組織への薄暗い道のり2
それより、ここら辺だよな、第二・・・日暮里ビルとかいうの。
ただ車の通る音が虚しく聞こえる中、地図に表示されている少しだけ古びたような印象を受ける小さなビルに入る。
3階だっけ、指定された場所・・・。
ふと入居している会社の名前が書かれた案内板を見るが、案内板の3階の欄には何も書かれていない。
あれ、いや良いのか、別に会社じゃないし。
指定通りに非常階段を上がり3階に着くと、すぐに感じた違和感はビルの外観からは想像も出来なかったフロアの妙な清潔感だった。
ここから、人生を、変えるんだ。
僕は、この世界で、英雄になるんだ。
「待ってたよ、伊勢谷、君」
声を掛けてきたその女の人は、その微笑みから真っ先に警戒心という名の冷ややかさを感じさせた。
「はい、あの」
「とりあえずこっち」
そう言って背中を見せたその女の人について行きながら、ふと感じた若干の殺気に、何となくこれから待つ未来に不安感が募った。
ホットミルクを注いで椅子に座ると、間もなくしてユウコとライムが前方の椅子に座った。
「さっきの子って、異世界から来たの?」
するとすぐにライムは興味がありそうな笑みを見せながらそう聞いてくる。
「あぁ、友達が欲しいみたいだから連れて来たんだ、2人共仲良くしてあげてよ」
「うん」
ユウコが笑顔で頷くと、ライムもゆっくりと頷いてコップを手に取る。
またシンジが覚醒したとか言い出さないかな?
「何かこの世界で変わったこととかある?」
するとユウコは目線を斜め上にして考え始める。
「んー、外国じゃ色々あるけど・・・あ、何か能力者に対する世論がよくニュースになってるよ」
「そうか」
ヒカルコやユウジ辺りに聞いた方が、わりと分かりやすいかもな。
「何で、ここに?」
もしかして、下手なこと言ったら痛い目に遭ったりして。
「あの、僕、人生を変えたくて」
半分だけ振り返ったその女の人が一瞬だけ見せた、妙に馬鹿にするようなそのニヤつきに、何故かすべてを見透かされたような気がした。
待合室のような広さを感じる場所を通り、奥にある何とも緊張感を募らせる扉に女の人が手を掛けたき、心の底に募った緊張感は一瞬にしてその鋭さを肥大させた。
この先に・・・。
女の人に続いてその部屋に入ると、肥大した緊張感と言う名の風船は、その人達から醸し出される力強い澄んだ気迫に音が出る程強く握り締められた。
この人達が・・・。
「来たな。とりあえず今回はこの2人か」
もう1人の志願者と思われる知らない人に目を向けると、その男の人はどこか深刻そうな顔をしていた。
「あ、そうだ、また新種の動物が増えたの」
何かを思い出したようにこちらに目線を戻したユウコは、そう言って少し嬉しそうに笑顔を見せる。
新種か。
また野生の動物かな。
「それって野生動物の能力者のこと?」
「うん、何かね、森にあちこち埋まってる鉱石の原石のおかげで、大きな動物がたくさん発見されてるみたい」
あちこち・・・。
そんなたくさん埋まってたら、いずれ地球の支配者が人間じゃなくなる日も近くなるかな。
「そうか」
だけど、もしずっと前から埋まってたら、今更になって新種が出て来るなんておかしいしな。
「あとね、ライムちゃん達が鉱石使ったんだよ」
誰かが埋めたのか、それとも最近になって偶然誕生したのか。
「・・・え?」
ライムを見ると、照れ臭そうに微笑みながらライムは小さくうつむいた。
「イギリスって所で堕混は倒されたけど、また来るかも知れないし、動物からもみんなを守らないとね」
話してるときに一瞬こちらに目を向けたライムは、すぐにまた照れ臭そうに目を逸らしてコップを口に運ぶ。
「そうか」
ライム達ってことはミントも使ったのか。
そういえばミサが居ないな。
「じゃあ私、そろそろ帰るね」
ユウコが立ち上がると、ライムは笑顔で応えながら手を振り、ユウコを見送った。
「とりあえず何で俺達の仲間になることを決めたのか、それぞれ理由を言って貰おうか」
そう言ってアリサカソウマが隣の男の人を目で差すと、どこか思い詰めたような顔色のその男の人は、更にその表情に張り詰めた緊張感を感じさせた。
「オレは前に、オーナーの組織から独立した小さな集まりの中に居た。だけど、オレ達はネイチャーセーバーっていう組織に潰されて、だから、復讐のためにアリサカ達に力を貸して貰いたい」
するとくつろぐようにテーブルに腰掛けるホンマという人とアリサカソウマが顔を見合わせると、アリサカソウマは何かを理解したかのような顔色を伺わせた。
「なるほど、じゃああんたは?」
「僕は・・・自分の力で人生を変えたい。だけど、ただ暴れるだけじゃなくて、ちゃんと信念をもった人達と一緒に居て、最終的には、僕は、英雄になりたいんです」
ふぅ・・・何か恥ずかしい。
この人達に、今どんな風に思われたかな。
「じゃあ・・・」
あれ?まさかのノーリアクション・・・。
「あんたらどう思う?」
そう言ってアリサカが他の3人の方に顔を向ける。
「良いんじゃないか?」
そう応えたホンマという人から、アリサカソウマがソファーに深く座るカサオカに目線を移すと、カサオカも同意を伺わせる顔色で黙って頷く。
「ナカオカも良いか?」
「うん」
そしてカサオカとは反対側の端に座るナカオカが応えると、アリサカソウマは再び信念を宿したような眼差しをこちらと隣の男の人に向けてくる。
「理由は分かった。ただ、俺達の仲間になるにはひとつテストを受けて貰う」
テスト・・・。
何だろう、何か、ヤバいことだったりして。
「その前にアミシマって言ったか、あんたはどうやら臨時的な協力が希望みたいだが、復讐した後はどうするんだ?ここに残るのか?」
「・・・オレは、元居た集まりを、また作り直したい」
するとアリサカソウマは一瞬だけどこか残念がるような表情を見せながら、小さく頷いた。
「分かった、ならあんたはテストは無しだな、そしてこれからは俺達の仲間じゃなくて単なる協力者だ、それで良いな?」
アミシマと呼ばれた男の人が頷くと、アリサカソウマはアミシマに向けている親しさの無い眼差しをこちらに向けた。
「あんたはテストを受けるんだろ?」
「あ、はい、もちろんです」
テストか・・・。
「まぁそう強張るなって、単なるテロ組織に入るためのテストだ」
アリサカソウマはどことなく気を緩ませた表情を見せてきたが、直後に忘れかけていた緊張感に、再び爪を立てられたような感覚が胸の奥を突いた。
いや、覚悟は、出来てる・・・はず。
「テストの内容は、対象を決めず、とりあえず1回破壊活動をすることだ」
え・・・破壊、活動。
「あ、あの・・・それは、前にやったのは無しで、新しくってこと、ですか」
「あ?前にやった?って、テロをか?」
でも、あれじゃ、認めてくれないかな?
「テロって感じじゃないかも知れない、けど、破壊活動って言ったらそうなる、かも」
関心を示すように頷いたアリサカソウマは、リラックスするように背後にあるテーブルにゆっくりと腰を掛けた。
「何をしたんだ?」
「最初、組織から初めて家に帰ったとき、力を試したくて、車を投げ飛ばしたり」
その時にホンマという男の人が軽く手を挙げ、話を優しく遮ってきた。
「てか、お前の力はどういうものなんだ?」
「あ、僕は、ただの肉体強化ってやつです。でも見た目は何も変わりません、ただ超人的なパワーがあるってだけで」
「ふーん、何かまるでアメリカの奴らみたいだな」
「そうです、僕、ハリウッド映画のヒーローみたいになりたかったから」
納得したように頷いたホンマという男の人の表情から若干の感心と親しさを感じたとき、ふとその場の空気が胸の奥の緊張感を緩めたように感じた。
「だったら、改めて俺達の前で力を見せて貰おうか。対象は何でも良いとは言ったが、俺達の組織にはひとつだけルールがある」
ルール・・・。
世間の評判を聞く限り、何となく悪いものじゃない気がするけど。
「はい」
「中身は単純だ。能力者以外は殺さない。たったそれだけだ」
やっぱり、ネットで聞く評判と現実はあんまり変わらないんだな。
ちょっと安心したかな。
「分かりました」
「それじゃあ、すでに知ってるだろうが、とりあえず言っておく。俺がアリサカソウマ、こっちからホンマダイガ、カサオカレイジ、そしてナカオカリアだ」
でもすごいよな、たった4人で組織の名前を世の中に知らしめてるなんて。
「んで、あんたらは?」
「オレは、アミシマタケル」
「僕は伊勢谷、音也、です」
するとすぐにナカオカが興味を示したかのような声を上げる。
「オトナリ?もしかして、お隣りさんってあだ名付けられたりしてた?」
「・・・はい」
今にも笑い声を上げそうな笑みを浮かべながらナカオカがアリサカに顔を向けると、アリサカとホンマは揃って宥めるような冷ややかな表情をナカオカに返した。
「良いんじゃないか?覚え易くて」
ホンマさんって、YouTubeで見る限りじゃ怖そうだったけど、実際はそうでもないんだな。
「そういや、何か質問があったら聞いて良いぞ?」
アリサカがそう言ったときにふとアミシマに顔色を伺ったが、アミシマはただ少しだけ目線を落としただけだった。
こういう面接って頻繁にあるのかな?
「あの、今まで僕達みたいな志願者って居なかったんですか?」
「いや、サイトに書かれてる限りじゃ、数えられないくらい志願者ってのは居るらしいが、実際、会って話したりしたのはここ一週間で3人だったかな」
それでも、皆落選したってことか。
「じゃあ、ホントにこの組織には4人しか居ないんですか」
「いや、正式に仲間としてやってるのは俺達だけだが、アミシマのような協力者ってのが他にも居る。タツヒロって奴とか、ホンマの知り合いの治療係の奴とか、色々な」
そっか、治療係。
だから今まで生き抜いてこれたんだ。
でもタツヒロって人はネットでも聞いたことないな、ホンマさんの知り合いなら、ホンマさんみたいに威圧感がすごいのかな?
「みんな、覚醒したり、2つ力を持ってたりするけど、他の組織の人達もそうなのかな?」
ライムはコップをテーブルに置くと、少し眉をすくめたその表情から不安感を伺わせていく。
「どうだろうね、この組織みたいに運良く覚醒や鉱石を知った所もあれば、全く知らずにいる組織もあるかも知れないし」
「んー」
ライムが斜め上を見ながら唸っているとミントがライムの隣に座ってきて、2人はお互いに目を合わせると黙って微笑み合った。
「氷牙、また異世界に行ったんだね」
ミントが笑顔で喋り出すとライムもこちらに顔を向ける。
「まあね」
「その世界にも堕混が出たの?」
「あぁ、その堕混は死神だったから倒したよ」
ライムが頷いて応えていると、ミントも一緒に頷き出す。
せっかくだし、聞いてみようかな。
「そういえば、翼を解放した後って、どうすれば武器が変わるのかな?」
急に話を変えたせいか2人は少し驚いたような表情になったが、すぐにお互いに顔を見合わせる。
「んー、何て言うか、自分のスタイルを見つけると、自ずと武器もスタイルに合う形になるって感じ・・・だよね?」
ミントが悩みながら喋り出すと、ライムも悩みながらも相槌を打つ。
自分のスタイルか。
するとライムは何かを思い出したようなふとした表情を向けてくる。
「そっか、氷牙、天魔の力貰ったんだっけ。使ってみたの?」
「あぁ。あと、僕の力と天魔の力が影響し合ってたから、2人も自分の力と鉱石で得た力を合わせられるかもね」
2人が顔を合わせると、2人は何やら2人の中で何かを理解したかのように微笑み出してからこちらに目線を戻した。
「私達ね、ヒカルコから聞いて、私達も力を合わせるための力を持つために鉱石使ったの」
ミントがそう言ってライムに顔を向けると、ライムも微笑みながらミントを見る。
「そうだったのか」
「でも、私達の力はこの世界のものじゃないからちょっと不安だったけど、氷牙の話を聞いて確信が持てたよね」
「うん」
ライムは笑顔でミントに応えてからコップを口に運んだ。
音也くんが主役ですかね、今回は。氷牙とはどんな絡み方をするのかは・・・って感じです。
ありがとうございました。