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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第五章

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準備しておけばよかった

クリスタルにアイスピックの先端を着けた後、石でアイスピックの持ち手の底を勢いよく叩く。

あ・・・。

静かに立ち上がり、持ち手だけになったアイスピックを要太に渡す。

「取れました」

「・・・あ、はい」

こんなにクリスタルが硬かったなんて。

いや、アイスピックが細すぎたのかな?

「あっはっは、何やってんの2人共」

「要太、他に何か持ってないの?」

「持ってないよ」

どうしよう、せっかく見つけたのに、クリスタルが取れない・・・。

掘り出した穴を埋め、太い根っこに腰掛けながら、落ち込んだ様子で地面に座り込む要太を見る。

「探し方は分かったしさ、別の所行こうよ」

「えぇ?そこにあんじゃん。それに新しい道具持って来れば良いだけたし」

そうだけど・・・。

「そういえばさ、どんな力があるの?音也って」

近くの根っこに腰掛ける愛華音がそう言うと、要太もすぐに興味を示すように表情を明るくして見せた。

「そういえば聞いてなかったな。音也って・・・いや待て、分かった」

ん?・・・。

すると素早くこちらに軽く手をかざして見せてきた要太はまるですべてを理解したかのように、自信の伺えるニヤつきを浮かべる。

「あれだろ?音也、ヒーローだろ?」

「まあね」

「あそっか音也、好きだもんね、アメリカのヒーロー」

「うん、空は飛べないけど、スーパーマンだよ」

感心するような唸り声を出しながら頷く2人を見たとき、心の奥底に根を張る後ろめたさのようなものが、どことなく和らいだ気がした。

「そうかぁ、音也がスーパーマンなら、オレは何が良いかなぁ」

そう言って要太が空を見上げたとき、ふと見知らぬ鳥の鳴き声が静かに響いたが、その瞬間、何故かその見知らぬ鳥の声でさえも柔らかな日差しの中では少しも違和感を感じなかった。

「オレは、ガルダになりたいかな」

「何?それ」

「神話に出て来る鳥人だよ。やっぱりオレは翼が欲しいな」

感心するように頷く愛華音に顔を向けると、2人に注目された愛華音はすぐにそわそわした素振りを見せ始める。

「愛華音は?」

「え、私・・・どうしようかな」

「ああ、その前に愛華音は戦うような力じゃないやつにしないとな」

するとすぐに愛華音は頬を膨らませ、その眼差しで強い嫌悪感と寂しさをぶつけてきた。

「ヤダ。仲間外れにしないでよ」

でもな・・・。

要太に顔を向けると、目を合わせた要太はいつものようにうつむきながら軽く頭を掻き出し、その態度から困惑と若干の神妙さを伺わせた。

「まぁ・・・戦う力があった方がさ、逆に、不便じゃないっていうか、うん」

しょうがないなぁ。

「せめて、自分から戦うようなことはしちゃダメだよ?」

「んー・・・うん、分かった。じゃあ私、魔法使いになりたい」

その時にふと要太が気の抜けたような笑い声を吹き出す。

「てか、その前にとりあえずまずクリスタル取らないとな」

「はぁ・・・どうする?もう無理矢理引っこ抜いてよ音也」

何か、ハンマーとか持ってくれば良さそうだ。

その時に遠くから連続的な重たい足音が聞こえてくると、すぐにその方からこちらの方に走ってくる巨大な生物が視界に入った。

「あれ」

すでにその生物に顔を向けていた2人が後ずさりすると、同時にその生物を追いかける3人の男性の姿も見えてきた。

「こっち来るよ音也」

「うん、とりあえず逃げなきゃ」

1人の男性が空に向かって何やら煌めく光を撒き散らすと、無数の光は一瞬にして矢のような形になり、瞬く間にその生物に向かって降り注いでいく。

所々から巻き上がる土埃の中を駆け抜け、その生物が更にこちらの方に近づいてきたので、2人と共に素早くその場から離れる。

「なぁ音也、あれって巨大動物の退治だよな?オレ初めて見た」

やじ馬に眺められながら3人の男性が巨大動物を追い詰めていくと、やがて巨大動物は見知らぬ鳥の居る木の下まで後ずさった。

1人の男性が掌から銃弾のような速さで何かを飛ばすと、胸元を撃たれたその巨大動物はそのまま力無く地面に倒れ込み、そのまま動かなくなった。

死んだ・・・かな。

少しして聞こえてきたパトカーのサイレンを聞いていたとき、ふと先程会った山川結衣歌達の姿が脳裏を過ぎる。

「2人共、また今度にしようよ」

「そうだな、あれじゃどっちみち近づけないしな」

何か持って来ればよかった。



「あら?」

ミサの目線の先に何となく目を向けると、カズマやレベッカと同じテーブルに居るマイの前に、クロルが座っていた。

「置物かしら・・・」

ヒカルコはこちらに目を向けて小さくニヤつくと、知らないフリをするかのように料理に目を向ける。

クロルに目を向けると、マイがクロルの前に置かれた小さなお皿に何かを置き、立ち上がったクロルはその何かをついばみ始めた。

「本物だわ?あれ」

「公園に行ったとき、マイが連れて来たんだよ」

少し驚いた表情でこちらに顔を向けたミサは、クロルに目を向けると何やら困ったように眉をすくめた。

「あらそう、ばい菌とか無いのかしら?」

コップをテーブルに置いたヒカルコは小さくニヤつきながらミサを見る。

「大丈夫だよ、さっきマイ、体を洗ってくるって言ってたし」

「あらそうなの」

ウェイトレスに昼食のお皿を下げて貰ったときに突如後ろから話しかけられたので振り返るが、すでにユウジが隣の椅子に座ってきていた。

「やぁ氷牙、ちょっと聞きたいんだけど」

「あぁ」

ユウジって普段何してるんだろう。

「この前氷牙が持ってきた、銀色の鉱石、あれおじさんに頼んで調べて貰ったんだ」

深く背もたれ、天井を見ながら喋り出したユウジは、そのままリラックスしたような表情をこちらに向けてくる。

「ああ、あれか」

「あれ、氷牙が持って来たのよね?あたし見たけどきれいだったから、ほら」

話に入ってきたミサに顔を向けると、ミサは微笑みながら財布からその一粒の血の結晶を取り出して見せてきた。

「ああ、それなんだけど、調べた結果、主に2つの成分で出来てることが分かったんだ」

ユウジが喋り出すと、血の結晶を持ったままミサは微笑みを浮かべ、ユウジの話に聞き入っていく。

「2つって?」

「うん、血球と血漿だよ」

ヒカルコの問いにユウジが平然と応えると、ミサは微笑みを浮かべたまま動きが止まった。

「まぁ赤い色素が無いとか、鉄の成分が異常に多いとか、色々と成分の量は違うけど」

「ちょっと」

言葉を挟んだミサに顔を向けると、眉をすくめたミサは首を傾げながら血の結晶を見せてくる。

「じゃあ、これ血の塊なの?」

「うん」

ユウジが落ち着いた表情で応えるとすぐにミサが血の結晶をテーブルに落とし、慌てて指をはたいた後に指の先端を恐る恐る嗅ぎ始めた。

「まぁ俺はそれより気になることがあるんだよね」

「そうか」

「ちょっと、それよりって何よ。血なのよ?これ」

ミサが少し強い口調で喋り出すが、ユウジは依然として落ち着いた表情を変えない。

「大丈夫だよミサさん、それは固まるとすべての細胞が鉄分でコーティングされるから、その状態じゃほぼ鉱物だよ」

「あら・・・そう」

眉をすくめて血の結晶を見つめたミサがゆっくりと結晶をつまんで持ち、再び微笑みながら財布に戻すと、そんなミサを見ながらヒカルコが吹き出すように微笑んだ。

「ミサって結構単純だよね」

「えぇ?そうかしら?」

「氷牙さぁ、また異世界行くの?」

不意に話しかけてきたユウジに顔を向けると、ユウジはニヤつきながらもその眼差しに真剣さを宿していた。

「まあね」

「じゃあさ、また鉱物持って来てよ、色々データ取りたいんだよね」

「そうか、分かった」

研究でもするのかな。

「えぇ?また?いつ行くの?」

ユウジに応えながらコップを持ったときにヒカルコが少し呆れたような口調でそう聞いてきた。

「まだ決めてないかな」

確かミサと予定があったんだったな。

「ふーん」

「そういえばユウジ、最近同盟を組む組織とか増やしたりしてるの?」

どことなくとぼけたような表情で話を聞いていたユウジはその眼差しのまま考え込むようにゆっくりと目線を上げる。

「・・・増やしてないなぁ、まあ2、3個あれば十分だし」

「そうか、連絡は取ってるの?」

「うんまぁ、たまに組織でメールとかしてるし」

「そうそう、氷牙が居ない間ね、テイラーから連絡があったのよ」

話しかけてきたミサを見ると、ミサは少し眉を上げながら何やら真顔でこちらを見ていた。

「そうか」

確かイングランドの組織だったな。

「最近ね、海賊が出るようになったから、近いうちに力を借りるかもって」

海賊か・・・。

「そうか」

「海賊って、やっぱり能力者かな?」

小さく眉間にシワを寄せたヒカルコが口を開くと、同じように眉間にシワを寄せながらミサが唸り出す。

「そうかも知れないわ」

テイラーには覚醒や鉱石の使い方を教えたし、強くなっていれば手こずることはないと思うけど。

ホットミルクを注いで席に戻ったときに援軍要請のアナウンスが会場に響き、ホットミルクを飲みながら舞台を上がっていくシンジを何となく目で追う。

「そういえばさっきも援軍要請出たよね」

「そうね、みんな大変ね」

ヒカルコに何気なく相槌を打つミサを見たときに何となく後ろに人の気配を感じたので振り返るが、後ろには誰も居なかった。

気のせいかな。

シンジ達も帰って来てしばらくすると、ユウジが背筋を伸ばして小さく深呼吸した。

「ミサさん、そろそろ会議でも始めるよ」

「あら、もうそんな時間なのね」

ユウジとミサが立ち上がり舞台に向かっていくのを見ながらホットミルクを手に取ると、ヒカルコがバッグから雑誌を取り出すのが目に入った。

何となく雑誌に目を向けると、その表紙にはふと記憶を思い返させる言葉が大きくロゴとして描かれていた。

「アン・・バーズ、クイーン・・・」

目で文字を追いながら無意識に言葉を口にすると、ページをめくろうとしたヒカルコの動きが止まり、こちらに顔を向けた。

「氷牙も好きなの?コハジョ」

「ん?何て?」

「え?知らないの?」

驚いたような口調で喋りながら、ヒカルコは閉じた雑誌の表紙を見せてくる。

「アンバーズ・クイーンだよ。超有名だよ?」

「そうか、どこかで聞いた言葉だなぁと思って」

「あ、ほら多分、前見せた時じゃない?」

雑誌を自分の前に引き寄せながら、ヒカルコはそう言って嬉しそうに小さくニヤつき出した。

「そう、か、いや、もっと最近だと思うけど」

「うーん」

首を傾げながらヒカルコは目線を上げて唸り出す。

それにしてもさっきの言葉は略すには文字が違い過ぎるけど。

「それより、コハ何とかって?」

「ああ日本語に訳すと、琥珀の女王だから、略してコハジョなの」

「なるほど」

雑誌に夢中になったヒカルコを何となく見て、ホットミルクを飲みながら雑誌をちらっと見てみる。

その男性は、確か遊園地のテロで見かけた・・・。

「ああ」

急に声を出すと、ヒカルコは眉をすくめながら素早くこちらに顔を向け、少し気味悪がるような眼差しを見せてくる。

「な・・・何?」

「その雑誌の名前、この前遊園地でテロを鎮圧した帰りに、その雑誌の記者に取材されたんだ。そこで聞いた言葉だった」

「え?取材されたの?コハジョの人に?」

驚くように目を見開くものの、その表情には少し羨むような感情が混ざっているように見えた。

「まあ、ヒロヤがね」

「え、あ、そうなんだ」

「ヒロヤと一緒に戦ってるとき、その人が後から加勢してきて、その顔を見たら思い出したんだ」

雑誌に載せられた写真に指を差すとヒカルコはゆっくりと写真に目を向けたが、すぐにヒカルコは再びその表情に驚きと戸惑いを伺わせた。

「え?ちょっと待って、この人、そこに居たの?」

「あぁ」

「しかも戦ってたの?」

「あぁ」

頷きながらヒカルコは写真の男性を見ると、小さく深呼吸してから何やらゆっくりと首を横に振りながらニヤつき出した。

「ふーん、そっかぁ、良いなぁ氷牙、芸能人に会ってその上コハジョの人に声かけられたなんて」

そう言いながらヒカルコはすぐにまた雑誌に夢中になった。

芸能人?

「その人って、芸能人なの?」

「アンバーズ・クイーン」

10代を中心に人気がある週刊雑誌。直訳した文章を略して「コハジョ」と呼ばれている。元々はファッション雑誌だった為、今でもファッション特集が売れている一番の要因だが、若者にも分かりやすい切り口の時事特集やマンガを連載してからは更に発行部数を伸ばしている。

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