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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第六章

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神に選ばれし者

ちょっとからかってやろうかな。

「神に選ばれたって、どこら辺に?」

「あ?」

するとこちらに顔を向けた2人の男性は少し真剣な表情を見せ始める。

「巨大動物1匹殺せないのに、神はあんたらの何を選んだの?」

「何だと?」

クニサダと呼ばれた男性が怒りの眼差しを向けながらこちらに歩み寄ろうとすると、すぐに澄まし顔の男性が制止するようにクニサダの胸元に腕を当てるが、澄まし顔の男性も感情を抑えるように小さく息を吐きながら目を閉じる。

「確かに、私達では人々の平和を守るには力が遠く及ばないでしょう。それは認めます。ですが、同じ道を歩む同志を集めて力を合わせれば、永遠の平和を築くことは難しくないのですよ」

・・・永遠の平和?

戦うことは命ある者の誇りなのに。

やはり、相いれない奴らだな。

「だから、私達と一緒に平和を築きませんか?」

ドラゴンに目を向けると、白目を向きそうなほどに上を向き、2人の男性にまるで関心を持ってないかのような呆れ果てた顔をしていた。

「私は、あんた達には関わりたくない」

しかし2人は諦めるような表情に変わるどころか、さっきよりも眼差しが強くなったように見えた。

「そうですか、今日の午後6時から、夏のライブフェスタが行われる東京の代々木第一体育館を占拠して、ゲリラで演説をする計画があります。もし宜しければそちらに足を運んで下さい。私達の考えがきっと理解出来るでしょう」

2人が去っていくと、ドラゴンは深いため息をついて気を抜くように表情を緩めていった。

「・・・俺、これから進化薬取りに行くけど、お前暇だろ?そのヨヨギ何とかって言う所に行ってみたらどうだ?」

「嫌だよ、面倒臭い」

場所だって分からないのに。

「そうか、んじゃ・・・とりあえず帰りますか」



「それじゃ私もう行くね、友達と待ち合わせしてるから」

「えぇ」

笑顔で手を振ってヒカルコを見送ったミサがこちらに目を向けると、気持ちの高ぶりを抑えるようにまた小さく息を吐いた。

「よう氷牙」

「ノブ、ダメよ」

ノブが前に座るなりすぐさまミサがそう言いながらノブに顔を向ける。

「な、何だよいきなり」

「え?どうせまた闘技場にでも誘うんでしょ?でも今はダメよ、氷牙はこれから用事があるんだから」

ミサは警戒するような表情で話しているが、ノブは軽く頭を掻きながらも少し真剣な表情でこちらとミサを見ている。

「いや、今回はちょっと違うんだ。ていうかオレもまあ、これから用事があるっちゃあるしな」

「・・・何よ、ていうか、用があるなら、さっさと行ってきたら?」

するとノブは困ったような苦笑いを吹き出すように浮かべてミサを見る。

「何か、ちょっと冷たくないか?・・・まあ良いか。それより、オレこれから警察と一緒に代々木第一体育館に配備されんだ、まあ人数は多いに越したことないからな、お前も来いよ」

今にも身を乗り出しそうな勢いでノブを見るミサの腕をなだめるように軽く引っ張ると、ミサはこちらを見ながらゆっくりと背もたれに背中を着けた。

「いや、僕は客としてそこに行くから」

「おお?何だそうか、ま、取り越し苦労になることを祈ろうぜ、じゃあ」

「あぁ」

ノブがホールを去ると、ふとミサが少し嬉しそうな表情でこちらの顔を覗き込んできた。

「ん?」

「ううん、そろそろあたし達も支度するわよ」

「あぁ」

ホテルの部屋に戻りミサの支度が済むと再びミサの家に入る。

ほんとに、テロは起こらないのかな。

東京だし、ましてやライブだし。

「シナガワ、駅まで送ってくれる?」

「かしこまりました」

ミサと共に玄関を出るとすぐにシナガワが車を取りに行き、門を抜けたときにシナガワが車の扉を開けたので、ミサと共に車に乗り込んだ。

「じゃあ、終わったらまた電話するからね」

「はい、いってらっしゃいませ」

シナガワを見送って駅の改札に向かう途中、ふとミサにある物を手渡される。

「切符買うの面倒臭いし、貴方の分も買ったから、今後のために持って置いてよ」

「そうか」

ICカードを使って改札を抜け、ホームで電車を待っているとき、ふと後ろの方からの話し声が耳に入ってきた。

「もうやばいよね、芸能人とかもみんな入ってるらしいよ」

「そっかぁ、あ、じゃあ芸能関係の人と繋がってるからポスターとか作れるのかな?」

「うんうんそうかもね」

向かいのホームでは電車から降りた人達が真っ直ぐ階段に向かっていく。

「何かマユの彼氏の所もほとんどそっちに行っちゃったって」

「確か、和歌山の組織でしょ?じゃあもう三重まで来るのも時間の問題かな」

・・・組織?

「そうかもね、でも私達の組織の人達って、何かそういうの好きじゃないみたいだし、私達は大丈夫なんじゃない?」

話の内容は分からないが、どうやら2人は能力者らしい。

「そういえば何て言ったっけ?宮崎の」

「えっとね」

「ねぇ」

不意にミサに呼ばれたときにまた別の方からの笑い声や、向かいのホームの電車の通過の音やら、まるで我に返ったかのような感覚と共にすべての雑音が耳に入ってきた。

「ねぇったら」

「ん?」

「ライブが終わったら一緒にディナー行くからね、もう予約取ってあるから」

「・・・そうか」

再び後ろの女性の話に耳を傾けようとしたときに電車がホームに入ってきたので乗り込むと、2人の女性は離れた席に向かっていった。

今この電車の中に、どれくらいの能力者が乗り込んだのだろうか。

電車に揺られながらふとミサを見ると、何かを言いたそうな表情でこちらを見ていた。

「ねぇ」

すると小声で喋り出したミサは周りを伺いながら顔を近づけてくる。

「明日になったらすぐに異世界に行っちゃうの?」

「そうしようと思ってたけど、シキの調査が終わるまでは下手に行かない方が良いと思って」

「えぇそうね」

ホームに降りて改札を抜けてライブ会場に向かい始めると、目的地に近づくにつれて何となく熱気のようなものが伝わる空気を感じ始めた。

もしかしてこの人達もライブに行くのかな?

人の流れに乗るような感覚でライブ会場に着くと、すぐにミサと共にトイレの行列に列んだ。

さすがに人が多いな。

「あの」

目を向けると、そこには少し真剣な眼差しで微笑みかけてきている北村がいた。

「あぁ北村刑事」

するとすぐにミサの腕を掴む力が強くなる。

「はい。氷牙君はチケットを買ったんですね。最初は氷牙君も能力者特別警護隊に参加して貰おうと思ってたんですけど」

「ああ、でもいざとなったら僕も戦うよ」

「はい、ありがとうございます」

嬉しそうに満面の笑みを浮かべた北村はそう言って軽く頭を下げたが、頭を上げると北村に真剣な眼差しが甦った。

「あの、1つ、お願いがあるんですが」

するとまたミサの腕を掴む力が更に強くなる。

「開演までの時間まで、その、簡単に言えばパトロールをして頂きたい、と言うか」

結構厳重にやるんだな。

「嫌よ」

腕を引っ張られたので北村と共にミサを見ると、ミサは眉間にシワを寄せて北村を睨みつけている。

「こっちはちゃんとお金払って来てるのよ?警察はお客を守るためにここに居るんじゃないの?」

「そ、そうですよね。申し訳ございません。今の話は忘れて下さい」

「北村さん、何も出来ないからって、氷牙を頼り過ぎなんじゃない?」

するとうつむいた北村は血の気が引いたように申し訳なさそうな表情を見せる。

「ミサ、言い過ぎだよ」

「貴方は黙ってて」

まあ能力者なら他にも居るみたいだし、そう焦ることはないと思うけど。

「北村刑事、ノブも居るんでしょ?」

「あ、はい、シマザキさんのチームでは、シマザキさんとオカモトさんと・・・」

オカモト?・・・オカモト・・・。

「カトウさんが参加して下さってます」

あ、ヒロヤか。

「ノブだって頼りになるよ、速さなら誰にも負けないからね」

「はい。ではあの、我々が全力を尽くして皆さんをお守りしますので・・・安心してライブを楽しんで下さい」

小さな微笑みと共に頭を軽く下げて去っていった北村の背中に、何となく寂しさのようなものを感じた。

パトロールか、ちょっと興味あるな。

「ミサ」

「何なの?」

まだ怒ってるのか。

「・・・行列長いね」

「そうね」

ため息混じりに応えたミサは、すぐに何かに勘づいたように再びこちらに顔を向ける。

「まさか、貴方」

バレたかな?

「行きたいだなんて言わないわよね?」

少しずつミサの眼差しが鋭くなると共に、腕を掴む手の力が増していく。

「・・・ミサのトイレが終わるまでの間とか」

「はぁ・・・ほんとにどうしても行きたいの?」

「あぁ」

するとミサはおもむろに腕時計を外し始める。

「じゃあ5時15分までに帰ってきて、トイレで待ってるから」

「分かった」

広い場所みたいだし、迷わないようにしないとな。

周りを見渡しながらミサの居る場所を確認して何となくうろついてみる。

ライブってこんなに人が集まるものなのか。

ライブ会場の裏辺りまで回ってきたときにふと腕時計に目を向けてみる。

ライブ会場に向かう人達を見渡すが、見るからに様子がおかしいというような人は見当たらない。

まぁこんなものか。

だけどこんなに人が居たら、わざわざライブ会場に入らなくてもテロが出来そうだし、いくら能力者を雇った警察でも、全員を守りきれるだろうか。

高い場所から見渡せれば良いけど、これじゃ分かりづらな。

「あのすいません、もしかしてヒョウロウさんですか?」

声の方に体を向けると、2人の女性が目の前に立ってこちらを見ていた。

「え?」

「わ、やっぱ本物だ」

「すごーい、あの、一緒に写真撮って下さい」

人違いじゃないのかな。

「あ、あぁ」

するとすぐに1人が隣に立ち、もう1人が携帯電話をこちらに向けてシャッターを押す。

「ありがとうございました」

「あぁ」

そして2人の女性は瞬く間に人混みの中へと消えていった。

ヒョウロウ?

誰だろう。

トイレに戻るがミサの姿が無いのでしばらく待っていると、不意に肩を突かれたので後ろを振り返る。

「じゃあ、そろそろ中に入りましょ?」

「あぁ、これ」

腕時計を返すとすぐにミサは腕時計を着けて腕を組んできたので、共にライブ会場の中に向かう。

ミサにチケットを貰うとすぐに係員に渡し、返された半券をそのままミサに渡す。

「アリーナだから、もっと奥よ」

「そうか」

しばらくして半券と同じ番号の席に着くと、ミサは一息つくようにため息をついてこちらに微笑みかけてきた。

「ねぇ、もうちょっと楽しそうな顔したら?」

「そうか」

「ちょっと」

「ん?」

すぐにまた呼びかけられたので顔を向けると、ミサは小さく眉間にシワを寄せて首を傾げながら顔を覗き込んできた。

「そうかって、前から思ってたけど、貴方って変じゃない?」

「変って?」

「・・・んー、まあいいわ、後でゆっくりと話しましょ?」

・・・これだけ会話を重ねていたら、さすがにミサなら感づくかな。

時が経つに連れて会場の席が人で埋まっていくと、徐々に空気感が物理的な人の熱気で圧されていくような感覚も感じ始める。

少し周りを見渡してからふとミサを見ると、ミサはおもむろにバッグから取り出したハンカチで顔を扇ぎ始めた。

「暑いの?」

「・・・ちょっとね」

呟くように応えたミサはこちらに目を向けると、小さくニヤついてからこちらの手首を掴み、手の甲を自身の額に当てた。

「はぁ、気持ち良いわ」

「ミサ、糸でうちわでも作ったら?」

微笑みながらミサは小さく首を横に振る。

「人前で力は使いたくないわ」

「そうか」

額から手の甲を離したミサはそのまま頭の後ろに手を回すと、今度は掌をうなじに乗せさせられた。

「あはっほんとに気持ち良いわ、これ」

席が人で埋まり、開演を待ち兼ねるような雰囲気が会場全体を包んで少しすると、突如ステージの左右のスポットライトが光り出しステージ全体を照らし出した。

始まったのかな。

そして体中を押し潰すような音楽が会場に響き渡り出すと、ステージには各々自分の楽器を鳴らす男性達とヴォーカルの男性の5人が立っていて、ヴォーカルの掛け声に合わせるように客席の人も掛け声を出し始める。

ひとたび電車に乗れば、今どれくらい能力者が乗ったのか・・・そんな時代ですよ。笑

ありがとうございました。

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