序章1
序章が少し長めですが、読み進めれば謎は必ず解けるので、飽きずに読んで頂けたら嬉しいです。
あと描写が細かすぎたり、平面的すぎると感じるかもしれませんが、それは主人公目線というものを大事にしたいがゆえなので、ご容赦下さい。笑
ふと気が付くと、少し狭く感じるくらいの円筒のような物の中に立っていた。
考える間もなく、目の前に縦に真っ直ぐ切れ間が出来て、少し光が漏れたと思った瞬間、半円状に反り返った壁は音を立て両端へと消えていった。
なるほど、扉が開いたのか。
急に明るくなったせいか、少し眩しいが、何となく2、3歩進むと、すぐに左手のカウンター越しに座っている女性と目が合った。
あれ、この人、誰だ?
でもどっかで見たような・・・。
「それじゃ、ヒョウガ君、頑張ってね」
少し小太りで、例えるならヨーロッパ辺りの市場に居る、優しそうなおばさんのような風貌の女性が親しげにこちらを見ていた。
「あぁ・・・」
誰だっけ?思い出せない・・・。
その人物が記憶の片隅にあるような気がしているからなのか、不思議と大きな疑問は感じないので、優しそうなおばさんに軽く会釈をしてから、再びこの広くはない縦長の部屋を見渡した。
何だっけ、ここ。
だめだ、やっぱり思い出せない。
「それじゃあ、あちらへどうぞ」
おばさんの手の先に目を向けると、カウンターの角を左に曲がった向こうに、何やら何の変哲も無い木製の扉が見えた。
どうやら扉らしい扉はあれしか無いみたいだな。
カウンターの向かいには全身が映るほどの鏡があり、何となく自分の姿を見てみた。
そしていざその木製の扉の前に立つと、それは見れば見るほど何となく不自然に見えてくる。
そんな感覚に襲われながら、薄っぺらくて軽そうな木製の扉を開けた。
そこはどうやらパーティー会場のようで、テーブルクロスが掛けられた円いテーブルが、一目見ただけでは数えきれないほど配置されていると同時に、そこにはその幾つものテーブル達を囲む何十人もの人達が座っていた。
何か薄暗いな・・・。
そう思っていると、入ってきた人を何となく見る人達が見えたり、照明が薄暗いせいか、音量を落とした話し声があちこちで聞こえたりした。
壁沿いに立っているウェイターに気がつくと、ウェイターは歩き出すのを促すかのようにある方へと手を差し出す。
その方には空いている席があるテーブルがあったので、並んだテーブル達を眺めながら、唯一空いていた1番手前で右端のテーブルの椅子に座った。
すると全員揃ったのを見計らったかのように急に照明が明るくなり、会場全体を照らし出していった。
何だろう、この人達・・・。
少し眩しいが、前方に目をやると会場を見渡せるくらいの高さがある舞台があり、舞台には1本のスタンドマイクと人が1人立っていた。
そんな時に後方からウェイトレス達が現れると、どこから出てきたかも分からない大勢のウェイトレス達は瞬く間に皆に料理を運び、グラスに飲み物を注いでいった。
ふと鼻をついた食べ物の匂いに、こんな状況でもお腹が空いていたことに気がついた。
食器の並びからしてきっとコース料理だろうけど、食べて良いのかな?
「それでは、全て揃ったところで、まずはお食事とご歓談をお楽しみ下さい」
急に声が聞こえたので顔を向けてみると、マイクの前に立っているのが男性だと確認出来た。
ここからだと少し遠いが、痩せ型ではないが筋肉質でもない、眼鏡を掛けた中年の男性に見える。
だけど、食事をするにしても、コース料理に対してのテーブルマナーとか分からないしな。
何でフォークが2つもあるんだろ。
ふと右側に座っている2人の若い女性がしている話に聞き耳を立ててみると、テーブルマナーについての話をしていることが何となく分かった。
どうやら奥の方の席のパーティー会場に相応しそうな服装の女性が、手前のラフな服装の女性にテーブルマナーを教えているようだ。
「良ければ、僕にも教えて頂けませんか?」
すかさず声をかけてみると、2人はゆっくりとこちらに顔を向けた。
「えぇ、いいですよ」
するとドレスのような服装の女性はすぐに微笑んでそう応えた。
話のきっかけなんて何でもいい。
こういう雰囲気は、きっと言葉の有無によって食事の楽しみが変わってしまうのだろう。
「シンジも教えてもらったら?」
ラフな服装の女性がこちらから左隣の若い男性に話し掛けたので、何となくその人に目を向けてみる。
「え?オレはいいよ。フォークとナイフの使い方が分かってればいいんじゃないの?」
恐らく2人は知り合いなのだろう。
会話の合間に妙な間もないし、2人共、いわゆる若者の世代を感じる服装だ。
「でも、知ってたらカッコよくない?」
「オレ別にいいし」
女性が小さくニヤつきながら再び問いかけるが、シンジと呼ばれた男性は素っ気ない態度で言葉を返すと、すぐにフォークをステーキの切れ端に突き刺した。
「2人って知り合いなの?」
何となくラフな服装の女性に聞いてみると、こちらに顔を向けたその女性は一瞬だけ戸惑うような表情を見せた。
「そうだね。でも同じクラスってだけだよ」
ということは2人とも学生なのか。
大学生には見えないから、高校生か。
「あ、私ミナミモトユウコ。よろしくね」
「あぁ、よろしく」
「・・・よかったら名前教えてくれない?」
一瞬の間が開いた後、すぐにまたミナミモトユウコと名乗った女性が微笑みながらそう聞いてきた。
「あぁ、僕は・・・ヒョウガだよ」
「へぇ。カッコいいけど、本名なの?」
「いや、これからはそう名乗ろうと思う」
「へぇ。そっか・・・ねぇ、よかったら名前教えて?」
再び一瞬の間の後に少し戸惑いながら応えたユウコは、次にドレスを着た女性にそう問いかける。
「あたしのことはミサでいいわ」
その女性は気品のある笑顔で優しくそう応えると、ミナミモトユウコと名乗った女性もその笑顔につられるように笑顔を返した。
「そっか、よろしくね」
「えぇ、よろしく・・・ヒョウガもよろしくね」
「あぁ」
するとミサと名乗った女性は自身の右隣に座っている男性に顔を向ける。
その男性は見る限り明らかに学生ではない。
20代半ばといったところだろう。
「せっかくだから、貴方の名前も教えて頂けません?」
「オレかい?オレは・・・シマザキノブカツだ」
男性がお肉を頬張りながらそう応えると、その食べっぷりに男らしさが伺えるような態度の男性に、ミサは微笑みながら小さく眉をすくめる。
「ノブカツさんね・・・なんか戦国武将みたい」
「だからノブでいい」
聞き慣れた答えを扱うように、ノブは何食わぬ顔でそう言い放つ。
「お前も名前くらい言っておけよ」
そしてすぐにノブという男性は目で差しながら、シンジと呼ばれた若い男性に話しかけた。
「オレもシンジでいい」
しかしシンジは再び素っ気ない態度でそう応えると、すぐに食事を再開させる。
それから数分くらいだろうか、賑やかとまではいかないが歓談は進み、デザートがテーブルに並び始めた頃。
忘れかけていたあの声が会場に響いた。
「えー、皆さん、お食事とご歓談を楽しんで頂いているようで幸いです」
小太りなおじさんは綺麗な姿勢で立ちながら軽快に喋り出す。
まさかあれから黙ってずっとマイクの前に立っていたのだろうか。
「まぁ、皆さんがここに来た理由は各々分かっていると思いますが、まずはここがどんな所か説明しておきます」
そういえば、ここはどこなんだろう。
何気なく椅子に座り食事をしていたが・・・。
ふと壁を見ると、幅は狭いが天井から床まであるガラス張りの窓があり、正確な時刻は分からないが夜景が見える。
「ここは、多分皆さん聞いたことある名前だと思いますが、赤坂クイーンズホテル最上階の、1つ上の階です」
「何なの?最上階の1つ上って」
ミサが口走ると共に、会場も少しざわつき始めたが、そのおじさんは構わず話を続けている。
「まぁ皆さん、落ち着いて下さい。この会場は最上階の一部をコピーしたものです。それを最上階の上に置いたんですが、それに関してはちゃんとホテルのオーナーさんに許可を取ってますので安心して下さい」
何言ってんだ、あの人。
「コピー?許可って言ったって・・・ダメかも、混乱してきた」
次第にざわめきが増す会場の中でふと喋り出したユウコに顔を向けると、ユウコは困ったような顔でそう言いながら、不安げに周りを見渡し始めた。
「一応最後まで聞いてみれば?」
変に慌てられると少し気が散るので優しく問いかけるとユウコは頷き、素早く深呼吸をした。
「ここからはちょっと大事な話なんでよく聞いて下さい」
すると会場のざわめきが少し収まった。
「まず最初に言うことは、ここにいる皆さんは全員仲間です。そしてここは1つの組織であり皆さんのホームだということを認識して頂きたい」
しかし不思議だ。
聞けば聞くほど疑問が湧く話をされても、皆はあのおじさんの話に静かに聞き耳を立てている。
それほど皆が今の状況に理解を求めているということなのか。
「皆さんに起きたことは夢ではありません。ですが、ここはホームで周りは皆仲間なので、どうぞリラックスして下さい」
だいぶ芯を外した話だが、中にはちゃんと理解しているかのように落ち着きを取り戻している人もいるみたいだ。
「そして、ここは仮にもホテルの上で、しかもホームということなので、皆さん分の部屋もコピーして用意しております」
「え、うそ?それってあの高級ホテルの部屋に泊まれるってこと?」
ユウコが今にも飛び上がりそうな勢いで口を開くと同時に、再び会場にざわめきが訪れた。
こういうことに関しての理解は早いみたいだな。
それに引き換え、ミサは依然として落ち着いたままそんなユウコに応えていた。
「これから皆さんに部屋のカードキーを配ろうと思いますが、本物のホテルでは使えませんのでご了承願います」
先程とは少し違う雰囲気のざわめきが会場を包み込んでいく。
しかし、まだ大事な芯を捉えた話をしていないような気がするけど。
そんな思いも裏腹におじさんの話は続いていく。
「それと同時にこれを皆さんに配ります」
そう言いながらおじさんは成人男性の掌ほどの大きさの、何やらひらべったいものを出して見せた。
よく見ると動物のようなデザインだ。
「これはこの会場から出るために必要ですので、無くさないで下さい。このシールキーはスペアを作るのが大変ですので」
何だかやっとまともな情報が聞けた気がしたけど、何に使うんだ?あれ。
「使い方は簡単です。シールの真ん中の余白に、行き先を書いたら扉に貼るだけです。するとその扉が書いた行き先に通じます」
「まぁすごいわ。まるで魔法ね」
落ち着いた様子のミサだが、言い放ったその口調は少し呆れたようなものだった。
間もなくして再び後方からウェイトレスたちが現れると、全員の前にカードキーとシールキーとやらを置いていった。
「部屋の番号はランダムに渡しましたので、変更したい場合は皆さんで相談して下さい」
おじさんは付け加えるように言ったが、すでに皆はシールキーに釘付けだ。
「あら、パイソンね」
・・・蛇、か。
ミサは落ち着いた眼差しでシールキーを見ながら、呟くように口を開く。
「もうちょっとカワイイのないのかな」
しかし平然と話すミサをよそに、デザインに不服そうなユウコは渋々ミサに応えていた。
「全員に渡りましたね。部屋へ続く廊下への扉は、この舞台のすぐ脇にある2つの扉がそうです」
シールキー・・・。
聞き慣れない言葉ではないが、この組み合わせで言われると何か新しいものに聞こえてしまう。
「また少し重要な話をしましょう」
そしておじさんはまた淡々と話し始めた。
それにしてもずっと立ったままで疲れないのだろうか。
「皆さんの周りに大きく1から6の数字が描かれた扉が6つあります。私から見て左手に奥から手前に1、3、5、同じく反対側に2、4、6、それらは全て闘技場に繋がっています。そして各扉の上にモニターがあり、ホールから闘技場の様子が見れるようになっています」
気を抜いていたら、恐らく相当重要なことを説明しているみたいだ。
「使わない人もいると思いますが、使う人はそこで思う存分自分の力を使って下さい。このホールではなるべく派手に使わないようにお願いします。基本的にはいつも開いている状態なので、いつでもご利用して下さい」
退屈そうな顔をしていたシンジとノブはお互いに顔を合わせ、次第にその表情に覇気を甦らせていった。
同時にこの説明を待っていたと言わんばかりに、他にもやる気や覇気が戻っていく人達が何人か確認出来た。
「後で行こうぜ」
ノブはシンジと笑みをこぼすようにニヤつきながら話をしている。
なるほど、ほとんどの人がこういう説明を待っていたのか。
わりと長編なので、頑張ります。笑
ありがとうございました。