カオス・オブ・ザ・ドラゴン
黒桜を見ていたときに祠の方から小さな殺気を感じたので、すぐに屋根に向かって跳び上がり黒桜の隣に飛び乗った。
「誰か居るよね?」
「そのようだな」
隣に飛び乗ってきた白火に目を向けると、白火は力強い眼差しで小さくニヤつき出した。
「行くぞ」
刀に変わった白火を持って黒桜に顔を向けると、真っ直ぐな眼差しで小さく頷いた黒桜も刀に変わった。
・・・まだ祠の庭には誰も立ち入ってないようだが。
ん・・・神社の方か。
祠を通り過ぎた辺りで殺気もこちらの方に近づいてくると、やがて闇夜の下で静寂に包まれた神社への正門から異国人の姿をした者が現れた。
いや、異国人では・・・ない。
「貴公だったか、憑鷹」
「・・・千牙龍、か?・・・その身形は・・・」
その一瞬、どことなく千牙龍の眼差しの殺気に陰りのようなものを感じた。
「今の我にはどの龍にも力が及ばぬ。刻印を守るためとは言え、我の前に立ちはだかるのは良い考えとは言えぬな」
今にも貫かれそうな殺気が体中に押し寄せるが、その物腰からは何となく焦りのようなものを感じずにはいられなかった。
しかし、千牙龍の言うことに間違いは無い。
このままでは・・・殺される。
「黒狐に追われていると聞いたが」
「・・・黒狐も、龍と同じく我の敵ではない」
・・・くっ。
「それはどうかな」
千牙龍の向けた目線の先に目を向けると、塀の上には黒く丈の短い着物を着た、くノ一のような出で立ちの女性が千牙龍を見下ろしていた。
するとくノ一を見た千牙龍の表情が一瞬にして歪み、こちらに向けられていた殺気の矛先もくノ一に向けられていく。
「命拾いしたのなら、そのまま隠れていれば良いものを」
「永遠命花の名において、命などいつでも捨てる覚悟だ」
・・・永遠命花?
確か、くノ一を極めたものだけに天皇直々から授けられる名だと聞くが。
ではあのくノ一は・・・黒狐か。
「なら我を止めてみろ」
だがいくら黒狐でも、今の千牙龍には敵うまい。
いや、力を合わせれば・・・。
「千牙龍、私を忘れては困るな。出ろ、雷菖蒲、風杜若、岩影、天蹄、地翼」
こちらに顔を向けた千牙龍の表情は曇らず、むしろ眼差しに宿る殺気はより一層鋭さを増す。
そして千牙龍は余裕の見える表情で、黒狐とこちらを見据えるように少し下がった。
「来るがいい」
最初に動いたのは黒狐で、疾風の如く素早さで千牙龍に飛び掛かり、脇差で切り掛かった。
「陣形、白火」
白火を両手で構えると黒桜は頭上へ上がり、雷菖蒲と風杜若は左右の上段、天蹄と地翼は左右の下段、そして岩影は背後へ、それぞれ位置についた。
手の甲から刀身を生やした千牙龍は難無く黒狐の脇差を受け止め、力強く腕を振って黒狐を押し返す。
その隙に千牙龍に飛び掛かるが、両腕のあちこちから飛び出るように生えた刀身に、一斉に振られた6本の刀は難無く受け止められる。
もはや、妖術の域を越えている・・・。
「たった7本の刀で我に立ち向かうか」
嘲笑うかのようにこちらを睨みつける千牙龍の背後に黒狐が回り込む。
右腕から生やした幾つもの刀で黒狐を軽くあしらいながら、千牙龍は左腕を振って一度に幾つもの刀をこちらに振り回してきた。
黒桜達が集まって千牙龍の刀を受け止めるが、そのまま力で押し切られ、黒桜達はそのまま左の方へと吹き飛ばされる。
そして千牙龍はその勢いのまま回転し、黒狐を吹き飛ばした右腕と刀をそのままこちらの方に振り回してきた。
すると岩影がこちらの前に立ちはだかり、目の前で幾つもの刀を受け止める。
「無駄だっ」
それでも千牙龍の勢いは弱まらず、後ろから岩影を押さえたが岩影共々押し飛ばされた。
力では勝てないか。
だが、数は多くとも千牙龍の刀はただの刀。
地面を強く踏み締めながらこちらを睨みつける千牙龍の背後に、気配を消した黒狐が忍び寄る。
「白火、純焔刀」
刀身の中程から更に刀が2本、鍔に向かって円を描くように枝分かれした形の天蹄と地翼が、白火の鍔の左右に柄の底を着ける。
天蹄と地翼の柄が無くなり、白火の鍔と天蹄と地翼の鍔が繋がると、天蹄と地翼の刀身が白く染まると共に白火の刀身が純白の炎に包まれた。
「早々に本領を発揮したようだな、だが、龍をも超えた力を持つ我に貴公の太刀など届くまい」
千牙龍が体勢を少しだけ低くして地面を踏ん張ったとき、千牙龍の背後に立つ黒狐から一瞬にして尖った殺気が飛び出した。
「何っ」
千牙龍が後ろを振り返ったとき、黒狐の体が瞬間的に千牙龍を通り抜けていった。
速い。
そしてその瞬間、千牙龍の肩から鮮血が舞う。
「影討ち、散花」
その直後に黒狐の姿が2つに分身して千牙龍の目の前に現れると、再び瞬く間に2人の黒狐は千牙龍を通り抜ける。
「くっ」
千牙龍の胸元から鮮血が飛び散った瞬間に地面を蹴り、千牙龍に向かって飛び出す。
刀を振り上げたとき、こちらを睨みつける千牙龍の口角が小さく吊り上がり、眼差しに一瞬にして殺気が満ちた。
何っ・・・。
千牙龍が手を合わせると同時に、両腕からまるで粉塵が舞うほどの速さで広範囲に数百の刀が飛び出す。
とっさに純焔刀を振り下ろしたが、刀から燃え上がる白い炎でさえも数百の刀に阻まれて千牙龍には届かなかった。
地面に足が着くとすぐに千牙龍から離れたが、数百の刀が引っ込んだときに黒狐は地面に倒れ込んだ。
まさか、黒狐の業を食らっても微動だにせぬのか。
「・・・ぐっ・・・」
痛みに顔を歪ませながら黒狐が千牙龍を睨みつけるが、仰向けに倒れている黒狐の体の至る所からは血が滲み出ていた。
あれでは、もう・・・戦えぬな。
「頭と心臓はかろうじて守ったようだな。だがすぐに止めを刺してやろう」
千牙龍が腕を振り上げたときに純焔刀を振り上げ、舞い上がる白い炎を千牙龍に浴びせる。
「ぐぅっ・・・この距離で届くとは」
思わず後ろに跳んだ千牙龍を追うように飛び出し、千牙龍が地面を強く蹴り腕を引き下げたとき、刀を水平振り出して燃え盛る白い炎で壁を作る。
「距離を取れば良いとでも思ったかぁっ」
その直後、白い炎の壁を突き抜けて幾つもの刀が真っ直ぐこちらに伸びてきた。
くっ・・・。
千牙龍の刀をかわしながら少し後ろに下がるが、再び伸びてきた刀は離れた距離でさえもたやすく詰めてくる。
どこまでも伸びるのか、あの刀は・・・。
白い炎の壁が風に消えると、千牙龍は見下すような眼差しでこちらを見据え、余裕の見えるような物腰でそこに佇んでいた。
このまま時間稼いだところで・・・。
「憑鷹っ」
そう呼びながら境内に飛び降りたその侍に目を向けると、それは脇差を2本抜きながら軽快そうに刀を構える瞬鷹だった。
「瞬鷹」
「鷹が何羽来よう我には何の恐れも無いがな」
続いて後ろの方から駆け寄ってくる足音が聞こえると、すぐに視界の隅に大槌を持った破虎が見えた。
それでも千牙龍の表情は曇らず、むしろ戦を楽しむかのように殺気に鋭さを増していった。
何だか空気同士がぶつかって震えているような感じが、波のようにあっちから伝わってくるな。
あっちは確か、祠だったかな。
氷の仮面を被り、少し急いで祠に向かう。
瞬鷹が先陣を切って走り出すと、すぐさま千牙龍が掌を瞬鷹に向け、掌から刀身を素早く伸ばす。
刀は瞬鷹を貫いたように見えたが、貫かれた瞬鷹は煙と化し、実体の瞬鷹はすでに千牙龍の横を通り過ぎようとしていた。
「小賢しいな、瞬鷹」
「悪いが首は貰うぜ?」
千牙龍が瞬鷹に目を向けたときに飛び出して刀を振り、千牙龍の足元に白い炎を燃え上がらせる。
それでも怯まずに振り回された幾つもの刀をかろうじてかわすと、黒桜が単身で飛び出し、千牙龍の翼に斬りかかった。
「何っ」
すると続けて風杜若が千牙龍の足元に突き刺さり、雷菖蒲は千牙龍の背中に突き刺さる。
そしてその直後、雷菖蒲の刀身から電気がほとばしった。
「があぁぁ」
反射的に千牙龍がこちらの方に幾つも刀を振り回すが、岩影がそれを受け止めた直後に地面に突き刺さった風杜若から空に向かって強い風が吹き出す。
体勢を崩した千牙龍にすかさず純焔刀を振り下ろすと、その機に乗じて瞬鷹と破虎も千牙龍に飛び掛かった。
おっと、あんなところから白い火柱が。
祠が壊されたら大変だ。
ブースターを吹き出しながら長屋を飛び越えたとき、少し高め塀の向こうに神社みたいな建物が見えた。
・・・しかも誰かが戦ってるみたいだけど。
絶氷牙を纏い、ブースターを吹き出して一気に塀を飛び越え、神社の境内に降り立つ。
するとそこには倒れている女性が1人、何やら変わった刀とハンマーをそれぞれに持つ侍が2人、そして侍達の睨みつける先には腕から伸ばした刀で1人の侍を貫き、高々と持ち上げている堕混が居た。
・・・あの獣人だけじゃなかったのか。
堕混が腕を振り払うと、腕から伸ばした刀に貫かれていた侍は、2本の短刀と共に勢いよく地面を転がった。
「シュンヨウぉっ」
白い炎が燃え盛る刀を持った侍がそう叫ぶと、堕混は満足げに小さく笑い声を上げた。
2本の短刀を持っていた侍の至る所からは血が溢れ出していて、侍は動く気配は無く、そのまま地面に倒れている。
どうやら、死んだみたいだな。
シュンヨウと呼ばれた侍に目を向けていた堕混はこちらの存在に気がつくと、余裕を見せつけるようにゆっくりとこちらに体を向けてくる。
「貴様は、何だ」
堕混の言葉に2人の侍もこちらに顔を向ける。
「氷牙殿かっ助太刀を頼むっ」
「あぁ」
見覚えのある侍に顔を向けた堕混は、小さく頷きながら嘲笑うかのように鼻で笑った。
「ヒョウヨウ、妖怪に知り合いが居たとはな。おかしいことではないが、邪魔をするなら妖怪共々斬り捨ててくれるわ」
あの侍、ヒョウヨウっていうのか。
何だか親近感が湧く響きだな。
ブースターを全開で吹き出して堕混の胸元に向けて拳を突き出したが、足を踏ん張った堕混は後ずさりすらせずにこちらを睨みつける。
堕混が腕を振り出したが、腕から生えた刀がこちらに届く前に極点氷牙を纏った。
「ぐあぁっ」
続けて顔を背けながら後ずさりする堕混の腹にすかさず蒼月を2発撃ち込む。
吹き飛んだ堕混は塀に強く背中を打ちつけるが、痛みを怒りに変えるようにこちらを睨みつけ、すぐに立ち上がって凄まじい殺気を向けてくる。
この気迫に殺気、まさか。
「もしかして、君は侍なの?」
「・・・我は、もうそのような脆弱な侍などとは一線を画したのだ」
・・・つまりはYESってことか。
「じゃああの狼男の仲間か」
深く息を吐き、背筋を伸ばすと堕混は見下すような眼差しで小さく口角を上げて見せる。
「我に仲間などいらぬ、この力を貰うために彼奴らを利用したまでだ」
この殺気、そこら辺の侍じゃなさそうだけど。
すると突然横からまとまった白い炎が降りかかるが、堕混は何本もの刀を生やした腕で白い炎を軽く振り払う。
そしてすぐにもう片方の腕から何本もの刀を素早く伸ばしていくが、人を覆い隠せるほどの幅広い刀がそれを阻み、ヒョウヨウと呼ばれた侍は難無く堕混の刀から離れていった。
ヒョウヨウに目が向けられている間に堕混に向かって蒼月を撃つが、こちらの行動を察知した堕混は腕から更に刀を生やしてこちらに伸ばし、堕混に届く前に氷の弾を破裂させる。
その場からはあまり動かない戦法なのかな。
獣人の堕混とは仲間じゃないって言ってるけど、とりあえず刻印は壊したいみたいだ。
氷の弾の爆風が舞っている中、氷の破片を抜けて堕混の刀が伸びてきたので、ブースターを吹き出してとっさにそれをかわす。
しかしその刀は間も置かずに何本も迫ってきた。
おっと。
次々と伸びてくる刀を紋章で受け止めたりするが、すぐに別の刀に肩を貫かれる。
・・・多いな。
「これで終いにしてくれるっ」
それに見た目はただの刀だけど、極点の鎧を貫くとは。
肩から刀が抜かれると、小さくニヤついた堕混がとどめと言わんばかりに腕を振り上げる。
その時にまとまった白い炎が堕混に降りかかるが、とっさに避けるためにそちらに気を逸らした堕混に、すかさず紋章を向ける。
「くっいらぬ邪魔をっ」
殺気が鋭くなった堕混が一瞬にして両腕を覆うほどに数百もの刀を生やしたとき、堕混に向けて蒼月を連射する。
憑鷹の盾になるのが岩影、そして脇差の天蹄と地翼は主に白火の補助ですかね。
ありがとうございました。




