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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第五章

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ギャング・イン・ハイスクール

「何だお前」

男性が口を開いたとき女性に目を向けると、女性も男性達と似たような疑い深い眼差しでこちらを見ていた。

「ただの通りすがりだけど」

「だったら黙って通りすがってろ」

ただの内輪揉めならいいけど。

「この人達知り合い?」

すると女性は警戒心溢れる表情で男性達を見ながら黙って首を横に振る。

「知らない、こんな奴ら」

「あ?当たり前だろ、オレ達だって知ってたらお前なんかに用は無ぇよ」

知り合いじゃないのか。

「だがな、知らないからこそルールってもんを教えてやらなきゃいけないんだろうが」

「だからルールなんて関係無いって言ってるでしょ?あんたが1番偉い訳でもないくせに、つきまとうなって言ってんの」

男性が更に怒りに顔を歪ませて女性を睨みつけるが、依然として女性も負けじと男性を睨みつけている。

知り合い同士ではないのは分かったけど、いまいち状況が読めないな。

「だからこれから、その1番偉い奴ってのに会わせるっつってんだよ」

「やだ、何でいちいちあんたらに関わらなきゃいけないの?」

「だからっあそこはオレ達の縄張りだって言ってんだろうがっ・・・いい加減理解しろっ」

声を荒げながら男性がまた女性の腕を掴んだので、とっさに男性の腕を掴むと、男性は女性が腕を振り払うより先にこちらの腕を振り払った。

「何だお前っまだ居たのか?あ?・・・邪魔すんじゃねぇよっ」

叫びと共に力の込められた拳が勢いよく突き出されたが、男性の拳は見えない壁に小さいヒビを入れたと同時に、その勢いを完全に失った。

「くっ・・・っ・・・こいつ、まさか能力者か?」

「おいジロウ、とりあえず、に、逃げねぇか?」

別の男性が怯えるような声を出すと、ジロウと呼ばれた男性は女性を睨みつけてから別の男性達と共に逃げるように走って行った。

何とか大事にならずに済んだな。

「あなた・・・」

振り返ると相変わらず疑い深い眼差しをしている女性は、何やら首を傾げながらこちらを見つめてくる。

「何か変・・・」

「・・・急にそう言われても・・・」

ここら辺じゃまず白髪は見ないだろうし、違和感でも感じたんだろう。

「何かこう・・・まぁいいや」

煮え切らないような表情の女性はそのまま背を向けると、何事も無かったかのように歩き出して行った。

さっきの人は縄張りがどうとか言ってたけど、その縄張りってノブ達が行ったアジトってことはあるのかな?

「氷牙君」

「あぁ。もしかして隠れてたの?」

「う・・・うん」

苦笑いを浮かべたミヤビはすぐに女性が去って行く方に顔を向ける。

「あの人、お礼も言わずにすぐ行っちゃったね」

「まあでも、ケンカにならなくて良かったんじゃない?」

「うん、そうだね」

笑顔から少しずつ落ち着いた表情に戻っていくミヤビは、周りを見渡しながら小さくため息を吐いた。

「じゃあ・・・港、行こっか」

「あぁ」

ミヤビと共に歩き出してしばらくしたとき、ふとした沈黙を破るように携帯電話から着信音が鳴り出す。

「・・・うん・・・今ね、山下公園に向かってるよ?・・・そっか・・・うん分かった」

携帯電話を耳から放したミヤビの表情からはあまり穏やかではない雰囲気が感じられる。

「どうかした?」

「シント君達がこっちに来るって」

「そうか」

下見の途中で何かあったのかな?

少し緊張したような表情になったミヤビの後について行き、シント達が見えるようになると、同時にノブがアイリをおぶさりながら歩く姿が目に入った。

「どうかした?」

「能力者と戦いになってさ、まぁ、アイリがちょっとな」

下見って言ったって、そんなすぐに戦いになるものなのかな?

アイリに目を向けると、アイリは少し恥ずかしそうに目を逸らした。

「私なら平気だよ、ちょっと足くじいただけだからさ」

「そうか」

「だけど参ったなぁ、あんなすぐに仕掛けてくるなんてなぁ、やっぱりミヤビを連れて行かなくて良かったよ」

どうやらアジトに居た能力者から仕掛けてきたみたいだな。

「ああ、氷牙、とりあえず今は組織に戻るからな」

「分かった」

神奈川の組織を通っておじさんの部屋に戻ると、すぐにノブは会議室への扉に向かう。

「おーいマナミ」

「あ、ノブく・・・あ、怪我人?」

アイリを見るなりすぐに立ち上がったマナミは素早くノブの前に歩み寄った。

「どこを怪我したの?」

「足をくじいたんだ」

ノブが応えると、マナミはアイリの顔色を伺いながらアイリの足に優しく手を触れた。

「・・・どうかなぁ?もう痛くない?」

ゆっくりとノブの背中から降りたアイリは軽い足踏みを始める。

「あぁ、もう痛くなくなったよ、ありがとう」

「うん」

マナミが笑顔で椅子に戻り始めると、ミント達も安心したように表情を緩めながらテレビを見始めた。

「さっきシントと話したが、また明日シントと中華街の近くのアジトに行くから、そのつもりでな」

「明日?今日の午後からでも良いんじゃない?」

「いや午後はシントが都合悪いらしい」

小さく頷いたアイリは静かに立ち上がると、そのまま飲み物のある場所へと歩き出した。

シントが居なくちゃだめなのかな?

神奈川自警団の管轄ってことか。

「そういえば、さっきのアジトで何かトラブルでもあったの?」

「・・・ああ、いや、トラブルって言うか、あいつら、いきなり能力者を呼び出して来てよぉ・・・お前も、明日は気ぃつけた方が良いぜ?」

威嚇も無しにいきなりか・・・。

「そうか」

「まああれだ、新型の暴力団ってとこだろ」

「新型って?」

するとノブが少し真剣な顔つきになったように見えた。

「まあヤクザほどじゃあないが、最近、力を持ったことで攻撃的な性格になった若者が、暴力団のような組織を作って活動してんだと」

「なるほど」

「つったって、物理的な力はヤクザより上だからな、世間は能力者の存在もあって、そっちの方に目が行くんじゃないか?」

新型って名前でもつけて差別化を図ろうって訳か。



「もしもしあの、今からそっちに行こうと思うんですけど」

「今からって、まだお昼前じゃん。何?もしかしてサボんの?」

何だろ、からかうような口調に聞こえるのは気のせいだろうか。

「あ、はい、話をつけた不良も、学校に来る気配がないので」

その時にふと遠くのトイレから出て来た山川結衣歌と目が会うが、気に留めることなく窓から体育館裏を見下ろしてみる。

「ふーん。でもこっちも昨日また2人やったし、多分こっちも何もないんじゃないかなぁ」

「そうですか」

まぁ何もないに越したことないけど・・・。

携帯電話をしまいながら教室を戻ろうとしたとき、何やら慌てて教室を出て来た愛華音と要太がそのままこちらの方に駆け寄ってきた。

「音也、大変だ、校門に暴走族が集まってる」

「えっ何それ」

「分かんないけど、荒川の傍にある工業高校の制服の人も居るし、何か見るからにヤバそうなのも居るし、とりあえず行ってよ」

あのD組の不良、結構ヤバい噂があったし、まさかリアさんの言う通り全然懲りてなかったのかな。

急いで教室の窓から校庭を見下ろした頃にはすでに何人かが校庭に入ってきていて、轟かされていくバイクのエンジン音がクラスの皆や教室は勿論、他の教室から校庭を見下ろす人達にまで恐怖感を感じさせていく。

どうしよう・・・。

「頑張れ音也」

「う、うん」

窓枠に手を掛けながらサッシに足を乗せたとき、ふとこちらに顔を向けていた山川結衣歌と目が合った。

サッシを強く蹴って上空に飛び出し、校庭に向かって落ちていく中、改めてリアから教わったことを思い返してみる。

まるで巨大な鉄球を落とされたかのように凄まじい土埃を舞い上がらせた校庭に立ち、間もなくして細かい砂埃が風に流されていくと、校庭に入った3人の男性はまるで怯えたような表情を見せずに、こちらを真っ直ぐ見据えていた。

その時にふと目を向けた校舎の窓に集まる無数の眼差しが、沸き立つ闘志の中に若干の恥ずかしさを感じさせた。

うわぁ・・・超見られてる・・・。

「お前、アリサカの仲間なんだって?」

左側の制服を着た男性がそう言って腕を組むと、他の2人の男性もまるで馬鹿にするような笑みを浮かべていく。

「そ、そうだよ」

「だったら呼んでみろよ、あ?」

え、呼んで良いの?

随分と親切だな。

「・・・もしもし、あの今すぐ第三日暮里高校に来て貰えませんか、暴走族が来ちゃって」

「あーあ、やっぱり懲りてなかったんだね。まあ良いよ?暇だし」

携帯電話をしまうと、3人の男性の佇まいからふと先程までにはなかった神妙さが伺えた。

「お、おい、あいつ、普通に呼び出したぞ」

真ん中に立つ、いかにも暴走族を思わせるような雰囲気を感じさせる男性が制服を着た男性にそう言うと、その男性はすぐに少しだけそわそわとした態度を見せ始めた。

「いや、ありえないっすよ、まさか、ほんとに仲間なんて。多分違うアリサカじゃないっすかね」

「まぁいい、仲間が来る前にとりあえずこいつ潰しとくぞ」

そう言うと突如暴走族と思われる男性の手の中から光が洩れ、直後にその男性の手にはまるで海賊映画に出て来るような反り返った剣が現れた。

く、来る・・・。

いや、相手より速く拳を突き出せば・・・。

地面を踏み締めた直後、ふと右側に立っていた鉄パイプを持つ男性の姿が無いことに気が付くが、その時にはすでにその男性はこちらの頭目掛けて鉄パイプを振り下ろそうとしていた。

え・・・。

そして直後、鈍い音と共に鉄パイプは大きく曲がり、男性の表情は一変する。

とっさに男性の腕を掴むが、同時に脇腹を刺すような衝撃が襲い思わず体勢を崩してしまう。

目に留まった石を拾い上げながら制服を着た男性に目を向けると、制服を着た男性の手には、電気を帯びたように光るナイフが握られていた。

すぐさま小さな石を制服の男性に投げ付けると、風を切る音を鳴らした石はそのまま男性の右肩を掠め、同時に小さく血しぶきを舞わせた。

「っく・・・くそ」

肩を押さえた制服の男性に目を向けているとき、突如再び目の前に現れた鉄パイプを持つ男性にこめかみを殴られる。

邪魔だな。

リアさんに言われたことを思い出しながら、とっさに目の前の男性の脇腹を勢いよくを殴り付ける。

するとその男性が校門前で待機する不良達や、何台ものバイクに向かって激しくぶつかっていった状況に、制服の男性と暴走族と思われる男性は警戒するように小さく後ずさった。

直感、直感。

暴走族と思われる男性に向かって走り出し、腰に力を入れながら脇腹目掛けて拳を振り出したが、暴走族と思われる男性はすでに半歩横にズレながらこちらの肩目掛けて剣を振り下ろそうとしていた。

「くっ何だこいつっ」

「人間の力じゃ、僕は傷付かないよ」

そして力むように表情を歪ませたその男性の腹に向けて、渾身の力を込めた突きを繰り出す。

リアさん、1回しか見せてくれなかったけど、正拳突きってこんな感じで良かったかな?

制服の男性に体を向けると、ナイフを持ち替えていたその男性は腕全体にまで電気を纏っていたが、その佇まいからは殺気は伺えず、その場には妙な沈黙が流れた。

ふと視界の隅に、明るく熱を感じさせる何かが見えたと思った瞬間、すでにその巨大な弾丸を思わせるような形の炎の塊が、今にも襲い掛かってこようと目の前まで迫って来ていた。

なっ・・・

強い熱気と凄まじい衝撃に体はたやすく吹き飛ばされ、ようやく地面に突っ伏す感覚を理解出来た頃に顔を上げる。

すると後ずさりしていく制服の男性と入れ替わるように、校門の向こうから1人の男性が校庭に入ってきた。

「ハゼさん」

「お前は下がれ」

制服の男性に目も向けずにそう応えたハゼと呼ばれた男性は、立ち上がろうとするこちらの姿をただ見下すように睨みつけていた。

今のは、何だ?

この僕が簡単に吹き飛ぶなんて。

でも、きっとリアさんなら、この人がどんな力を持ってるか勘繰る前に攻撃を仕掛けるだろう。

相手より、速く・・・。

立ち上がりながら石を拾い上げ、石を持った手を勢いよく振りかぶった直後、素早く何かを投げる動作を見せた男性の掌から、先程の炎の塊が出現した。

速いっ・・・。

いよいよ音也くんの見せ場ですかね。笑

ありがとうございました。

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