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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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ホーム・トゥ・ファミリア

「お帰りなさい」

「あぁ」

おじさんが居るってことは、元の世界に戻ってきたってことかな。

「お客さんですか?」

人魚を目にしても、おじさんは驚かないのか。

「あぁ。ユズ、どれくらいこの世界に居る?」

「うーん、まだ分かんない」

「そうか。おじさん、ユズに部屋用意して貰って良いかな?」

「はい」

立ち上がったおじさんは扉とは反対側の奥に歩き出し、ステンレス製の箱から1枚のカードキーを取り出す。

「どうぞ」

おじさんから手渡されたカードキーをユズに手渡すと、ユズは受け取りながら小さく首を傾げた。

「これ何?」

「この組織には人が住める部屋があるんだよ。これはその鍵だから無くさないでね」

「うん」

下半身は魚だから勿論服は着てないし、上半身は水着だけだから、ちょっと服貸してあげないとな。

「じゃあ、ちょっと説明してくるから待っててよ」

一瞬会議室の扉に目を向けたユズは、笑顔を浮かべながら小さく手を振った。

「なるべく早くしてね」

「あぁ」

会議室に入るとすぐに見慣れたマナミと目が合い、ミントと思われる人もこちらに顔を向けた。

ミントが居るなら、この世界は僕の世界だな。

「あ、本物だ」

マナミは口を開いた後に何故か噴き出すように笑みを浮かべる。

「着物?それ」

「あぁ、あっちで買ったんだ」

あ、余ったお金そのまま持って来ちゃった、シナか誰かにあげるつもりだったのに。

「ユウジ達はあっち?」

「うん」

研究室に入ると、ソファーでくつろいでいたユウジとアキがこちらに顔を向ける。

「お帰り」

「あぁ、話の前にちょっと連れてきた人がいるから、紹介するよ」

「分かった」

2人を会議室に呼び、すぐにおじさんの部屋への扉を開ける。

「ユズ」

満面の笑みを浮かべたユズは体を支えていた水の球を消し、こちらの方に泳いできたので、扉を大きく開けてユズを会議室に呼び入れた。

「ひえぇー人魚ぉぉ」

マナミが声を上げると共にユウジ達も小さく驚きに似た声を漏らすが、ミントはそんなマナミのリアクションを楽しむような笑顔を浮かべていた。

「あたしユズって言うの。あなたマナミでしょ?」

「え・・・何で知ってるの?」

「んふふ・・・」

マナミが呆気に取られた表情になると、ユズはそんなマナミを見ながらほくそ笑むように笑い出す。

「実は、カソウの世界に行ったときにあっちのマナミ達と少し話したんだ」

「カソウって、あっちの氷牙だよね?」

落ち着いた表情に戻っていたアキが口を開くと、水の球に座りながらユズもアキに顔を向ける。

「こっちのアキは髪が黒いんだねぇ」

「あぁ。こっちに来たんでしょ?カソウ」

「あぁカソウとミサさんが来たよ」

「ほんとびっくりしたよね」

「うん」

アキが応えるとマナミとミントが相槌を打ちながらお互いに顔を見合わせる。

「まぁとりあえずユウジ、ユズを皆に紹介してよ」

「分かった」

立ち上がったユウジはまだ少し驚きの表情を浮かべながらユズに歩み寄る。

「これから皆に紹介するから、ついて来てよ」

「うん分かった」

2人が舞台に出るとすぐにホールからざわめきの声が上がる。

「そういえば、最近ミント達いつも会議室に居るよね」

「うん、私達、ミサに代わってブレインになったからね」

こちらに顔を向けながら見せてきたその笑顔の右目には、小さな泣きぼくろは無い。

「なるほど」

「えー、皆さんに新しい仲間を紹介します」

ユウジはユズをマイクの前にエスコートするが、水の球に乗りながらゆっくりとマイクの前に移動したユズは、戸惑うようにマイクとユウジを交互に見る。

「これに向かって声を出せば、みんなに伝わるよ」

小さく頷いたユズはゆっくりとマイクを掴んだ。

「・・・みんなー、あたしユズだよー・・・聞こえたかな?」

「あぁ、聞こえたよ」

「マナミ、ユズに服貸してあげられないかな?」

会議室に戻り始めた2人を見ながら、マナミは困ったように唸り出す。

「そうだねぇ」

ユズは水着にカードキー挟んでるけど、あれじゃ無くしちゃうよな。

2人が会議室に戻るとユウジは研究室の方に向かっていく。

あ、そうだ、ユウジにお土産があったんだ。

「ユズちゃん、良かったら服貸してあげようか?」

「良いの?」

するとすぐにユズは跳び上がるような勢いで声を上げながら、嬉しそうに満面の笑みをマナミに見せると、ユズの笑顔につられてか、すぐにマナミも満面の笑みを浮かべる。

「うん。じゃあマナの部屋行こうよ。あとマナに分かることなら色々教えてあげる」

・・・もう打ち解けたのか?

マナミの雰囲気って、すぐに場の雰囲気も和らがせるんだよな。

マナミがユズを連れて会議室を出ると、ユウジがマグカップを持ちながら研究室から出て来た。

「あれ?ユズは?」

「マナミが部屋に連れていったよ」

ミントが応えるとユウジは相槌を打ちながら椅子に座った。

「ユウジにお土産持って来たよ」

「お?」

袖から妖怪石を取り出してユウジの前に置くと、テーブルの上で不気味に黒ずむ石は、照明に赤く反射して妖しく光っていた。

「これは・・・何てやつなの?」

「妖怪石だよ」

するとユウジは小さく眉をすくめながら、妖怪石を凝視する。

「ヨウカイ?・・・って何のヨウカイ?」

「えっと、天狗とかの妖怪だよ。これは土の中から採ったから不思議な力があるか分かんないけど、不思議な力を持った妖怪の頭にも生えてるものだから、多分不思議な力があるんじゃないかな」

頷きながら妖怪石を手に取ったユウジの表情は次第に綻んでいく。

「じゃあちょっと調べてみよう」

そして立ち上がったユウジは少し慌てたような足取りでおじさんの部屋に入っていった。

もうすぐ夜だしな、ミレイユに会いに行くのは明日で良いか。

「そうだミント、明日、天界に行くけど、一緒に行く?」

「え・・・」

しかし嬉しそうな表情を見せずに、ミントはただ神妙さを感じさせるように目を丸くして固まった。

「でも、どうして?」

「今回行った世界で、ハルクに会ったんだ」

「えぇっディレオ大尉に・・・それで、ディレオ大尉はどうしたの?」

堕混を作った人達のところに行っちゃったけど、まだ詳しくは分からないしな・・・。

「正気には戻ってたけど、何か用があるからまだ帰れないって。でもミレイユに伝えて欲しいって伝言を頼まれたから、明日にでも行こうと思って」

穏やかなものへと表情が変わっていくミントに、ふと日本に慣れ親しんだような雰囲気が伝わってきた。

「そっかぁ、でも私、ここでの生活にも慣れてきたし、それに、もう戻る気は無いから」

「そうか」

そしてミントはゆっくりとこちらに目線を戻すと、ふと小さな笑みを見せた。

「じゃあ、私からも伝言頼んでいい?」

「あぁ」

「アルマーナ中尉に、元気にしてるから心配しないで下さいって」

「分かった」

とりあえず、ホールにでも行くか、何か変わった話でもあるかもな。

「そうだ氷牙」

「ん?」

アキに顔を向けると、マグカップをテーブルに置きながらアキが研究室を目で差した。

「夜ご飯食べたら、ちょっと研究室に来てくれない?氷牙宛てのメール、また増えたんだよね」

「分かった」

ホールに出ると、ウェイトレス達が両端の壁沿いのテーブルに料理を運んでいる最中だった。

ちょうど料理が運ばれる時間だったか。

すぐに視界の端から現れたミントはこちらに微笑みかけてくる。

「行こ?」

「あぁ」

何日ぶりかな・・・。

トレーとお皿を取ったときにふと廊下への扉が開いたのが見えると、出て来たマナミの後ろにはフリルで飾られたシャツを着て、小さなポケットが付いた革製のベルトをしているユズが居た。

料理を取ってテーブルに運ぶと、すぐにシンジが前の椅子に座ってきた。

「そういえば、氷牙って何で異世界行ってんの?」

「簡単に言えば、調査だよ。最近は堕混を従わせる組織の存在を掴み始めた感じかな」

箸を止めたシンジは眉間にシワを寄せて小さく頷いた。

「堕混って、イギリスと横浜に出た奴?」

「あぁ、横浜のは、ノブにでも聞いたの?」

「まぁネットにも書かれてるし」

「そうか」

そんな時にマナミとユズがテーブルに料理を運んでくると、ユズを見たシンジは何故かそわそわと舞台の方へと目線を向けた。

「すごいねぇこの世界には食べ物がこんなにたくさんあるんだね」

「そういえば氷牙、ノブさんが鉱石使ったんだ」

ってことは・・・。

「じゃあ、力を3つ持ってるってこと?」

そばを啜ったシンジは頷きながらニヤつき出す。

「あぁ、すごいだろ?」

「まぁ、弱点をカバーしてればね。それより問題無かったの?」

するとシンジは急に険しい表情になって目線を落とした。

「ノブさんは問題無かったけど、アイリさんは1日意識不明になったんだ」

・・・意識、不明。

「そうか。今は?」

「今は全然平気だよ」

一時的なものって感じかな。

「まぁ、食べ終わったら早速闘技場行こうぜ?」

「悪いね、先客がいるんだ。終わったらすぐ闘技場行くってノブに言っておいてよ」

「分かった」

ノブのことだしな、シンプルに防御力や攻撃力を上げたりはしないだろうな。

「氷牙、トウギジョーって何?」

「自分の力を有意義に使える場所だよ。すごい広いから、誰にも迷惑がかからないんだ」

「へぇー。じゃあ、氷牙も大きくなれるんだね」

「あぁ」

ユズが無邪気な笑顔を浮かべながらマナミに顔を向けると、シンジは鋭い目つきで一瞬こちらに顔を向けた。

トレーを専用の棚に戻して舞台を上がり会議室に入るが誰も居ないので、そのまま真っ直ぐ研究室に向かう。

するとユウジとアキが研究室でオーダー式の夕食を取っていた。

「2人はいつもここで食べてるの?」

「いつもじゃないけど、ほとんどはここだよ」

何食わぬ顔でそう応えながらユウジはチャーハンを頬張る。

会議室はほぼマナミの部屋だしな、だから研究室なんて作ったのか。

「ボード、見ていい?」

「あぁ」

すでに食事を終えていたアキはすぐに立ち上がってホワイトボードの方に向かったので、ソファーに座るとアキがホワイトボードをソファーの近くに引き寄せた。

新しい案件ってやつか。

「前の4つはノブ達にやって貰ったの?」

「正確には3件だね。1つは氷牙は居ないって言ったらあっちから断ってきたから」

「そうか」

茨城で極悪な山賊?

3人組の能力者で、部下は多数か。

こっちは千葉で巨大動物退治か。

「この、静岡のノブナガって何?」

「ああ、何かね、今ネットで話題になってる、すごい強い能力者なんだ。何でも自称地球上最強なんだって」

「・・・そうか」

一気にうさん臭くなったな。

「でも、ほんとに実力はあるんだよ。噂じゃ4回覚醒してるらしいよ」

・・・4回?覚醒が・・・4回・・・。

それが本当なら、会ってみたいな。

「やっつけて欲しいから僕宛てにメールが来たんだよね?」

「うん」

「じゃあ明日、そのノブナガに会いに行くよ」

「分かった。メールして詳しい情報聞いとくよ」

さて、シンジ達は何番に居るのかな。

ホールに出て闘技場のモニターを見渡していたときにふと声をかけられたので目を向けると、そのテーブルにはヒカルコとレンが居た。

2人の前に座ると、すぐにヒカルコが身を乗り出しながらニヤつき出した。

「本物の人魚?」

「そうだよ」

「へぇ・・・」

ヒカルコは気持ちの高ぶりを抑えるように小さくため息をつくが、表情は嬉しそうに目尻と口元を緩ませている。

「あたしの知らない異世界には、あんな人もいるんだね」

「まあね、でも人魚に関しては、大昔にこの世界にも居たらしいよ」

「そうなの?」

少しリラックスしたような表情のレンがヒカルコに顔を向ける。

「うん、よく本とかに載ってるよ」

「へぇ」

するとレンは口元だけでなく、目尻も少しだけ緩ませながら頷いた。

レンもここの生活に慣れてきたのかな。

シンジ達の姿が映ったモニターの闘技場に入ると、薄暗い通路の出口に人影があるのが見えた。

見物人かな。

足音に気がついたのか、人影がこちらに体を向けると、闘技場の照明に照らされて姿を現した人影はアイリだった。

「アイリ」

「ああ来たか、ノブ達が先にやってるから、適当に割り込めってさ」

第八章です。この章でやっとオーナーのことが分かります。でもその時に氷牙はどうするか。まぁ氷牙ですからね。笑

ありがとうございました。

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