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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第五章

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ある休み時間での小さな緊張感

「あぁこれ」

急に立ち止まりながら呟いた阿未花を見ると、阿未花の目線の先には逆さまの状態の教壇があった。

「ねぇ、御咲の力、もう1回見たいなぁ」

すると阿未花はそう言ってニヤつきながらこちらに顔を向けてくる。

もう、仕方ないわね。

「ちょっとだけね」

右腕を前に出し、糸を教壇に絡ませてゆっくりと定位置に戻していく。

「うわぁ、すごいねぇ、ねぇ、触っていい?」

「あっ・・・うん、良いわよ?」

ていうか、もう触ってるし。

阿未花が1本の糸を握りしめ、指でなぞったりつまんだりしてる中、教壇を戻して糸を解くと、すぐに糸を右腕のファーにしまい込む。

「あぁっ・・・へぇ、ここから出てるんだぁ」

改めて人前で使うと、結構恥ずかしいかも。

「何か、ミンクっぽいね、手触り感」

「そう?じっくり触ったことなかったから分からなかったわ」

阿未花に顔を向けたときにふと大穴から警官が数人、ノブやシンジと共に教室に入ってくるのが見え、警官達は真っ先に糸に縛られて倒れているテロリストの下に向かって行く。

「おう」

「あらノブ、意外と遅かったわね」

「あぁ、まぁ、取材が長引いてな」

困ったような苦笑いで応えながら、ノブはそのまま警官がいる方へと歩み寄っていく。

ノブって、インタビューが得意って訳じゃなさそうね。

まぁそれもそっか、普通の一般人だし。

「おい、聞きたいことがあるんだ」

「・・・何だ」

警官達に立たされるが、糸で縛られた男性は力無くうなだれている。

あ、足の糸を解いてあげなきゃ。

「あんたらの他の仲間はどこに居んだ?」

「・・・それは・・・居ない」

確か他の教室とか大学の入口とかにテロリストが居るって言ってけど、どうやら嘘だったみたいね。

「そうか」

「ニシジマ君?」

ん、教授?

知り合いかしら?

「・・・あぁ」

「やっぱりそうでしたか。でもどうして、こんなこと・・・」

糸で縛られている男性が羽島教授の居る方に顔を向けると、いつもの優しい物腰の羽島教授からは何となく哀れみに似た感情が伝わってきた。

「卒業したらボランティア活動に力を入れたいって、いつも言ってたじゃないですか」

卒業って?

まさかこの人、ここのOBってことかしら?

糸に縛られた男性は小さくうつむくと黙ってゆっくりと首を横に振る。

「ハトリ・・・気づいたんだ、俺。人を救うのはボランティア精神じゃない。人は動物と違い、管理されないと皆間違った方向に行くんだ。この世界には支配者ってのが必要なんだ」

支配者・・・か。

確かに人類は今や力のある者とそうじゃない者の2つに分けられちゃうけど。

「・・・でも、ニシジマ君には目標があるじゃないですか。世界中の地雷をすべて掘り出すっていう」

「・・・そもそも、戦争をする人間が悪い。だからそうならないように管理しないといけないって・・・あいつらが」

あいつら・・・?

「そろそろお話はよろしいですか?」

羽島教授が警官に軽く頭を下げると警官達が歩き出すが、足を縛られている男性はその場から動けずに立ちすくんでいる。

「おい、ちょっとこれ・・・」

「待って、今解くから、それより、あいつらって誰なの?」

「・・・ニュースを見てたら知ってるはずだ・・・宮崎にある、バカでかい組織だよ」

宮崎の組織・・・。

警官に連れられて男性が大穴に向かっていくのを見ると、思わず出た大きなため息と共に体中の力も一気に抜けていった。

あぁ、トイレ行きたくなっちゃった。

「ふぅ、何とか終わったね、御咲」

「そうね、でもあんな大きな穴空いちゃって、どうしようかしら」

歩き出すと追いかけるように阿未花が隣について手を握ってくる。

「トイレ?」

「うん」

阿未花の笑顔を見ているときに後ろの方から足音が聞こえたので何気なく振り返ると、ノブ達がついて来ていたので一応微笑みかけてから前を向いた。

トイレの扉を開けて阿未花を見ると、阿未花の背後には何食わぬ顔で当然のようにノブ達が並んでいた。

「ちょっとちょっと・・・何ちゃっかり入って来てるのよ」

「いやだってあの扉から来たんだから、仕方ねぇだろ」

あ・・・そっか。

不自然にある扉から目を戻すと、ノブは少し呆れたような目つきでこちらを見ていた。

「じゃ、じゃあ、早く行ってよ」

「あぁ」

ミントとライムとマナミに手を振って扉が消えるのを見てからようやく個室に入る。

「御咲ぁ、すごいね、今の時代、どこでもドアってほんとにあるんだね」

「え、うん、そうね」

オーナーって何者なのかしら?

異空間を繋げるなんて、やっぱり地球人じゃないのかしら?

氷牙ほど無愛想じゃないけど、何に対してもノーリアクションだし。

そういえば、氷牙は宮崎の組織に興味あるかしら、大きな組織の情報を欲しがってたみたいだし。

教室に戻るとほとんどの人が大穴の付近に集まっていて、席に座ると同時にチャイムが鳴り響くが、まだ若干収まってない胸の高鳴りが妙にチャイムと重なり、何となく胸騒ぎに似た感覚になった。

「あーあ、1時限目潰れちゃったね」

あの大穴の問題もあるし、2時限目から何事も無かったかのように講義は始められないわね。

「そうねぇ・・・しかも、教壇があんなにへこんじゃってるし」

「・・・なぁ」

「あ、岡田君」

岡田は気まずそうに阿未花を見た後に、少し怯えた表情に似た眼差しをこちらに向ける。

「ちょっと良いかな?」

そんな自信無いなら、何で告白なんてするのよ、まったく。

「えぇ」

静かな中庭に連れられると岡田は大木に手を当て、深呼吸してからこちらに体を向けた。

昼休みになったら、ちゃんと返事しようと思ってたのに、そんなに待てないのかしら?

「あんな騒ぎの後だけど・・・答えが待ちきれなくてさ」

「・・・まぁいいわ」

「・・・それで、その・・・どう、ですか?」

・・・もし氷牙に逢わなかったとしても、岡田君には気持ちは向いてなかったかな。

普通の人だし。

「岡田君って、スポーツは得意?」

「え?・・・あ、まぁ、中高ずっとテニス部だったけど」

「じゃあ、武術は?何かやってた?」

頭を掻きながら険しい顔で空を見上げた岡田は、あちこちに目を泳がせてからようやくこちらに顔を向けた。

「いや、授業でやってた、柔道くらいしか・・・」

「そう・・・あたしね、小さい頃から、ずっと空手習って来たの。県大会で優勝したことも1度じゃないし、腕には自信があるわ?だからかしら、あたしね、自分より弱そうな人は・・・もちろん嫌いじゃないけど、でも、好きにはなれないのよ」

「それは・・・やっぱり、いざというときには守って欲しい、から?」

先程よりかは少しだけ岡田の眼差しに力強さが戻ったように見える。

「まぁ・・・そういう、ことかしら・・・」

この話をすれば、すぐに諦めると思ったのに。

「・・・守って欲しいって言うなら、俺は永峯を守る自信がちゃんとあるよ」

「え・・・」

何言ってるの?この人。

勇敢と無謀を履き違えてるのかしら?

「まさか、ラケットでも振り回す気なの?」

「あ、ははは、違うって・・・」

緊張が解けたような空気になると、岡田の眼差しがまた一層強くなった。

「俺も・・・能力者だから」

・・・能力者?

岡田君も・・・能力者だったの?

・・・なるほど。

だからさっきから、ずっと自信ありげな表情だった訳ね。

「これでも、結構使いこなしには自信があるんだ。だから」

「でも・・・でもね、岡田君。岡田君の気持ちに応えられない理由はまだあるのよ」

一瞬にして表情が凍りつくのを目の当たりにすると、少しだけ自分の心も締めつけられるような感覚に襲われた。

「あたし、好きな人がいるの。その人も能力者なんだけど、あたしが知ってる能力者の中で、その人が1番強いのよ」

「それは、分からないでしょ?・・・まだ」

・・・確かに、覚醒と鉱石のことがもっと知り渡れば、そうかも知れない。

「その、強いだけじゃないのよ?少し無愛想な所もあるけど、話し方も、優しいし」

ほんとは少しどころか、無愛想でしかないし、それに、良く言えば優しいけど、何かまるで全く関心を持とうとしないようにも時々感じるし。

・・・岡田君みたいに、笑ったりしないのよね。

「・・・永峯」

「・・・ん?」

「永峯さえ良ければ、その人と戦わせて貰えないかな?」

・・・戦うって・・・氷牙と?

岡田の眼差しがまた少しずつ強くなっていってるのを見ると、これまでの氷牙の戦いのシーンが一気に脳裏に浮かんだ。

「永峯を賭けに使うのは悪いと思うけど、そうじゃなきゃ、俺」

「ダメよ、止めた方が良いわ?あの人ね、関西で1番強い人にも勝ったし、イングランドに出たテロリストだって倒したのよ?」

岡田君がどんな力を持ってるか知らないけど、敵いっこないわよ。

「イングランドって、あの翼の生えた3人組の?」

「・・・えぇ」

小さく眉間にシワを寄せた岡田は考え込むように目線を落とす。

「そうかぁ・・・何か、ますます見てみたくなったかもな」

「・・・ちょっとぉ」

まさかの逆効果?

「・・・永峯」

「・・・ん?」

すると岡田の目が泳ぎ始め、少しそわそわするような表情に変わる。

「その・・・好きな人には、もう・・・告白はしたの?」

「・・・う、ううん」

「じゃあ俺・・・永峯が、フラれるまで待ってようかな」

岡田は照れを隠すように頭を掻きながら目を逸らすが、ふとこちらに目を向けたときに小さな笑みを浮かべるその眼差しには、何となく固い意思のようなものを感じた。

・・・何よ、それ。

「・・・ちょっと、フラれるって決めつけないで」

「い、いや違うよ、俺がそうなってくれないかなって勝手に思ってるだけで・・・」

告白・・・かぁ。

あの氷牙に?

でも確かにあのまま恋人かどうか分からない曖昧な関係は続けたくないし。

「もしその人が永峯を受け入れたなら、俺、永峯に諦めがつきそうだし・・・だから・・・まぁ、急かすようで悪いけどさ、近いうちで良いから・・・」

岡田君が能力者だったのは予想外だけど、好きな人がいるって言っても諦めないなんて・・・。

「・・・分かったわよ」

まぁ良いわ、いつかはしなくちゃいけないし。

「あぁ、悪いな・・・あ、もう、2時限目始まるよ、戻ろう」

安心したような笑みをこぼした岡田はせわしなく腕時計に目を向け、そして照れを隠すように足早に教室に戻っていく。

でも成り行きとは言え、氷牙に告白しなくちゃいけなくなっちゃった。

どうしよう。



何だよ、あいつら、2時間目からもうサボってるのか。

どうせ体育館裏にでも居るんだろう。

後でちょっと見てみようかな、3階の南階段の所からならちょうど見下ろせるし。

休み時間が終わる間近、教室を出たすぐ右手にある、体育館裏が見える窓から外を見下ろしてみる。

居ない?・・・。

だとしたら、まさか中庭の裏かな。

「音也、見えたのか?あいつら」

「ううん」

若干の深刻さを感じさせる表情の要太が頷くと、すぐに要太は心当たりを感じさせる顔色を見せる。

「じゃああっちか」

「うん」

席に座り、校庭を見下ろしたときにふと感じた緊張感が、鳴り出したチャイムと重なって少しだけ刺々しさを増す。

もし喧嘩になったら、後々仕返しとか来るようになっちゃうのかな?

だったら、リアさんの言う通り、徹底的にやった方がいいのかな?

そして3時間目の授業が終わり、チャイムが囃し立てるように胸を締め付けるが、電気を点けずに日光だけで照らされた薄暗い階段を下りる度、募る緊張感はどこか落ち着きを纏っていた。

くすみ切った非常口から中庭に出ると、すぐに裏の方から何人かの話し声が聞こえてきた。

ふぅ・・・。

砂利を踏む音が、再び緊張感の詰まった風船をゆっくり握り締める中、何やらクラスの女子について話している矢川達の前に立つ。

「あ?」

矢川に続いて他の人達も皆こちらに顔を向けると、そこには一瞬にして警戒心という名の重たい空気が降り掛かった。

うわ、確かD組に居るいつも噂されてる不良だ、この人。

「何だよ伊勢谷」

「あのさ、矢川って能力者なんでしょ?」

どうやら、ミサが動き出すようです。でもその前に音也くんですかね。笑

ありがとうございました。


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