か弱き花を抱きしめる為に2
これまでのあらすじ
数々のテロに関するニュースを見てもどこか他人事のように思っていた御咲。そんな時に自分の大学にテロが現れ、阿未花の身に危険が迫り、自分に無力さを感じた御咲は、阿未花の為に覚醒への扉を開けることを決意する。
「くあっ」
ミサが倒れた隙にかなり距離をとり、立ち上がったミサがこちらに目を向けたときに極点氷牙を纏った。
「もうっ氷牙っ・・・貴方が謝らないつもりなら、徹底的にやるからね」
運が良いのか悪いのか、どうやら1番踏んではいけない地雷を踏んでしまったみたいだな。
すべての紋章をブースターに転換してミサの攻撃に備え、ミサの背中の太い糸が振り下ろされたときにブースターを瞬発的に噴射させて素早く避けていく。
そしてブースターに転換した紋章を1つ手に戻しながらすぐ目の前に蒼月を撃ち落とし、激しい爆風を煙幕代わりに使いながら、素早くミサの背後に回る。
爆風が収まると、そこには氷の塊がまるで障害物になるように小さくそびえ立っていたが、そこに誰も居ないことに気づいたミサはすぐに周りを見渡し始め、そしてこちらの存在を捉えるなりすぐさま背中の太い糸を振り下ろしてきた。
それを素早くかわして前に飛び出し、その勢いでミサを軽く持ち上げる。
さすがに蒼月を直接当てる訳にはいかないしな。
「・・・いっ・・・」
声を掻き消すかのように小さい氷の山が大きく欠け、その破片と共にミサは地面を転がる。
「・・・うぅ」
表情からすると、さっきよりかは怒りの感情が薄れたように見てとれるな。
ダメージが重なったからかな?
「氷牙・・・」
・・・いや、そうでもなかったか。
気迫が伝わってくるような眼差しで、何かを念じるように手を広げたミサの背中から、津波のように糸が湧き出て体中に巻きつくと、胸元の糸は腰の位置まで伸び、そこから数本の糸が真っ直ぐ地面に向かって脚まわりを覆うように伸びていった。
何となくドレスを思わせるような形に変わった鎧の背中には、背後にも気を遣わせたかのように6本の糸が羽のように伸びていた。
「着替えたの?」
「・・・見た目重視じゃないわ?甘く見ないで」
「そうか」
するとすぐにミサは拳を前に突き出し、手首から4本の尖った糸を飛び出させてきて、とっさに体を逸らしたが勢いよく肩を突かれて体勢を崩される。
糸の伸びる速さもなかなかだな。
ブースターを使い横へ回り込むと、ミサは手から伸ばした糸を束ねて、そのまま鞭を扱うように振り払ってきた。
やはりそう来たか。
もともと紐状のものを操る力なら、鞭みたいにして戦うのが1番妥当だしな。
首筋を叩かれたがとっさに受け身を取り、すぐに動き出してミサと少し距離をとる。
遠ければそれだけ空気の抵抗で重くなるし、鞭の速さだって鈍くなるだろう。
華麗にターンしながら頭上から鞭を振り下ろしてきたが、それを難無く避けるとミサはすぐに鞭状の糸を素早く縮ませ、短い糸が出たまま再び正拳突きのように拳をこちらに突き出す。
また真っ直ぐ糸を伸ばすのか?
すると束ねられた鋭く尖った糸はミサの手から離れて、こちらのすぐ横を槍のように真っ直ぐ飛んでいった。
飛ばした?
飛んでいく鋭く尖った糸を目で追うと、糸は壁に激しく突き刺さった後に空気が抜けたかのように力無く地面へと落ちていった。
・・・これが覚醒した力ってことか。
龍ノ咆哮に似てるのは偶然だろうか。
ミサの方に振り返ると、すでにミサは糸を飛ばす体勢になっていて、先程の尖った糸を何度も飛ばし始めた。
目で追えないほどのものじゃないし、これならかわすのは難しくないな。
そしてまたミサが拳を前に突き出した瞬間に素早く最低限の距離をブースターで移動したとき、鋭く尖った糸はミサの手から2本飛び出し、その内の1本が真正面から胸に突き刺さった。
おっと、見た目以上に衝撃があるんだな。
尻もちを着き、糸が力無く地面に落ちると、同時にミサの小さな笑い声が微かに聞こえてきた。
「やっぱりあたしの読み通りだったわ」
「・・・読み通り?」
「貴方って、あたしの攻撃をかわすとき、隙を作らないために必要最低限の距離しか動かないのよね。だから貴方が居る場所の左右に同時に糸を飛ばせば、貴方がどっちに避けても必ずどっちかの糸に当たると思って」
・・・なるほど。
頭の回転の速さはさすがだけどな。
「でも僕、無傷だけど?これが当たったからって、別に何のことは無いよ」
するとすぐにミサの表情から笑顔が消え失せ、先程の睨みつけるような眼差しが甦った。
「あらそう・・・なら、次はちょっとすごいのをお見舞いしてあげようかしらね」
体勢を低く保ったまま念を集中させるミサの手の中では、更に硬く、鋭く尖っていくようにと糸が渦を巻きながらその太さを増していく。
もし極点の鎧に穴を空けれたら、素直に降参でもしようかな。
太く捻れ、槍のように細長く形成された糸が思いっきり振り投げられると、槍のような糸は放物線を描かず、ブレずに真っ直ぐこちら目掛けて飛んできた。
女性の腕力にしては速過ぎるような。
体を反らせて槍のような糸をかわしたにも拘わらず、ミサは投げたままの体勢を変えようとはしない。
・・・まさか。
後ろを振り返ったときにふと細長く尖った何かが観客席の上を滑空しているのが目に入ると、それはすぐに矛先をこちらに向け、まるで意思があるかのように真っ直ぐ飛んできた。
ブースターを使いながら細長く尖った物をかわすと、ミサは鋭い眼差しで追いながらその細長く尖った物に手をかざしていた。
・・・なるほど、操っているのか。
ショウタの炎と同じように、撃ち落とさない限り延々と追いかけてくるものだとしたら、ちょっと厄介だな。
再度糸で出来た槍をかわすと、糸で出来た槍が大きく弧を描くように旋回してからこちらに向かってきたので、追いかけさせるためにブースターを使って少し距離をとった直後、すぐにブースター全開で糸で出来た槍に向かって飛び出しながら紋章を前に出した。
「あっ」
まさか、あの槍を簡単に弾くなんて。
あの氷の紋章の盾、どれだけ硬いのかしら?
でも、作り方は覚えたから、次はもっと早く作れるわね。
すぐにまた糸を捩りながら先端を鋭く尖らせたものを作り上げ、氷牙に向けてその糸の槍を投げ込む。
難無くかわした氷牙が投げた糸の槍に目を向けている隙に、投げた糸の槍ではなく、弾かれて地面に落ちている糸の槍に意識を集中させる。
少しは痛い目に遭わせてあげるわ。
飛んでいった糸で出来た槍が曲がりもせずに壁に勢いよく突き刺さった瞬間、背中辺りに何かが当たったような感覚がした。
しかし後ろを振り返るがそこには何も無い。
・・・そういえば・・・地面に転がっていた糸で出来た槍が無いな。
消えたのか・・・いや、まさか。
背中に手を回してみると棒状のものが刺さっているみたいなので、とりあえず抜いてみるとそれはミサが操っていた糸で出来た槍だった。
ミサを見るとミサは呆気に取られたような表情でこちらを見ていた。
確かに刺さったのに、なんのリアクションもなしに簡単に抜いちゃうなんて。
「い、痛くないの?」
「・・・あぁ、何ともないよ」
鎧が分厚いから?
傷が浅かったから?
・・・どちらにしても、もっと鋭い槍を作らなきゃいけないわ。
・・・いいえ、根本的に槍の勢いが全然足りなかったってことかしら。
氷牙がこちらに向けて下から軽く糸の槍を投げたので、地面に落ちる前に糸の槍を手に引き戻した。
また投げてみろってことかしら?
ナメられたものね。
あたしの力がダメなら、鞭の遠心力を使ってみようかしら。
手じゃなくて糸の鞭で槍を持ったか。
まあ、その方が腕力をずっと上回るしな。
振り下ろされた糸の槍はつるはしのように地面に刺さるが、すぐにミサによって引き抜かれるとミサの華麗なターンと共に勢いよく振り回され始める。
あの距離からすると遠心力を使って投げるだろう。
糸の鞭の先がこちらの方に向き、糸の槍が投げられたと同時にブースターを使って素早く移動する。
速い・・・かすったかと思った。
良い感じだわ。
大分慣れてきたわね。
まだまだ色々使い方がありそうだけど、もう覚醒したし、そろそろ終わりにしようかな。
でも、やっぱりやめるのは氷牙に一泡吹かせてからだわ。
まずはあの機動力を何とかしないと。
・・・っ・・・また避けられた。
やっぱり鞭より槍を飛ばす方が良いかしら。
・・・でも一度にたくさん槍を飛ばせるかしら?
鞭を戻して両手で2本同時に槍を作り上げ、その2本を同時に氷牙に向けて投げ、そのまま両手で2本の槍を操ってみる。
新しい作戦でも考えついたみたいだな。
これなら確かに撹乱させやすいけど、見たところ、両手を別々には動かせないみたいだな。
糸の槍の動きが左右対称になってる。
左右から向かってくる糸の槍にそれぞれ紋章を向けると、2本の糸の槍は高い音を出しながら軽々と地面へ落ちていった。
難しいわね。
ピアノをやってる阿未花なら、両手を別々に動かせるかも知れないけど。
・・・片手で2本操れるかしら。
地面に転がった2本の糸の槍に意識を集中させ、手の動きに合わせるように飛ばしてみる。
・・・さっきと動きは変わらないけど、2本が微妙な距離をあけて並走してるせいか、少し余計に移動しなきゃいけないな。
向かってくる2本の糸の槍をかわそうとしたとき、2本の距離が瞬時に開き、1本が肩に突き刺さった。
・・・これはちょっと厄介だな。
やったわ。
何かイケそう。
肩から槍を抜く氷牙の向こうの壁に、ふと別に2本の糸の槍が刺さっているのが目に入った。
・・・あれ、使っちゃおうかしら。
4本の糸の槍をすべて一旦自分の目の前に引き寄せる。
なるほど、これなら指1本に対して糸の槍をそれぞれ1本ずつ操れそうね。
なら、あともう1本操れるってことだわ。
ミサは着実に自分のスタイルというものを築き上げつつあるみたいだな。
それぞれの指に合わせて、同時に5本も糸の槍を操るのか。
龍ノ咆哮も5連射は出来そうだけど、飛ばした後は真っ直ぐ飛んでいくだけだしな。
ミサが空気を掻くように手を振ると、5本の糸の槍も同じように空を切り裂き、地面に爪を立てる。
するとすぐに宙に浮いた5本の糸の槍は横並びに真っ直ぐ飛んできた。
・・・これは。
1本は紋章によって弾かれたが、別の3本が胸や肩に突き刺さった。
避け切れないなら、下手に動かずに盾で防いだ方が良かったな。
すぐにまた5本の糸の槍がミサの下へ戻ると、ミサは満足げに笑みを浮かべていた。
「もうそろそろ、辞めても良いんじゃない?十分力は試したでしょ?」
・・・何よ、退屈ってこと?
確かにどれだけ槍が氷牙に刺さっても、本人は痛くも痒くもないみたいだし。
「嫌よ」
「・・・そうか」
氷牙の言う通り、力はもう十分試したわ。
だからこれからは、本気で行くわよ。
走り出しながら浮かせた糸の槍を氷牙に向けて振り下ろし、槍が地面に突き刺さった直後に上空に打ち上げる。
もっと違う動きをしないと。
頭のイメージと共に手を広げながら振り下ろすと、5本の糸の槍は氷牙を囲むように地面に突き刺さる。
・・・そうよ。
そしてまたイメージと同時に手を素早く握りしめながら拳を上げる。
行けっ。
5本の糸の槍が一斉に氷牙に向かって飛び掛かるが、その直前に氷牙は一瞬で高く飛び上がった。
・・・さすがに素早いわね。
でも、今のでちょっと良い使い方覚えたわ。
糸の槍を飛ばして氷牙を追いかけ続け、氷牙が地上に降りたとき、ふと氷牙は糸の槍に気を取られてこちらに背中を向けた。
・・・あ、チャンス。
とっさに手首から網目状の糸を出し、氷牙の背中の辺りにある幾つかの紋章に絡ませた。
これでもう空は飛べないわよ?
飛んできた糸の槍をかわそうと、氷牙は背中の紋章から白い空気のようなもの噴射させたが、絡まった糸が邪魔をしたのか、氷牙は上手く飛び立つことが出来ずにそのまま体勢を崩し、地面に倒れ込んだ。
「もう、素早い動きは出来ないわよ?」
ブースターが・・・油断したか。
でもまあ、当たったとしても糸の槍じゃ、何も問題無いしな。
「でも別に、その槍じゃ、何のダメージも無いけどね」
「・・・そんなに自信があるなら、動かないでまともに受けてみなさいよ」
・・・挑発か。
主人公の切り替えがこんなに連続的なのもわりと初めての試みですかね。
ありがとうございました。




