掻き乱された夜空の下で
ヴォーカルの声が会場に響き渡ると共に割れるほどの音が体中を通り抜けていく中、ふとミサを見ると周りの観客と同じように手を挙げて小さく掛け声を発していた。
皆ほどじゃないけど、こんなにはしゃいでる姿は初めて見たな。
曲が終わり、また違う曲が演奏され始めると、熱気と歓声と共に会場は先程と同じような盛り上がりを見せた。
このロックバンドは盛り上がるような曲をメインにやってるのかな。
何曲か続いた後にヴォーカルが単独で少し話をすると、別のグループの人達に入れ替わり、また雰囲気の違った音楽が会場に響き始めた。
次はゆっくりとした曲調みたいだな。
周りを見渡してからミサを見ると、落ち着きを取り戻していくかのように、若干の荒々しさの混じる深呼吸と共にゆっくりと笑みを見せてきた。
何気なくポケットに手を入れると、硬貨に触れたような感触と紙に触れたような感触が同時に指先を伝ってきて、それはすぐに頭の中にある一辺の記憶が照らし出された。
そういえばドラゴンに貰ったお金があったな。
廃ビルを出て街中を見渡しながら歩き出す。
寂れた空気が漂う道を抜けて、まばらではあるが通行人が行き交う少し広めの道路に出る。
確かこの道だったかな。
ビルの看板を頼りにネットカフェとやらのお店に入り、手続きを済ますと先にシャワーを浴びてからコンピューターの前に座った。
暇だし、あの男達が言ってたヨヨギ何とかを調べてみようか。
この季節だし、湿気もあるのか、人の密度もあってなのか夜なのに気温が高いように感じる。
また盛り上がるような曲調になると、周りの観客は皆曲に合わせて掛け声を出し始める。
なるほど、ステージに乗る側じゃないのに、体力を使うというのはこういう事だったのか。
不意にミサに手首を掴まれると、周りの観客と同じように掛け声に合わせて手を挙げさせられる。
「楽しい?」
ミサは耳元に口を近づけてからそう言うとすぐに満面の笑みを浮かべて顔を寄せてきた。
「そうだね」
ミサの耳元で応えると、ミサは笑顔で小さく頷いてステージに顔を向けた。
・・・ネットとやらの中では、ジンオウカイは有名みたいだな。
本拠地はミヤザキという土地にあるのか。
・・・地図を見る限りはかなり遠いな。
コンピューターを見ていたときに、突如店の外から爆発音のような音が聞こえた。
仕切られた薄っぺらい木製の塀から顔を出し、店を見渡してみる。
・・・何だ?
すると立て続けに何かが破壊されるような音や爆発音が聞こえてくると、店の中に居る客達が見物しようと窓に集まり始めた。
見物人達の小さな話し声に耳を傾ける。
どうやらテロらしい。
また1つの爆発音が聞こえたときに店全体にも振動が伝わり、小さな悲鳴と共に店の中が恐怖感に包まれた。
今のは近かったな。
それより、ここを壊されたらシャワーを浴びる場所が無くなっちゃうな。
髪も乾いてきたのでカウンターの人にお金を渡して店を出ると、逃げ惑う人々の向こうに1人の男性が居て、青い火の玉を操るように自身の周りに回しながら飛ばしていた。
あいつが実行犯か。
飛んでいった1つの青い火の玉に当たった車輪と窓のついた長い箱は爆発音と共に大きく宙に浮いて別の建物へと激突し、同時に小さな悲鳴と共にビルの瓦礫や長い箱の破片が辺りに飛び散る。
見物人越しに実行犯の男性を見ると、ビルの一角が崩れた様を見つめる表情から、どこか満足げな印象を受けたように感じた。
とりあえず止めないと。
見物人を掻き分けて前に出たとき、1つの青い火の玉を斬るように消し飛ばしながら、まとまった風のようなものが実行犯の男性の横を通り過ぎていった。
そのまとまった風のようなものの行く先を見ると、建物にぶつかった衝撃で風は消滅したが、その反動で広範囲の窓を揺らしながら振動が建物中に響き渡った。
実行犯の男性の目線の先に目を向けると、半円状に反り返った剣を持った男性が実行犯の男性を睨みつけるように立っていた。
・・・なるべく建物に被害が及ばないようにしないと。
「これ以上は街を壊させへんで」
訛った言葉を発しながら飛び出した短髪の男性は、半円状の剣を振り下ろして青い火の玉を1つ斬って落としたが、また別の青い火の玉をぶつけられると勢いよく吹き飛んだ。
実行犯の男性に気づかれないようにビルの壁を伝って背後に回る。
すぐに立ち上がった短髪の男性が半円状の剣を水平に強く振り抜くと、まとまった風が生まれて飛んでいったが、実行犯の男性は残りの青い火の玉を前に集め、盾にするようにまとまった風を受け止める。
風の消滅と共にすべての青い火の玉が消え去るが、実行犯の男性はすぐに新しく青い火の玉を自身の周りに発生させた。
・・・2人はおよそ互角だろうか。
あれなら時間はかかるけど、お互いに気を取られてるし、この建物には被害は及ばないか。
短髪の男性がまとまった風を飛ばす度に、実行犯の男性は青い火の玉を飛ばして風を打ち消していく。
互角の戦いが少しの間続いた後、短髪の男性と少し距離をとった実行犯の男性は両手に青い火の玉を重ね合わせ、両腕を激しく燃え上がらせる。
戦い方を変えるのか?
それと同時に実行犯の背中に3つの青い火の玉が集まると、真ん中の青い火の玉から左右の青い火の玉に向かって炎の線が伸び、弧を描くような形を成した。
短髪の男性が勢いよく半円状の剣を真っ直ぐ振り下ろし、まとまった風を飛ばすと、実行犯の男性は燃え上がる腕を交差して直に風を受け止める。
そして後ずさりしながらまとまった風を弾き返すように腕を広げると、青い炎が広がると共にまとまった風は一瞬で消え去った。
形は変わったみたいだけど、力の強さではたいした変化は無いな。
飛び出しながら短髪の男性が半円状の剣を振り下ろすと、実行犯の男性は片腕で受け止めてすぐさまもう片方の腕を後ろに引き始める。
腕を振り回すときに青い炎が大きく燃え上がるが、短髪の男性はすぐに後ろに小さく跳んで間一髪でそれをかわす。
しかし実行犯の男性は背中にある炎から吹き出した炎の勢いで瞬時に距離を詰めながら炎の拳を突き出すと、炎の爆発と共に短髪の男性は大きく吹き飛んでいった。
隙を突かれたのなら仕方ないか。
すると実行犯の男性はおもむろにこちらの方に体を向ける。
・・・来るか?
そして実行犯の男性は目線を上げ、まるで建物に狙いを定めるかのように足を踏ん張り始めた。
「翼解放」
翼を広げたときにほとばしるプラズマでこちらの存在に気がついた実行犯の男性は、一瞬黙ってこちらを見据えたがすぐに走り出してきたので、手にプラズマを集めながら実行犯の男性の方に走り出す。
背中の青い炎を激しく燃え上がらせながら突き出してきた両腕を受け止めるように、球状に膨張させたプラズマを実行犯の男性に押し当てる。
電撃音と共に光は鉤爪のように夜空を掻き乱し、鮮血が飛び散るように青い炎の爆風を広げた。
その一瞬で炎の勢いが消え失せ、よろめくように後ずさりした実行犯の男性に向かって、再度球状のプラズマを打ち出す。
体中にプラズマをほとばしらせながら、灰色の柱に思いっきり背中を打ちつけた実行犯の男性はそのまま力無く地面に倒れ込む。
意識を失ったか。
まぁ、こんなものか。
サイレンを鳴らしながら実行犯の男性に近づく、車輪の付いた長い箱を見ながら翼を消すと、先程の短髪の男性が辛そうな表情でこちらに歩み寄ってきた。
「何やあんた、結構やるやん。そんな強いんやったら、手ぇ貸してくれたらええのに」
「・・・別に、建物を守りたかっただけだし」
・・・そういえば、この地域の人達は皆こんな喋り方だったな。
「あんた、どこの組織のもんなんや?」
・・・なるべく怪しまれないように応えろってドラゴンが言ってたけど、どうでもいいか。
「組織には属してない」
「ほんなら、1人でテロと戦っとんのか?」
・・・別に街を守ることには興味ないしな。
「・・・いや」
「よう、ご苦労さん」
声がした方に目を向けると、顎髭を蓄えたがっちりとした体型の中年の男性が短髪の男性に歩み寄ってきた。
「何や、新しい彼女出来たんか?お前もやるやないか」
「アホか、俺かて今初めて会ったっちゅうねん」
「おうおう、ほんならナンパの途中やったか」
「せやから、ちゃう言うとるやないかい」
話に割り込む隙が無い。
まぁ、別に良いか、ビルに戻ろうかな。
「ちょっと待ちや、姉ちゃん」
・・・話に夢中になってたんじゃないのか。
「最後だけ見てたで。姉ちゃんが居てくれへんかったら、もっと街が壊されてたはずや、ありがとうな」
結果的に街を救ったことになるのか。
まぁ悪い気はしないな。
「うん」
少ししゃがれ声だが、優しい眼差しで語りかけてきた中年の男性を見ながらビルに方向に歩き出す。
「ちょい待てや」
短髪の男性に呼び止められたみたいなので振り返ると、短髪の男性は心配そうな眼差しでこちらを見ていた。
「あんた、1人でテロと戦っとるんやろ?それやったらいつか限界が来るはずやで?俺らと一緒に組もうや」
「ほれ、やっぱナンパやないか」
からかうように話に入ってきた中年の男性に短髪の男性はうっとうしそうな眼差しを向ける。
「やかましいわ、さっさとテロリスト捕まえに行かんかい」
「お前、刑事に向かってそない態度とって良いと思うとんのか?」
「何がやねん、話の腰を折っと来たんそっちやないかい」
「ねえ」
割り込むように声をかけると、2人は黙ってこちらに顔を向ける。
「私は私でやる事があるから、それに、1人で戦った方が楽だし」
「・・・そうか」
すると小さく頷いた短髪の男性を見た中年の男性は何かを理解したかのように頷き始める。
「そらそやわ、お前が居たところで、姉ちゃんにとっては邪魔なだけやな」
「何で刑事にそんな言われなあかんのや、どっちか言うたら、警察の方がただの見物人やないか」
「何言うてんねん、警察が居いひんかったらな、テロリストなんて逮捕出来へんねんぞ」
黙って短髪の男性の横を通り過ぎようとしたとき、短髪の男性が優しく肩に手を乗せてきた。
こいつ、まだ話があるのか。
仕方ないので短髪の男性に顔を向けながら静かに肩から手を落とすと、実行犯の男性に向かう中年の男性を横目に見ながら、短髪の男性がまた少し近づいてきた。
「ほんでも生活して行くん大変やないか、組織に居た方が食いもんも全部タダやし、住む所にも困らへんのに」
・・・こういう人間達の組織っていうのは、そんな所なのか。
・・・それが本当なら、確かにお金も無理に盗ることもない。
「でも・・・」
「まあ無理にとは言わんけど。せやから連絡先だけ教えてくれへんか?助けて貰った礼もしたいしやな、ええやろ?」
街中の明かりがあるおかげなのか、短髪の男性の優しい眼差しと微笑みに、妙に心の落ち着きを感じた。
・・・助けた覚えは毛頭ないが。
まあそれはそれとして、何となく頭に浮かんだ澄まし顔のあいつよりかはマシかな。
「・・・レンラクサキって?」
「え、ああ、あんた携帯持っとるやろ?」
闇雲に否定するより、少しは話を合わせないと面倒だしな。
「今は無い」
困ったように眉をすくめながら、短髪の男性はおもむろに人差し指で顎をさすり始める。
「そ、そうか・・・ほんなら・・・あんたが前に居た組織はどこやったん?」
・・・何か、適当な場所・・・。
「トーキョー」
すると短髪の男性は小さく片眉を上げながら何やら驚くような表情を見せた。
「えらい遠いやないか。何でこっちに来たん?」
「・・・まぁちょっと」
小さく頷いた短髪の男性は何かを思い返すように目線を上げる。
「せやったら、あいつと同じ場所やな・・・」
ふと乾きかけた髪が夜風になびいて、首筋にまでひんやりとした空気が通り過ぎていった。
早く帰りたいな。
「せや、1週間経ったら、昼の12時にあのネカフェで会おうや、そん時に改めて答え聞くわ」
短髪の男性の指の先に目線を向けると、先程シャワーを浴びた店が指差されていた。
1週間か・・・。
「考えとく」
「おう、ほんなら最後に名前教えてくれ、俺はアカバネシキや、あんたは?」
ハオンジュはまた少し氷牙に近づいちゃいました。笑
ありがとうございました。




