第7話
これらと並行して壁の向こうへ入った第2チームは、「キングとクイーンが永遠を誓った」と言う言葉から王妃が見当をつけてくれた、教会や第2王宮をまわってみていた。しかしどちらにもダフネの姿は見当たらなかった。
やはり制御装置の情報を復元するのが1番手っ取り早そうだ。
縦と横につながって制御装置をすっぽり覆ったアンドロイドを見て、ワルテが、ため息とともに言う。
「うわー、すっげえな。壮観って言葉がぴったりだ」
あのあと、第6チームと一緒に到着した護衛アンドロイドは、彼らが持って来た指示器を作動すると、見事な囲いを作り上げたのだった。
その中でバリヤの技術チームは、すかさず作業に入る。
ドォン、ドォン!
戦闘アンドロイドは、囲いが出来ても性懲りもなく攻撃を続けてくる。璃空たちは覆いが出来てもその中には入らずに、戦闘ロボットを倒し続けていた。
中ではバリヤ技術チームが休むことなく復元を続けていく。
「これが最後の打ち込みだ、どうだ」
ピッとキーを押したあと、しばらくは静かだったが、いきなりウィーンと画面が変わり出す。そして国王からのメッセージのすべてがあらわれたのだった。
「おお!やったぞ!」
「やったか? リーダー!応答して下さい。外のヤツら、聞こえたか?復元したぞ!」
その声を受けて、戦闘チームの指揮官ふたりが覆いの中へ入ってくる。
それと同時にまた手塚の声がした。
「さすがだな、さて、どうなってる? 何と出て来たか読み上げてくれ」
「はい、えーっと…キングとクイーンが、からでいいんですよね。
……キングとクイーンが永遠を誓った、永遠の宇宙に思いをはせた、天文台の丘に私はいるであろう。ですね」
すると、王妃の「ああ…」と言うため息のような声が聞こえた。
続いて手塚の声。
「どうされました? 分かったんですか?」
「はい。第3王宮の近くは、先端技術を集めた工場が密集する地域ですが、空気が澄んでいたそこには宇宙望遠鏡があるのです。そこで国王はわたくしと結婚の約束を交わして下さいました」
「なるほど、それで永遠の誓いって訳だ。おい! そっちのヤツら聞こえたな」
「「はい」」
集まっていた指揮官が返事をする。手塚は彼らにすばやく指示を出していく。
「今から第3王宮の場所を教えてもらう。第1チームと第6チームは技術班とともに、言うまでもなくそっちへ向かえ。別行動中の第2チームにも宮殿へ行ってもらう」
すると囲いの外で晃一の声がした。
「リーダー、俺とワルテも宮殿へ行っていいですか?」
「おう、小美野か。何でだ」
晃一はそれに答えて言う。
「先端技術と言うことは、戦闘アンドロイドの工場もあるんですよね、王妃」
「はい、確かに」
「それならそこも壊しちまえばいいんじゃないですか? それに、もしかしてイグジットEの出口があるかもしれない。ついでにそこの調査も出来る…それには俺たちが行った方が良くないですか」
「ああ、そういうことか、分かった。なら、お前ら2人も第3王宮へ向かえ」
「はい」
「ラジャ」
ようやくここまでたどり着いた。そうと決まればバリヤ隊員たちの行動はすばやい。
第1チームと第6チーム、それに晃一とワルテが加わった合同隊は、最初に護衛してきたアンドロイドに加えて、囲いをつくっていたアンドロイドを借り受け、王宮へ向かう。
しかし第3王宮はかなり離れたところにあり、徒歩ではたどり着くまでに時間がかかるため、クイーンから輸送機を出してもらえることになった。
その上に、交渉ごとにたけた第4チームが現地へ向かうと報告があった。その第4チームが輸送機に乗ってくるらしい。
しばらくすると、ヒュイーンという音が聞こえてくる。すると、今まで囲いを作っていた護衛アンドロイドがバラバラになる。そして玉座の間の横にある中庭とおぼしきところへ走り出し、ちょうど輸送機が降りられるほどの円を作って、またクジャクのように覆いを広げた。
輸送機は璃空たちの想像とはかけ離れた姿をしていた。まるで大型バスのようだ。窓は小さいが、羽根もなければプロペラもない。それが、寸分の狂いもなくアンドロイドが作った輪の真ん中へ降りる。
「ヒュー! すごいっすねー」
「うわー、ホントだ!」
ワルテと怜が驚きながらも、嬉しそうに言う。
するすると扉が開き、中からクイーンの一人が顔を出して声をかけた。
「どうぞお早く! アンドロイドはあなた方のあとで入って来ます」
その言葉通り、アンドロイドは彼らの無事を確認してから、順々に輸送機に乗り込んでくる。最後の1体が乗り込むと、またするすると扉が閉じて、静かにそれは舞い上がった。
中は思ったより広い作りになっていて、アンドロイドは立ったまま、場所をとらないよう壁際に無駄なく格納されている。
人には、かなり質素だが、ちゃんと椅子が用意されていた。
しばらくは興味深そうにあちこち眺め回していた怜だが、
「なーんでこんないい物があるのに、今まで出してくれなかったんですかー?」
などと失礼な事を言い出す。これには璃空もさすがに慌てた。
「怜!」
と、とがめる璃空に、エッヘヘと舌を出していたずらっぽく笑う怜。
けれど言われた側の、輸送機を操縦していたクイーンは、怒るどころか少し恐縮したように言い出した。
「ごめんなさいね。本当はもっと出せればいいのだけれど。ひどい戦争のお陰で空気が濁って、思うように太陽光発電もできなくて。そのほかの燃料も、ダフネが私たちをだまして、作業アンドロイドに戦闘用チップを埋め込んで大量にそちらへ送っていたりしたから、どんどん減って行ったの。今回この輸送機が出せたのも、こんなに護衛アンドロイドが稼働できたのも、貴方たちの次元から燃料をもらい受けたおかげよ」
「へえ、ほんっとにダフネってばひどいヤツだね、ジェニーちゃん」
怜が自己紹介もしていないクイーンの名前を知っていたので、璃空は驚きながらも納得した。
「また会ってまもなくお友達になったんだな?」
「エヘヘ、お察しの通りです」
怜はあの通りの人なつっこさで、すぐに人の懐に飛び込んでしまう。ジェニーと呼ばれたそのクイーンも、
「怜はとっても面白くて可愛いんですよ。あ、可愛いなんて言ってごめんね」
などと笑いながら言っている。
途中で第2チームを乗せて、また輸送機は静かに発進する。
2~3分したころに、
「見えてきました」
とジェニーが言った。
窓から覗くと、広い敷地の中に、綺麗に整備された道路が碁盤の目のように走り、無残に壊された建物がいくつも並んでいる。その中にひときわ大きな建物があり、あれが戦闘用アンドロイドの工場だと教えられる。
工場だけはなぜかというより、やはり無事なままだ。
その少し先にドームが、たぶん宇宙望遠鏡だろう、小高い丘の上にぽつんと建っていた。
「あまり近くに降りない方がいいだろう。俺たちは徒歩の移動には慣れているから、少し離れたところへ降ろしてくれますか?」
と、璃空がジェニーに頼む。
「わかりました」
ジェニーは心得たとばかり、なるべく低空を飛んで、丘の手前にあった林の中へ着陸した。