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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第七章

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ハウリング・イン・ザ・ブライテスト・ダークスカイ

狼達を包囲している人達の全貌が見えたときに、ふとその人達が持っているものに目が留まった。

・・・あれは銃だな、しかもライフルくらいの大きさだ。

狼達と人間達の間に、殺気の鍔ぜり合いという名の沈黙が流れる。

撃たないのか?

そして狼が走り出したと同時に、人間達の持つ銃から瞬間的な衝撃音が鳴り出した。

何となく引っ掛かった違和感を感じながら、銃口から飛び出したものはこちらの防壁にも当たっていく。

防壁にヒビが入ったが、防壁には銃弾らしきものは見えず、ただ小さなヒビだけが入っていた。

倒れた狼を見てみると、何かに貫かれたかのような傷や血は見えず、ただ苦しそうにもがいているだけだった。

何だ?

変わった形には変わりないけど、あれ、鉄の腕輪と繋がってるように見える。

1匹の狼が辛そうに立ち上がり、力を振り絞って走り出したが、すかさず1人の人間が銃を発射すると重たい衝撃音と共に狼は地面に倒れ込む。

もしかしたら、あの腕輪の力を銃口から出しているのかな。

・・・だとしたら、あれはエアガンだな。

しかも馬くらいのあの狼でも倒されるなら、相当強力だ。

絶氷牙を纏い、炎狼の前に出ながら1人の人間に絶氷弾を撃った。

「あいつが例の氷狼だな、目標を氷狼に集中させろっ」

吹き飛んだ人間には目もくれず、人間達は皆一斉にこちらに銃口を向ける。

両手に紋章を出したときに人間達の銃口から衝撃音が鳴り出すと、体中に重たい衝撃が襲ってきた。

ブースターを吹き出しながら足を踏ん張り、反動を打ち消すと、後ずさりすらしないのを見た人間達は各々驚きの表情を浮かべる。

しかしその中でふと1人の男性だけは悔しがるように怒りの表情を浮かべたのが分かった。

「出力を最大にしろっ」

1人の男性の掛け声に再び皆は銃を構えたので、適当に2人の男性に絶氷弾を撃つが、それと同時に体に凄まじい衝撃が襲った。

・・・くっ・・・。

一瞬意識が少し遠ざかるほどの衝撃があり、気がついたときには背中に水を打ちつけられるような音と衝撃が響いていた。

・・・ここは、湖、か。

随分と深い湖だな、あの岩山って塔みたいになってるのか。

おっと・・・それより今は湖から上がらないと。

すぐにブースターを吹き出して湖から飛び出したが、すでに炎狼と人間達の交戦が始まっていた。

飛び掛かった炎狼を素早くかわし、炎狼に空気銃を撃つ人間を見ながら地面に降り立つ。

「まだ生きていたか」

別の男性がこちらに向けてそう口走ると、その声に反応した別の2人も炎狼からこちらに銃口の先を変える。

どうやら炎狼には空気銃はあまり効かないみたいだな。

炎狼に目を向けていたときに胸元に強い衝撃を受け、勢いよく地面に背中を叩きつけられるとそのまま激しく地面を転がる。

それなりに強いな。

だけど鎧には損傷は無いみたいだ。

結局はただの衝撃波ってことか。

すぐに立ち上がると人間達はこちらに銃口を向けながら、恐れるように小さく後ずさりする。

「こうなったら、実弾を使うしか無いだろう」

「そうだな」

・・・実弾か、さすがに炎狼には効いちゃうかな。

男性は袖から少し反った形をした長めの小さな箱を取り出すと、それを銃の側面に差し込み、実弾とやらを装填する。

そしてすぐに銃を構え、男性はこちらに向けて銃を放った。

すると氷が砕けるような音と共に弾はたやすく鎧を貫いていき、それと同時に強い風圧も体を通り抜けていった。

おっと、あの空気圧をそのまま弾を飛ばす力にするなら、普通の火薬よりも強いかもな。

「何だって?こ、こいつ、不死身なのか?妖怪石の弾でも死なないなんて」

・・・妖怪石の弾?

なるほど、まぁ石を弾の形に削るのは案外簡単なのかもな。

鎧の穴を消しながら男性達の足元に絶氷弾砲を撃ち込む。

「ぐあぁっ」

氷の弾が破裂する音と男性達の叫び声に、他の男性達も徐々にこちらの方に目を向けてきた。

「お前らっ氷狼をやれ」

また数人の男性がこちらの方に銃口を向けながら歩み寄り始めたとき、別の男性の炎狼に向けられている銃から衝撃音が鳴った。

音を立てて倒れ込んだ炎狼の毛並みから燃え盛る炎が弱くなると、徐々に毛の色も赤から暗めの白に戻っていく。

しかし肋辺りは暗めの白い毛並みではなく、濡れたように萎れて血の色に染まっていた。

「ぐぅ・・・」

炎狼がやられた・・・。

「止めを刺せ、ついでに妖怪石を持っていこう」

炎狼の近くに居たリーダー格のような豪華な服を着た男性の言葉の後に、炎狼を撃った男性が再び炎狼に銃口を向けたので、すぐさまその男性に絶氷弾を撃った。

「ちっ・・・おいっさっさと氷狼をやれっ」

リーダー格の男性がこちらに顔を向けてそう叫ぶと、歩み寄ってきていた3人の男性は一斉にこちらに向けて銃を構える。

「おい待てっ」

慌てた声でリーダー格の男性が再び声を上げると、リーダー格の男性と周りに居た男性達はこちらの方を凝視するように固まっている。

「人魚だ」

出てきたか・・・。

男性達の目線の先に振り返ると、そこには湖の中に小さくそびえ立つ岩山に手をかけ、こちらと男性達を見つめるユズが居た。

「いいか?人魚は生きたまま捕まえろよ?」

・・・とりあえず、捕まらなければユズの命に危険は無いみたいだ。

ユズに気を取られてる隙に、目の前に居る3人の男性の足元に絶氷弾を撃つ。

「ぐあぁっ」

「くそっ早く氷狼を何とかしろっ」

炎狼の近くに居た男性達が全員こちらの方に駆け寄ってきて銃口を向けるが、そのときに突如端に居た1人の男性が巨大な水鉄砲のようなものに襲われる。

すぐにユズに目を向けると、ユズは水で出来た弓を持っていて、その首には微かに緑色に光るペンダントが掛けられていた。

あれが、例の翡翠の首飾りか。

するとユズはおもむろに湖の水を操るように浮かせて水の矢を作り出し、それを男性達に向けながら弓を引き始めた。

水の矢が放たれたときに銃の衝撃音が鳴ると、水の矢は衝撃波によって辺り一面に弾け飛んだ。

やはり所詮はただの水みたいだな。

男性達に目線を戻したときに衝撃波を食らい、湖まで飛ばされるが、すぐにブースターを吹き出して反動を消し、岸に戻りながら男性達の足元に絶氷弾を撃っていく。

大きく距離を取った男性達を見据えるように、且つユズを庇うように立ちはだかりながらゆっくりと地面に降り立つ。

「こいつ、氷狼、じゃないぞ」

落ち着いた表情のリーダー格の男性が警戒するような声色で口を開くと、別の男性達も若干怯えるように小さく後ずさりした。

「局長、では、こいつは一体・・・」

「知らん。だが、妖怪だろうが妖魔だろうが関係無い、人魚を庇うならどの道殺さなけりゃならんということだ」

どうやら、あと6人みたいだな。

局長と呼ばれた男性は銃を腕から外すと、おもむろに腰に挿している鞘と刀の柄を掴み、刀を抜いた。

何だあの刀、真っ赤だ、まるで妖怪石みたいに。

刀を構えた局長の男性の眼差しに鋭い殺気が宿り、目には見えない何かが立ち込めると、風が止み、周りの草木はまるで怯えるように震え出した。

「この妖刀ジャホウに、斬れぬ妖など居ない。行くぞっ」

お・・・局長自らお出ましか。

局長の男性がこちらに近づいてくるにつれ、何となく胸の奥の何かが徐々に重たく、鋭く、そして熱くなるような感覚がした。

その一瞬、局長の男性の動きが何となく遅くなったように感じた。

そして刀を振り上げ始めたと同時に、何となく頭の中が少しだけ熱さを感じる中でブースターを全開で吹き出し、右腕に出した絶氷槍を局長の男性の左胸に貫通させた。

「う・・・」

力無く振り下ろされた刀がこちらの肩に当たったが、気にせず局長の男性を手下の男性達の方に投げ飛ばした。

何だ、今の感覚。

局長の殺気に感化されたのかな、思わず闘争本能を全開にしちゃったみたい。

「局長ぉっ」

あーあ、せっかく戦いを楽しみたかったのに。

男性達が駆け寄るが、局長の男性は糸が切れたかのように力無く地面に横たわっている。

「心臓を一刺しか・・・くそっ」

リーダーが死んだなら、あの人達の士気ももう無いだろう。

「戦えない人間を連れて、帰ってくれない?」

こちらに顔を向けた男性達は怒りをぶつけるように睨みつけてくるが、誰も前に出るような気配は無い。

「おらあぁぁ」

叫び声が横から聞こえたので目を向けると、男性が1人、刀を振りかざしながらこちらの方に走ってきていた。

黙って男性を見ていると、男性は渾身の力で刀を振り下ろした。

左肩に刃が入るが、すぐに刀は勢いを失い、その様を見た男性の表情も闘志を失うかのように歪んだ。

「く・・・」

黙って男性を見ていると、男性は怯えるような表情でゆっくりと刀から手を放し始めたので、刀を掴み、軽く刀を投げ捨てた。

「人魚は諦めな」

後ずさりしている男性はそのまま倒れている局長の男性の方に向かい、こちらと少し距離を取るとすぐに一目散に走り出した。

「生きているものは皆連れて行こう、生きている限り、まだ勝機はある」

・・・またここにやって来る気か。

男性達は局長の男性以外の、まだ息のある男性を連れて林の奥の闇に消えていった。

この明かりは消してくれるかな?

「氷牙」

後ろを振り返るとユズは岸に手を置いていて、さっきまでの強気な眼差しは完全にその色を失っていた。

「炎狼さんは?」

倒れている炎狼に近寄ると、1匹の狼が炎狼の顔にほお擦りをしていた。

結構血も出てるし、心臓の辺りを撃ち抜かれてるみたいだ。

運よく心臓に当たってなかったとしても、マナミが居ないんじゃ、何も出来ないな。

こちらの存在に気づいた狼は、まるで期待感を寄せるように寂しげな眼差しを向けてきた。

「かあちゃん、すぐにめをさますんだろ?」

動く気配は無いし、それに、息もしてない・・・。

「いや、もう目は覚まさないよ」

「・・・そんな」

ユズの下に戻ると、話を聞いていたのか、ユズは土を握りしめながら今にも泣き出しそうな顔でこちらを見つめた。

「死んじゃったの?」

「あぁ」

小さくうつむいたユズが静かに泣き出すと、後ろから寂しさが伝わるような遠吠えが聞こえてきて、啜り泣く声と寂しげな遠吠えが、昼間のように明るい湖に響き渡った。

・・・どうやら、明かりは消してくれないみたいだな。

何となく光の強い方に向かうと、明かりの端はまるで仕切られているかのように光と闇がくっきりと分かれている。

この明かり、熱くないな、LEDみたいなものなのかな。

巨大なスタンド型のライトを見渡すが、光を放っている部分以外は暗くて見えないので、とりあえず頭の付け根辺りに絶氷弾を撃ってみた。

氷の弾の破裂と共にライトの部分が地面に落ちると、壁が崩れ去るかのように瞬く間に闇が背後から押し寄せていった。

次々とライトを壊していき、最後の1つになったときにふと名前を呼ばれたのでユズの下に歩み寄った。

・・・どうやら落ち着きを取り戻したみたいだな。

「あたし、旅に出るよ。強くなりたいの」

「そうか、良いと思うよ、ここから離れるという意味でもね。でも空はどうやって飛ぶの?」

落ち着いた笑顔を浮かべているユズは小さく首を横に振りながら夜空を見上げる。

「そんなこと、出来ないって分かってるよ。最初から」

・・・鉱石でもあれば・・・あ。

鎧を解いて袖をめくると、ミサが編んだブレスレットが手首に着けられていた。

・・・あった。

「ユズ」

「ん?」

「もし、本当に空が泳げるようになれるとしたら、そうなりたい?」

少し薄れた笑顔のままユズは一瞬固まったが、すぐに半信半疑のような眼差しで微笑んだ。

「本当になれるなら、なりたいかも」

ブレスレットを腕から外し、細かい編み目を広げてブレスレットから鉱石を取り出す。

「それ何?」

「これを使えば、望んだ力が手に入るんだよ」

鉱石をユズに差し出すと、ユズは鉱石を手に取りながら不思議がるように首を傾げる。

「望んだ力って・・・どうするの?」

「胸に当てて、願い事をするように念じるんだよ」

するとユズは驚くような勢いで笑みの深さを増し、再び鉱石を見つめた。

「へぇー、すごいね。あたしにくれるの?」

「あぁ」

こちらに顔を向けたユズは満面の笑みを見せる。

炎狼さんの死は、ユズにとっては始まりなんですね。

ありがとうございました。

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