉にノックすると、扉を開けたオーナーは上半身だけ乗り出すように顔を出した。
「何かありました?」
「これ、調べられるかな?」
「そうですね・・・やってみます」
宝石に目を向けたオーナーはまるで表情を変えずにユウジに応え、扉を大きく開けた。
驚かないのかしら、オーナーさん。
「それじゃ、運ぼう」
「あ、あたしに任せて」
右腕に出したファーから伸ばした糸を宝石に絡めて持ち上げ、ユウジと共にオーナーが出て来た部屋に運ぶ。
そういえば初めてだわ、この部屋に入るの。
何かよく分からない機械が置いてあるわね。
「ここに置いてくれますか?」
「えぇ」
オーナーが振り向き様に手を差し出した空いたスペースに宝石を置き、ついでに部屋に置かれている様々な機械に目を向けていく。
何かしら、あの巨大なパソコンみたいなもの。
「オーナーさん、あれは何?」
するとオーナーはその巨大なモニターの下に置かれたキーボードのようなものをおもむろに叩き始める。
「こうすると、闘技場の様子が分かるんです」
直後に巨大なモニターの画面が6分割されると、全ての闘技場の様子が一斉に映し出されていった。
「へぇ凄いわね」
リーグ戦とトーナメントはこれで見てたのね。
「じゃあおじさん、頼んだよ」
「分かりました」
そう言ってすぐに背中を向けて歩き出したユウジに応えたオーナーに会釈し、会議室に向かい始める。
ユウジは気にならないのかしら、こんなに得体の知れない機械があるのに。
「それじゃ会議始めようか」
この組織に来てまだ何日も経っていないにも拘わらず、ユウジはまるで緊張した様子は見せずに仕切り始めた。
「まずは、他の組織との交流はどういう方向性で行こうかについてかな」
この組織の方針と合わなきゃダメよね。
「あたし変な宗教とか嫌よ?」
「それは僕も同じ考えかな」
すぐにアキが続いて口を開くと、ユウジはゆっくりとマナミに顔を向ける。
「そうか、じゃマナミは?」
するとマナミは困ったような表情で小さく首を傾げながら、悩むようにゆっくりと唸り声を上げる。
「マナは、戦争には巻き込まれたくないかな」
そうよね、勢力争いには極力関わりたくないわね。
「そうだね、じゃあどこかと同盟を組むこと自体は、反対はなしで良いね」
「あら、そういう話があるのかしら?」
「まぁ、2つほどね」
「どこと?」
すぐにアキが興味を示すように聞くと、その素早い反応にユウジは一瞬だけ驚きの表情を見せた。
「うん、確か、神奈川と群馬かな?」
「組織っていくつあるの?」
するとマナミがどことなく楽しそうな笑みを浮かべながら、口を挟むようにユウジに問いかけた。
「正確には分からないけど、日本だけで60くらいあるって言ってたよ」
そんなに?
予想より多いわね。
「相手方の活動方針は分かるのかしら?」
「それは大事だね」
アキが一言加えると、ユウジはまるで真剣さの伺えない表情でゆっくりと天を仰ぐ。
「そうだねぇ、じゃあメールで面接かな?」
「え?メール出来るの?」
そう言ってマナミは嬉しそうにユウジに微笑んで見せる。
「なんか、オーナー経由で組織同士連絡出来るらしいよ」
何かそれっておかしくないかしら?
「それってどうゆう意味なのかしら?」
「俺にも詳しくは」
「前から思ってたんだけど、オーナーさんって何なのかしら?」
「本人に聞いたら?」
ユウジは軽くあしらうように真顔で即答するが、まだ若干の呑気さが漂うその真顔に、沸き立った怒りの火は一瞬にして吹き消された。
「それは・・・そうだけど」
何よ・・・いきなり真面目に応えちゃって。
「俺は少なくとも敵にはならないと思うよ?」
表情を緩ませたユウジの緊張感の無さに、安心感よりもむしろ若干の不安感が頭を過ぎった。
ユウジってほんと変わってるわね。
「そう思わせるようにしてたら?」
アキが冷静な口調で言葉を返すが、ユウジは依然として落ち着いた態度でアキに目を向ける。
「まぁ最悪、俺らは戦えるじゃん?」
「まあそうね」
「今はただでさえ分からないことが多いんだし、焦ることないと思うよ?」
「ユウコ、学校は変わったこと無かった?」
「うん、でも休みの人が結構いたみたい」
ユウコはホールのテーブルを机代わりにして宿題をしているみたいだな。
リラックスしている証拠かな。
「あ、シンジ、学校行かないならもうノート見せないからね」
ユウコはシンジがテーブルに近づいてきたのを見計らったように唐突にそう言い放つ。
「明日行くって、明日が数学なんだから」
しかしシンジは平然とした表情でそんな言葉を返しながらユウコの隣に腰掛けた。
「今日だって理科の新しいプリント配られたんだからね」
「そうかぁ、でも何で2枚持ってんの?」
シンジがノートの上に置かれたプリントを見ると、ユウコはとっさに2枚のプリントを隠すように手で押さえてうつむいた。
「・・・え?こ、これは・・・復習のために」
「くれない?」
「・・・いいよ」
やっぱり仲が良いんだな、2人は。
「氷牙、テロリストに会ったって?」
そんな2人を微笑ましく見ていたヒカルコがこちらに顔を向けたのに気がつくと、ヒカルコは落ち着いた微笑みを浮かべたままそんな話を切り出した。
話が広まるのが早いな。
ヒカルコは結構顔が広いんだな。
「あぁ、渋谷の交差点と、確か何とか小松川公園っていうとこ」
「え、それ大島小松川公園でしょ?」
「あぁ、それだ」
ヒカルコも携帯電話とかで情報を取り入れたりしてるのかな?
「その渋谷に出たテロリスト、噂じゃ組織的に活動してるらしいよ?」
なるほどな。
「そうかもね、仲間がいたみたいだし」
「そうなんだ」
頷きながらヒカルコは特に不安がったりすることもなく、冷静に話に聞き入っている。
「ヒカルコはテロとか怖くないの?」
「まぁ怖いけど、戦えるから恐れてはないかな」
世界が変わった今でも気丈に振る舞えるなんて、たいした人だな。
「あ、来たみたい、行こうよ」
ウェイトレスが夕食を運んで来たので、皆と共に料理を取りに行った。
「氷牙」
トレーを手に取ったときに呼ばれたので振り返ると、ミサが小走りで駆け寄って来た。
「会議終わったの?」
「まだよ。でもどこで食べるかなんて自由じゃない?」
すぐにミサは笑顔でそう応えながらトレーを取る。
「そうだね」
「悪い虫がつかないようにしたいんでしょ?」
すると歩み寄ってきたヒカルコが妙にニヤつきながら小声でミサに囁いた。
「ヒカルコ?あんまり言いふらさないでよね」
いつもなら否定するのに、この2人もシンジ達みたいに親密さが徐々に増してるってことだな。
テーブルに戻りながらふと会議室を見ると、ガラス張りの壁越しにユウジとアキが2人で話しているのが見えた。
料理をオーダーして食事をしながら2人で会議しているのか。
「仕事熱心だね」
学校も行きながらよくやるよな。
「そうね、アキは自分で立候補したんだし、ユウジもああ見えて嫌じゃないみたいだわ?」
「ミサは嫌なの?」
「え?ううん、全然そんなことないわよ?」
一瞬だけ戸惑うような素振りを見せたものの、ミサは笑顔で応えるとすぐにグラスを口に運んだ。
「そうか」
「それより、氷牙、学校行ってないのよね?」
「そうだね」
「暇じゃない?」
そういえば、今日はほとんどシンジとずっと闘技場にいたしな。
「暇かも。任務があったら積極的にやろうかな」
「あら、いいじゃない」
ミサは料理に目線を置きながら笑顔で相槌を打っている。
任務って、結局は何かと戦うってことなのかな。
「そういえば、大学では何も無かった?」
「そうね、何も無かったわね。もしかして心配してくれてたのかしら?」
そう言うとミサがニヤつきながら首を傾げ、少しだけ顔を寄せてくる。
「どうかな、気になっただけだよ」
しばらく経ってミサとマナミが会議室に戻ると、また少ししてからユウジがマイクの前に立った。
「皆さん、この組織にも少しずつ慣れてきたと思います。他にも組織がたくさんあるので、違う組織の能力者に出会うこともあるでしょう。その時はまず、状況をよく見極めた方が良いと思います」
必ずしも仲間になる訳じゃないし、相手が問答無用で襲って来るかも知れないしな。
「ところで、近々別の組織と軽い同盟を結ぶ予定があります。もしそうなったら相手の組織の能力者と交流する機会が増えますので、極力仲良くしていきましょう」
軽いか。
個人的には、深すぎる関係はあんまり同意出来ないしな。
「それと、この前話した生物調査の任務で帰って来た調査隊の報告によりますと、その生物は野生の動物が巨大化したものだということになりました」
「えぇ?巨大化?」
ヒカルコやシンジが落ち着き払った態度で話を聞いている中、ユウコは1人、若干はしゃぐようにも見える声色で驚いていた。
「そして、調査の時に発見されたある鉱物がその生物と関係しているようで、帰還と共にその鉱物を持って来てもらいました」
カナコが掘り当てた物のことだな。
「そこでその鉱物を調べた結果と、調査隊の証言を基にして、ある実験をやりたいと思います」
実験か。
あの宝石をどう使うのかな。
「まず俺達が推測した結論は、あの鉱物は精神状態に反応してその生物の肉体の増強を促すもの、だということです」
ちなみにカナコが何故掘り当てられたかにも、ちゃんと理由があります。
シンジが何故修業に励むかは、僕にも分かりません。笑
ありがとうございました。




