サークラー・ボウ
シールキーの扉使ってここまで来たけど、ここには何か手がかりあるかな?
それにしても随分とでかい公園だ、あっちは、ホテルとショッピングモールかな?
「ここでテロが起きたんですか?」
「みたいよ?これだけでかい公園だしね。他の奴でも標的にしようと思うんじゃない?」
確かにそうだな。
人ならこの公園、建物ならあのホテルとか、標的になるものが沢山ある。
「でも、手がかりなんてどうやったら・・・」
「じゃあ、二手に分かれよう。1時間くらい経ったらまたここで」
「え、あ、はい」
そして颯爽と去っていったリアの背中を見ながら、人々が行き交う広大な公園を眺める。
な、何をすれば・・・。
コップを口から放してテーブルに置いたとき、レベッカは眉を上げてふとした表情をこちらに向ける。
「何かね、ヨヨギだかヨロギだかの公園に、大きい動物が出たんだって」
ヨヨギ?・・・公園?・・・代々木公園かな。
でもあそこにあった鉱石はヒロヤとカナコで掘り出したんだけどな。
「また出たの?」
「うん、しかも巣も出来ちゃったから、近くに住んでるマイがちょっと不安がってたよ」
マイ?・・・カズマとよく話してる子だな。
不安がるってことは、1度は街に出たことがあるってことかな?
「そうか、じゃあまた退治しようかな」
「・・・この世界にもグリムが出るの?」
レベッカと共に静かに喋り出したレンに顔を向けると、レンは少し眉をすくめて不安げな表情をこちらに見せる。
「んーこの世界じゃ、人間以外の生き物を動物って呼ぶんだよ」
黙って頷いているレンを見ながら席を立ち、ホットミルクを注いで戻ると、テーブルに置いたホットミルクを真っ直ぐ見た後にレンは興味を示したような表情をこちらに向ける。
「それ何?」
「ホットミルクだよ」
「どこにあるの?」
「あの2つの大きな機械の右側から出るよ」
指を差しながらそう言うとレンはゆっくりと立ち上がり飲み物が出る場所に向かった。
暇だし、また代々木公園にでも行こうかな。
「氷牙、その公園に行くの?」
するとレベッカが少し期待を寄せるような表情でそう聞いてきた。
「そうだね、見てみたいね」
そのためにはシールキーが必要だな。
「へぇ・・・あたしも、外に出たいなぁ」
レベッカがこちらの顔を伺いながらニヤつきコップを取ると、ホットミルクを持ったレンが静かに席に戻ってきた。
「外に出たことないの?」
「羽を隠して1回カズマと出たけど、すぐに帰って来たよ」
「そうか」
もし一般人に能力者と判断されたら、さすがに通報されたりはしないと思うけど。
「あたしも出てみたい」
コップを置くとすぐにそう言ってレンが少し寂しそうな眼差しを向けてくる。
「あぁ、レンなら普通に・・・あ」
するとレンは眉をすくめ、一層寂しそうな眼差しになった。
今のままじゃ、銃刀法に触れちゃうな。
「武器を隠すようにもう1枚服を着れば出られると思うよ」
形見を部屋に置いていけって言っても聞かなそうだしな。
レンはゆっくりと頷くと、納得したように小さくため息をつきながらコップを手に取った。
「じゃあ今から行く?」
「ほんと?」
レベッカが嬉しそうに笑顔を浮かべてそう言うと、そのままその笑顔をレンにも向けていく。
「じゃああたし、服貸すよ」
「良いの?」
レンが眉をすくめて不安げに聞いたとき、突如おじさんの声がホールに響く。
「警視庁から援軍要請が出ました。応えられる方はすぐに私の部屋までお願いします」
おじさんの声が聞こえたと同時に、レンは驚いて天井を見上げる。
あーあ、どうせならリアさんについて行きたかったなぁ。
テロ組織の調査自体初めてなのに、いきなり1人でなんて・・・。
しかも1時間って、長すぎるんじゃな・・・
突如気持ちを囃し立てるような破裂音が聞こえるとその場に居る人達もすぐに足を止め、音がした方に目を向けていく。
何だ・・・。
「おい、氷牙」
後ろの方で声がしたので振り返ると、それと同時にテーブルの向こうを通るヒロヤが目に入る。
「今日、チームの人数が足りねぇんだ、加勢してくれねぇか?」
レベッカを見ると仕方なさそうな表情で小さくうつむいて、レンを見ると眉をすくめながら不安げこちらを見つめていた。
「2人共、すぐ終わるから、ちょっと待ってて」
立ち上がりながらそう言うと、レンはこちらに顔を向けて黙って頷き、レベッカはすぐに微笑んで手を振った。
「頑張ってね」
「あぁ」
「ヒロヤ1人?」
足早に歩きながらそう聞くと、ヒロヤは何やら苦笑いを浮かべた。
「まぁ、今日はちょっとな、運悪く1人だ」
「そうか」
大変だな。
会議室に入るとマナミとミント達がテレビを見ていて、扉が開いた音に気づいた3人はこちらの方に顔を向けた。
「2人だけで行くの?」
「まあな、他の奴はそれぞれ用があんだよ」
「じゃあ私達も行くよ」
そう言いながらライムが立ち上がるのを見たミントもすぐに立ち上がる。
「あ、いや、じゃあ、あんたらは別の援軍要請のときのために、今は待機しててくれ」
慌ててヒロヤが宥めるように応えると、2人は顔を見合わせて頷きながらヒロヤに目線を戻した。
「そうだね、全員出ちゃったら、援軍要請に応えられないよね」
ミント達が落ち着いた様子で椅子に座るのを見ながらおじさんの部屋に入る。
ライムミントはチームとやらに入ってないのかな。
「オーナー、特徴は?」
「多数だそうです」
「分かった」
何のやりとりかな?
奥の扉を抜けるとそこは遊園地に繋がっていて、真っ先に逃げ惑う人々が目に入ったその状況は、瞬時に語らずともその緊迫感を大いに感じさた。
「とりあえず離れるなよ?」
「あぁ」
係員の事務所のような建物の裏に扉があることを確認すると、ヒロヤと共に人々が逃げてくる方に小走りで向かう。
思ったより人の数が少ないな。
そういえば、今日は何曜日かな?
何かを目に留めていくようにざわめき出す人々の向こうに、ふと光を帯びる円い何かが目に入ったとき、突如その円い光から飛び出したそれは、一瞬のうちにこちらの胸元に激しく突き当てられた。
うぐっ・・・。
重低音のように胸元全体に響き渡ったその痛みが引くと同時に、あちこちから悲鳴が上がる。
もう何だよいきなり。
うわ、シャツが破けちゃったよ。
立ち上がりながら円い光がある方に顔を向けたとき、先程の矢のように飛び出すものはその場に居る1人の中年男性を襲った。
あっ・・・。
再び誰かが悲鳴を上げると、その場に居た人々が一目散に逃げ始め、そしてやがてその人物の姿が現れていった。
光沢がある素材だが、シワが目立ち過ぎるほど気崩された薄手のジャケットを着て、そしてそのジャケットに付いたフードを深く被る、恐らく20代だと思われる男。
あいつが持ってるのは何だろう、魔法系の武器なんだろうけど・・・。
視覚には何も映らないものの、円い光の中心をまるで取っ手を持つように握り締めているその男がゆっくりとこちらに顔を向ける。
うわ、どうしよう。
するとその男は素早く取っ手を持つ手をこちらに向けると同時に、もう片方の手を取っ手を持つ手に近付ける。
そしてまた素早く、もう片方の手を取っ手から真っ直ぐ後ろに引くと、その瞬間に取っ手を持つ手の上に小さな細い光が現れた。
く、来るっ・・・。
男がもう片方の手の力を緩めたときにとっさに両手を突き出すと、直後にまるで強い水圧と風圧が合わさったような衝撃が両手を襲った。
うわぁっ・・・。
放たれた光が空に軌道をずらしたときに体勢を崩しかけたが、とっさに足を踏ん張って持ち直すと、男は苛立ったように舌打ちを鳴らした。
・・・っと、いったいなぁ、もう、しかも少し熱かったし。
「死に損ないが」
どうしよう、リアさんに来て貰わないと。
再び男が弓を引くような体勢を取るが、取っ手を持つ手の先はこちらには向けられず、携帯電話でその男を撮影しているやじ馬へと向けられた。
ああ、どうしよう。
直後に放たれた小さな細い光が風を切る音を鳴らしながらそのやじ馬を吹き飛ばすと、その場に居た別のやじ馬は一目散に逃げ出し、またその様子を見ながら男は満足げに笑い声を上げる。
ふと遠くに、逆さまのパトカーと墨を被ったと言うより、墨で出来てると言うほど真っ黒な人影と、その人影の半分の大きさの人影がたくさん暴れているのが見えてきた。
・・・2メートル、ありそうでなさそうかな。
「あれか」
小さく呟いたヒロヤは自分の身長ほどの光の剣を1本作り出したので、一応絶氷牙を纏った。
間もなくして狙いを定めたように小さな真っ黒い人影が真っ先にこちらの方に向かって来たので、ヒロヤと共にその真っ黒な人影達を倒していく。
やはり墨で出来てるみたいで、絶氷弾を撃つと小さな真っ黒い人影は水のように弾け、地面に散らばると地面に吸われるように消えていく。
あとはあいつだけか。
真っ黒な人影がこちらに気が付くとゆっくりと手を広げ、周りの地面から先程の小さな真っ黒の人影を一気にたくさん湧かせた。
これじゃキリが無いな。
親玉を討つしかない。
「ヒロヤ、あの大きな奴を狙うしかないね」
「あぁ・・・っ・・・だが、こいつら・・・っ、邪魔だな」
ヒロヤはもう1本光の剣を出して小さい真っ黒な人影を斬っていくが、すぐにまたその人影達が湧いてくる。
これじゃあヒロヤのスタミナが切れるのが先か。
真っ黒な人影に絶氷弾砲を撃つが、すぐに小さな真っ黒い人影が庇うように飛び出して氷の弾を破裂させてしまう。
しかし爆風が大きいせいか、小さな真っ黒い人影も一気に減り、同時に真っ黒な人影も地面に軽く倒れ込んだ。
こんなものか。
素早く立ち上がりながら少し後ずさりした真っ黒な人影は、地面に散らばった墨らしきものを竜巻のように空に向かって巻き上げると、まるで龍のように形作りながら墨らしきものを操り始めた。
厄介だな。
「くそっ」
走り出したヒロヤを追うように真っ黒な龍が飛んできたので、ブースターを全開にしながら紋章を4つ前に出し真っ黒な龍の目の前に飛び込んだ。
視界が真っ暗になり、水の流れの中に居るような衝撃が伝わってくるが、ブースターを出してるので気になるほどのものではなく、やがて目の前が明るくなったのでブースターを止めて地面に降り立つが、その瞬間に身動きがまったく取れなくなった。
ふと体を見ると、体中に纏わりついた墨がまるで石のように固まっていた。
後ろに首を回すと、ヒロヤは無傷で立ってこちらを見ていた。
「お前」
「はっバカじゃねぇか?自分から飛び込むなんて」
真っ黒な人影が喋り出したので、その方に顔を向けると、真っ黒な人影は片手を上に挙げていた。
「終わりだっ」
そう言って真っ黒な人影が手を勢いよく振り下げたので上を見ると、その上空からは大きく口を開けた真っ黒な龍が、今にも呑み込もうこちらの下に迫ってきていた。
真っ黒な龍に呑み込まれたと同時に極点氷牙を纏うと、体中に纏わりついた墨と真っ黒な龍を弾き飛ばしながら、素早く真っ黒な人影に蒼月を撃つ。
そして氷の破裂音と共に遥か遠くに飛ばされた真っ黒な人影は、ゆっくりと人の姿に戻っていった。
終わったかな。
パトカーのサイレンが聞こえてくるとその場の空気は更に刺々しくなり、やじ馬が放つ雰囲気は、安心感よりも期待感と恐怖感が増したように感じた。
うわどうしよう、僕も警察に捕まっちゃうのかな。
パトカーの扉に隠れながら拳銃を突き出して見せる刑事に対しても、男はまるで動じずに取っ手を持つ手をパトカーに向ける。
そして一瞬の沈黙の後、円い光は白から緑に変わり、同時に出現した小さな細い緑の光はパトカーに向けて放たれた。
やっぱり、刑事なんかじゃテロを止められないか・・・。
刑事が扉の向こうにうずくまると同時に、緑の光がパトカーに当たったが、その瞬間に緑の光はまるで小さな花火のように煌めきながら消えていった。
何だ?パトカーが無傷だなんて。
再び沈黙が訪れ、刑事が扉の向こうから拳銃を突き出すが、それでも男はその佇まいから焦りをまったく伺わせない。
まぁ音也くんは新人ですからね、氷牙のようにはいかないですよね。笑
ありがとうございました。




