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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第七章

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フリーティング・エンカウンター

もう日が暮れ始めたか。

街を歩いていると昨日よりも向けられる目が多い気がする中、団子屋の角を曲がって修練番の女性の下に行くと、こちらに顔を向けた修練番の女性は少し感心したように眉を上げて小さく頷いた。

「よく生きて帰れたもんだね、丸腰なのに」

・・・一見はそうだけどな。

「妖怪石持ってきたよ」

長い葉っぱで包んだ妖怪石を修練番の女性の隣に置くと、修練番の女性は戸惑うような表情で葉っぱの包みを解き始めた。

「お・・・おお」

包みから出てきた3つの妖怪石を見た修練番の女性は、生唾を飲みながら驚きの眼差しをゆっくりとこちらに向ける。

「な・・・なかなかやるじゃないか」

「まあね」

すると修練番の女性は周りを見渡し、隠すように3つの妖怪石に葉っぱを被せる。

「それじゃ、日が落ちる前にさっさと金に換えてくるからね」

「あぁ」

修練番の女性は葉っぱの包みを修練所に持っていったので、ベンチに座って待っていると、風呂敷に包み直した妖怪石を持って修練番の女性が修練所から出てきた。

夕焼けが深くなった頃、1人の男性が修練所の入口の前で立ち止まった。

日本刀は持ってるみたいだけど、侍には見えないような初めて見る服装だな。

着物は着物だけど、金の刺繍が至る所に入っていて、両肩には明らかに布製ではない防具が乗せられている。

するとその男性は特に警戒するような態度を見せずにこちらに顔を向けた。

「修練番さんは?」

「今質屋に行ってるよ」

修練番の女性が去って行った方に顔を向けたその男性は、少し気を落としたようにため息をついた。

「まぁいっか」

すると呑気な雰囲気が漂うその男性は軽い足取りで去って行った。

武者のような格好ではないし、よく見れば靴も分厚い靴下みたいなものだし。

だけど、何となく身分が高い人だということは分かる。

下駄の音が聞こえたので目を向けると、明らかに嬉しそうにニヤついている修練番の女性が向かってくるのが見えた。

こちらの隣に座った修練番の女性はおもむろに袖の中に手を入れ始めると、そこから2枚の金の小判と、何十枚も重ねられた四角い穴の開いた小銭が紐でくくられたものを1本手渡された。

・・・こんなに?

そんなに妖怪石は貴重なものなのかな。

「それがあんたの取り分だよ。それにしても、あんたたいしたもんだよ、1人で3つも持ってくるなんてさ」

貴重と言うよりかは、採るのが危険だからかな。

「虎の名を持ってる侍だって1つ採るのが精一杯ってのに。いやぁ、見直したよ」

朝の警戒心が嘘のように明るい表情で笑いながら修練番の女性はこちらの肩を叩いている。

妖怪って基本的に血の臭いに引き寄せられるみたいだし、1つ採れば2つ目も勝手に寄ってくるのにな。

逆に寄ってくるから、腕に自信の無い人は1つで終わらせるのか。

とりあえずやっと情報が聞けるな。

「じゃあ、早速情報を売ってくれる?」

冷静な表情に戻ったものの、修練番の女性は昨日とは違う、信頼をおいたような緩やかな眼差しをして見せた。

「そうだったね、あんた情報目当てだったね。どんな情報が欲しいんだい?」

「この国に、翼を生やして胸に赤い宝石を着けた人って来たかな?」

すると遠くに目を向けた修練番の女性は落ち着いた表情でゆっくりと頷く。

知ってるのかな。

「後でちゃんと教えてやるから、これから夕餉にするよ」

「・・・そうか。お金はいつ払えば良いの?」

玄関の扉を開けながら振り返った修練番の女性は、何かを企んでいるような表情でニヤついた。

「夕餉の分はもう貰ってるよ」

結構ちゃっかりしてるんだな。

「じゃあ朝餉のときにいた間で待ってておくれ」

「あぁ」

中庭沿いの廊下を進み、1番奥の部屋の障子を開けるとすでにセンガンヨウが座っていたので、何となく向かいに座る。

しかし横を見ると席は所々空いていて、何となく不自然さを感じた。

「席は詰めなくても良いの?」

そう聞くとこちらに顔を向けたセンガンヨウは小さく笑い声を上げる。

「何言ってんだ、おれ達ゃ間借りしてる身だぜ?下手に座んのが礼儀だろ?」

・・・なるほど。

「まぁ、お前は異国人だし、礼儀なんざ、追い追い覚えていきゃいい」

「そうだね」

何か得してる感じがするような。

間もなくしてジョウノシンとケイジが部屋に入ってきて他の席も埋まると、修練番の女性と共にお盆を持つ女性達が部屋に入ってきた。

「それにしちゃ、お前、ゴノモトの言葉が達者だな。誰かに習ったのか?」

何て言おうかな。

「・・・いや、自分で勉強したんだよ」

すると3人は感心するように唸りながら頷いた。

「そうだお前、一文無しだよな?これからどうするんだ?ずっと修練番さんから恩を買ってたら、生きてるうちに返せなくなっちまうよ?」

そう言うとセンガンヨウは1人で勝手に笑い出す。

2人と違ってセンガンヨウは陽気な人みたいだな。

「お金ならさっき稼いだよ」

「稼いだって、どうやってだ?」

「妖怪石を採ってきたんだよ」

センガンヨウが驚きの表情で固まり、一瞬沈黙が流れると、吹き出すように笑い出したセンガンヨウはそのまま笑い声を上げた。

「そりゃいい、道端に落ちてんのを拾ってきたってのか?」

道端に落ちてるようなものなのかな。

「いや、親玉の妖怪の頭から直接採ったよ」

「何だって?」

センガンヨウとジョウノシンが揃って声を上げたときに、ちょうどお盆が運ばれてきたので箸とお椀を手に取ると、顔を見合わせた3人は戸惑いの表情を浮かべながらも箸とお椀を手に取り、食事を始める。

「異国人だからってからかっちゃいけねぇ。見たところ丸腰じゃねぇか」

「隠し持ってるんだよ」

・・・そりゃあすぐには信じられないか。

センガンヨウは疑うような目つきでいるが、怒りというよりかは困ったような表情でため息をついた。

「まぁ、異国人だしな、どこに刃物を隠してるか分からねぇが、稼いだっつてもたいした金じゃねぇだろ?」

そう言い放ったセンガンヨウは呆れたような表情でお米を頬張り始めた。

この量ってたいしたことないのかな。

ポケットから金の小判を取り出してみせると、金の小判を見たセンガンヨウはすぐさまお米を吹き出す。

「おいカツラギ」

「す、すまねぇ・・・」

金の小判に目を向けたジョウノシンも目の色が変わると、黙々と食事していたケイジも驚きの表情で固まった。

リアクションを見る限り、やっぱり大金みたいだ。

箸とお椀を置いたジョウノシンは、いつもの張り詰めた表情を更に引き締めながら背筋を伸ばし、こちらに顔を向けた。

「いくら妖怪石を採ろうが、それほどの金は貰えるはずがない。その金はどうしたんだ?」

「僕、妖怪石を3つ採ってきたんだ」

「な・・・」

金の小判をポケットにしまって箸とお椀を持って食事を再開させるが、沈黙が流れた空気に何となく若干の重さを感じた。

「3つだと?・・・たった1人で、その身形で、如何様にして3つも採ったのだ?」

「妖怪を斬ったら、別の種類の妖怪が来て、その妖怪も斬ったら、元々居たのと別に来た妖怪の親玉が来たんだ。それで親玉の首を落として採った妖怪石を海で洗ってたら、また妖怪が来たからその親玉も呼び寄せて、3つになったんだ」

手振りを交えて説明すると、3人は言葉に詰まりながらただこちらを見ているだけだった。

「斬ったら来たなどと、よくもまあ簡単に言ってくれるな」

気を落としたような口調で口を開いたジョウノシンはゆっくりと箸とお椀を手に取った。

確か修練番さんが、虎の名を持ってる人なら1つは取れるって言ってたな。

「虎の名を取って2、3人でやれば、妖怪石くらい取れるでしょ?」

「何ぃ?」

声を上げたセンガンヨウは睨みつけるような鋭い目つきでニヤつきながらこちらに顔を向ける。

「虎の名を貰うのがどれだけ大変か知らねぇだろ?いいか?まずすべての修練所の師範から貰った推薦の文を奉行所に持ってってだな、そこで下された10日修行の命をこなして初めて虎の名を貰えるんだよ」

「そうか」

修練所の師範とやらがどれだけのものかが問題か、いや10日修行とやらもそれなりに大変なのかな。

しかし自慢げに話していたセンガンヨウは腕を組むと、少し不安げな表情で小さく首を傾げた。

「おれ達ゃここの修練所の師範から推薦の文を貰えりゃ、晴れて10日修行の命が下されんだが、その10日修行ってのが、地獄のようなものらしい」

「どんなことをやるのか知らないの?」

「あぁ、口外は禁止されてるからな」

師範と戦うより、10日修行とやらが厳しいのか。

鷹とか龍はもっと過酷なのかな。

しばらくして食事が終わり、修練番の女性と共に修練所の建物を出ると、修練番の女性はすぐに入口の前の提灯に灯を点し、すでに日が落ちているにも拘わらずベンチに腰を掛ける。

「それで、翼を生やして胸に赤い宝石を着けた者だったね」

「知ってるの?」

すると脚を組んだ修練番の女性は何かを思い浮かべるように夜空を見上げる。

「ここから北にあるゲンコウって下町と、東にリュウソウっていう港町があんだけどね。その2つの町が異国人に攻められたんだよ。それでその異国人ってのが、天狗の身形をした狼男なんだよ」

・・・何だ違うじゃん。

確かに翼は生えていそうだけど。

すると修練番の女性は気楽そうに表情を緩めて微笑み出す。

「異国には奇妙な奴が居たもんだね、まったく」

「胸の赤い宝石は?」

「妖怪石だろ?」

・・・あれ?

「妖怪石って頭にあるんでしょ?」

「んー、見慣れない甲冑の胸に、妖怪石の装飾が施してあるそうだよ」

条件は合ってるけど、堕混の可能性は低いな。

「そうか」

ふと沈黙が流れると、修練番の女性はこちらに顔を向け、黙って手を差し出してきた。

「情報科は200文だ」

どれで200文かな?

金の小判を取り出すが、修練番の女性は首を横に振りながら、ベルトに結んだ銭に指を差した。

こっちか。

紐でくくった何十枚もの銭を渡すと、修練番の女性は1番大きい形の銭を2枚取った。

「2枚で良いの?」

「何かを買うときゃ、こっちを使いな。むやみに両なんて出すんじゃないよ」

「そうか」

・・・両?

1両って単位なら聞いたことあるな。

ということは金の小判が1両なのか。

他に情報を捜すより、翼に赤い宝石は同じみたいだからそれについてまだ情報を集めるか。

「じゃあ、その狼男って今どこに居るか分かる?」

「いや、逃げ足も速い上に、妖術を使うからね。とてもどこに逃げたか分からないみたいだよ」

「そうか」

・・・妖術?

じゃあ妖怪なのかな。

「狼男を調べたいなら、ジャクヨクの修練所に行ったらどうだい?」

「どっちに行けば良いの?」

すると小さくため息をついた修練番の女性は夜空を見上げながらゆっくりと立ち上がる。

「南だよ。じゃああたしは修練所に戻るけど、あんたはどうする?金くれるなら、また修練所で寝かせてやるよ?」

・・・こんな暗いんじゃ、ジャクヨクとやらに行っても、まだ誰も居ないだろうな。

「そうさせて貰うよ、いくら?」

「明日の朝餉も入れて、100文だよ」

高いのか安いのか分からないな。

修練所の部屋に入ると修練番の女性はすぐに部屋にある提灯に灯を移し始めたので、適当な場所に座っていると、布団を敷き終えた修練番の女性はまるで1人で過ごしているかのように提灯の灯を消してすぐに布団の中に入っていった。



朝日が昇った頃に窓から顔を出し、何となく外を眺めてみる。

この世界の海とやらもしょっぱいのだろうか。

それにしても、あの毛皮の生えた人間も堕混になるなんてな。

「そっちはもう用は済んだんでしょぉ?早くあっち行けばぁ?」

「ううん、バードに何かあったらあれだし、一応居るよ」

・・・あのバードという女性も、ラビット達の仲間のようだな。

「そお?まあレテークちゃんも新人だしねぇ。保険があるなら助かるわぁ?」

「見てる限りは危なっかしいけど結局上手く行ってるし。本当に危なくなったときだけ手伝うよ」

優しい目つきで頷きながらバードはレテークに顔を向ける。

やっぱり基本的にはお金を稼がないとダメなんですね。

ありがとうございました。

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