表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/351

ブレイブリー・ラブリー

そして男がゆっくり手を上げ、再び弓を引くような体勢を見せた直後、何かがうごめくような音と共にパトカーが宙に浮き始めた。

え・・・。

「うわぁっ」

刑事が声を上げながらパトカーから離れ、やじ馬達が更に男から距離を取り始めた頃には、パトカーは男の真上に浮き留まりながら、まるで解き放たれるのを待つかのように刑事を見下ろしていた。

まさか、パトカーをあの速度で飛ばすのか?

直後に男が矢を放つように手の力を抜くと、同時にそのパトカーは矢のように飛び出し、そしてまるで何十キロもの速度を出していたかのような衝突音を辺りに轟かせた。

あんなのが続けられたら、やじ馬の人達が皆やられちゃう。

笑い声を上げながら男が再びパトカーを自身の真上まで引き戻すと、前方が歪んだパトカーはその先端をやじ馬の方へと向けた。

・・・やらなきゃ。

逃げ始めるやじ馬の方に走り出し、解き放たれたパトカーの前に立つ。

そうだ・・・。

ここで僕がやらなきゃ、アリサカさんに、リアさんに認めて貰えない。

掴んだパトカーを持ち上げ、一旦肩に乗せてから男を見据える。

「お前、さっきの」

「悪いけど、お前は僕が倒すから」

そう言って片手で持ち上げたパトカーを男に突き出して見せると、男はその物腰から初めて焦りを感じさせた。

「ふん、やれるもんならやって見ろ」

そう言うと男が扱う円い光は再び白くなったので、走り出してパトカーを男に向けて振り下ろす。

轟音と舞い上がる鉄屑の中を素早く受け身を取り、男は光を放つ。

っ・・・この程度なら、大丈夫だな。

「チッ」

舌打ちを鳴らす男にすかさずパトカーを振り下ろすが、男はまたも素早く横に飛び込んで受け身を取り、そして光の弓を構える。

素早くパトカーを振り回したその瞬間に円い光が赤く染まると、放たれた赤い光は狭い範囲ではあるが、全包囲に渡って強い風圧を生み出した。

うぅっ・・・力が押し返されるっ。

かろうじてパトカーを振り抜いた頃にはすでに男はこちらから距離を取っていて、こちらを見据えながら男は円い光を緑色に変える。

確か、あの緑の光でパトカーが操られたんだよな。

でも、このパトカー意外に大きな物なんて無いし・・・。

そして男が緑の光を放つと、やじ馬の中へと真っ直ぐ飛んでいったその光はある1人の女性の胸元で小さく煌めいた。

「あぁっいやぁっ」

そんな・・・まさか、人まで・・・。

宙に浮き始めた女性がまるで、晒しものを見るように綺麗に囲むやじ馬の中から勢いよく男の頭上まで引き寄せられると、男の取っ手を持つ手はゆっくりとこちらに向けられた。

あんなの、一体どうすれば・・・。

「降ろしてぇっ」

「降ろしてやるよ、今すぐな」

狂気に満たされた笑みで男がそう応えると、直後に矢を持つかのように後ろに引いた手の力が抜かれ、そして女性は瞬間的に速度を増しながらこちらの方に飛んできた。

「きゃああぁっ」

とっさにパトカーを手放し、飛んできた女性を受け止めながら勢いよく地面に背中を着けるが、同時に軽く地面を転がったその女性は力無くその場に倒れ込んだ。

ふぅ、気を失ったか・・・。

ふと重たい何かが引きずられるような音が聞こえ、男に目を向けると、男はすでにパトカーを自身の頭上まで引き寄せようとしていた。

しまった・・・。

「はっはっは、正義なんて脆い武器持つからそうなるんだ、ホント無様だな」

やっぱり、僕1人じゃテロ鎮圧なんて・・・。

「見てろ、オレ達はこれから日本を、いやまずは関東を支配下に置く」

オレ達?・・・。

弓を引く体勢を見せる男が何かを企むような笑みを浮かべると、素早くそのパトカーの先端をやじ馬の方へと向けた。

やじ馬の方へと走り出し、同時にパトカーが解き放たれたその瞬間、突如小さな落雷音と共に閃光が轟き、同時にパトカーは燃え上がる爆風と共に勢いよく別の方へとその進路を変えていった。

何だ?・・・誰だ?

「あぁ?」

苛立ったように声を上げる男に目を向けた瞬間、突如男は何かに怖れるように顔を背け、そしてその場から離れようとするように動き出した。

しかし男は逃げる間もなく巻き上がる強い突風に呑み込まれ、同時にその風に纏っていた電気が辺り一面にほとばしる。

気を失ったように動かなくなった男から突風が吹いてきた方へと目線を変えると、そこには充満する緊迫感ですらものともしていないような佇まいのリアが居た。



「やっぱり、氷牙、お前すげぇな」

光の剣を消しながら満足げな表情を見せるヒロヤを見ながら鎧を解く。

その時にふとヒロヤの向こうのやじ馬が、携帯電話のレンズをこちらに向けているのが目に入った。

「気にすんなって」

一瞬後ろに振り返ったヒロヤが一言呟くと気にすることもなくパトカーに近づいていったので、何となく真っ黒な人影が飛んでいった方を見る。

死んじゃったかな。

「おい氷牙」

ヒロヤに呼ばれたので逆さまのパトカーに近寄ると、車の中に人が入っているのが見えた。

「大丈夫かぁ?」

ヒロヤが呼びかけるとうめき声が聞こえたが、天井が潰れているので絶氷牙を纏い、車をひっくり返すために窓枠に手をかけた。

「慎重にな」

「あぁ」

車をひっくり返している途中にヒロヤが何かに気づいて別の方に歩き出したが、気にせずにゆっくりと車を元の位置に戻した。

窓に入ったヒビで人の姿がよく分からないので扉に手をかけ、そして扉を開こうと強く引っ張ってみる。

あ、取れちゃった。

仕方ないので車の扉を地面に置き、中を覗くと、そこには天井と座席に挟まれたうつぶせの北村が居た。

ゆっくりとこちらに顔を向けたところを見ると、意識はあるみたいだ。

「っ・・・ひょ、ぅが、君・・・です、か?」

「あぁ」

横から覗くと真っ直ぐに伸びた体が運転席と助手席と天井にきれい挟まれていて、特に2つの席の間にある背中に強く天井がのしかかってるように見えた。

「引っ張ろうか?」

「そ、れより・・・きょ、じ・・・んが」

力を振り絞りながら喋っているからか、ちょっと聞き取りづらいな。

突如轟音が遠くから聞こえたので、体を上げてその方に顔を向ける。

「氷牙っ」

ヒロヤの緊迫感のある呼び声と共に、ヒロヤの向こうから建物を破壊しながら恐らく普通の人間の3倍はあるかくらいの人影が姿を現した。

全身を筋肉質で強靭そうな皮で包んでいるところを見ると、恐らく単なる肉体強化だろう。

確かイングランドに行ったときに、同じように巨大化した人がいたな。

「まだ居たのか」



「リアさん」

「何してるの?ずっと見てたけど、随分とのんびりしてたね」

見てたって・・・。

「何で助けてくれなかったんですか」

「何言ってんの、テロ鎮圧くらい1人で出来なきゃ、それに私だって最初は1人でやらされたんだ、これもテストの内だよ」

「そ、そう、ですか」

確かにそうだ、アリサカさんに認めて貰うなら、最後まで1人でやらなきゃダメか。

「まぁでも、途中でやる気になった所までは評価出来るかもね」

そう言うとリアは安堵するような表情の中にどこか落胆するような顔色を伺わせる。

「もしかして音也、人を殴ったことないの?」

「え・・・はい」

「そっかぁ、ならまず殴り方から教えてあげるよ」

別のパトカーや救急車のサイレンが聞こえてきた方に目を向けたリアは、すぐにその場から離れようとするように歩き出した。

「え、ホントに?」

「私、これでも空手やってたから、全国大会でも2位までいったし」

とてもそんな風には見えなかったけど、でも何となく分かる。

「2位・・・で、でも凄いですよ、2位でも」

「そんなに2位でも2位でも言わないでよ。今じゃ負けないけど、あの時はナガミネって奴にどうしても勝てなかったんだから」

ナガミネ?・・・きっと屈強でがたいの良い人なんだろうな・・・。

「さてと、ここら辺で頻繁にテロを起こすって奴らの情報なんだけど、音也は戦ってたから、何も掴めてないよね」

「でもリアさんだってずっと見てたって」

「いやそれがさ、やじ馬の話を聞いてたら、良い情報が取れたよ」



ヒロヤは再び両手に光の剣を出すと巨大化した人と睨み合い、辺りにはまた違った緊迫感を纏った沈黙が訪れた。

とりあえず北村刑事を助けようかな。

北村の横の隙間に入り込み、車の天井を押し上げて少しずつ隙間が出来ていくと、北村の呼吸にも落ち着きが見られてきた。

もうちょっとだな。

外では地面に何かが叩きつけられる音や、ヒロヤの光の剣が弾けていくような小さな音が聞こえる。

ヒロヤはまだ戦えるみたいだけど、助っ人は早い方が良いよな。

鉄板がへこむような音がした後にかなりの隙間が出来たみたいなので覗いてみると、北村の体から車の天井が離れているのが確認出来た。

その瞬間に車全体が激しい衝撃に襲われると、少しの間の後にまるで地面に落ちたような激しい衝撃が車全体に響き渡った。

一瞬無重力になったし、恐らく1回転はしたのだろう。

最終的には横になった車の、頭上の窓枠を殴り飛ばしてそこから顔を出すと、近くにはヒロヤが倒れていて、やじ馬の中にも倒れている人達が目に入った。

何があった・・・。

一旦車から出てからすぐに車の中を覗くが、そこには北村の姿はなかった。

消えた?

「北村刑事」

「・・・ぃ」

声は聞こえたけど、姿が・・・。

顔を上げて何となく見渡してみると、ゆっくりと地面を這っている北村が車の向こうに見えた。

途中で車から投げ出されたんだな。

「大丈夫?」

「・・・はぃ」

声はかすれているが大きな怪我は無いみたいだな。



「どんな情報ですか?」

「どうやら、音也が戦った奴、幕張海浜公園の全エリアを支配下に置こうとしてるテロ組織の関係者らしいよ?」

幕張海浜公園を支配?

「え、じゃ、じゃああいつがテロ組織の人?」

「いや何か、よく見かける奴だけどいつも1人で見かけるって言ってたから、関係者ってだけで、組織の仲間って訳じゃないんじゃないかな?」

関係者?まるでアミシマさんみたいな感じかな?

「でもさっき、あの人、オレ達が関東を支配するって言ってた」

「んー、ならホンマみたいに、単独で行動したがるタイプなのかなぁ」



ゆっくりと動き出したヒロヤに急いで駆け寄ると、巨大化した人は狙いを定めるようにこちらに目を向けた。

「ヒロヤ」

「・・・つぅ」

ヒロヤが膝と手を地面に着いて巨大化した人を見上げると、その巨人はゆっくりと歩き出してこちらに向かってきたので、とりあえず巨人に向けて絶氷弾を数発撃ち出す。

少し後ずさりしたその巨人は胸元が少し凍りついたが、怯んだ様子もなくこちらを睨みつけると片腕を上げて走り出す体勢になった。

来るか・・・。

紋章を手の前に出すと同時にその巨人はその場から動かずに拳だけをこちらに向けて突き出す。

するとその瞬間、その巨人の拳から大きな炎の塊が飛び出した。

何っ・・・。

炎の塊を紋章で難無く防いだすぐ後に紋章を重ねた絶氷弾を撃つと、顔に直撃したその巨人は勢いよく地面に倒れ込み轟音を響かせた。

また炎か。

それに普通に考えると、力を2つ持ってるってことになるな。

テロリストに鉱石のことが知られてるなら、これからテロも激化するのか。

「立てる?」

「何とかな」

ヒロヤが辛そうに立ち上がるのを見ながらやじ馬達に目を向けると、倒れている一般人には目もくれず何人かはこちらに携帯電話を向けていた。

その巨人は起き上がりながらも再び拳に炎を集めているので、すぐに巨人に紋章を向けるとその巨人はやじ馬達に拳を向けた。

仕方ないな。

拳から炎の塊が放たれた瞬間にブースターの出力を上げて飛び出し、炎の塊に尻尾を叩きつけると、炎の塊はその場で爆発し爆風はやじ馬達に手を伸ばすことなく風に消えていった。

危なかったな。

するとすぐにまたその巨人が炎の塊を連続的に飛ばしてきたので、ブースターを出して紋章で受け止めたり、絶氷弾で迎撃したりしていく。

その中でヒロヤが光の剣を作り出し、渾身の力で巨人に向けて光の剣を投げ込んだ。

しかし光の剣に気が付いたその巨人は拳に集めた炎を瞬間的に大きく膨らませながら、その拳を思いっきり振り下ろして光の剣を勢いよく粉砕する。

でかいくせに素早いな。

中岡 莉愛(ナカオカ リア)(20)

フリーター。

高校生の時に可愛すぎる空手選手として脚光を浴びる。当時、同じように美しすぎる空手選手として注目を浴びていた女子高生に決勝戦で負けるが、勝ち負けではなくその試合自体を取り上げていたメディアに対して複雑な気持ちを抱いている。ロックテイストな服装を好み、基本的に明るい色の服は着ない。

顔は、何となく、女優の宮崎あおいさん。


ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ