見えざる山
顔を見合わせながら首を傾げた2人は、思い出そうとするような険しい表情でこちらに目線を戻した。
「赤い石みたいなものを見たことしか、記憶に残ってない、かな」
「うん、私も」
「そうか」
新しく分かった情報は無かったか。
会議室を出ようとした時にふと後ろから声をかけられたので振り返ると、ミントが真剣な眼差しをこちらに向けていた。
「もしかして氷牙、あれからずっと反乱軍を捜してるの?」
「まあね」
「それは天王様からの任務なの?」
「いや、正式に言われてる訳じゃないけど、実際に堕混はこの世界に侵略して来たし、反乱軍を止めるためには待ってるだけじゃ進まないからね」
すると小さく頷いたミントは何か強い意思が宿ったような眼差しで、ゆっくりと微笑みかけてきた。
「そっか」
「警視庁から援軍要請がありました。応えられる方は私の部屋までお願いします」
そういえばノブ達は帰ってきてるのかな?
「ライム」
「うん」
すると素早くアイコンタクトを交わしながら、ミントとライムが立ち上がる。
「ノブは?」
「まだ帰って来てないから私達が行かなきゃ」
「そうか、じゃあ僕も行くよ」
笑顔で頷いたミント達についておじさんの部屋に入ると、おじさんの隣には疲労が感じられる表情のノブとアイリが居た。
「ノブ」
「来たか、悪いが頼んで良いか?」
「うん」
ミントはすれ違い様にノブとアイコンタクトを取り、奥の扉へと向かった。
「大丈夫だって音也。皆そんなに変わってないし。それに、結衣歌ちゃんだって寂しがってたよ」
そんなこと言われてもな・・・。
「それに、すぐに私達だって能力者になるんだからさ、明日はちゃんと学校来なよ」
「うん。分かったよ」
電話を閉じたときに感じた寂しさを、リアはまるで見透かすような眼差しを向けてくる。
「いちいち周りの目気にしてたら、やってけないよ?それにもうYouTubeに音也の姿出てんだし」
「そうですね」
アリサカさんの仲間だってことが知られたらあの不良達もビビってたし、あんまり悪いことばかりじゃないのかな?
広い待合室にあるソファーに何となく座っていたとき、ふと歩み寄ってくる人影に気が付く。
「よぉ」
あ、そういえば、アミシマさんと話すのは初めてだな。
「そっちの方は順調らしいじゃないか」
「はい、まぁ」
表情を見る限りじゃ、アミシマさんの方も行き詰まってる訳じゃなさそうだ。
「今度、こっちが目を付けてる奴らの拠点に攻め込む話があるんだが、どうもその組織が怪しいんだ」
怪しい?
確か、何とかセーバーとかいう組織だよな。
「それは、どういう感じなんですか?」
「何て言うか、まぁ単純な組織じゃないとでも言うのかな。これはまだオレしか知らないんだが、今度攻め込むのとはまた違う拠点が存在してることが分かった」
別の拠点・・・。
「じゃあ、結構大きな組織ってことですか」
「恐らくな。そこで、あんたにその別の拠点の様子を見て欲しいんだが、頼めるか?」
拠点の様子・・・。
何となく、ヤバそうだけど・・・。
「良いですけど、あの、念のためリアさんと一緒でも良いですか?」
するとアミシマは小さく頷きながら、嬉しさとはまた違った、何となくふてぶてしさも感じるような微笑みを見せる。
「あぁ、オレ達が拠点に攻め込むのと同時にやった方が、戦力も分散出来るから、その時に頼む」
「はい」
アミシマが出て行った後に1番奥の部屋に入ると、そこにはリアの他にアリサカの姿があった。
あれ、待合室に入ってきてないのに。
「アリサカさん、あの、さっきアミシマさんに聞いたんですけど」
その時にふとシールキーが貼られた扉が目に入る。
あそっか、直接この部屋に帰ってきたのか。
話を聞いていくうちにアリサカは次第に表情を引き締めるが、ただ悩むような表情を見せるその威圧感の無さに、初めてアリサカに親近感を覚えた。
「別の拠点か、まぁ、確かに同時に攻め込めば逃げ道を封じることは出来るな。分かった。じゃあナカオカと一緒にお前もそっちに行ってくれ。場所はナカオカにメールしとく」
「はい」
携帯の着信音が聞こえたので、部屋を出ながら携帯の画面に目を向ける。
あれ、愛華音だ。
「もしもし、どうかした?」
「そういえば言い忘れてたんだけどさ、今日、矢川と、D組の不良も学校に来なかったらしいよ」
「・・・そう、なんだ」
このまま来なくなるなら、少しは安心出来るけど。
「まぁこのまま来なくなればちょっとは私達も安心出来るけどさ、でもあのクリスタルがある限り、不安は残るよね」
クリスタル、そうだ忘れてた。
もしかしたら、矢川みたいな不良がまた出ちゃうかも知れないな。
「うん」
「でも、A組の人達がさ、音也が居るから、皆下手なことしないようにしようかって話をしてるのを聞いたし、大丈夫だよ、そこら辺は、多分」
愛華音の声を聞きながらふと天井を見上げたとき、心の底を浸らせる寂しさという名の水が、少しだけ水蒸気と化して消えていったような気がした。
「お帰り、愛華音ちゃんがまたプリント持って来たよ?」
「うん」
ふぅ、明日はちゃんと学校行ってみるかな。
いつものように食パンにバターを塗っていたとき、ふと向けられた麻耶の眼差しに若干の鋭さを感じた。
「お兄ちゃんさぁ」
「な、何?」
すると麻耶は黙って携帯の画面を見せてくると、その画面には校庭に立つカサオカとリア、そして自分の姿が撮られている動画が流されていた。
「うん」
「うんってっそれが何?みたいな顔しちゃってさ」
携帯をテーブルに置いた麻耶はこちらに目線を戻すが、その眼差しには怒りや嫌悪感ではなく、ただ純粋に羨むような感情を感じさせた。
「ずるいよ、何で言ってくんないの?」
「えぇ?別に言うほどのことじゃないでしょ」
ていうか、ずるいって何だよ。
「音也」
気持ちを見透かされたと思わせるような表情の母さんに、いつものように嫌気がさしていると、こちらに顔を向けた父さんもどこか神妙な面持ちをしていた。
「最近、何かと学校で事件が多いから、気をつけてよね?」
え・・・。
「あ、うん」
何だよ、そんなことで・・・。
でも、能力者だから大丈夫だなんて言う気は、さらさら無いしな。
どうでもいいか。
それに、能力者だって言ったところで、父さんはどうせ何も言わないしな。
「行ってきまーす」
「はーい」
「ねぇお兄ちゃん、何でママ達には能力者って言わないの?」
中学への分かれ道が見えてきた頃、ふと麻耶がそんな話を切り出した。
「言ったってさ、どうせリアクション薄いでしょ」
「そりゃそうだけどさ」
手を振る麻耶を見送り、突如着信音を鳴らした携帯を手に取りながら校門を抜ける。
「もしもし、明日の話なんだけど、私達が行く方の拠点の場所分かったから・・・」
「・・・はい。じゃあ明日」
ふぅ、今回はリアさんの足手まといにならないようにしないと。
「おお、音也」
カバンを置きながら席に座ったときに要太が声を掛けながら近づいてくると、ふと周りの目が少しだけ気になった。
「なぁ知ってるか?この前オレ達が見た、見たことない鳥、昨日ニュースに出たんだよ」
「マジで?」
クリスタル・・・いや、あれは地面の中だし、すぐには見つからないか。
「あとさ、葛西臨海公園にも色々と新種の鳥が見つかってるんだよ」
「へぇ」
「いやぁ、すげぇ行きたいよ」
「じゃあ、また今度愛華音連れて、クリスタル探しにそこ行こうよ」
いつものように授業の終わりを告げるチャイムが鳴った後、廊下の窓から外を眺めていたとき、ふとこちらの方に歩み寄ってくる人影が視界に入る。
山川さん・・・。
すると目の前で立ち止まった山川結衣歌は、周りを見渡しながらポケットから1枚の小さな手紙を取り出し、そしてそれを黙って差し出してきた。
何だろう。
微笑みも浮かべずに去っていった山川結衣歌を見ながら、とりあえず手紙を開いてみる。
そして授業の始まりを告げるチャイムが鳴る頃に教室に戻り、席に座りながら空を見上げる。
今、この学校にはどれくらいの能力者が居るんだろう。
「お兄ちゃん」
ふぅ、緊張するなぁ。
学校のことなんて気にしてる場合じゃないけど、山川さんには電話しないといけないしな。
「お兄ちゃん聞いてるの?」
「え・・・何?」
「もう、何じゃないよぉ。ぼーっとしちゃって」
バターを塗り終えた食パンをお皿に置きながら、バターを母さんに渡し、コーヒーを一口飲む。
「そういえばお兄ちゃん、幕張海浜公園の動画も見たよ?あれすごいね」
「ああ、あれ。すごくないよ別に」
結局最後はリアさんに助けて貰ったしな。
「おお音也」
そうだ、要太には言っといた方が良いな。
「あのさ、今日、アリサカさんのとこ行くから」
するとふと見せた驚きと真剣さのある表情を、要太はすぐにまるですべてを理解し、そして見守るような顔色へと変える。
「・・・ああ、そっか」
時計を見て席に着きながら、何となく山川結衣歌の表情を思い浮かべる。
そういえば、いつも山川さんと目を合わせてる僕も僕だよな。
何もわざわざ廊下の方に顔を向けることないのに。
・・・今日も、僕を見るのかな?山川さん。
先生が教室に入ってくると同時に小さな胸の高鳴りを感じ、そしてチャイムが鳴り出すと同時に、恐る恐る山川結衣歌の方へと目を向けてみる。
あ・・・あーあ。
何事も無かったかのように、こちらから教卓へと目線を変えていった山川結衣歌を見た後、ゆっくりと自分の机に目線を戻す。
やっぱり、意識しちゃうと自然と見ちゃうよな。
でも、何で無表情なんだろう。
「はい、それじゃあ出席を取ります」
しばらくして授業の終わりを告げるチャイムを聞きながら、椅子の足が引きずられる音に支配された教室を足早に出る。
そして1番西側にある、人通りの無い階段の小さな踊り場の壁にシールキーを貼る。
すると待合室にはリアが居たが、こちらに顔を向けたリアのいつものような緊張に押されていないその表情に、胸の底で膨らむ緊張感が少しだけ和らいだ気がした。
「じゃあ行こうか」
「はい」
ふぅ、大丈夫かなぁ。
リアのシールキーで作られた扉から外に出るが、胸の底で膨らみ続けていた緊張感は見慣れたはずのその町並みすらも、どこか外国の雰囲気を感じさせるほどにまで成長していた。
テロ組織のアジトか、どういう建物なのかな?
いかにも近寄り難い雰囲気が出てるような感じのビルとか?
それとも人気の無い廃墟かな?
少しして3階建てのビルに入るリアについていくと、リアは左手の上り階段ではなく、薄暗い照明に照らされる下り階段の方へと進んでいった。
まさか・・・。
階段を下りた先にある、飲食店を思わせるような飾り付けがされた扉を抜けると、そこは幾つもの丸いテーブル、そしてカウンターと色とりどりの酒瓶が確認出来る広い場所に繋がっていた。
まさかの地下か。
けど誰も居ない。
ど、どうするんだろう。
小さなため息を漏らしたリアがその部屋を見渡しながら歩き出したとき、ちょうどカウンターの背後にある扉から1人の男性が姿を現す。
「あ?悪いがまだやってない。準備中の札見なかったのか?」
札?そういえば見なかったな。
すると腕を組んだリアはその背中から、いつものような強気な態度を見せ始める。
「あんた、ネイチャーセーバーの仲間でしょ?」
その男性の落ち着いた表情が凍りつくと、目線を落としながら頭を掻き始めたその素振りがどことなく状況を把握したと思わせるような態度に見えた。
「・・・お前ら、何だ」
「私は別に礼儀正しく名乗るような人間じゃない。ただ私達は、あんたらを潰しに来たってだけ」
男性が警戒するような鋭い眼差しをリアに向けた途端、どこからか扉が開かれるような音が聞こえると、瞬く間に数人の男性が姿を現し、そして気が付いたときにはすでに5人の鋭い眼差しがこちらに向けられていた。
う、うわ、こんなに。
その時、最初に出て来た男性がまるで有利な状況を見せつけるように不敵な笑い声を漏らす。
「女だからって容赦しねぇからな」
ここはまず、リアさんの邪魔にならないようにしないとな。
一方その頃、的な感じですけどね、でも音也くんもそれなりに大変なんですよね。笑
ありがとうございました。




