自然を愛す人
これまでのあらすじ
シキからとある組織の存在を知らされた氷牙。その神王会という組織について調べていく内に反勢力の存在を知り、氷牙は神王会の本拠地に単身で乗り込むことを決意する。
そう言われればそうか。
「でもさすがに反勢力の人達は、淡路島には行かないんじゃない?」
ユイは箸を止めて話を聴き入っているが、シキは黙々とチャーハンを食べている。
「能力者やったら行けるんやない?確か反勢力のリーダーが能力者言うてへんかったっけ?」
「能力者だけど、鉱石使って能力者になったみたいだから、シールキーは持ってないんだよ」
落ち着いた表情でゆっくりと頷いたユイは箸を動かしながらすぐにラーメンに目線を戻す。
「一般人に出回っとるんなら、鉱石のこと警察は知っとるんちゃうか?」
「知られてるとしても、国が管理仕切れないほどあるみたいだし、大丈夫なんじゃない?」
掘ってもまたすぐに出てくるみたいだしな。
「そうかぁ、もう俺らだけやないんやな能力者て」
しばらくして一旦おじさんの部屋に戻ったとき、ちょうどおじさんが警察への援軍要請のアナウンスをホールに流した。
暇だし、出ようかな。
おじさんの部屋で待っていると、会議室への扉を開けて部屋に入ってきたのはヒロヤと知らない男性だった。
「おお氷牙」
「僕も良いかな?」
こちらに歩み寄りながらヒロヤは初めて見るほどの力強い笑みを浮かべる。
「あぁ。オーナー、特徴はあるか?」
「はい、3人組だそうです」
扉を開けるとそこは動物園に繋がっていて、すぐに見えた逃げ惑う人達が緊迫感を表していた。
「そうだ、こいつは、千葉のとこからオレらのとこに移住してきたんだ」
喋り出したヒロヤが顎で男性を差すと、若干内気そうな印象を受ける男性は軽く頭を下げる。
「オカダタイチです」
「どうも氷牙だよ」
ヒロヤの扱いからみてヒロヤよりは年下だろう。
ミサと同じくらいかな。
タイチは何かを言いたそうな眼差しでこちらを見ているが、ヒロヤが軽く駆け出したので気に留めずにヒロヤの後に続いた。
・・・確か3人組だったな。
3対3なら、そこまで本気ださなくてもいいか。
「あいつらだな」
動物園の檻を壊しながら暴れ回る3人は、ふとこちらに目を向けると動きを止め、狙いを定めるかのような佇まいでこちらを見据え始める。
「行くぜ」
ヒロヤは1本の日本刀のような光の剣を出すと、続けて体全体に光を纏い始める。
体を纏った光はすぐにスーツのように体を覆ったが、細い瓦を並べたような凹凸が現れ、何となく戦国時代の武将が着るような鎧を思わせる形を成した。
「覚醒?」
「あぁ」
素早く応えたヒロヤは前に歩きだし、3人の動きに備えるように身構える。
そんな中、タイチが何やらポケットから玩具のバイクを取り出し、それを宙に投げると、その瞬間に玩具のバイクはみるみる巨大化して本物と同じ大きさになる。
まさか、それに乗って突撃するんじゃ・・・。
すると宙に浮いているバイクは瞬く間に形を変えていき、何となく縦に伸ばしたような形になる。
そしてタイチはおもむろにそのバイクを持ち、まるで剣を持つかのように構えた。
なるほど、レンみたいな感じか。
2人とも剣なら、僕も。
「翼解放」
翼を広げながら鎧を纏うと胸元から剣を取り出し、ヒロヤの隣に立つ。
「何だお前それ」
「まぁ、新しい力にも慣れたいしね」
少し戸惑うように頷いたが、ヒロヤはすぐに表情を引き締めてテロリストに向かって走り出した。
見た目は重そうだけど、やはり逆に速く走れるみたいだな。
2人のテロリストが各々ヒロヤとタイチに向かい始めると、最後の1人が背中から2本の巨大な腕を生やしながらこちらに向かってきた。
そして素早くその巨大な腕で殴り掛かってきたので、掌の前に紋章を出しながら掌と紋章の間に光と闇の球を作り出す。
光と闇の球を飛ばすと、光と闇の球は紋章をくぐり抜けると同時に青白いオーラを纏い、突き出される前の巨大な拳に瞬時に着弾した。
すると白い光と黒い風、そして青白い氷の破片の爆風が一瞬にして目の前の視界を覆った。
・・・なるほど、威力は氷弾の2、3倍かな。
「くそぉ・・・」
テロリストの男性は片膝を着き、強い眼差しをこちらに向けているが、右肩から生えた巨大な腕は力無くうなだれていた。
「そんなものか」
「あ?ヒョウロウだか何だか知らねぇけど、調子に乗るなよ」
立ち上がった男性の表情が怒りで更に歪むと、腰回りの背中から更にもう2本の巨大な腕が生え始める。
すると力無くうなだれていた巨大な腕にも覇気が戻り、男性が走り出したと同時に4本の巨大な腕が後ろに引き下げられた。
「死ねえぇっ」
拳を握る軋むような音の後に一斉に4本の巨大な拳が、こちらを挟み込むように振り回されたときに掌を前に出す。
紋章を2つ前に出しながら光と闇の球を作り出したとき、氷山に亀裂が入るような轟音が横から響き、一瞬にして視界の両端が亀裂の編み目に覆われた。
「くっ」
そしてこちらを睨みつける男性の動きが止まった瞬間に、男性の腹に紋章を2つ通した光と闇の球を撃ち込む。
その瞬間、白と黒と青の3色の巨大な爆風の中に、水しぶきのような鮮やかな赤い色が混ざったように見えた。
・・・やり過ぎたかな。
あ、剣使ってないや。
剣は消してヒロヤの方に近づいていったが、タイチが後ずさりしているのが目に入ったので、何となくそちらの方に向かった。
こちらに顔を向けたもののタイチはすぐにテロリストに目線を戻し、前方に駆け出しながらその変形したバイクをまるで木刀のように振り下ろしていく。
「手伝おうか?」
「あ、あぁ」
攻撃をかわされ後ずさりしたタイチは変形したバイクを再び構えるが、その眼差しは真っ直ぐテロリストに向けられていた。
テロリストは動き回るタイプじゃないのか。
再びバイクが振り下ろされたときにテロリストの男性の振り上げられた拳が瞬時に握り拳ほどの銃口に変化すると、爆音と共に変形したバイクは上に弾かれる。
するとまるでボクシングの動きのように、間髪入れずにテロリストの男性が小さな銃口に変形した方の拳を前に突き出す。
走り出したがすでに銃声は響き、銃弾はタイチを貫いていたので、テロリストの男性が別の動きを出す前にとっさに光と闇の球を男性に飛ばした。
「ぐぁっ」
「・・・くっ・・・ふっ・・・」
早くマナミを呼ばないとな。
後ずさりしながらも銃口に変化した拳をこちらに向ける男性に、すぐさま紋章を通した光と闇の球を撃ち込む。
「ヒロヤ、マナミを呼んで」
「あぁじゃ頼む」
ヒロヤと立ち代わってテロリストの女性の前に立つと、全身に蔦を絡ませた女性はまるで知ってる顔を見たかのように小さくニヤつき出す。
「ヒョウロウはどう思う?檻に閉じ込められた可哀相な動物達のこと」
動物愛護の組織みたいな感じかな。
「だから檻から逃がそうと思ったの?」
「人間も、支配者という檻から逃がさないとね」
女性が手を前に突き出すと手首から無数の太い蔦が飛び出してきたので、胸に手を当てて剣を取り出す。
「いつもと違うね」
「まあね」
光と闇を剣に纏わせながら蔦を切り落としていくが一向に蔦が止む気配が無いので、光と闇の球を女性に向かって撃ち出す。
しかし女性の足から地面を這っていく蔦が空に向かって伸び上がると、絡まった蔦は壁のようになって女性を守った。
最近のテロリストは一筋縄じゃいかないな。
回り込みながら紋章を女性に向けると、女性はまるで地面に根っこを生やしたかのように佇んだままだが、勝手に動き回る蔦がすぐに壁を作り出す。
ちょっと厄介だな。
ならでかいの出すか。
紋章を2つ通した光と闇の球を撃ち出すとそれは当然の如く蔦の壁に当たるが、爆風は蔦もろとも瞬時にテロリストの女性にも襲い掛かった。
「ぎゃっ」
細い木の幹が折れたような音の後にテロリストの女性の姿が見えるが、すでに女性は意識を失い力無く倒れていた。
「もしかして、氷牙君、ですか?」
振り返ると北村は翼や鎧を食い入るようにこちらを眺めていた。
「そうだよ」
驚いてはいるようだが、北村は少し照れ臭そうに笑みを浮かべている。
「いつもと違いますね、でも、この方が話し易いですよ、表情も見えるし」
「そうか、じゃあ、テロリスト頼んでいいかな?」
「はい」
敬礼をした北村は制服警官と共にテロリストを拘束していったのでタイチの下に向かうと、タイチはヒロヤの手を借りて立ち上がり始めていて、ヒロヤの横にいるマナミがこちらに手を振っていた。
翼を消すと笑顔になったマナミがゆっくりと歩み寄ってきて、タイチも安心したような表情でこちらを見ていた。
「さっきの姿、カッコイイね」
「そうか」
「でもマナは、尻尾を生やした方が可愛くて好きかも」
組織に戻って会議室に入ると、マナミを笑顔で迎えたミント達とは別に、不安げな表情でタイチを迎えたミサが居た。
「ちょっと無茶しないでよね」
「あぁ。でも、すぐに氷牙がフォローしてくれたから」
タイチがこちらに目を向けるとミサもこちらを見るが、ミサはすぐに目を逸らしてマナミに顔を向ける。
「マナミ、ありがとね」
「うん」
マナミが応えるとミサはすぐにタイチを連れて会議室を出ていった。
「何だ?何か様子おかしくないか?」
ヒロヤがホールへの扉を見ながら口を開くと、マナミも小さく首を傾げてヒロヤを見ていた。
ホールに入ってホットミルクを注いでいると、レベッカが隣に立ち、コーヒーを注ぎながらこちらに微笑みかけてきた。
「氷牙も夏休みなの?」
「いや、夏休みは、学校に行ってる人にあるものだよ」
「ふーん」
レベッカと共にテーブルに向かい椅子に座ると、タイチとミサがちらちらとこちらを見ながら話しているのが目に入ったが、気にすることなくゆっくりとホットミルクを口に運んだ。
「ナナハから連絡来たよ、皆無事だ」
やっぱりサキジマも通信機持ってるんだな。
「そうか、そういえば、ユサは?」
・・・まぁ手加減はしたけど。
するとサキジマは小さくため息をつきながら首を横に振った。
「居なかった。多分逃げたんだろう。もう入って良いぞ?」
階段を下りて鉄の扉を開けて中に入ると、そこは数時間前の惨劇が嘘かのように綺麗に片付けられていた。
確か天井が1枚落ちていたはず。
「どうやって、綺麗にしたの?」
するとサキジマは木箱に腰を掛けながら少し自信の伺える微笑みを浮かべた。
「元々、この部屋はオレが作ったんだ、だから直すのも訳ないんだよ」
「そうか」
・・・恐らく能力者とやらの力なのだろう。
「んで?今日はどうすんだ?昼飯はもう食ったし、戻ってきたって何かすることあんのか?」
「いや、今日はもう無いな・・・爪痕を残すのは明日だからな、乗り込むのは予定通り明日だ」
・・・なら、強くなった力がどんなものか見てみようかな。
「ちょっと外に行く」
「あぁ」
少し落ち込んだような返事をしたサキジマを見ながら住み処を出て階段を上がり、大きな倉庫に入り荒んだような空気の中央に立って周りを見渡す。
ここで良いかな。
「翼、解放」
ほとばしるプラズマと光と闇のオーラを纏いながら翼が広がるが、特別変わったようなことが起こるような気配は無い。
もし、翼を解放した時点で何かが起こるなら、さっきも何か起こるはずだし。
「よぉ」
「ドラゴン」
何となく真剣な眼差しを感じる表情のドラゴンは、少し離れた距離に立ってこちらを見ていた。
「とりあえず、エニグマみたいに、巨大化をイメージしたら良いんじゃねぇかな」
・・・巨大化か。
私、巨大化するのか。
「私、あんな変な生き物になるの?」
「別にエニグマの血を入れた訳じゃねぇよ、あれはあくまで巨大化のデータ集めだからな」
するとドラゴンは呆れたような表情で小さくニヤつき出した。
「お前、今更になって外見気にしてんのかよ」
「そ、そんなことない」
「まぁなるとしたら、その赤い宝石の持ち主には似るんじゃねぇか?」
・・・持ち主?
「それってどんな人?」
「人じゃねぇよ、まぁとりあえずやってみろって」
・・・とりあえずって・・・。
仕方ないか。
体を少し屈めて全身に力を入れた瞬間、プラズマがほとばしる音が響き出し、一瞬にして視界が緑の光に包まれた。
ゆっくりと目を開けてみると、すぐに見渡している景色が少し広くなったのが分かった。
どうやら身長は伸びたみたいだ。
ふと自分の手を見ると、それは明らかに人間のものではなかった。
爪は鋭くなり、色も少し灰色がかっていて、肌というよりは鱗のようなもので覆われていた。
軽く跳びはねると、足音と共に少しの振動が倉庫全体に響いた気がした。
「おいっ何だ急に」
振り返るとドラゴンが驚きの表情でこちらを見上げていた。
「ちょっと癖で。それよりドラゴン、小さいね」
「いやお前がでかいんだよ」
そういえば、鏡が無ければ自分の姿が分からないじゃん。
ヒロヤは少なからず氷牙の全身の鎧を参考にしたそうです。流行ってるんですかね、笑
ありがとうございました。




