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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第五章

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ザ・オキュペーション3

マイがこちらに顔を向けたときにまた銃声が聞こえると、すぐにマイは大きな音に驚くように一瞬だけ身を少し屈める。

「落ち着いて」

「ん・・・猫さん・・・大丈夫かなぁ?」

「威嚇射撃みたいだから、大丈夫だと思うよ」

「・・・うん」

「今のうちにカラスを避難させよう」

「そうだね・・・カラスさん、ここから離れようよ」

しかし巨大なカラスはその場から動かずにマイと顔を見合わせている。

「・・・でも・・・んー・・・」

困ったような表情でこちらに振り返ったマイを見たことから、どうやらカラスが言うことを聞かなかったのが伺えた。

動物と話せると言っても、交渉術が上手い訳ではないしな。

「どうしよう、逃げたくないって」

須藤刑事はカラスを殺さないって了承してくれたかな?

「ちょっと待ってて」

「うん」

須藤に近づくと、須藤は一瞬こちらを見たがすぐに巨大な猫の方に目を向ける。

「駆除が目的なら、撃てば良いのに」

「現段階で我々に与えられているのは捕獲命令だけだ。この場では殺せない」

「そうか、じゃあどうするの?」

するとこちらに顔を向けた須藤は腕時計に目を向けてから公園の入口の方へと目を向けた。

「すぐにSATが来る。そしたら麻酔弾を使うさ」

「そうか、じゃあ今日はカラスには手を出さないって了承してくれる?」

そう聞くと須藤は巨大な猫と警官達の方を見ながら眉間にシワを寄せ、嫌悪感を伺わせる表情を浮かべながらも神妙な態度を見せた。

「・・・あぁ」

「マイ、あの人達はカラスには手を出さないって言ったから大丈夫だってカラスに伝えて」

「うん」

マイがカラスと話をしているときに何となく巨大な猫の方を見ていると、公園の入口の方から警官とは服装が違う人達が何人か走ってくるのが見えた。

あれがSATかな?



教室の扉を開けると銃を持っている男性が一瞬こちらを見たが、すぐに皆の方に目を向けて演説を続けていく。

とりあえずは怪しまれないように行かなくちゃ。

「阿未花、行くわよ?」

黙って頷いた阿未花に腕を掴まれながら、ゆっくりと席に向かって歩き出す。

中ほどまで進んだときにふと黙って室内を見渡す体格の良い男性に顔を向ける。

上手くやってくれるかしら、ノブ。

その直後、体格の良い男性は鈍い衝撃音を鳴らしながら飛び出す空間の歪みと共に勢いよく吹き飛ぶと、それに気づいた銃を持っている男性も、飛んで行った体格の良い男性の方から扉の方へと目を向けた直後にその衝撃波によって勢いよく吹き飛ばされた。

・・・な、速い・・・。

「とりあえず気は失うぐらいの強さで撃ったから、まぁ大丈夫だろ」

まじかに見ても、ノブの動きが全く見えなかった。

阿未花を見ると、阿未花も今の寸劇に驚いているかのように固まっている。

すぐに教室がざわつき始めると、阿未花もゆっくりと不安げにノブ達を見る。

「何だ?またテロか?」

「何だよあの脚、あいつ能力者か?」

さすがに急襲にしてはいきなり過ぎたわね、皆も不安がってるみたい。

「ノブ、何とか言いなさいよっほらっ」

小声で叫びながらノブを教壇の前に立つように促すと、シンジ達の方を見た後に困ったように眉をすくめたノブは、少し重い足どりで教壇の前に立ちゆっくりとマイクを手に取った。

「あー、あぁ、オレ達は、警察と協力して、テロを鎮圧している能力者の者です。なんで、安心して下さい、すぐに警察も来ると思いますんで」

教室に沈黙だけが漂っている中、静かにマイクを置いたノブは少し速足で教壇を降り、こちらの前に来ると倒れているテロリストに向けて親指を差した。

「じゃあ、とりあえず縛っといてくれよ」

「・・・え?」

ノブは辺りを見渡した後、何食わぬ顔でこちらに目線を戻してくる。

「いや、だからあんたの、のう」

「ちょっとノブっ」

慌てて言葉を遮りながら、阿未花に話を聞かれないようにノブを遠ざける。

「あんだよ」

「皆にはあたしが能力者だって言ってないのよ」

倒れているテロリストと教室を見渡したノブは面倒臭そうに頭を掻き出す。

「んなこと言ってる暇ねぇだろ、ほらっ」

するとノブはさっきの仕返しと言わんばかりに教壇の方を顎で差す。

「う・・・」

どうしよう。

皆に見られたら、きっと大学に居られなくなるわ?

「御咲?どうかした?」

あ、阿未花来ちゃった。

「あ、ううん」

「よしっここはもう良いだろう。次行くぞ?」

まるで見せつけるように不敵な笑みを浮かべながらノブはシンジ達と共に扉の方に歩き出す。

そんな・・・。

「ま・・・」

「くそぉっ」

苦しそうな声が聞こえてきた方に目を向けてみると、銃を持っている男性は辛そうに立ち上がりながらノブを睨みつけていた。

「な、何だって?起き上がれんのかよ」

「人がせっかく、力を使わないで、言い聞かせてやってんのによ」

睨みつけるように笑みを浮かべた男性が銃口をノブへと向けたときに思わずノブに目を向けたが、そこにはすでにノブの姿は無かった。

「がぁっ」

男性の叫び声が聞こえたのですぐに振り返ると、床に倒れ込んだ男性の目の前にはノブが立っていた。

そして男性の手から離れた銃を拾い上げたノブはすぐに男性から距離を取る。

しかしまたもすぐに立ち上がった男性が素早く片手を広げると、まるでその掌に向かって引き寄せられるように教壇が宙に浮き出した。

あ・・・。

するとその宙に浮く教壇は男性の手の動きに合わせるように軽々と宙を舞い、そして男性が手を前に出したと同時に、教壇は勢いよくノブに向かって飛んで行った。

何人かの小さな悲鳴と共に衝撃音が教室中に響くと、ノブの衝撃波によって吹き飛ばされた教壇は、直後に更に大きな音を立てて壁へと叩きつけられた。

「ちっ・・・ほら、起きろよっ」

そう言いながら男性が倒れている体格の良い男性を見ると、体格の良い男性はゆっくりと起き上がり始めた。

「ちょっとノブ、手加減しなかったんじゃなかったの?普通に起きてるじゃないのよ」

「な、あんたが早く縛らねぇからだろうよ、おいっシンジっ」

ノブの目線の先に顔を向けると、シンジが少し慌てたように走り出し、そして2人は2人のテロリストと向かい合った。

どうしよう、こんな所で戦いが始まったら教室がメチャクチャになっちゃう。

でもわざわざ場所を変えられる雰囲気じゃないし。

とにかく、皆を避難させないと。

「皆ぁ、危ないから下がって?ほらっミカ達も」

「う、うん」

とりあえず1番前に居た人達を上がらせると、それを見ていた人達も慌てながら上へと逃げて行くが、一部の人は机に隠れながら携帯のカメラを4人に向け始める。

もうっそんなカメラなんて・・・。

テロリスト達の方を見ると、体格の良い男性がみるみる巨大化していくと共に、外見も筋肉質な鎧に変わっていき、ついにはその男性は隣に居るテロリストの男性の2倍ほどにまで大きくなった。

単なる肉体強化みたいね。

もう1人は物を浮かしたり飛ばしたりするみたいだけど、ノブとシンジなら大丈夫よね。

「阿未花、あたし達も離れよ?」

「あ、うん、でも、あの人達は?」

阿未花の心配するような眼差しの先に居る2人を見ると、シンジの右腕は赤黒く染まり大きく膨れ上がっていた。

「2人なら大丈夫よ、結構強いんだから」

阿未花を連れて扉付近にまで下がると、ミント達が4人の方に目を配りながらこちらに近寄ってきた。

「ミサ、大丈夫?」

「えぇ大丈夫よ」

「ねぇちょっと御咲、あの2人が能力者だって知ってて関わってんの?」

あ・・・さっき、思わず口に出ちゃったかも。

「え、あの、たまたま・・・ね」

「んん?さっき、トイレでちゃんと話すって言ってなかったっけ?」

疑い深く見るように目を細くした阿未花はそう言いながら少しずつ顔を近づけてくる。

い、今?

いくら何でも早過ぎないかしら?

「え、だって、ミサも同じのうりょ」

「ミントっ」

「くしゃだもん、ね?」

言葉を遮ろうとしたにも拘わらず、ミントが純粋な笑顔でこちらに問いかけてきたので阿未花を見ると、阿未花はミントの顔を見てから真顔でこちらに顔を向けてきた。

どうしよう・・・。

「・・・え・・・御咲」

出来れば自分の口から言いたかった。

もう1度ミントの顔を見た阿未花はすぐにノブ達の方にも目を向けると、阿未花は珍しく真剣な表情で軽くうつむいた。

「そうだったんだ」

「あの・・・」

ミントに顔を向けると、笑顔の中に不安げな表情を混ぜたまま阿未花とこちらを交互に見ている。

しかし小さくため息をついて顔を上げた阿未花は、すぐにいつものように母性と親近感、友情という名の愛情を沸き立たせる笑顔を見せてきた。

「なーんだ、そっか。私は別に気にならないよ?それくらい」

「ほんとに?能力者なのよ?」

「全然、もう人生の半分以上親友やってるんだよ?それに見たところ御咲自身何も変わってないじゃん」

そんな時満面の笑みを浮かべる阿未花を見ているミントから不安げな表情が消えたのがふと目に入った。

「・・・ごめんね阿未花。不安で言えなかったの」

「いいよ」

ようやく背後からの連続的な衝突音のような音がはっきり耳に入ってきたのが分かると、改めて阿未花を庇いながら、共に扉に1番近い机の裏に移動してノブ達を見る。

「くそぉっもうこんなくだらないカルト教団なんて知らねぇっ」

物を自在に浮かせていた人は倒れてるし、もう動きそうにないみたいだわ。

すると何やら苦し紛れに叫んでいる巨大化した男性は更に体を巨大化させていく。

あ・・・あのまま大きくなったら、天井に頭が着いちゃうわ?

「何もかもぶっ壊してやるよぉっ」



SATが公園に駆けつけてくると、SATの人達はそのまま休みなく展開していき、そして怒涛の潰れた音を鳴らす銃撃の後、巨大化した猫は意識を失い、地面に倒れ込んだ。

さすがに正確な立ち回りだな。

須藤がSATの1人と話をしているのを何となく見ていると、突然後ろの方で太く低音のカラスの鳴き声が響き出した。

何だ?

カラスがいきなり鳴き始めた?

「カラスさん落ち着いてっカラスさんっ」

マイの必死の訴えにようやく黙った巨大なカラスはゆっくりと目線を下げ、マイと顔を見合わせる。

「どうしたの?」

マイが巨大なカラスと話をし始めたときに須藤の方に目を向けてみると、1人のSAT隊員が須藤と話している前で、他の隊員が皆揃ってこちらの方を鋭く見つめていた。

須藤刑事に話はつけてるから大丈夫だろう。

カラスが暴れなければだけど。

「でもね、猫さんは人に怪我させたからああなっちゃったけど、カラスさんは何もしてないでしょ?・・・うん」

マイの話にも耳を傾けながらSAT隊員を見ていると、突然SAT隊員達が一斉に銃を構え出し、こちらの方に銃口を向けた。

何だ?いきなり。

すると須藤と話していた1人の隊員は銃を構えている隊員達の背後に立ち、まるで指揮を取るかのようにこちらを見据えたので、銃の射線上でマイの前に自分が重なるように位置を見ながら数歩前に出た。

「おい、青年」

「何か?」

「本当に、その生き物が人に危害を加えないと断言出来るか?」

あの中で1番歳をとってそうな人だな。

リーダーみたいな感じかな?

「それは分からないよ。いつだって、争いの原因を作るのは人間の方だし。今だって、始まりはあなた達の持つ銃の銃声だからね」

須藤がそのSAT隊員の前に出ようとしたが、そのSAT隊員はすぐに須藤を止め、宥めるように微笑みかける。

「ここは任せろって」

「でもジンノさん」

「良いから良いから、な?」

小さく頷いて下がる須藤を見届けたジンノと呼ばれたSAT隊員は、こちらに顔を向けると軽く空を見上げ、小さく眉をすくめながら見下すように微笑んだ。

「おいおい青年、まるで俺達が悪者みたいな言い草じゃねぇか。傍から見てっと、青年のその佇まいは俺達を十分脅してるぜ?」

「脅す?銃を向けられてるのはこっちなんだけど。まぁでも、もしマイに当たりでもすれば、仕返しはするけどね」

「はっ俺達ゃプロだ。万が一にもあの少女には当たらないさ。だがまぁ、例え当てたとしても、弾は麻酔弾だ、死ぬことはない」

あのジンノって人は須藤刑事よりも上なのかな。

ミントは、空気が読めないとかじゃないんですよね、天使ですからね。笑

ありがとうございました。

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