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スクランブル

もしアリサカのようなことが他の組織でも起こってるとしたら・・・。

「氷牙、周りがそんなに気になるのかしら?」

ステーキを一口大に切りながら、ミサが落ち着いた様子で口を開く。

「まぁ少しね」

「あらそう・・・それより氷牙、この組織に妖精が出るっていう噂があるらしいわよ?」

まるでその動きに慣れきったようにミサは微笑みながらお肉を切り取り、ナイフを軽く捻ってソースをお肉に撫で付け、そしてお肉を口に入れる。

「妖精?あぁレベッカのことだね」

「・・・な、何よ?どういうこと?」

驚いたような表情でミサが顔を覗いてきたので、カズマの相手をした時のことを説明しながらステーキにフォークを刺し、ナイフを入れていく。

「あらそうなの。じゃあ実際にいるのね。何か見てみたいわ」

落ち着きを取り戻したミサは再び微笑みを浮かべながらグラスに手を伸ばす。

「そのうち会えるんじゃない?それより初めての会議はどうだった?」

「そうそう、これから何かと大変みたいだわ」

料理に目線を置きながら淡々とそう応えるミサからはそれほど大変そうな雰囲気は感じられない。

「世の中が?」

「そうね、それもあるけど、あたし達もよ」

「そうか」

世の中の能力者に対する見方が問題になりそうだ。

「あーあ、明日から学校だわ。何か急に現実に戻された気分」

「ちゃんと学校の事考えるなんて、ミサは偉いよ」

ミサは照れるように微笑みを浮かべた後に上目遣いでこちらに顔を向ける。

「そ、そう?」

「テロには気をつけないとね」

「・・・そうよね」

夕食の時間帯が終盤になると、ユウジが会議室から出て来てマイクの前に立った。

「皆さん、リラックスしながら聞いて下さい」

会議室で夕食か。

大変そうだな。

でもミサが隣に居るけど・・・まぁもう会議は終わったから、ここに来たんだろう。

「まず、世の中について話をします。もう知ってる人もいるかも知れないけど、組織は世界中にたくさんあります。つまり、それだけ能力者がいるということです」

会場が少しざわつき始めると共に、空気には若干の不安感が漂い始める。

「皆さんの知ってる世界は変わってしまいました。だけど、大事なのはこれからどうするかです」

ユウジはおじさんから聞いたんだろうけど、おじさんはこの事をどうやって知ったのだろう。

不思議だが、気にする事でもないかな。

「最悪の状態を考えると、普通の人間同士の戦争の上に、普通の人間と能力者との戦争、更に能力者同士の戦争。そんな世の中になってしまう可能性はゼロではありません」

すぐに悪いことを考えるのはあまり良くないが、それは仕方ないことだな。

「そこで、この組織の活動方針は、極力無意味な戦いはしないということです。つまり、身を守る時や、誰かを助けるため、テロの鎮圧のために力を使うという方針で行きたいと思います」

きっと、戦いによって決められたリーダーだから、この場での反論はしないのだろう。

「なので、皆さん各々の修業は是非とも励んで下さい」

会場の空気は何ともフラットな感じだ。

まるで少なからずこれから世界中で戦いが始まることは分かってるみたいに。

「最後にこの組織の名前を決めたいと思います」

するとウェイトレス達が皆に紙とペンを置いて行った。

組織に名前、か。

「組織の名前を自由に書いてこの目安箱に入れて下さい。以上です」

ユウジが会議室に戻ってから少しの間、会場のほとんどの人が席を立たずに組織の名前を考えていた。

「うーん・・・組織の名前ねぇ。氷牙、何か良いの思いついた?」

いきなり言われても、皆困るだろうな。

「そうだな、国際的に通用しそうな名前とかは?」

「そうねぇ。なら英語かしらね」

名前を付けるってことは、他の組織にこの組織の存在を知らせるためだよな。

つまりそれって、組織間の勢力争いを誘発することになるんじゃないかな?

まさか、おじさんの目的は、戦争?

それなら、アリサカみたいに組織を出ていく方が返って自分を守れるようになるのかも。

そういえば、初めてここに来る前、あの部屋で何気なく見た本棚にあった本の中に、何となく気になったタイトルの本があったな。

忘れないうちに紙に書いてみよう。

「あら氷牙、それ何て言うの?」

ミサはまた少し顔を寄せながらEnergeiaと書かれた紙を覗いた。

「分からないけど、気になったのを書き留めてみたんだ」

「あらそう。何か格好良いわね」

そう言うとミサが思い立ったようにバッグに手を伸ばした。

「そうか」

「・・・今携帯で調べたけど、エネルゲイアって読むらしいわね」

「そうか」

「ギリシアの言葉で、実現体って意味みたいね。何かまるで、あたし達だわ」

実現体?

実現・・・超能力という理想を現実のものにしたからってことになるのかな。

でもまぁ、これも何かの縁かな。

「あたしがこの紙出しておくわね。心配しないで、ちゃんと2人のアイデアだって書いておくから」

笑顔でそう言うと、ミサはその紙を自分の前に引き寄せ、携帯を見ながらつけ足すように何かを書き始めた。

「あぁ」

まぁ・・・いいか。

「そういえば、ミサは会議室で夕食とらなくて良かったの?」

「え?だってほら・・・喋りながらの夕食の方が楽しいじゃない?」

こちらに顔を向けたミサは、何故か戸惑いをごまかそうとような微笑みを見せた。

「そうだね」

ミサが目安箱に向かい始めると同時に、あちこちからミサ同様に目安箱に向かう人が何人か見えてきた。

「ミサちゃん、何て書いたの?」

「え?・・・秘密よ」

ユウコがテーブルに戻ってきたミサを見るなりすぐに聞くと、ミサは照れるような笑みを浮かべながらそう応えて椅子に座る。

「そうだ、ミサちゃんって数学得意?」

するとユウコがおもむろに学生カバンからノートを取り出した。

「え?まぁ苦手では無いわね」

「ちょっと教えて欲しいなぁなんて・・・」

ユウコはノートを抱え込むように胸に当てながら照れ臭そうにミサに微笑む。

「あら、いいわよ?」

ミサが優しく微笑んで応えると、ユウコは安心したように笑みを返してノートと教科書を開く。

「えっと、ここなんだけど・・・」

ヒカルコに聞くより大学生に聞いた方がいいかも知れないな。

ふと舞台を見ると、目安箱を持ってユウジが会議室に入っていくのが見えた。

周りを見渡すと部屋に帰る人がいたり、1つのテーブルでカードゲームをしている人達が見える。

仲が良い人とまだ打ち解けてない人の差が出始める頃かな。

するとモニターに電源が入り闘技場内の映像が流れ始めると、いくつかの闘技場で誰かが戦いを始めた。

修業かな。

それより、皆は戦争することに抵抗はないのだろうか。

確かに教科書に載ってるようなものとは全く違う戦争だけど。

いや、だからこそゲームの延長線上として考えてしまえるのか。

「おい氷牙」

後ろから声をかけられたので振り返る。

シンジだ。

「ちょっと闘技場付き合ってくんない?」

「あぁ」

特に高校生くらいの世代の人なら、むしろ軽いテンションで力を使うんだろうな。

闘技場への扉の前では2人の男性がシンジを待っていた。

確かキヌガワショウタとシバタセイシロウだ。

「これで揃ったな」

「うん、じゃあ行くか」

シバタセイシロウに応えながらシンジがドアノブに手をかける。

「チーム戦?」

「いや、バトルロイヤルだ」

通路を出る前に何気なく聞いてみると、通路を抜けてからシンジがこちらに振り向きそう応えた。

「そうか、斬新だね」

「よしじゃあ、離れようか」

闘技場の中央辺りに着くなりシンジはすぐに離れようと背を向ける。

「合図は?」

「俺がおじさんにゴングだけ頼んでおいたよ」

すぐにそう応えたキヌガワショウタもシンジ同様に離れていった。

なるほど、打ち合わせはしたみたいだな。

「話は伺ってます。準備出来たみたいですね」

3人と共に正方形になるように離れるとおじさんの声が響き、その後に金属音が響いた。

シンジが右腕と両足首を外殻で覆うと、キヌガワショウタは両手を炎で燃え上がらせたので、氷牙を纏い、両手に出した紋章を左右のシンジとシバタセイシロウにそれぞれ向けた。



「ふぅ終わった」

ユウコはノートを閉じ、天を仰いだ。

「良かったわね」

ユウコって見た目通り、勉強が苦手なのね。

「ありがとね。やっぱミサちゃんに教えて貰って良かった」

「いいのよ。また言ってくれたら、出来る範囲で教えるわ」

「うん」

あら、何か騒がしいと思ったらあそこのモニターに人が集まってるわね。

「3番で氷牙が戦ってるよ」

頬杖をついてモニターを見ながら口を開いたヒカルコの目線の先に目を向けると、筆記用具を学生カバンにしまったユウコもすぐに3番モニターへと顔を向ける。

「あら、入り乱れてるわね」

確かあの人は・・・。

「あ、ショウタ君」

「あらユウコ知ってるの?」

落ち着いた表情で口を開いたユウコは、こちらに顔を向けながらふと大人びたような微笑みを見せた。

「うん。せっかく同じ力なんだし、話しかけたら意外と優しかったよ」

「あらそうなの」

ユウコって人懐っこいわね。

見たところバトルロイヤル形式の戦いのようだけど、今は氷牙とシンジが戦っているわね。

氷牙は相変わらず手加減してるのね、しかも他の2人にもちょっかい出しながら。

あら、ショウタが割り込んだわ。

最後の1人は確か重力を操る人よね。

「あの重力の人、名前何て言ったかしら」

「シロウだよ」

ヒカルコが一瞬こちらに顔を向けて応えるとすぐにモニターに目線を戻す。

「そんなに短かい名前だったかしら」

「セイシロウじゃ長いから、シロウにしたの」

モニターを見たままヒカルコは平然とそう応える。

「そ、そう・・・」

にしたって、まぁ仲が良いってことかしら。

「ヒカルコ、セイシロウと仲が良いの?」

「まぁ少しね」

「あらそう」

ヒカルコったらちょっと見ないうちに知り合いが増えてるのよね。

ショウタは手に燃え上がらせている炎の形を変え、剣を作り上げた。

あらまあ、ユウコとは違って近距離で戦うタイプなのね。

あら、氷牙に向かって行ったわ。



敵が複数いるのも、良い訓練になるかもな。

ショウタの炎の剣を紋章で防ぎ、それと同時に腹に向けて氷弾を撃つが、ショウタはすぐに片方の炎の手で氷の弾を掴み、爆風を最小限に抑える。

そんな時にシンジが横から突っ込んで来たので、とっさに上に飛んでシンジの拳を避けると、ショウタは両手に最大限に燃え上がらせた炎を盾にしてその拳を防いだが、強い反動を受けてそのまま吹き飛ばされていく。

シンジに氷弾砲を撃つと、右腕を盾にしたものの衝撃を受け止め切れずにシンジは吹き飛んでいった。

それと同時にセイシロウは球状に固めた重力の塊を投げるようにこちらに飛ばしてきたので、それを受ける寸前にとっさにセイシロウに氷弾を撃つ。

重力の球に当たるとそのまま地面に思いっきり叩きつけられ、氷弾に直撃したセイシロウは後ろへと吹き飛ばされた。

シンジとセイシロウが立ち上がったのを見て2人に紋章を向けたが、気配を感じふと振り返ると、背後には炎の剣を振りかざすショウタが居た。

相手は剣か。

仕方ないな。

「氷槍」

紋章が氷の槍となり、手から肘までの腕を覆う。

「やっぱりまだあったのかよ」

セイシロウに突っ込むシンジが通り過ぎ様に呟いた後に、向かってきたショウタが振り下ろした炎の剣を氷の槍で受け止める。



「また何か新しいの出したね、氷牙」

ユウコは楽しそうに3人の戦いを観ている。

「そうね」

ショウタの剣を紋章で防いで槍で突く。

何だか騎士みたいで格好良いわ。

「惚れちゃいそうだね」

「ちょっとヒカルコったら」

「顔、赤いよ?」

するとヒカルコはからかうようなニヤつきを見せてくる。

「もう、からかわないでよ」

図星だから、余計恥ずかしいわ。

「それにしても氷牙、ほんとにあれで全部かな?」

ヒカルコってほんとに鋭いのよね。

「案外まだ隠してるのかも知れないわね」



ショウタの剣を避けながら槍を振り上げるが、炎の手でそれを防いだショウタは炎の剣の形を解き、拳に炎を集中させた。

ショウタの渾身の一撃を紋章で受け止めるが、完全に反動を打ち消すことは出来ずに思わず後ずさりしてしまう。

サブタイトルには、ふざけてるパターンとふざけてないパターンがあります。笑

ちなみに12話はふざけてないパターンです。

ありがとうございました。

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