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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第六章

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空を歩く

明らかに届かない距離感の中でもシンジは肘を引いて拳を握りしめるが、空を蹴るように足を振った瞬間、シンジはまるで地面を蹴ったかのような勢いで更に跳び上がった。

・・・何っ。

巨大な拳が視界を覆う直前、シンジの小さく口角を上げた表情がふと脳裏に焼きついた。

地面に降り立ちながらシンジを見ると、すでに黒い外殻の腕に戻しながら満足げな表情でこちらを見ていた。

「それが新しい力?」

「あぁ。オレも、ノブさんや氷牙みたいに、空中戦が出来るようにならないとって思ったんだ」

「そうか。それはそれとして、腕が大きい方が盾にもなるし、いちいち戻すこともないんじゃない?」

すると右腕に目を向けたシンジは若干照れを隠すように笑みを浮かべる。

「まぁ、何となく、こっちの方が体が軽く感じるんだ」

さすがにシンジ本人でも、やっぱりあれは重く感じるのかな。



「んじゃ、あれで良いだろ」

そう言って城が見える緑溢れる広場で巨大動物を前にドラゴンは進化薬をこちらに手渡した。

「別にいちいち私に渡さなくても良いんじゃない?目の前に居るのに」

「いやぁ、一応お前がやってるって報告してっからなぁ」

・・・変わったところで律儀みたいだ。

「ふーん」

木陰に佇む丸まった尻尾が特徴的な巨大動物に近づく。

足音に気がついたのか、巨大動物はこちらの存在を確認するとすぐに威嚇するように身構える。

そして巨大動物が動き出したとき、目の前で伸ばした指先からプラズマを光らせ、目を眩ませるように巨大動物の動きを鈍らせる。

その隙に素早く進化薬の針を巨大動物の脇腹辺りに突き刺した。

そして気を失って少し経つと、おもむろに起き上がった巨大動物の体が更に巨大へと膨らんでいった。

「・・・ほう、やっぱり進化薬自体はほぼ問題無いみたいだな」

巨大動物の成長が止まるとドラゴンがゆっくりと近づいていく。

「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」

そう言って転送筒を取り出したドラゴンは、すんなりとエニグマと共に姿を消えていった。

・・・何だか、一気に寂しい空気になったな。

自然が溢れる広場から、灰色の壁の建物が立ち並ぶ景色に戻ったときに、ふと先程の黒煙が頭を過ぎる。

・・・思いのほか火は広がってないみたいだ。

厳粛な態度で見物人達を見据える人の向こうには、倒れた高層の建物が無惨に横たわっている。

・・・テロというよりかは、単なるウサ晴らしだろうか。

「あ、ハオちゃん」

「・・・あ」

確かネットカフェで少し話した人だ。

「・・・サヨ?」

サヨは微笑んで頷いたがすぐに悲しそうな表情でテロが起きた場所に目を向ける。

「すごいことになっちゃったね」

「うん」

「そういえば、この前、ネカフェの真ん前でテロが起きたよね」

・・・確か青い炎を操る奴のことだな。

「うん」

その時にアカバネシキに会ったんだった。

「あたしちょっと見たけど、何か翼を生やした人がやっつけたんだよね」

アカバネシキは信用出来るかも知れないけど、やっぱりサヨみたいな喋り方の方が落ち着くな。

「店に居たの?」

「うん、夜だったけど、何か見たことあるような人だったよ」

バレてないなら・・・やすやすと言い触らさない方が良いか。

「えー、皆さん」

突如ノイズと混ざった声がテロの現場に響き渡ると、見物人や見物人を見据える制服の人達も皆、声の方へと目を向ける。

「並びに警察の方々、我々はジンオウカイです」

・・・またか。

その男性は低いビルの屋上に立ち、何やら放物線状に広がったものを口元に当てている。

「大爆発を引き起こし、大阪の街の一部を破壊したテロリストは、我々ジンオウカイが拘束しました。なので引き渡しのほどを宜しくお願いします」

・・・何となくいけ好かないが、街を守るというのなら、まぁ良いか。

すると見物人を見据える人の更に向こうに居る、黒い服を着た人達が低いビルの方に向かっていった。

「ハオちゃん、ジンオウカイの噂知ってる?」

「噂って?」

「何かね、わざとテロを起こして、あたかもジンオウカイがテロリストをやっつけてるっていう感じにしてるんだって」

・・・わざとってことは・・・。

「じゃあ、テロリストはジンオウカイの仲間ってこと?」

「うん、でも2ちゃんのレスだから、むしろそっちの方が信用出来ないかも」

・・・それが本当だとしたら、永遠の平和を口実にして、単に勢力を広げることしか考えてないってことか。

「あっと、じゃああたし、バイト行かなきゃ、バイバイ」

「うん」

たとえ用を済ませるまでの仮の寝床だとしても、勢力拡大の巻き添えは食らいたくはないな。

・・・もしかしたら、本拠地の近くに居れば逆に巻き込まれないかも。

「こんなとこに居たのかよ」

「・・・うん、ちょっと気になって」

落ち着き払った表情で倒れた建物を見ているドラゴンに目を向けると、ドラゴンもおもむろにこちらに顔を向けてきた。

「エニグマのデータの解析には少しばかり時間がかかるが、それが終わればほぼ問題無く次のステップに行けそうだってよ」

・・・次のステップか。

「ねぇドラゴン」

「あ?」

「拠点を移動したいんだけど」



「つまりスカイウォーカーってとこか」

「そうだけど、何で英語にするの?」

「そらぁ、カッコイイからだろうよ」

照れながらも自信の伺える微笑みでノブが応えると、シンジは少し困ったように眉をすくめて頷く。

「じゃあ、ノブは何なの?」

「オレか?・・・オレぁ・・・」

片方の眉を上げたノブは得意げにニヤつきながらグラスを口に運んだ。

「・・・タイムジャンパーだな」

・・・なるほど、跳ぶからかな。

「そのままじゃん」

「いやいや、そらぁそうだろうよ、時間を跳ぶんだから」

うなだれるような口調でアイリに応えながら、ノブは再びグラスに手を伸ばす。

・・・連絡をただ待つのは、何となく性に合わない気がする。

「お、帰んのか?」

「ちょっとおじさんの所に行こうと思って」

舞台に上がって会議室への扉を開けるとマナミとレンがテレビを見ているので、なるべく静かにおじさんの部屋への扉を開ける。

・・・あれ、おじさんが居ない。

夜だから居ないのかな。

でも他に部屋なんて無いはずなのに、どこに行ったんだろう。

周りを見渡しながら歩き出し、何となくモニターの前に立つ。

モニターには日本語ではなく、アルファベットで作られた文章が使われているみたいだった。

その中で画面の1番下には見覚えのある単語が1つ書かれていた。

・・・確か。

「エネルゲイアだったかな」

そしてその横にはまるで繋げて読むかのように並ぶ単語が1つある。

「プ・・・ロ、ジェ・・・クト、か」

エネルゲイア・プロジェクト?

何かの計画なのだろうが、それ以外の文章は分からないな。

扉が開いたのが視界の隅に見え、ふと目を向けたときに奥の扉から出てきたおじさんと目が合った。

「氷牙君」

慌てる様子や、驚くような表情もなくおじさんは静かに扉を閉め、ゆっくりとこちらに体を向ける。

「私に何か用ですか?」

「まあね、ちょっと、宮崎の組織について調べて欲しいんだけど」

するとおじさんは腰を掛けた椅子を回して体をモニターに向け、キーボードに手をかける。

「宮崎って、今話題の組織のことですか?」

「あぁ」

おじさんもニュースとか見てるのかな?

キーボードを叩く音が続くと共に画面が目まぐるしく変わっていき、おじさんの手が止まると組織のデータらしきものが映し出された。

「出ましたけど、何が知りたいですか?」

「とりあえずは、今段階の勢力とか」

「・・・実質的な勢力は、大分、熊本、鹿児島の組織とそれぞれ1つずつ同盟を組んでるみたいですね」

・・・今は、何故そこまで分かるのかというより、予想よりも少ないということの方が気になる。

「結構噂になってるのに、少なくないかな?」

「データ上ではこういう結果になってます」

「そうか」

・・・データ上か。

何となくひっかかる言葉だ。

「その組織の勢力図って、組織同士なら簡単に調べられるの?」

「はい、まあ逆に言えば、私達の組織の情報しか調べられませんが」

テロ組織みたいに、勝手に出来た組織は調べられないってことか。

でも一応聞いてみよう。

「ジンオウカイについて調べられるかな?」

「今調べた組織の名前がジンオウカイですよ」

おじさんがキーボードを叩くと小さな画面が現れ、その中には神王会と表示された。

「・・・そうか」

・・・変だな。

本当は、噂になってるほど勢力は大きくないってことか?

会議室に戻るとすぐにレンがこちらに顔を向けた。

「氷牙って有名人だね」

ほんの少し口角を上げながらレンが喋り出すと、こちらに顔を向けたマナミも小さくニヤつき出す。

「さっきもライブ会場が占拠されたニュースが流れたんだよ」

「そうか」

この前のことかな。

「でも何でヒョウロウって呼ばれてるの?」

「皆僕の本当の名前が分からないから、勝手につけたんだって」

レンは小さく頷きながらテレビに目線を戻すと、マナミもこちらに微笑みかけてからテレビに目線を戻した。

そうだノブ達は何か知ってるかな。

舞台を下り、ホットミルクを持ってノブ達の居たテーブルに向かう。

「あれノブは?」

「シンジと闘技場に行ったよ」

闘技場への扉を目で差しながら応えたアイリはすぐに手元の携帯電話に目線を戻す。

とりあえず椅子に座ってホットミルクを一口飲む。

「ノブに用があるなら2人に割り込めば?」

するとアイリは携帯電話に目を向けながら何気なく声をかけてくる。

「まあ、そこまで急用じゃないから」

「ふーん」

「アイリは知ってる?」

すると不意を突かれたかのような表情でアイリが顔を上げる。

「神王会がどんな組織かとか」

「ああ?私は分かんないけど、何?ヤバい組織なの?」

「いや、それを調べようと思って」

困ったような表情で天を仰いだアイリは、ふと携帯電話に目を向けたときに何かを思いついたように再び顔を上げる。

「じゃあ、ネットで検索してみれば?」

「そうか」

それもありかな。

ホットミルクも無くなったのでホールを出て部屋に向かう。

ネットか、真実かどうか分からない情報を手に入れてもな・・・。

部屋に入ったときに見えたリビングのソファーにはミサが座っていて、何やら脚を組んでこちらを真っ直ぐ見つめていた。

ソファーに近づくとミサは立ち上がり、腕を組みながら強気な表情で歩み寄ってくる。

「貴方、あたしには興味無いのよね?」

・・・興味か。

「今のミサには、無いかな」

ミサは小さく眉間にシワを寄せて目線を落とすが、すぐに顔を上げて強気な眼差しを甦らせる。

「あたし、大学の同級生と付き合うことにしたから、もうあれ、剥がしちゃって良いわよ?」

差された指の先に目を向けると、そこにはミサの部屋と繋いであるシールキーの貼られた扉があった。

「そうか」

「それが言いたかっただけだから、じゃあね」

ミサは颯爽とその扉に向かい部屋を出ていったので、扉が閉められたのを確認してからシールキーを剥がした。

シールキーに書かれた行き先を消し、ベッドのサイドテーブルに置いておく。

明日、シキの所に行ってみようか。

朝を迎えてホールに入り、椅子に座って朝食が運ばれてくるのを待っていると、ミサとヒカルコがテーブルに近づいてくる。

「おはよ」

「あぁ」

ヒカルコが前に座るとミサは静かにヒカルコの隣に座った。

ふとミサと目が合ったが、ミサはすぐに目を逸らしてヒカルコと世間話を続ける。

少しして運ばれてきた朝食を取ってテーブルに戻ると、ミサは微笑みすら向けてこないで終始ヒカルコとだけ話をして食事をしている。

会話をするのが気まずいのだろうか。

それならそれで気にはならないが。

食事が終わるとノブに呼ばれたので、ノブ達の居るテーブルの椅子に座る。

「お前、神王会を調べるんだって?昨日アイリから聞いたぜ?」

「あぁ、実は、大阪の組織の人に、神王会に乗り込むときの援軍を頼まれたから、僕も暇だし、自分でも調べようと思って」

驚きながらも真剣な表情で話を聴き入っていたノブは、小さく頷きながら考え込むようにうつむく。

「乗り込むか、そんなにヤバい組織なのか?宮崎の組織って」

「いや、ヤバいと思ったら乗り込むだけで、今はただヤバいがどうかが分からないから、調べてるんだ」

ノブに通り名をつけて貰って、シンジは内心嬉しいんじゃないでしょうかね。笑

ありがとうございました。

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