オーガニゼーション・アクティビティーズ4 ドア・イズ・オーペンド・クワイエットリー
「へぇー、思たより簡単なんやね、覚醒て」
「まぁ、戦いの場じゃ難しくないけどね」
柱の横にある扉が開く音がしたのでユイと共に目を向けると、慌てた様子で扉から出てきたのはカイトウだった。
「お、おお、氷牙、悪いけど加勢してくれ」
「あぁ」
カイトウに連れられて扉を抜けると、すぐさま気を失ったように左手の壁にもたれ掛かる、赤のメッシュを入れた男性とミシェルが目に入った。
目立った外傷は無いみたいだけど。
壁の角を曲がったときに広い空間の中でシキが立っているのが見えると、シキは体に風を纏わせながら神王会の人と思われる人達と対峙していた。
「シキ」
シキの隣に立ちながらその人達を眺めると、シキと対峙している人達はやはり全身を白い鎧で包んでいた。
「お、氷牙やないか」
疲労感は感じるがそれほどダメージは受けてないように見える。
「本拠地の方は話がついたから、とりあえず撤退しようよ」
「何でやねん、拠点は潰すんやろ?」
そういえば、この拠点は神王の指示じゃないのか。
なら警告として意味付けることが出来るな。
「じゃああとは僕がやるよ、シキは下がってて」
「何でやねん、俺はまだ戦えるで?」
シキが居たんじゃ、狭くて氷王牙が使えないんだけど。
・・・まぁ良いか。
「翼解放」
こちらに目を向けたものの、シキは驚く様子もなくすぐに目を逸らした。
「何やねん、お前もか」
・・・何の話だろ。
両手に光と闇の紋様を纏った紋章を出し、光と闇を纏った氷弾を撃ちながら、シキと共に神王会の人達を撃破していった。
建物もある程度破壊してから翼を消し、組織への扉に向かって歩き出す。
「氷牙、さっきのは鉱石で手に入れた新しい力なんか?」
「そうだよ」
応えながらミシェルを抱き上げ、赤のメッシュを入れた男性を抱える2人と共に神戸の組織に戻る。
気を失った2人をそれぞれ椅子に座らせると、カイトウは急ぎ足で柱にあるものとは別に壁につけられている方の扉を抜けていった。
「この前、大阪でテロが起きたんやけど、そん時に一緒に戦こうてくれた姉ちゃんが、さっきの氷牙と同じ姿やったんや」
・・・また別の堕混か堕天使が出たのか?
「そうか」
でも一緒に戦ってくれたなら、侵略目的で来たってことにはならないのか?
「聞いたんやけどなぁ、どうも忘れてもうてなぁ。確か外人みたいな名前やったのは覚えとんのやけど」
外人みたいな名前?
まさかハオンジュじゃないよな。
「その人、もしかして緑色の光を電気みたいに身に纏ってた?」
「おうおう、何で知ってんねや、氷牙の知り合いなんか?」
ハオンジュが大阪でテロ鎮圧?
根は悪い人じゃないのかな。
「知り合いだよ、ハオンジュでしょ?」
「そうやったぁぁ」
頭を抱えながら大きく天を仰ぐシキを、ユイは冷たい眼差しで見つめている。
「そうやったやないわ、ほんま。せやから何ナンパしてんねんっちゅう話や」
しかしシキは反省するような表情をまったく見せず、何食わぬ顔でユイを見る。
「1人で戦こうてるみたいやから、仲間にならんか?聞いただけやないか。それに、ちょっとタイプやったし、一石二鳥やろ」
「ほら見てみい、下心満々やないかい」
ふとミシェルの方を見てみると、1人の知らない男性の手によってなのか、すでに2人共意識を取り戻していた。
ハオンジュか。
あんな力を手に入れたなら、今度こそ侵略を始めるかも知れない。
もし異世界中に散らばる堕混が皆ハオンジュみたいになるなら、やはり異世界に行って堕混を捜そうか。
「いやぁ、足手まといになってしもたな」
「まぁええて、氷牙が加勢したんやし、結果オーライやろ」
赤のメッシュを入れた男性と同じように気楽そうな口調でシキが応えると、赤のメッシュを入れた男性はおもむろにこちらに顔を向けた。
「氷牙が居いひんかったら終わってしもてたわ、ありがとうな」
「あぁ。じゃあシキ、また何かあったら呼んでよ」
赤のメッシュを入れた男性に応えた後に立ち上がりながらそう言うと、シキは少し戸惑うような表情を見せた。
「もう帰んのか?」
「ちょっと用があるからね」
「そうか、ほなな」
シキが手を挙げたときにユイが立ち上がると、微笑みながらこちらに歩み寄ってきた。
「大阪まで送るよ」
「そうか」
ユイと共に大阪の組織まで行き、扉を閉め、オーナーに行き先を変えて貰ってから再び扉を開けると、ユイは笑顔で手を振り出した。
「ほなまたね」
「あぁ」
いつも通りおじさんの部屋を抜けて会議室に入るがそこにはユウジとアキの姿は無く、マナミとミント達の3人が居るだけだった。
「ユウジは?」
「あっちの部屋だよ」
マナミが笑顔で指を差した方に目を向けると、その壁には開けたことのない扉が作られていた。
「そうか」
前に見たことはあったけど、一体どんな部屋に繋がってるんだろう?
部屋に入るとすぐにソファーに座っているユウジとアキがこちらに顔を向けた。
広さは会議室と同じくらいかな。
「あぁ氷牙、大阪の用は済んだの?」
「あぁ」
だけど会議室と違うのは、低い透明なテーブルには椅子ではなく、L字のソファーが2つ囲んでいたことだった。
ユウジと向かい合うようにソファーに座るとユウジは立ち上がり、壁際に寄せられたホワイトボードをソファーの近くに引き寄せる。
「ここも会議室なの?」
「ううん、まぁ、簡単に言えば研究室みたいなものかな」
ユウジは何やらニヤつきながら応えたので、ふと周りを見渡してみると部屋の角には見知らぬ機械が置いてあった。
「そうか」
「まあとりあえず、氷牙のことで来たメール内容がこれだよ」
・・・結局はすべてが力を貸して欲しいという内容だな。
「極力依頼には応えたいけど、異世界に行くのを優先したいから、もっと具体的に内容を聞いて、緊急性が高いかどうかをユウジの方で判断して貰えないかな?本当にヤバそうなのだけ僕が行くから」
「分かった。じゃ、メールで聞いてくる」
微笑みながら頷いたユウジはコーヒーを一口飲んでから立ち上がり、研究室とやらから出ていった。
「異世界から帰るのってどれくらいかかるの?」
「分からないけど、目的はなるべく速やかに達成させるつもりだよ。過去2回共、2週間はかかってなかったかな」
「うーん」
1つのメールのメモを見ると、送り先の組織がイングランドと書かれていた。
・・・海外にまで、評判が広まってるとは思えないな。
もしかして、テイラーかな?
ふと視界に入ったものを見ると、また別の角にはホールにあるものと同じようなコーヒーとホットミルクが出る機械があった。
「氷牙が行かないってなったら、悪い噂が流れたりしないかな?」
「ノブのチームを回せば良いんじゃない?」
「うん、そうだね」
アキは落ち着き払った表情で頷くと何かを察知したように扉に目を向けたので、アキに続いて扉に目を向けたときにちょうど扉が開き、ユウジが部屋に入ってきた。
「全部のメールに返信したら、すぐにイングランドからメールが来たよ。今すぐ来て欲しいってさ」
まぁ、良いか、テイラーは知り合いだし。
「そうか。じゃちょっと行って来るよ」
「行くの?異世界は?」
すれ違い様にユウジは驚くような声で聞いてくる。
「多分イングランドは前に行ったことがある組織だと思うし、僕の評判とは関係ないんじゃないかな?」
「そっか」
「氷牙君、イングランドに行きますか?」
「あぁ、前に使った自動翻訳機貰える?」
「はい、2つで良いですか?」
「あぁ」
奥の扉を抜けるとやはり前に行った組織みたいで、扉の閉まる音に気づいたテイラーがすぐにこちらに駆け出してきた。
軽く抱きしめて両頬にキスをしてきたテイラーは何か喋っているが、理解が出来ないので翻訳機を1つテイラーに差し出すと、テイラーは慌てた様子で素早く翻訳機を耳に着ける。
「何かあった?」
「今、海賊に襲撃されています」
・・・今?
「どこで?」
緊迫した表情で喋るとすぐにテイラーが駆け出していった。
「ついて来て下さい」
また屋上かな。
屋上に上がるとテイラーは何やら海の見える方へ指を差した。
・・・確かに船が3隻見える。
中央の船は左右の船の2、3倍といったところだろうか。
「このままじゃ、この建物も危ないです」
「ジェイクとゲイルは戦ってるの?」
「はい、でも船では近づけないので、とても厳しい状況です」
海岸沿いはすでに焼け野原みたいだな。
船からは砲弾ではなく、隕石のように巨大な火の玉が発射されていて、火の玉は岸に当たる度に爆炎を立ち上らせるほどの爆風を見せている。
「船は、全部沈めて良いの?」
するとこちらに顔を向けたテイラーの眼差しからは、期待を寄せるものの中に、少しだけ恐がるような表情が混ざっているのを感じた。
「そんなことが出来るんですか?」
「出来るよ、多分」
半信半疑のような表情だが、テイラーは頷きながら小さくニヤつく。
「じゃあ、私はジェイクとゲイルに伝えて来ます」
「あぁ、皆に帰ってくるようにね」
テイラーは小さく首を横に振りながら笑みを浮かべると、背後に透明感のある上半身だけの巨人を出現させて屋上から飛び降りて、浮遊するように飛んで行った。
絶氷牙を纏って上空に飛び上がり、極点氷牙に続いて氷王牙を氷結させる。
そして掌の前に紋章を出し、中央の船に向けながら紋章の前に紋章を5つ、間隔を広げて縦に列べる。
まずはこれくらいかな。
「蒼満月」
氷の弾が紋章をくぐる度に膨張するが、膨張する度に弾速も倍になっていき、瞬く間に氷の弾は中央の船に激突する。
その瞬間、一瞬で霧が広がるような爆風が船を包み、同時にそれは波を生み、水しぶきをも凍らせながら、その空と海に反射する青白い爆風は瞬時に左右の船にも手を伸ばし、その船体を呑み込んでいく。
爆風が収まると、中央の船の帆柱は倒れかけた体勢で固まっていて、裂かれた船体は空を向き、沈みかけたままの状態で氷漬けになっていた。
・・・おっと、逆に沈ませられなかったか。
ブースターを噴射しながら船の近くまで行き、白龍牙を出して槍の根本に紋章を出す。
「白龍ノ息吹」
氷の槍を弾丸のように飛ばして中央の船を砕き、更に左右の船にも氷の槍を撃ち込んでいく。
やがて氷河の一角のような氷の大地は音を立てて崩れ去り、3隻の船もろとも海に沈んでいった。
こんなものかな。
組織の屋上に向かって飛んで行くと、屋上にテイラーの背後の巨人が手を振っているのが小さく見えたので、絶氷牙に戻りながら屋上に降り立った。
鎧を解くとテイラーも背後の巨人を消し、すぐに安心したような表情で駆け寄ってくる。
「氷牙は本当にすごいです。素晴らしいです」
「そうか」
「下で彼らが待ってます。行きましょう」
テイラーと共にオーナーの部屋に戻ると、ジェイクやゲイル、他の仲間も皆すでに集まっていた。
真っ先にジェイクがこちらに歩み寄り、手を差し出してきたのでジェイクの手を掴むと、ジェイクの掛け声に合わせて部屋の空気が一気に歓喜に包まれた。
随分と盛り上がったな。
まぁ海賊って言ってもテロ組織みたいなものだし、無くなれば喜ぶべきことなんだろう。
ジェイクが手を放すとこちらに顔を向け、嬉しさを手振りで表しながら喋りだした。
「ジェイクも氷牙を素晴らしいと言っています」
「そうか、ありがとう。じゃあ僕はこれで帰るから、また何かあったら呼んでよ」
するとテイラーは小さく首を横に振りながら、引き止めるような声色で喋り出した。
「もう帰るんですか?2度も助けて貰ったので、何かお礼します」
「そうか。でも今は急いでるからお礼は今度でいいよ」
落ち着いた笑みを浮かべたテイラーは頷きながら翻訳機を渡してきたので、皆に見送られながらおじさんの部屋に戻った。
「お帰りなさい」
「あぁ」
翻訳機をおじさんに返し、会議室を通って研究室に戻ると、こちらに目を向けたユウジはいつもの呑気そうな笑顔の中に戸惑いを見せた。
「速いね」
「まあね、じゃあちょっと異世界行ってくるよ」
「うん」
おじさんの部屋に向かう途中に不意に呼び止められたので振り返ると、ミントとライムが少し思い詰めたような眼差しでこちらを見ていた。
「氷牙、これから異世界に行くの?」
「あぁ」
少し寂しげにも見える眼差しでこちらを見ていたミント達だが、すぐに安心させるような微笑みを浮かべて見せてくる。
「気をつけてね」
「あぁ」
手を振るマナミを見ながらおじさんの部屋に入ると、すぐにおじさんが椅子を回してこちらに体を向けてきた。
「どうかしました?」
「ちょっと異世界に行きたいんだけど」
おじさんはすぐに理解したように小さく頷く。
「一応理由を聞いても良いですか?」
「堕混を捜す旅かな」
「あの・・・」
あれ?いつもならすぐにキーワードを聞き始めるのに。
「よろしければ、そのダコンがどういうものが教えて貰えますか?」
「あぁ・・・」
おじさんが興味がありそうな表情をしたのは初めて見たな。
「最初に行った異世界で、反乱軍が生まれたんだ。その反乱軍の主力部隊を堕混って言うんだけど。次元を越えて侵略してるみたいだから、任務もあるし、一応捜そうと思って」
「そうですか。次元が越えられるのは、そのダコン特有の力なんですか?」
そんなに興味があるのかな?
「いや、黒幕は人間で、その次元を越えられる力を持った人達が、堕混を作ったみたいだよ」
「人間ですか・・・」
おじさんはまるで何か心当たりがあるかのような落ち着いた表情で、小さく頷いている。
「そのダコンは、反乱軍にしか居ないんですか?」
「いや、2回目に行った、別の異世界の人も堕混になったよ。でもその堕混は、今までの堕混なんかとは次元が違うような更に強力な姿になったけど」
「そうですか」
まるで何かを理解したかのような落ち着き払った表情で頷くと、おじさんは小さく微笑みを浮かべ、いつもの仕事をするような固い表情に戻った。
「すいません、色々聞いてしまって。それじゃキーワードを言って下さい」
「あぁ、サムライ、で」
・・・やっぱり、おじさんは何か知ってるのかな?
「・・・繋げられましたので、どうぞ」
「あぁ」
奥の扉に向かい、ドアノブに手をかける。
「氷牙君」
「ん?」
「もしダコンのことについて新しいことが分かったら、私にも教えて貰えませんか?」
そんなに堕混について興味があるのか。
「分かった」
薄暗い通路だけの空間に入り、霧で出来たような壁のゲートに向かう。
あんなに瞬殺されて、海賊も可哀想ですね。笑
ありがとうございました。




