抜いた刀は忘れ去られる
「それは良かったね。皆も安心して戦えるよ」
「うん・・・じゃあ、ランチ頼むね」
マナミはこちらにも笑顔で応えるとテーブルの真ん中にある、一見飾りのようなベルを取って鳴らした。
「呼びましたぁ?」
「ランチメニュー貰えますか?」
「あ、はーい」
まるで取ってつけたような印象の笑顔を浮かべるウェイトレスは、マナミに応えると颯爽と後方の扉に戻って行く。
そしてウェイトレスがメニューを持って来ると料理を頼み、また数分後にウェイトレスが料理を運んで来た。
「ごゆっくりどーぞ」
料理をテーブルに並べ、メニューを持ったウェイトレスは気楽さのある笑顔を崩さずにそう言って去って行った。
これは便利だな。
食材はどこで調達しているんだろう。
どうして全部無料なんだろう。
「んじゃ、ご飯も食ったし、そろそろ闘技場行こうか」
「あぁ」
「あ、テンジ君ちょっと待って?」
「え?」
テンジを呼び止めたミカナは携帯電話を見ていたが、その表情はどこか緊迫感を漂わせていた。
「今、東大島駅の近くでテロが起きてるみたい」
「な、マジかよ、家の近くじゃんか」
「どうしようテンジ君」
呆気に取られるように固まったテンジがこちらに顔を向けると、その一瞬でテンジの、氷牙の力を宛てにしようとする思いが伝わってきた。
「いや、大丈夫だ、すぐに氷牙と向かうよ」
「うん・・・あ、待って、正確な場所出た、大島小松川公園」
「そっか、行こう氷牙」
急ぎ足で歩き出したテンジについていくと、質問しようか考えている間に気が付けばすでにテンジの部屋の前まで辿り着いていた。
テンジのシールキーを使うのかな?
そして部屋に入ったテンジは真っ先にシールキーが貼ってある扉の方に向かって行った。
「氷牙、シールキー持ってる?」
「え?まぁ一応」
「じゃあ、この扉は俺ん家に繋がってるから、俺ん家出たらすぐに氷牙のシールキーで大島小松川公園に行こう」
「え?そのシールキーで直接その公園に行けばいいのに」
するとドアノブに手をかけたままテンジの動きが止まった。
「・・・あそっか」
「代々木公園に行ったときは公衆トイレに繋げたし、今回もそんな感じで良いんじゃない?」
「な、なるほど」
行き先を書き換えたシールキーの扉を開けると、そこはトイレの個室に繋がっていた。
・・・あ、まぁ、いいか、これはこれで。
トイレから出ると、すぐに見えたこちらの方に逃げてくる人達が、まるで空気を震わすような緊迫感を感じさせた。
そっちに行けば良いってことだよな。
「行こう」
「・・・ふぅ」
緊張感に満ちたため息を漏らしたテンジに顔を向けると、テンジはまるで地平線の向こうまで見通すような遠い眼差しで逃げてくる人達を見ていた。
テロリストに襲われたすぐ後に、しかも修業もしないでテロリストに向かうんじゃ、やっぱり怖いんだろうな。
「テンジ、ここで待ってても良いけど・・・」
黙って首を横に振ったテンジの眼差しに若干の力強さが伺えたので、急いで何となく騒がしい空気を感じる方へ走り出した。
破壊された施設の瓦礫や残骸、逃げ惑う人達の悲鳴の中、大きな地響きを鳴らしながら勢いよく地面を噴き上がらせたその人が目に入ると、同時にその人の近くに立つ見覚えのある人が目に留まった。
あの人は確か・・・カサオカ。
カサオカに歩み寄ると、こちらに顔を向けたカサオカはすぐに何かを思い出したような顔を見せる。
「・・・氷牙か」
何だ、テロ組織なんて作るとか言ってたけど、やっぱりこうやってテロを鎮圧しに来てるじゃん。
「アリサカは?」
「今は別行動だ」
「そうか、まぁとりあえずテロ鎮圧するために来たなら、一緒にやる?」
しかし再び地響きを鳴らしながら、勢いよく地面を噴き上がらせたテロリストに顔を向けたカサオカは、まるで傍観するような眼差しをそのテロリストに向けていた。
「違う。あいつは、俺とアリサカの仲間に入る予定の奴だ。本当にテロ組織に入る度胸があるかを、今試してる」
何・・・。
「あいつを止めたいならやればいい。けど、そのときは俺が本気で邪魔に入らせて貰う」
まさか、もうアリサカ達が動き出したなんて。
「どうしよう氷牙、あいつを止めないと、ここがめちゃくちゃになっちゃう」
せっかく来たし、とりあえず止めるか。
氷牙、氷結!
「そうか、なら俺も本気でやらせて貰う」
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきたが、カサオカはまったく気にすることもなく、握りしめた右手を高々を天に掲げた。
するとカサオカの拳から手刀のような形の青い光が現れる。
「もうオーナーにああだこうだ言われることもないしな、マジでその腕、切り落としてやるよ」
「ビームソードか。なら俺だって」
テンジが左腕を前に突き出すと同時に、その左腕は機械音と共に一瞬で機械に覆われる。
そして直後に機械に覆われた左腕の手首辺りから外側に向けて、日本刀のような形の1本の青い光が噴き出した。
「そういえば、お前もビームソードを使うんだったな」
「違うっ俺のはビームブレイドだ」
「・・・同じだよな?」
「そ・・・うん」
個性を主張したかったのかな。
「そら、来いよ」
体勢を少し低くして身構えたカサオカに向かって、ブースターを噴き出して勢いをつけた拳を突き出すが、カサオカは左手に出現させた三角形の青い光で拳を受け止める。
するとすぐさまカサオカが青い光の手刀を振り出してきたので、こちらもすぐに掌の前に出した紋章で青い光の手刀を受け止める。
カサオカの腹を蹴り、後ずさりするカサオカに止めの氷弾を撃つものの、カサオカはまたも左手の青い光の盾で難無く氷の弾を防いでいく。
氷槍を出し、カサオカに向かっていくが、氷の槍を振り払った青い光の手刀はその一瞬で氷の槍の深くまで切り込みを入れる。
「おらぁっ」
そしてすぐさま振り下ろされた青い光の手刀は右腕に勢いよく食い込んだ。
鎧に傷をつけるとは・・・。
カサオカの右腕を押さえ込みながら、カサオカが盾を構える前にカサオカの腹に氷弾を撃ち込むが、吹き飛ばされていったカサオカは痛みに表情を歪ませながらもすぐに立ち上がった。
「くそ・・・思ったより硬いんだな」
「何で、アリサカの仲間に入ったの?」
こちらを睨みつけながらゆっくりとため息をついたカサオカの殺気が少し薄れたように感じたが、同時にカサオカは嫌悪感をあらわにするように眉間にシワを寄せた。
「人は、生まれてくるときに環境を選ぶことが出来ない。金持ちだとか貧乏だとか、父親が受刑者だとか。けど、そんなことを考えたって仕方ないってことは分かってる。けどな、これからどう生きていくかに、その環境は関係ない。だから俺は、オーナーが変えた環境なんかこの際気にしない、それよりも、俺は今ある俺の力で理不尽をすべてぶっ壊す」
オーナーが変えた環境は、気にしない、か・・・。
確かにどうしてこうなったかなんて考えたって分かるものじゃないけど。
「だからって何でテロなんて・・・」
「おーい、あとどれくらいやりゃあいいんだぁ?」
カサオカに声をかけてきた人に顔を向けると、ボクサーのように両手に巻いた包帯が印象的なテロリストは、やじ馬や警察をも見据えるように離れた距離からこちらの方を見ていた。
「ああ、公園の方はもう良いだろう。次は、テロ鎮圧しに来た奴、だな」
何・・・来るか。
するとこちらに顔を向けながら身構えたカサオカから、再び殺気が伝わってくる。
「言っとくけどな、アリサカは何も無差別にこの場所を指定した訳じゃない。この公園の治安の悪さが問題になってるのは知ってるだろ?」
「え?」
テンジに顔を向けると、こちらに顔を向けたテンジはカサオカの問いに反抗的な表情は浮かべず、ただ若干の寂しさを感じる眼差しを見せているだけだった。
「まあ、ね、俺の地元ここだから、その話はよく知ってるけど」
「けどだ、そんな事件にもならないこと、警察も国も対処出来ない」
横目で睨みつけるような眼差しを向けた先にふと目を向けると、やじ馬の中に制服警官と北村が見えた。
「だから俺達が警察の代わりにやるしかない。だから俺達はここを占拠する」
なるほど・・・。
「それって、ヤクザみたいな感じ?」
「え?」
テンジが呆気に取られるような声を上げると、カサオカもテンジと同じように表情を固める。
「ヤクザって、どういうことだよ」
「え、ほら、その町を自分達の島とか言いながらも、ついでにその地域の人達を外敵から守ったりしてるし」
「ああ・・・」
テンジが納得したように相槌を打つと、カサオカもテンジと同じようにゆっくりと頷き出した。
「いや、でもそれはドラマの世界の話だろ。実際のヤクザなんて、そんな良いもんじゃない」
「そうか」
「はぁ・・・とりあえず、俺達はここを占拠する。あくまでも邪魔をするっていうなら・・・」
するとカサオカはおもむろに青い光の手刀の先をやじ馬の方へと向ける。
「このやじ馬を人質にさせて貰う」
「皆さんっ早く逃げて下さいっ」
北村が声を上げるとすぐに何人かは走り出していったが、それでもやじ馬の群れはその形を崩すことはなかった。
これは、ちょっとまずいかな。
ざっと見てやじ馬は2、30人、とてもそんな人数は守りきれない。
それに、あのテロリストはどうやら広範囲に渡っての攻撃が出来るみたいだし、あいつの力を使われたら、終わりだ。
「さぁ、どうする?」
元はと言えば、テロを起こした理由も無差別虐殺じゃなくて治安回復だしな。
「氷牙・・・」
何だか、分かんなくちゃったな。
氷牙の鎧を解くとカサオカは腕を下ろし、勝ち誇ったように満足げな表情を浮かべた。
「でもさ、何も建物を破壊することないんじゃないの?」
「地震が起ころうと戦争が起ころうと、建物なんて、いくらでも建て直してきただろ」
まぁそうか。
「テンジ、ここはちょっと様子を見ようよ、単なる破壊的なテロじゃないみたいだし」
こちらを見るテンジの眼差しにどこか失望感のようなものを感じたが、テンジは黙って頷き、左腕の変化を解いていった。
人質がいなきゃ、いや、人質ならマナミに任せれば・・・。
でも、仮にこの2人を倒したとして、アリサカ達が活動を止めるとは思えないし。
「氷牙、ほんとにあれで良かったのかな?確かにカサオカって人達のはただのテロ組織じゃないけどさ、でも、やっぱりテロはテロだし」
「あぁ、でも、悪に徹することが出来るほどの正義感の持ち主っていう風には考えられないかな?」
「えー、正義感?あれで?」
組織に戻りそのままマナミとミカナの居るテーブルに戻ると、ミカナは携帯電話を持ちながらどこか不満げな表情をしていた。
「もう動画アップされてるよ?2人が尻尾巻いて逃げていくところ」
「いやぁ・・・だってさぁ・・・」
何となく景色やモニターを見ていたとき、闘技場から出て来たシンジと目が合った。
「あ、シンジ君」
シンジがテーブルに近づいて来ると、シンジに気がついたマナミはゆっくりとシンジに手を振った。
「氷牙もいたのか」
「あぁ」
すると目の前に立ったシンジがまるでジムにでも行ってきたかのように汗ばんでいるのに気がついた。
気になるが、学校のことをいちいち聞くのはよそうかな。
「よくやるね、シンジ」
「氷牙も修業しないと、取り残されるぜ?」
一杯の水を一気に飲み干すとシンジは額の汗を拭い、隣の椅子にゆっくりと腰掛けた。
「そうかもね」
「ちょうどいい、闘技場行こうぜ」
「そうか」
あれ、全然休憩してないのに。
またすぐに立ち上がり颯爽と歩き出したシンジに、マナミがふと心配そうな眼差しを向けたのが見えた。
「シンジ君、もう行くの?」
「じゃ行ってくる」
「うん」
シンジは軽く手を挙げてマナミに応えると、マナミの眼差しなど気にも留めずにすぐに扉に向かい始めた。
シンジは相当マナミを頼っているということかな。
「テンジ、これから闘技場行くけど、どうする?」
「え、ああ、じゃあ俺も行くよ」
2人と共に闘技場に向かう途中、ふとシンジの背中がシンジより年上のテンジよりもどことなくたくましく見えた。
何か、前より雰囲気から滲み出る気迫が強くなったような感じだな。
そういえばまだ異世界のいの字も出てない気が・・・。笑
ありがとうございました。




