リメンバー・ハー・オールウェイズ
「僕は、さっきの胸元に赤い石を埋め込んだ人を捜して旅をしてるんだ」
腕が立つのは認めるが、今ひとつ信用に欠けるな。
「そのダコンなる異国人と、その方とはどのような関係があるんだ?」
「ある国の反乱軍にダコンが居るから、その国の任務の延長で捜すようになったのがきっかけかな」
・・・任務?
その異国人の眼差しからはまるで情や考えが伝わってこない。
「その任務とは、討伐の命か?」
「最初はそうだったけど、今はダコンを作った黒幕を探ろうと思って」
黒幕か・・・。
このエニグマってどうするのかな?
「そういえば、別の方のエニグマはどうなったかな?」
「そうだな、私が様子を見に行こう。その方は修練所に戻るが良い」
どことなく余裕の見える表情のその侍はそう言うと軽い身のこなしで駆け出していった。
帰って来たか。
どことなく足取りの重いレテークは小さくうつむきながら、テーブルの椅子に座るバードの向かいの椅子に腰掛ける。
「あらぁ?元気無いわねぇ。刻印は壊せたのぉ?」
「ううん、変な奴に邪魔されたんだ」
・・・変な奴?
首を傾げてはいるが、依然としてバードは優しい眼差しと笑みをレテークに向けている。
「変な奴ってぇ?」
「何か、オレみたいな顔した、全身が青白い奴」
・・・まさか。
すぐに初めてヒョウガに会ったときの記憶が脳裏に浮かび上がると、同じようにミレイユの姿も脳裏に浮かび上がった。
いくら異世界を自由に行き来出来ると言っても、こんな偶然があるのか?
「レテーク、そいつの名前は聞いたのか?」
こちらに顔を向けたレテークはすぐに小さく首を横に振る。
「ううん、変なこと聞かれたけど、すぐに逃げて来たから」
「なぁにぃ?また変なってぇ」
「何か、ドラゴンの仲間かって」
頬杖をついていたバードは顔を上げ、珍しく目を丸くしてソファーに座っているラビットと顔を見合わせる。
確か、堕混になる直前、ラビットと一緒に居た奴にそんな名前の奴が居たような・・・。
「ドラゴンを知ってるなんて、もしかしたら私達の仲間かも知れないわねぇ」
再び頬杖をついたバードはまた珍しく考え込むような少し低い声色を聞かせる。
もしドラゴンの仲間なら、ヒョウガじゃないのかもな。
「でもバードさん達の仲間なら、何で祠を守ったのかな?」
「んーそうよねぇ、何かあるなら必ず連絡してくるはずだし」
「じゃあちょっとドラゴンに聞いてみるよ」
しかしラビットが立ち上がりバードが顔を上げると、その眼差しはいつもの優しさが溢れるものになっていた。
「分かったわぁ」
屋根を飛び越えて修練所の入口に降り立つと、こちらに顔を向けたシナは脚を組み出して期待を寄せるようなニヤつきを見せた。
「戻ったね、祠は守ったんだろうねぇ?」
「あぁ、でもまた来ると思うよ」
「当然だろ?四方の町じゃここしか残ってないからなぁ」
もしジャクヨクの刻印が壊されたとして、いくら堕混でも6人の龍を相手にしたら、キガンの刻印なんて壊せないんじゃないかな。
・・・裏切り者って言ってもたった1人だしな。
「おいっ鋼鷹っ」
・・・他の侍は・・・。
建物の屋根からその場を見渡すが、立ち尽くしている鋼鷹以外の侍は皆瓦礫と共に地に突っ伏していた。
「白火、黒桜、雷菖蒲、風杜若、岩影」
すぐにエニグマとやらに飛んで行き、鋼鷹に手が及ぶ前にエニグマに一太刀を入れる。
「皆、化け物を頼む」
皆がエニグマの方へ飛んでいくと同時に鋼鷹の下へと駆け寄る。
「憑鷹か・・・済まぬ、思いの外手強くてな」
・・・これほどの傷を負って・・・気迫だけで立っているのか。
「すぐに片付ける、待っていろ」
「あれ?角は?」
「ここに置いてたら不用心過ぎるだろ?さっき奉行所に文を出したから、引き取りに来るまで隠してんだよ」
「なるほど」
どうやってかは分からないけど、最近は堕天使じゃなくてエニグマを連れてるみたいだな。
「そうだ、あんた暇なら団子買って来てくれよ」
・・・聞き慣れ過ぎた言葉だな。
「あぁ」
別にタイムスリップして来た訳じゃないんだよな。
「何個食べるの?」
「あたしは3つで良いよ。じゃあお茶入れてくるからね」
団子屋ってここに来る前に見たな。
・・・でも異国人に攻められた直後なのに、呑気に団子食べてて良いのかな。
修練所を回り込んで左に曲がり、真っ直ぐ進んで行くが、シナ同様に町や人の雰囲気もあまり変わっていないように感じた。
団子屋を確認出来たので中に入ってみると、やはり見覚えのある桜と緑と白の3色の団子が棚に並べられていた。
「いらっしゃい」
何となく警戒心の伝わる声色でカウンター越しの女性が話しかけてくる。
「団子、6つくれる?」
「あぁ、じゃあ店先で待っててくれるかい?」
・・・お持ち帰り出来るかな?
「いや、修練所で食べるから、包んでくれる?」
「あぁ、じゃあ18文だよ」
1番大きい小銭は100だし、1番小さい小銭は1だし・・・。
「ねぇ、10文ってこれ?」
何気なくこちらに目を向けると、手に持っている銭の束を見た女性は一瞬驚くように目を丸くしたが、すぐに見せている1枚の銭を見る。
「そら5文だよ、10文はもうひとつ大きいやつだよ」
「そうか」
女性は包んだ団子を棚に置いたので、10文の銭を2枚手渡すと、女性は若干腑に落ちないような表情で1文の銭を2枚手渡してきた。
「まいど。異国人だから知らないと思うけど、そんな金があんなら釣りは出さねぇようにすんのが礼儀ってもんだよ」
そう言いながら女性は微笑みながら団子を手渡してきた。
「あぁ」
1階の奥から戻ってきたラビットは、どことなくすっきりしたような表情でソファーに座り、戻ってきたラビットを見ていたバードに顔を向ける。
「ドラゴンが味方じゃないけど知ってるって」
・・・味方じゃない?
なら、やはり・・・。
「どういうことぉ?」
「最初に堕混を作った世界に居たらしくて、堕混を作った理由を調べようとしてたみたい」
・・・ヒョウガ。
この世界に居るのか。
「味方じゃないどころか、敵じゃないのぉ?それ」
「かもね。でも、ドラゴンの連れてるディビエイトが殺したって」
・・・何っ殺した?
「本当かそれ」
「え、うん」
・・・なら、この世界に居るはずがないか。
「ちょっとぉ、じゃあ何でこの世界に居るのよぉ?お化けなのぉ?」
「いや、そこまでは」
「バードさん・・・オ、オレ、ちゃんと見たし話もしたよ?」
・・・ヒョウガのことだ、もしかしたらってこともあるな。
「なぁレテーク、次は俺も行くよ」
「うん」
玄関の扉を通り抜けてきたシープはゆっくりとこちらの方に歩み寄り、隣で眠っているシープの中に戻ると、まるで眠りから覚めるように腕を伸ばした。
「んんー・・・ふぅ、お腹空いたね」
やっぱり普通の団子の味だな。
これじゃマナミは喜ばないかな?
ベンチでシナと共に団子を食べていたとき、修練所に3人の中年くらいに見える侍がやって来た。
「鬼の角を採ったという文を受け取り、奉行所より参った次第である。早速ではあるが、鬼の角を見せて貰おう」
「あぁ、こっちだよ」
シナが3人の侍を連れて修練所に入っていくと、少しして鬼の角を抱えた侍達とシナが戻ってきた。
「献上の際に鬼の角を採った者も共に向かわせたい故、ここに呼んで貰えるか?」
「それなら、そこで団子食ってる奴がそうだよ」
シナがこちらを指差すと、侍達は呆気に取られたような表情でこちらを見たまま固まった。
「い、異国人の若造ではないか」
すると鬼の角を抱えていない侍はシナに向けるその眼差しに、一瞬にして鋭さを宿した。
「もしや、はったりではないだろうな?」
「あんた、今目の前にある鬼の角が見えないのかい?」
しかし少し体勢を低くした侍は刀を前に出し、今にも刀を抜こうと威圧感を剥き出しにする。
「そうではないっ鬼の角を採った者を偽っておるのではないかと申しておるのだ。皇族の前で嘘を申すなど、断じて許されるものではないのだぞ?」
「そんなこたぁ、赤子でも百も承知だろ?それに嘘なんてついてどうなるってんだい?」
言葉を返してはいるがシナは後ずさりしているので、一旦団子を置いてシナの前に出た。
「実力を試せれば良いんでしょ?」
「何を生意気な」
堕混がこの国を攻めてるのは皆知ってるみたいだしな、下手に人前で翼は解放しない方が良いな。
また勘違いされるかも知れないし。
「そこまで言うならば、この私がその方の腕を試してしんぜよう」
静かに刀を抜いた侍が鋭い殺気を向けてくると、鬼の角を抱えている2人はすぐに後ろに下がった。
氷牙を纏うと侍は驚くこともせず柄を強く握りしめ、身構えるように砂利を踏み締める。
そして一瞬の沈黙の後、砂利が蹴られる音と共に刀は素早く振り上げられた。
その瞬間にブースターを吹き出し、刀が振り下ろされる前に柄の底を押さえ、侍の腹に軽く拳を突きつけた。
「ぐっ」
後ずさりした侍は地面を踏み締めながらこちらを睨みつけ、再び走り出そうと体勢を少し下げたので、侍が走り出したと同時に紋章を向け、侍の胸元目掛けて氷弾を撃ち出した。
地面に倒れ込んだ侍はすぐに立ち上がるが、息を吐きながら背筋を伸ばすと刀を鞘に納め始める。
「妖術使いか。確かに私の手には負えないようだが、気迫も無ければ殺気も感じない。鬼の角を採れるほどの腕があるとは思えないな」
この人は鷹とかでもなさそうだし、極点なんて出したら死んじゃうかもな。
「別に僕は褒美とかいいし、龍の誰かが採ってきたとでも言えば?」
ゆっくりとため息をつくとその侍は怒りを噛み締めるように唸り、シナの方に目を逸らした。
「そんなことをすれば、たちまち私とその修練番は打ち首だ」
「じゃあ、侍さんがシナを信じるしかないね」
「その方に言われなくとも承知の上だが、皇下街に入る前に龍の侍に腕試しして貰う。良いな?」
・・・龍と戦えるのか。
「あぁ」
修練所に戻るとシナはお茶を飲みながら空を見上げていた。
「随分と呑気だな。祠に異国人が現れたというのに団子か」
「壊されてないんだろ?ヒョウガが言ってたよ」
・・・ヒョウガ?
「それは、あの白髪の異国人の名か?」
「あぁそうだよ?」
確かに異国人との戦に割り込んできたな。
そのヒョウガという異国人が言った通りに、先に修練所に戻ってシナに伝えたんだろう。
「ところで、そのヒョウガはどこに行ったんだ?」
「鬼の角持って来てただろ?それで奉行所の奴らとキガンに行ったよ」
・・・今はいつまた異国人が攻めてくるか分からぬときだ。
異国人には助けを求められないなどと言っている場合ではないのだが。
「おう憑鷹」
振り返るとそこには瞬鷹がいつもの呑気な微笑みを浮かべながら立っていて、瞬鷹の背後には破虎がついていた。
「破虎っ・・・お前ら一体何をしていたんだ?エニグマとやらとの戦の場には居なかっただろ?」
「エニグマ?ああ、あの得体の知れない奴か。いや破虎とは途中で会ってな、俺達も向かおうとしたんだが、そん時に妙な気配を感じてな」
「妙な気配だと?」
すると瞬鷹は天を仰ぎながら首筋を軽くさすり始めた。
「俺ぁてっきり異国人かと思って、ちょうど近くに居た破虎を連れてったんだ」
エニグマと異国人以外に、別の刺客が居たとでも言うのか?
「結局は見失ったが、ありゃ、忍びだな」
・・・たいしたことではないではないか。
「それで今まで忍びなどに油を売ってたのか」
しかし瞬鷹からは反省する様子が微塵も感じられず、あっけらかんとした表情を崩さない。
「まあまあ話はまだ終わってないって、そもそも、俺が忍びに撒かれるはずないだろ?」
言われてみれば確かにそうだが。
「あれはただの忍びじゃない。恐らく、皇族直属のくノ一、黒狐だな」
黒狐?
「龍の侍をも暗殺出来るほどの忍びが、何故四方の町に・・・」
まさか。
「居たんだろ?千牙龍がさ」
千牙龍が雀翼に来たということは・・・。
「まぁ侍にも討伐の命が出てるからな、もしやと思って黒狐について行こうとしたんだがな、こうやってのこのこと帰って来たって訳だよ」
やはり千牙龍も刻印の破壊が目的なのか。
この章ではハオンジュに続いて、ハルクがヒョウガという人物を想いながら自分の道を行く、という感じですかね。
ありがとうございました。




