最終話
戦闘アンドロイドが壊滅しても、すぐにバリヤが解散するわけではなかった。
高い壁の向こうには、まだまだ解決しなければならないことが山のように残っている。破壊された街やアンドロイド。それらをどうするか。
そして予想されたことだが、ある日次元の出入り口の様子がおかしいことに、第7チームが気づいたのだった。
「もしかしたら、また閉じようとしているのかもしれませんね」
土倉が手塚に言う。
「そりゃあ言えてるな。何十年か前にも開いて閉じたんだからな。問題は時期だ。もう、すぐにでも閉じちまいそうなら、クイーンには、早急に身の振り方を考えてもらわなきゃならないな」
「ええ、それと…」
「わかってるさ、反対にバリヤの中にも、向こうに行きたいって奴がいるんだよな」
1度次元が閉じると、今度はいつ開くかわからない。来る方も行く方も、そのあたりの覚悟は充分すぎるほど持たなくてはならない。
「でも、技術チームとも話していたんですが、双方が技術を出し合って研究すれば、自在に閉じたり開いたりも夢ではないかも」
土倉がそんな風に言う。
「そうなれば願ったりだが、欲に目がくらんだやつらが、どんどん向こうに入り込むのだけは避けたいな」
「それはもう、切実に」
手塚と土倉がそんな話をしていた頃、晃一たちはいったん宿舎に帰り、そこを引き払うため荷物をまとめていた。支度を終えた晃一が、窓からふと外を覗くと、ティーナが庭を歩いているのが見えた。
何かを考え込みながら歩くティーナの横に並ぶ。
「この庭は、遠い昔、ここの持ち主だった人が丹精込めて作り上げたものだそうですよ」
「それでこんなに素敵なのね。でも花は見たことがないようなものばかり…あたりまえだけど」
ふたりとも、肝心の話を避けるようにしばらくは庭をそぞろ歩いた。
けれどそのうち、ティーナのほうが、我慢が出来ないと言うように切り出した。
「晃一はこのあと、どうするの?」
「こちらに残りますよ。ティーナは?」
即答する晃一に、ティーナは顔を伏せて「私は…」と、言いよどむ。
「ただし」
そう言うと、晃一はいたずらっぽくニヤッと笑ってティーナの顔を覗き込む。
「どこかの誰かが、一緒に来て欲しいと言ってくれたら、迷わずにクイーンシティへ行きますよ」
すると、ティーナは目を見開いて晃一を見上げていたが、やがてその目が潤んでくると、ポカポカと彼の胸をたたきながら言う。
「じゃあ、一緒に来て! クイーンシティへ来て!」
晃一は、そんなティーナを包み込みながら、耳元で優しく言う。
「今でも男は嫌いですか?」
「ええ、ええ、嫌いだわ! こんな意地悪な男の人なんて…」
そう言ってから、晃一の背中に手を回し、ギュウと抱きついて言う。
「大好き…」
「勝ったな」
「え?」
「俺は、愛してる」
二人の影が重なると、窓に鈴なりになっていた第7チームとクイーン作業チームから、大拍手が巻き起こったのだった。
同じ頃、新行内 久瀬は国王と王妃の招待を受けてクイーンシティへとやってきていた。
璃空が最初に引き込まれたときに寝かされていた、リリアが使っていたという部屋で、いとおしそうに調度品や写真を眺めたり手で触れたりしている。
コンコン、と遠慮がちなノックの音がして、「どうぞ」と声をかけると王妃が入って来る。彼女は自らお茶の盆を運んで来ていた。
「お茶をご一緒していただけませんか?」
「はい、喜んで」
二人はマントルピース前のソファに腰掛ける。
「ここにいるときから、リリアはおてんばさんだったんですな」
久瀬が苦笑しながら言うと、シルヴァも可笑しそうに笑いながら言った。
「ええ、そうですわね。よく父親に、どうして女は戦争に行けないんだとか、なぜ銃を持ってはいけないのだとか。女が行けば傷ついた兵士の救護にも当たれるのに、と、くってかかっていました。」
「…そんなことを考えていたのですか、彼女は」
「戦闘服を着て、王宮から抜け出しては銃の練習場に紛れ込んでいたりしたのを覚えています」
「出会ったときに、嬉しそうに、女の人が銃を撃ってるわ!、と言ったのを聞いて、不思議に思ったのが昨日のことのようです」
懐かしそうに久世が言う。
「ほんとうに。男に生まれれば良かったのにと、父もよく言っていました。新行内さん、あ、璃空くんはそんなリリアの生まれ変わりのようですわね」
「ええ、あいつは私の建設の仕事には少しも興味を示さずに、ポリスの実戦チームに入ってしまった」
「きっとリリアがいれば、大喜びね」
「まったく」
ふたりは面白そうに笑い合っていたが、「そう言えば」と、シルヴァが思いだしたように言う。
「璃空くんは柚月さんとともに、こちらへ来て下さるそうですね?」
「ええ。こんな風になってしまった母親の故郷を、彼が放っておけるはずがないと思っていました。再建に力を注いでくれるでしょう」
「あなたは?」
「私のような年代になると、いろんなしがらみが邪魔をして、自分の意志ではなかなか自由に動き回れないのですよ」
その言葉には、シルヴァも深く頷く。
「それに、未来を作るのは、やはり彼らのような若者でなくては」
「今日はどうぞごゆっくり」と、王妃が出て行ったあと、久瀬はマントルピースの上にある、輝くような笑顔をたたえたリリアに見入る。
やがてその目に光るものが見え、それはしずくとなってこぼれ落ちていった。
第1チームは魯庵を除いてクイーンシティへ行く事を決めた。
魯庵はそこに入っていない。
なぜかというと。
あの日、ダフネを異界へ運んだ日。
フルストヴェングラー家の玄関で。
「はぁい。今開けるわね。よいしっょっと…。うわあ、おっきな人!」
玄関の重々しい扉を開けるなり、魯庵を見上げて言ったのは、ルエラの妹のルシア。
魯庵はしばらく言葉も出せずに、彼女に目を奪われていた。
「はじめまして。フルストヴェングラー家へようこそ。私はルエラの妹で、ルシアって言います。よろしくお願いしますねぇ~。えっと、貴方がダフネさん?」
とんでもない間違いをするルシアに、魯庵は目を白黒させて自己紹介する。
「い、いえ。私は白川 魯庵、こちらでは、ロアン・シンクレアです。後から来るルエラからお聞きでは?」
「あ! ごめんなさい! そうよねぇ。仮死状態の人が自分で来るわけありませんよね、フフッ、私ったら。どうぞお入り下さい。魯庵」
名前を呼ばれただけなのに、魯庵は身体に電気が走ったように、その場で固まってしまう。
「本当に、あなた方フルストヴェングラー一族は」
「?」
「私を振り回す、やっかいな人たちです」
それは、魯庵が本当に人を愛することを知った瞬間だった。
了
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
バリヤの第2弾です。
今回は新たな登場人物を迎え、その後のお話をお届けしました。
お楽しみいただけたら幸いです。
このぶんだと、まだまだバリヤの隊員に会えそうですね。
この登場人物の事がもっと知りたーい!とかありましたら、試しにリクエストしてみて下さいませ。
気が向けば、彼、または彼女、が語る気になってくれるかもしれません(笑)。
それでは、来て下さった皆様に感謝をこめて。




