第6話
出入り口セキュリティの前で、ティーナはもう一度簡単にアンドロイドの説明をして、彼らにそれらを引き渡した。
「どうかお気をつけて。この子たちは壊れてもまた修理すればいいだけなので、どうか存分に利用して下さい」
そんな風に言うティーナ。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、酷使しますよ」
璃空が冗談ぽく言うので、ティーナも少し笑顔になる。
そのあとに晃一が、「じゃあまた後で」と、ついその辺に買い物にでも行くような気軽さで言うのを聞いて、ちょっと目を見張ったティーナは、「はい!また後で」と力強く答えたのだった。
パスワードを打ち込むと、ギギーッと重苦しい音をたてて壁の向こうへ行く扉が開かれた。
戦闘チームは素早く中に滑り込み、全員が中に入るのと同時にドォンと扉が閉まる。
「今回もまた静かだな」
璃空がつぶやいたように、今はまだしんとしている。
けれど彼らは油断なく先へ進んで行くのだった。
先へ進む間に、璃空たちはアンドロイドの性能の高さを見せつけられることになる。
2人に1台の割合で配置されたアンドロイドにはふたつ形状があって、マントを羽織ったようなタイプと、腕にヨロイのようなものを着けたタイプがある。
彼ら(彼女ら?)は戦闘アンドロイドに過敏に反応する。
そして、撃ち込んでくる弾丸を、マントや腕のヨロイをクジャクのように広げて人を守るのだ。
「ふえー、すげえ」
怜が感心したように、嬉しそうに言う。
「魯庵の結界よりすごいかも? なんてねー」
と、茶化して言いながらも、合間に敵を倒していく。魯庵は少し苦笑しながら、彼もまた感心している。
「そうですね。敵に対する反応は私に負けず劣らずかもしれませんね。その上疲れを知りませんし」
しかし、晃一とワルテはどうやら違うところに着目しているようだ。
「この薄さでこの強度か…」
「ああ、しかもこんなに複雑な形状に出来るんだ。万が一、装置が運べなくても何とかなるかもしれないぜ」
「俺も同じ事を考えた」
通り慣れた道と、護衛アンドロイドのお陰で、隊員たちは思いの外早く王宮の間に着いた。
「これは…」
「うわ、思ったよりでっけえな」
晃一もワルテも、制御装置の大きさに少し驚いている。
「ああ、でもお前たちなら何とか出来るんじゃないか?」
「うーん、それよりも、なあ、ワルテ」
「そうだよな」
「?」
璃空たち戦闘チームが怪訝な表情でいるのを可笑しそうに見て、晃一が言い出す。
「この大きさじゃあ、さすがの第7チームでも、あの長い距離を無傷で運ぶのは至難の業だぜ。それなら、こいつを頑丈な囲いで覆っちまえばいい」
「頑丈な囲い?」
「これだ」
と、晃一は護衛アンドロイドのマントを指さす。
「このマントのでかいヤツを装置の回りに張り巡らせて、その中で作業すればいいだろう。なによりこの素材は軽いし薄い。腕に着いているヤツのように折りたためば、運ぶのも簡単だ」
「そりゃーいい考えだ。何よりそっちで作業すれば、すぐ行動に移れるしな」
どこからか手塚の声がした。
見るといつの間にかタミーが音声転送装置を取り出している。
「リーダー! …ただ、新たに作るとなると時間がかかるんじゃないかと。それがネックですね」
「あ、あの。それならアンドロイドをそのまま使ってもらえば」
続いてティーナの声がする。
「アンドロイドをそのまま?」
「どうやって?」
皆が驚いたように言うのを受けて、ティーナは少し言いよどんでいたが、続けて言う。
「はい…その子たちは人型をしていますが、手や足の形状が変えられて、縦にも横にもつなげられるようになっています。だから大きな装置でもたいていのものなら覆えると思います。ここから指令を送れれば、実際につながるのを見てもらえるのに」
こんなに優雅な会話をしている隊員たちだが、実は戦闘アンドロイドは絶えず彼らを襲ってきているのだ。それもこれも護衛アンドロイドが彼らを守っているお陰である。
「じゃあ、小美野さん」
「晃一でいいですよ」
「あ…はい。じゃあ、…晃一」
「なんでしょう?」
「制御装置の大きさを伝えて下さい。それによって、アンドロイドを何体送り込めばいいかが分かりますので」
「わかりました。すぐに計測しますよ」
晃一は言いながら制御装置の大きさを測り、ティーナに伝える。
それを受けて何やら計算していたティーナは、しばらくすると言った。
「えっと、わかりました。30体もあれば大丈夫でしょう」
「それはすぐに用意できますか?」
すかさず手塚か聞くと、ティーナは少し考えてから言った。
「たぶんそのくらいなら。今、工場に確認してみます」
工場からはすぐにOKの返事をもらった。
問題は誰がそのアンドロイドを王宮の間に運ぶかだ。
ティーナは最初自分が行くと言って手塚を大いに慌てさせたが、その役目は、待機していた第6チームの戦闘メンバーに任せ、他にはバリヤの技術チームが数名同行して、彼らはすばやく王宮の間へと向かったのだった。