ヒー・イズ・ステイング・アヘッド・オブ・アンガー
これまでのあらすじ
オオサカでジンオウカイという組織の存在を知ったハオンジュ。勢力争いに巻き込まれないように本拠地であるミヤザキに来たが、ひょんなことからジンオウカイの反勢力の用心棒を任されることになる。
「それじゃ、またすぐにね」
「うん」
住み処への目印になる大きな倉庫でナナハを見送り、目立つように倉庫の真ん中に立って怪しい奴に後をつけられてないかを待伏せる。
・・・一応翼を解放しておこう。
「・・・ちっ・・・待伏せか」
あ、本当に来た。
懲りない奴らだ。
「あいつが報告にあった2人の新入りだろ?」
「はい」
「まあ相手は女の方だけだが、気は抜くな」
すると3人は各々形の違う白い鎧に全身を包む。
こいつらみたいな奴って、一体何人くらいいるんだろう。
「よぉ」
突如声がした方に3人が目を向けると、倉庫の入口には気の抜けたような微笑みを浮かべて立っているドラゴンの姿があった。
いつの間に。
「ちっ・・・退くぞ」
逃げるなら変身する意味無いじゃん。
翼を消すと歩き出したドラゴンはふと少し真剣な表情を見せてきた。
「ほら」
手渡されたものを見てみると、それは進化薬と同じような色の液体が入った蓋のついた小さな小瓶だった。
大きな倉庫を出てから一際黒ずんでいて且つ1番目立たない細い道に入る。
「次も巨大動物に飲ませるの?」
「いや、飲むのは、お前だぜ?」
「え?私が飲むの?」
・・・この進化薬を、私が・・・。
「もし、失敗したら?」
「死ぬな」
目も合わさずにドラゴンは即答する。
・・・そんな。
進化薬に目を向けたとき、怖いというより、何故か寂しさのようなものが胸を締めつけた。
するとドラゴンが急に堪え切れなかったかのように笑い出し、からかうような目つきでこちらに顔を向ける。
「心配すんなって、それには前に採取したお前の血液をすでに混ぜてある。100%拒否反応なんて起きねぇよ」
「・・・そう、か」
・・・なら良いけど。
反勢力の住み処に入るとナナハが心配そうな表情で駆け寄って来たので、何となくすぐに進化薬をポケットの中に入れた。
「ハオンジュさん、ジンオウカイの人は来た?」
「うん、でも怖じけづいて逃げていったよ」
安心したような微笑みを浮かべたナナハと共に奥に進むと、リーダーが積まれた木箱から下りてこちらの方に歩み寄ってきた。
「ご苦労さん」
「うん」
するとリーダーは申し訳なさそうな表情を隠すように苦笑いを浮かべる。
「いやぁ、悪いな、いきなり用心棒やってくれだなんて」
「いいって、礼さえくれりゃあよ」
微笑みながらドラゴンが応えると、リーダーは自信に満ちた笑みを浮かべて親指を立てる。
「それなら任せてくれ、すべてが終わった後にしっかりと払うから」
少しして反勢力の人が集まると、真剣な表情に変わったリーダーが木箱に寄り掛かって皆を呼んだ。
談議が始まったのかな。
「おい」
小声で話しかけきたドラゴンに目を向ける。
「今のうちに進化薬飲んどけ」
「え・・・」
ちょっと、急だけど。
ゆっくりと進化薬をポケットから取り出すとドラゴンは更に目で訴えかけてきたので、進化薬を入れた小瓶の蓋を開ける。
ドラゴンは絶対に失敗しないって言ったけど。
小瓶の中で揺れる鮮やかな赤い液体を見ていたとき、急に頭の中にあの人の姿が浮かび上がった。
今度こそ、勝てるだろうか。
上を向いて口の中に進化薬を流し込むと、鉄を舐めたような舌触りの後にただの苦みと少しの酸っぱさが残っただけだった。
「まずい」
「そりゃ美味かねぇよ」
すぐにお腹の辺りから体中に熱が駆け巡り始めると、急激に体が重くなり意識が遠のいていった。
「そんなこと、ほんまに上手く行くんか?」
「まぁ、シキ達は混乱させるだけで良いから」
「そやけどやなぁ」
シキが悩むように腕を組んでユイに目を向けたのでつられてユイを見る。
やっぱりちょっと怒ってるのかな。
「・・・氷牙、1つだけ約束しいや」
・・・約束?
「あぁ、何?」
「絶対死なんといてや」
いくら神王会でも、堕混ほどの能力者は居ないだろう。
「あぁ」
小さく息を吐くと共にユイの強張った表情が緩んでいく。
「ほんなら、私達だけや無うて、他の組織にも協力させよか」
「そやな、神戸んとこにも連絡せんとな」
シキは席を立つとオーナーの居る方へと歩き出していった。
「この組織って、神戸の組織と同盟組んでるの?」
「んー・・・組織っちゅうよりは、私達とやな、別の派閥のもんは関わってへんし」
「そうか」
派閥があるのか。
・・・そういえばここに居ても他の人には会わないな。
「そうだユイ、反勢力の人が始める時間を掲示板に書くって言ってたよ」
「了解や」
微笑みながら応えたユイはすぐに携帯電話を取り出し、画面を指で軽く叩き始める。
「ほなユイ、行くで?」
「・・・え」
シキがテーブルに近づいてくるとユイは不意に顔を上げ、少し慌てながら席を立つ。
「・・・氷牙も連れてった方がええんちゃう?」
「そやな、氷牙、これから神戸の組織に行くで?」
「分かった」
オーナーのすぐ横にある扉を抜けると、そこは足の先が丸まったテーブルと、背もたれがしゃもじのような形に作られた椅子のセットがいくつか配置されているだけの部屋だった。
巨大なモニターが無いな、オーナーの部屋じゃないのかな?
「ミシェルちゃん」
ユイが小さく手を振りながら声をかけると、ユイの目線の先のテーブルにいる人達が一斉にこちらの方に顔を向ける。
すると1人の女性がユイに笑顔で手を振り返したので、2人と共にその人達のテーブルに近づいた。
「あれ?・・・氷牙やないか?あれ」
・・・知ってるのかな。
「うわあ、本物や」
テーブルを囲む人達のすべての目線がこちらに向けられると、ユイが不思議そうにこちらを見た。
「えらい有名なんやね」
「そうみたい」
確か前にニュースに映ってたしな。
ユイとシキが近くの椅子に座り始めたので、同じように近くの椅子に座りながら周りを見渡してみる。
巨大な四角形の柱が部屋の中心に建てられてるだけなのか。
「いきなり呼び出してどないしたんや?」
「あぁ、神王会のことについてや」
応えるシキの横顔にふと緊張感を感じると、場の空気と共に神戸の組織の人達の表情も少し引き締まったように見えた。
見渡す限りは柱と同じように正四角形の部屋みたいだ。
「調査したんやけど、やっぱり危なそうやから、今のうちに叩いとこ思てな」
神戸の組織の人達がお互いに顔を合わせると、すべての眼差しはやがて1人の男性に目が向けられた。
前髪を部分的に赤く染めているその男性は、まるで意思を委ねられるかのように他の人と目を合わせてから一際強い眼差しでシキに顔を向けた。
「そうか、ほんならいつや?やるんは」
「シキ、これや」
ユイがシキに携帯電話を見せると、受け取りながらシキは呆気に取られるような顔で携帯電話に釘付けになる。
「・・・何や、また暗号やないか、ああ・・・」
「ええわ、もう私がとっくに解いてあるわ」
「何やねん」
力が抜けたようにシキが天を仰ぐと、すぐにユイは携帯電話をシキから取り上げる。
「昨日、氷牙が神王会の反勢力のアジトに行って話をつけて来たんや。反勢力と私達が、神王会の拠点に同時に乗り込んどる間に、氷牙が本拠地に殴り込む言うてな」
赤のメッシュを入れた男性はユイからこちらに目を向けながら、少し嬉しさが混ざったような驚きの表情を見せる。
「おお、氷牙が味方なんか、そら心強いで」
「ほんでな、さっき、反勢力の人が拠点に乗り込む時間を掲示板に書き込んだんや」
小さく頷いた赤のメッシュを入れた男性は、落ち着いた表情に戻りながらユイの携帯電話を目で差した。
「それが今言うた暗号なんか?」
「そや、まあ暗号はええよ、内容は明日の昼の12時に乗り込むんやて。やからその間に私としては仲間を増やそ思とんのや」
すると赤のメッシュを入れた男性は引き締まった表情で力強く頷く。
「よっしゃ、ほんなら神王会に反感持っとる奴がおる、岡山の組織に声掛けよか。組織としては神王会のもんなんやが、それを逆手に使うたら拠点の場所を割り出せるかも知れん」
・・・スパイかな。
「まずは・・・あいつに話さんと、ほなちょっと待ちや」
そう言うと赤のメッシュを入れた男性は席を立ちながら携帯電話をポケットから取り出し、テーブルから離れていった。
反勢力の人はどこの拠点に行くのかな?
いつものように埃っぽい空気と澄んだ青空。
・・・今日は確かアレドゥ達と実戦訓練だったな。
建物から排気される蒸気が空を覆うほどの細い路地を抜け、砂利道の続く大きな中央道に出る。
・・・あれ?・・・今、アレドゥが居たような。
遠くに見えた後ろ姿を追いかけ、人波を掻き分けていく。
人が多過ぎる。
もう朝市の時間かな。
ようやく人の波を抜け、周りを見渡すが目の前には見覚えのある人は居ない。
ふと後ろを振り返るとそこにはヘイトが立っていて、いつものように誘うような目つきで笑っていた。
・・・またそんな露出度の高い服着て。
するとヘイトは何も言わずにこちらの体の向きを変えて背中を押してくる。
ちょ、ちょっと。
・・・あれ?あのお店は・・・。
椅子に座るとヘイトの姿は無く、すぐに他の客の話し声や、油が弾けるような音が耳に入ってきた。
そして目の前のテーブルには黒い鉄の板があり、その中央には・・・。
「お好み焼き?」
・・・あれ、おかしいな、さっきまで自分の街に居たのに。
ふと目の前が真っ暗闇になるとすぐに瞼の重みを感じ、聞こえていた音はすでに何もかも消えていた。
瞼を開けると薄暗い明かりに照らされた白い天井がすぐに確認出来た。
「あ、起きた?」
・・・ナナハ?
・・・夢、か。
「んん」
まだ体が少し重たいが、椅子に座っているナナハからは不安げな雰囲気は伝わって来なかった。
「急に倒れちゃったからびっくりしたけど、ドラゴンさんが充電期間に入っただけだって言ったから、私、ハオンジュさんが起きるまで待ってたの」
「そうか」
体を起こすと並べられた木箱に寝かされていたみたいで、とりあえず壁に背中をつけて深呼吸した。
・・・充電か。
「もう大丈夫なの?気分とか悪くない?」
「うん、大丈夫」
少し心配そうにこちらを見ていたナナハは、すぐに安心したように微笑みを浮かべる。
「皆は?」
「あっちの部屋に居るよ、あ、でもドラゴンさんは見回りだよ」
・・・今のところ体に変化は無いな。
巨大動物は皆起き上がってすぐ体が巨大化していったのに。
ふと夢で見たヘイトの笑顔が脳裏に浮かぶと、すぐにセイカの国に攻め込んだときの記憶が甦った。
そうだった、あの人は、ヘイトを殺したんだ。
・・・ヘイト。
「ハオンジュさん、何か飲むでしょ?」
「・・・あ、うん」
ナナハが部屋を出て行ったときに何となく部屋を見渡してみる。
壁はさっきの部屋と同じみたいだけど、さっきの部屋よりも随分と狭い。
まるで寝室みたい・・・あ、寝室か、ここ。
「ハオンジュさん、お水だよ」
「うん」
水を飲むと心の落ち着きを感じたが、すぐにあの人の姿が脳裏に浮かぶと共に、小さな怒りが涌き水のように溢れ出た気がした。
・・・だけどまずは、ジンオウカイが先か。
「ほんなら今から岡山んとこ行って拠点の場所探って来るから、ちょっと待っときいや」
赤のメッシュを入れた男性は気楽そうな足取りで中央の柱に向かうと、扉には向かわず柱の後ろ側に回り込んでいった。
「・・・岡山の組織に繋いでくれるか?」
反響して微かに聞こえてきた声の後に、赤のメッシュを入れた男性が再び回り込んできて扉のドアノブに手をかけた。
何だ、見えないだけでちゃんとオーナーは居るみたいだ。
じゃあやっぱり、ここはオーナーの部屋なんだな。
「ユイちゃん、ほんとに大丈夫なの?」
最初にユイに手を振り返した女性は、ユイを見た後に一瞬こちらに不安げな眼差しを向ける。
この人は関西弁じゃないのか。
「何がや?」
「いくら氷牙でも、神王会に1人で乗り込んだら危ないよ」
「大丈夫やて、無理せんと危なくなったらすぐ逃げる言うてるし、ね?」
女性に応えるとユイはニヤつきながら訴えかけるような強い眼差しを見せてきた。
「・・・まあね」
暴れ回るって言っても、聞きたいことを聞いて状況を見てからだしな。
どうやらハオンジュはお好み焼きが気に入ってるようですね。笑
ありがとうございました。




