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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第七章

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イン・ア・コーナー・オブ・ザ・ディサイシブ・ウォー

それならさすがにチガリュウとやらと狼男が一気に攻めてきても、刻印は壊されないだろう。

修練所を出てベンチに座っていたシナと顔を合わせると、その表情はどこか神妙さを感じさせた。

「もうキガンに行くのかい?」

「あぁ」

まぁ今すぐ攻めてくると決まった訳じゃないしな、少しのんびりしても良いかもな。

「気をつけなよ?」

「あぁ」



レテークの話じゃ、確か祠の目印として赤い門のようなものが建てられてるんだったな。

一旦木の高枝に立ち止まり、ジョクヤクの町を見渡す。

・・・ここからだと例の赤い門は見えないな。

そろそろ向こうにレテークが着く頃か、とりあえず合図を待とう。

しばらくすると遥か遠くの海側の町外れの辺りから、渦巻くように吹き荒れる風が空に向かって昇っていくのが見えた。

砂を激しく巻き上げ、空高く昇りながら太さを増していく竜巻は、軋むような轟音と共にやがて天と地を繋いだ。



あの竜巻は、恐らく狼男の堕混だな。

エニグマは使わないのかな?

絶氷牙を纏い、天を貫いている竜巻の方へと飛んでいく。

・・・周りに、侍は居ないのか?

そういえば、皆キガンに集まってるんだった。

あれ?でもなんでキガンじゃなくてジャクヨクに来たんだろ。

竜巻を目の前にして悪い視界に目を凝らすが、激しい砂埃に堕混の姿を捉えることが出来ない。

・・・こうなったら、凍らせちゃおうかな。

竜巻に突っ込みながら極点氷牙を纏うと、超低温の衝撃波に一部の風は凍りつき、竜巻は一瞬にして勢いを削がれていった。

消えていく風の中で堕混の姿が見えてきたので、妙に周りをそわそわと見回している堕混の目の前に降り立った。

ここの刻印はもう壊れてるしな、もしかしたらキガンの刻印を狙う囮なのかもな。

「もしかして、君は囮なの?」

「えっ」

耳をピンと張り驚きの表情を浮かべた堕混は、すぐに顔を引き締めて首を横に振った。

「ちっ違うよ」

獣人なのに分かりやすい顔だな。

「じゃあ何でここに来たの?ここの刻印はもう壊れてるのに」

「えぇっ」

再び耳をピンと張って驚きの声を上げた堕混は、呆気に取られたような表情のままゆっくりと祠の方に顔を向けた。

・・・どうやら知らなかったみたいだな。

「チガリュウって侍みたいなんだけど、そういえば君達とは仲間じゃないって言ってたけど、本当なの?それ」

警戒している物腰だが、堕混は話を聞こうとするような落ち着いた表情を見せ始める。

「・・・チガリュウは、オレ達を裏切った」

「そうか」

すると堕混は急に表情を引き締め、小さく後ずさりしながら睨みつけてきた。

「それより、さっさと掛かって来いよ」

「・・・刻印はもう無いから、戦う理由は無いよ」

「な、何だよっ」

再びそわそわと周りを見渡した堕混は、何かを考えるように目線を落とすと、両腕から透明な鉤爪を作り出した。

どうやらそっちはやる気みたいだな。

「ならこっちから行くからな」

「あぁ」

堕混が大きくその場で鉤爪を振ると、3本の鉤爪に合わせて、3本の刃のような纏まった風がこちらに飛んでくる。

紋章を前に出して盾にするが、紋章を越えてきた纏まった風を受けて思わず大きく後ずさってしまう。

その隙を突いて体中に風を纏った堕混が飛び掛かって来たので、鉤爪が体に着く前にとっさに蒼月を撃ち出す。

「うぁっ」

氷の爆風に堕混は横に吹き飛ばされて塀に背中をぶつけるが、すぐに地面を踏ん張って再び飛び掛かってきたので、突発的に強くブースターを吹き出し、振り上げられた鉤爪を紋章で押さえつける。

そして堕混の腹に拳を突きつけようとしたその直前、まるで堕混は風のような速さで後ろへと通り抜けていった。

それと同時に氷の鎧の破片が宙を纏う。

・・・速いな。

堕混の力に、獣人特有の身体能力も重なったってことかな。

後ろに体を向けたときにはすでに堕混はこちらに掌を向けていて、掌の前には光と闇が小さく吹き荒れていた。

その瞬間に堕混の掌から、白と黒の風が弾丸のように撃ち出される。

こちらの胸元に直撃しながら白黒の風はミキサーのように空気を掻き乱すと共に、塀に背中を強く押しつけながら広がり消えていった。

引っ掻き回したような傷が残っただけか、極点の鎧を貫通させることは出来ないみたいだな。

すると堕混は手を大きく広げながら、自身の周りに風を吹き荒れさせた。

・・・何だ?またあの竜巻か?



・・・来たな、2回目の竜巻だ。

空に伸び始めた竜巻を見ながらジャクヨクの町に入り、町の上を飛びながら町並みを見渡す。

・・・どこだ、赤い門。

それにしても、どうして所々壊されてるんだ?

レテークはここまでする奴じゃないしな。



竜巻の足元に向かって蒼月を撃つと、凍りついた風が渦巻く風に乗って激しく散らばると共に、竜巻は足元から徐々に消え失せていった。

・・・堕混は、逃げたみたいだな。

まさかとは思うけど、今のうちにキガンに攻められたりしないかな。

侍の堕混も居たし、また別の堕混もいるかも知れないしな。

ちょっと急いでみるか。



・・・無い、それらしいものが見当たらない。

レテークはもうとっくに逃げただろう。

このままだと、誰かに見つかるな。

何となく降り立った塀から町を見渡してみる。

あの建物の上から見下ろしたら分かりそうだな。

「誰だっ」

何っ・・・見つかった。

こちらに向けて声を上げた男性はすぐに少し反った剣を抜き、殺気のような気迫と共に剣先をこちらに向けてきた。

・・・仕方ないな、今は退こう。

掌に光と闇を集め、作り出した光と闇の球を男性の足元に撃ち落とす。

水しぶきのような光と闇の爆風に男性が怯んでいる隙に飛び上がり、その場から離れた。

後でレテークに分かりやすい目印を聞かないとな。

小屋のある山に着くとすでにレテークが待っていて、地面に降り立って翼を消すとレテークは何となく落ち込んだような表情で歩み寄ってきた。

「ハルクさん、祠は見つかった?」

「いやそれがさ、迷ってな」

恥ずかしさを隠すように目を逸らしていると妙な沈黙が流れたので、目線を戻すとレテークは耳を下げながら気を落としたような表情をしていた。

「多分、見つけられなくて当然だと思う」

「え、それは、どういうことだ?」

「オレ達が来る前に、もう刻印が壊されてたらしいよ」

何だって?

俺達が来る前に?一体誰が・・・。

「誰に聞いたんだ?」

「ほら、前に言った青白い奴だよ」

・・・ヒョウガ、か。

まさかヒョウガがやったってことは無いよな。

「そいつの話じゃ、チガリュウが祠を壊したらしいよ」

チガリュウか、それなら納得出来る。

「そうか」

確か、真ん中の町はキガンって言ったか。

「とりあえず、小屋に戻るか」

「うん」

小屋に戻ると椅子に座っていたバードとシープが期待を寄せるような顔を向けてくる。

「ラビットは戻ってきたのか?」

「ううん、まだよぉ?」

バードがゆっくりと首を横に振りながら微笑みを浮かべると、シープは立ち上がって冷蔵庫に向かった。

「刻印は壊せたのぉ?」

バードの向かいに座るとレテークは隣の椅子に腰掛けた。

「いや、俺達が行く前に先にチガリュウが壊したんだと」

驚きの表情は浮かべたが、バードは頬杖をついたままで、すぐに微笑みを甦らせる。

「2人も飲むでしょ?」

「あぁ、ありがとう」

シープが笑顔で頷くと再び冷蔵庫に体を向けて飲み物を取り出す。

「あらぁ、そうなのぉ。じゃあ、チガリュウに会ったのぉ?」

バードは優しい眼差しをレテークに向けるが、レテークは落ち着いた表情で小さく首を横に振った。

「この前話した、青白い奴に聞いたんだよ」

「あのお化けねぇ」

お化け・・・。

本当に、ヒョウガは致命傷を負わされたのか?

シープが席に戻るとこちらとレテークの前に飲み物を置いた。

「進化薬はあるか?」

「あるわよぉ?いつもの箱にねぇ」

「じゃあレテーク、一息入れたら最後の刻印を壊しに行こう」

力強く頷いたレテークだが、すぐに何かに気がついたかのように耳を立てる。

「あ、作戦立てないと」

「あぁ、そうだな」



「千牙龍は当然、侍達が麒眼に集まっている状況を承知の筈だ。恐らくは狼男の侵攻に乗じるために身を隠しているのだろう」

「なれど憑鷹、千牙龍は龍の方々に任せて、我らは狼男を討伐するのに尽力した方が良いだろう、例のそのエニグマなるものもいることだしな」

閃鷹の言葉に皆は頷き、納得に満ちた沈黙が流れ始めると、ふと麗鷹が冷ややかさを孕んだいつもの聡明な眼差しをこちらに向ける。

「憑鷹は龍の方々に加わった方が良いのではございませんか?貴方は鷹に似合わず、随分と長けた剣術をお持ちでございます故」

「よしてくれ麗鷹、私自身に龍ほどの力は無い」

「そうでございますか?私達は同じ半妖ですが、貴方だけは異様に妖血が濃いと、私は度々思うのでございます」

「麗鷹」

宥めるような口調で蜂鷹が声をかけると、麗鷹は一瞬蜂鷹に目を向けてから小さく息を吐いた。

「いつの時代だってよぉ、生れつき才を持った奴ぐらい居んだろ?」

「ですから、その才を持ち腐れているのでございましょう?」

そう言いながら再び麗鷹がこちらに顔を向ける。

「・・・皇下街に身を置くと、何かと不便になるのでな」

「不便とは何だ憑鷹、それ相応の理由があるんだろうな?」

「私は度々、雀翼と虎牙を繋いでいた古い林道を見回っているのだ」

閃鷹は小さく眉間を歪ませると、記憶を思い巡らせるように唸り出した。

「今は雀翼から麒眼の南西を繋ぐ細い林道のことだな、悪名高い男共がよく使う林道だと聞くが」

「あぁ」

「まさか憑鷹、その男共を成敗して回っているのか?」

言葉を返そうとしたが、蜂鷹の吹き出すような笑い声に掻き消されると、閃鷹の表情も驚きで小さく緩んだ。

「柄じゃねぇなぁ憑鷹」

「いや違う、成敗しに行っているのではない、守りに行っているのだ」

「守りに?何をでございますか?」

麗鷹がそう言うと2人も話を聞こうと黙ってこちらに顔を向ける。

「妖怪をだ。この前だって、若い妖女がその下郎共に襲われかけたのだ。だが、龍の名を持てば気ままに林道を歩くことは難しくなる、私はそれを危惧しているのだ」

「お前、1人でそんなことやってんのかよ」

蜂鷹に顔を向けると、あぐらをかきながらいつものような爽快感のある笑みを浮かべていた。

「水臭ぇじゃねぇかよ、おいらにもやらせな」

その眼差しを見てると、何故か信頼を置きたくなるな。

「ふっ・・・そうか」

「でも蜂鷹、貴方龍爪で暮らしているのではございませんか?」

「ああ・・・まぁ、3日にいっぺんくらいは麒眼の南西から顔出すさ」

ふと障子の引かれる音が小さく聞こえたので反射的に目を向けると、そこにはヒョウガが立っていた。

「何だあいつ」

蜂鷹が呟きながら呆気に取られるような表情でヒョウガを見ていると、ゆっくりと周りを見渡したヒョウガはこちらの方に顔を向けた。

「ヒョウガ殿」

表情も変えずヒョウガが黙ってこちらに向かって歩き出すと、周りの侍も不思議なものを見るような目でヒョウガに目を向けていく。



龍じゃない人って、結構多いんだな。

「貴方、この方を存じているのでございますか?」

端麗な顔立ちの女性が、真っ直ぐな姿勢で正座しながらヒョウヨウに声をかけるのを見ながら、腰を落とした。

「あぁ、ジャクヨクで異国人の討伐に力を貸して貰っていたのでな、引き続きキガンに来るように頼んだのだ」

何だか、随分下手に出られてるけど。

左手には女性とヒョウヨウの間に座っている筋肉質な男性、そして女性の右手には壁に寄り掛かっている、とても崩した姿勢で座った日焼けした肌が目立つ男性が居る。

しかしその3人は髪の色なのか、服装なのか、こちらの姿を凝視するように固まっている。

ふと女性と目が合うと、女性の瞳は少し緑がかっていた。

「そういえば、妖怪って皆瞳が緑色って聞いたけど、君も妖怪なの?」

「あ、いえ、私は半妖でございます」

・・・半妖?

じゃあシナも半妖なのかな。

「そういうお前だって、妖血が入ってんじゃねぇのか?」

ヨウケツって、妖怪の血ってことかな?

あとちょっとのところでハルクと氷牙がすれ違いましたね。

ありがとうございました。

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