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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第六章

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138/351

疑惑に満ちた夜空の下で

「ハオンジュ」

「・・・そうか、ハーフなん?」

はーふ?

「・・・そ、そうかな」

小さく首を傾げながら応えると、アカバネシキは敢えて質問するのを止めたかのように表情を緩めて小さく頷いた。

「まあええわ、ほな、待っとるで」

そしてアカバネシキは微笑みながら手を振り、見物人が集まる方へと去って行った。

・・・まぁ答えは変わらないけど。



どうやら次のアーティストが最後らしいが、会場の熱気は収まるどころか増しているように感じるほどに、あちこちから歓声が沸き上がっている。

そういえば、聞き覚えのある人がまだ出てないような。

周りにいる観客の、気持ちの高ぶりを抑え切れないのがひしひしと伝わるような話し声で、すぐに1つの名前が脳裏に浮かび上がった。

色のついたスポットライトが点滅したり、流れていく演出で会場の熱気が最高潮になる。

そしてステージの端から1人の女性が出て来ると、観客席に小さく手を振りながらその人はスタンドマイクの前に立った。

あれが那波凛子か。

スポットライトの明かりが弱まり、演奏が始まるのを待つかのように会場が少し静まる。

那波凛子がスタンドマイクを少し後ろに離して置き直し、素早く立ち位置に戻ったときに演奏が始まると、再び会場に熱気が沸き始めた。

でも何か、熱狂というよりかは、見守るような雰囲気に近い空気が会場に満たされてる感じがする。

音楽と共に小さな振付を踊りながら那波凛子が歌い始める。

そういえば今までテロは起きなかったな。

入口が閉じられてるとしても、組織に居る能力者ならシールキーでも使えば簡単に会場の中に入ることが出来るしな。

さすがにわざわざチケットを買って観客に紛れるテロリストは居ないだろう。

数分の後に曲が終わると、ステージの後ろの特大のモニターに映し出された那波凛子の表情からは、楽しそうで満足感の伝わる笑みの中に、若干安堵に似たものが伺えた。

緊張してるようには見えなかったけどな。

那波凛子が観客に小さく手を振った後に再び違う曲調の音楽が演奏される。

先程よりかはテンポが速い曲調みたいだが、サビに入ったところで何となく聞き覚えのあるような感覚が頭を過った。

・・・確か、ヒカルコに那波凛子を教えて貰ったときに流れていた曲、かな。

一見盛り上がるような曲調だが、ゆったりとした動きの振付と透き通るような高さのある声に、はしゃぐよりも何となく聴き入ってしまうような雰囲気が会場を包んでいる。

何曲か終わり、ふと静まり返った空気がステージから波のように会場全体に広がると、ライブの終演を告げるような湿気混じりの夜風が観客の間を優しく吹き抜けていくのを感じた。

「皆さーん」

しかし那波凛子の声が響き渡ると共にすぐに会場に熱気が沸き返る。

「今日は、みんな来てくれて、ありがとー」

大きく手を振る那波凛子に応えるように会場が歓声に包まれているとき、ふとステージの脇に居る1人の男性が目に入った。

何となく見ているとその男性はおもむろに歩き出し、那波凛子の居るステージの中央へと向かっていく。

しかも、殺気立ったテロリストや、情緒が不安定な人を連想させるような異様な足取りではなく、背筋も眼差しも真っ直ぐな、しっかりとした足取りで。

徐々にその男性に向けられていく目が増えていくと、那波凛子も皆の目線の先にゆっくりと顔を向けた。

警備員が止めなかったなら、ライブのスタッフの人かな。

「あの人・・・」

ミサの呟きがふと耳に入ってくると同時に、那波凛子はまるで怯えるように小さく後ずさりしながらその男性を見る。

後ろの特大モニターもその男性を映し出すと、会場は違和感のざわめきと共に疑惑の恐怖感があちこちで小さく沸き立った。

足がすくんだように立ち尽くす那波凛子には目もくれずに、その男性はスタンドマイクの方へと歩みの先を変える。

「氷牙」

強く掴まれた腕に伝わってきた緊迫感で、反射的にミサに顔を向ける。

「きっとテロリストよ、早く行って」

腰の高さほどのフェンスに手と足を掛けたときには男性は那波凛子の隣に並び、会場全体を見据えるように立っていた。

「我らはジンオウカイ、今この時より、このライブ会場は占拠させて貰った」

・・・ジンオウカイ?

その瞬間、疑惑の静寂の中に投じられていた会場にざわめきという名のある意味熱気が沸き上がっていった。

氷の仮面を被り、フェンスを蹴ってブースターを出しながらステージに向かって飛び出す。

「少しばかり話をさせて貰う間、出口はすべて封鎖させて貰う」

・・・出口を閉鎖?

マイクを持つ男性に近づいていく途中、視界の隅が光ったのが見えた途端、突如ステージの右脇辺りから十字架の形を成した光の塊が飛んできた。

十字架の光が向かってくる間に、更にその向こうからもう1つ十字架の光が現れたのが見える。

連射か。

ブースターの出力を上げたが氷の防壁を掠るように十字架が当たると、光は氷の砕ける音と共に防壁の広範囲をたやすくえぐり取った。

何・・・。

しかしすでにもう1つの十字架の光が迫ってきていたので、紋章を掌の前に出して盾にする。

紋章に当たった光は激しく霧状に爆発するが、強い衝撃と風圧にコントロールを失うと、回転しながらステージの端へと叩きつけられた。

・・・油断したか。

「観客の諸君、我らジンオウカイは、永遠の平和の象徴である。故にテロリスト等と一緒にしてもらいたくはない」

・・・永遠の平和?

単なる宗教団体か。

立ち上がって防壁を直し、演説を始めた男性に近づいていくと、ステージの反対側や特大モニター、そしステージの下から数人、まるで演説している男性を護るかのようにこちらの方へと歩み寄ってきた。

「待ちたまえ」

こちらに歩み寄ってきている人達が足を止めると、演説している男性がこちらに顔を向ける。

よく見ると老けてるな。

若者以外に、能力者がいるのか。

「勇敢な能力者よ、その勇気は讃えるが、我々はテロリストではない。手荒な真似は詫びるつもりだが、破壊活動が目的ではないのだよ」

話が出来そうな状況みたいなので、更に演説している男性に近寄る。

「聞きたい人だけに聞いて貰えば?」

演説している男性は小さく頷くと目尻にシワを寄せ、見下すような自信に満ち溢れた笑みを向けてきた。

「永遠の平和は、誰にでも降り注ぐものだ、例え、望まなくともな」

・・・宗教の信仰者には、口では勝てないか。

もし負けないとしたら、同じような宗教の信仰者だろう。

ステージを降りようと、ふとステージの下に目を向ける。

すると最前列の観客の中に、ステージを睨みつけるような眼差しを真っ直ぐこちらの方に向けている男性が何となく目に留まった。

若干のニヤつきが殺気の伝わる眼差しの鋭さを更に引き立たせている。

「我々は、神の名において、選ばれし能力者だ。我々は神の名において、無益な戦争を行うか弱き人類を管理しなくてはならない」

おもむろにフェンスに手を掛け、飛び越えたその男性はまるで力を溜めるように上半身を屈め始める。

小さなうめき声から雄叫びに変わったとき、その男性の体が黄色いオーラを纏い始めた。

あの人もこの人達の仲間かな?

すると瞬く間にその男性の背後に、黄金に輝く上半身だけの巨大な西洋の騎士が現れた。

あれは普通にテロリストかな。

その男性が右腕を上げると、動きに合わせるように巨大な黄金の騎士も剣を持つ方の腕を上げる。

仮面を被ってとっさに飛び出し、那波凛子を抱き上げて更に飛び出した。

轟音が後ろの方で轟いたので後ろに振り向くと、巨大な黄金の剣は演説している男性のすぐ横のステージにめり込んでいた。

「愚かなテロリストよ、貴様も、無益な争いを生むか弱き者だ」

・・・演説続けるの?

護衛の人達に囲まれながら、演説している男性はテロリストの男性に力強く指を差す。

「うるせぇぇえ」

テロリストの男性が走り出しながら左腕を引き下げると、巨大な黄金の騎士は盾を持つ方の腕を引き下げ始める。

絶氷牙を纏って演説している男性の前に飛び出し、突き出された巨大な黄金の盾を紋章で受け止める。

観客に被害が及ばないようにしないとな。

ブースターを出して反動を相殺し、すぐに盾を強く押し返してテロリストの男性に向かって飛び出す。

高速旋回して尻尾をテロリストの男性の耳元辺りに叩きつけると、男性と共に巨大な黄金の騎士も一緒にステージと観客席の間に倒れ込んだ。

おかしいな。

盾を押し返してたときに十分隙はあったはず。

・・・戦いに慣れてないのかな。

ゆっくりとステージに戻る途中、テロリストの男性にふと目を向ける。

男性は重そうに顔だけを演説している男性に向けるが、その痛みに耐えるような歪んだ表情から、驚きに似たようなものをかいま見せた。

「・・・はな、しが・・・ち、がう」

本当に微かではあるが確実にその言葉を口にしたその男性は、間もなくして力無く頭を落とし、虚ろな眼差しのまま動きを止めた。

ステージに降り立ち、演説している男性を見ると、倒れている男性を見ながら何かを思い浮かべているように目を泳がしていた。

そして観客席からは小さな歓声や拍手、そしてある言葉が繰り返し叫ばれていた。

「ヒョウロウっ・・・ヒョウロウっ」

・・・またそれか。

人違いではないとすると、ヒョウガから回り回ってヒョウロウになったってことかな?

「皆さん」

演説していた男性が会場を静めると、男性は妙に落ち着いたような笑みを浮かべてこちらの方に歩み寄ってきた。

「この、勇敢な戦士のような能力者は、まだ世界中に沢山居ます。力ある者が集まり、永遠の平和を築くべく戦うことこそが、世界のためになるのです」

男性が両手を広げて観客席を眺めるが、観客は少し戸惑いを見せるような眼差しと静けさで男性に応えている。

上手いこと演説に使われたかな。

それよりさっき聞いた言葉はどういう意味だろう。

「この会場の中にも、まだ勇敢な心の持ち主が沢山居ることでしょう。その勇気を、埋もれさせることは、勿体ないことだとは思いませんか?」

それにしても、あれほどの剣が降ってきたのに、全く動じずに演説を続けるなんて。

鎧を解いて端の方へ歩き出そうとしたときに、不意に肩に手を乗せられたのでゆっくりと演説している男性に顔を向ける。

もしかしたら、それほどまでに自分には危険が及ばないという自信があったのだろうか。

「どうか皆さん、その力を世界のために使い、我ら同胞と共に、永遠の平和を築き上げましょう。そして、この勇敢な戦士も同じく、我らの理想に深く共感して頂けることと存じます」

・・・ん?

何か仲間にさせられそうな勢いだ。

「さあ、勇敢なる戦士よ、貴方こそ、我々の理想の実現に相応しい力の持ち主なのです。我々と共に、永遠の平和を、築き上げましょう」

張り付いたような笑顔の男性がこちらにマイクを向けると会場の眼差しもすぐにこちらに集中していったが、ふとあちこちでブーイングのような声を上げる人達の方に何となく目を奪われる。

「僕は、完全に1つの組織に属するつもりはない。まぁでも、一時的な共同戦線なら、協力するけど」

するとあちこちで小さな歓声に似たものが沸き上がった。

・・・何か変なこと言ったかな?

それでも張り付いたような笑顔を崩さない男性は、肩から手を下ろすと再びステージの前へと歩き出していった。

・・・本当にただ話をしただけだったな。

ステージに一太刀を入れたテロリストの男性は警察に連れて行かれたが、会場は無事に解放されたのでステージを降りようと端の方へと歩き出す。

「あのぅ」

顔を向けると那波凛子が安堵の混じる表情を浮かべながらこちらを見ていた。

「ヒョウロウさん、助けてくれてありがとうございました」

小さく頭を下げた那波凛子のおっとりとした微笑みからは、純粋に安心感のようなものが伝わってきた。

「あぁ」

「凛子ちゃんっ」

緊迫感の伝わる声を上げながら駆け寄ってきた少し若めの男性にふと目を向ける。

「マネージャーさん」

「怪我は無い?」

「はい」

心配そうに眉間にシワを寄せ、小さく頷いているマネージャーを横目に見ながら歩き出すと、ステージの下にはミサの姿があった。

ライブ会場に居たヒカルコはどんな気持ちだったんでしょうね。

ありがとうございました。

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