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第9話


「封印完了!、はあ~終わった~」

 ルエラがほっと肩を落とす。どうやら契約の封印が終わったようだ。

「これで、何とか貴方の命も魂も差し出さずにすみそうですよ、国王」

 それを聞いたシルヴァが、すかさず頭を下げた。

「ありがとうございます。あなた方にはどれだけお礼を言ってもきりがないほど感謝しています」

「そんなぁ、人助けは基本ですわ、なんてね。それじゃあ私はまだ仕事が残ってるので、ごめんなさいね」


 そして、手塚へ声をかけると、「ルエラ! 終わったか!」と、待ち構えたように手塚が言った。

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたも。ダフネの奴がアンドロイドを凶暴化させちまって」

「なんですって? ねえ、だれかちょっとダフネを写して」

 すると、少し疲れているような忠士の声がした。

「へいへい」

 言う声とはうらはらに、なかなか画像が来ない。きっと相当苦戦しているのだろう。


 そして写った画を見たルエラは息をのむ。そこにはダフネと、その腕をつかんで動けなくしている魯庵がいた。

「魯庵! 何やってるの!」

 魯庵はダフネと自分の周りに結界を張っていた。その結界には少しずつ模様が浮かび上がって増えていく。

「ありゃーなんだ?」

 手塚は思わずルエラに聞いた。ルエラは今まで見せたこともないような厳しい表情で言う。

「滅びの魔法だわ。魯庵! なんてことするの! やめなさい!」

「ああ、ルエラですか。契約は封印出来ましたか?」

「あたりまえでしょ。でもどうなってるの、貴方ダフネとともに消えるつもり?」

「仕方ありません。ダフネはもう異常です」

 少し苦しそうな表情で言う魯庵。


「私が行けば大丈夫よ!魯庵、鏡を出して!」

「ありません」

 即答する魯庵。

「魯庵!用意周到な貴方なら鏡ぐらい持ってるはずよ!早く出して!」

「いいえ、持っていませんよ。それにあったとしても、あいにく手がふさがっていて」

 それは鏡を持っていると言っているようなものだ。

 けれど彼は決してそれを出す気はないらしい。

「いいから出しなさい!」

「ダメですよ。こんな危険な場所には来ないでいただきたい」

「魯庵!」

 ルエラが本気で怒ったように叫ぶ。

 そのとき。

「鏡ならあるわよ」

 と、タミーの声がした。


 そうしてサッとポーチから取り出したのは、忠士から贈られたあの手鏡だった。



 驚く忠士と目が合ったタミーは、バツが悪そうに目をそらす。けれどその横顔は赤く染まっている。忠士はそんなタミーがいとしくて、嬉しいはずなのになぜか視界がゆがんできた。

 くそっ、人前でみっともなく泣いたり出来るかよ。

 どうやってこの局面を乗り切ろうかと焦った矢先、

「タミー! Good job~」

 と言うルエラの声がした。そこにいた皆がハッと声のした方を見る。

 忠士はほおっと息をはきながら、「ルエラさーん、あんたの方こそ Good job~」と心の中で親指を立てた。



「じゃあ~直人さん、ちょっと行って来るわね」

 ルエラはさっきの表情とは打って変わって、本当に楽しそうに言いながら、自分のボディバッグからコンパクトを取り出す。

 それをパカンと開くと、手塚に向かって放り投げる。きれいな放物線を描いて手塚の方へと飛んでいくコンパクト。

 そして鏡渡りのサイズに変身したルエラは、すうっと鏡に吸い込まれていった。

 落ちてきたコンパクトを難なく受け止めた手塚は、苦笑いしながら言う。

「まったく、うちの奥さんってやつは…」

 コンパクトに写った手塚の頬には、ルエラの口紅の後がくっきりと残っていた。



 遠くから声がした。

「タミー~。鏡を魯庵くんの方へむけてぇ~」

 タミーはあわてて魯庵の方へ鏡を向ける。

 すると、シュッと音がして、ものすごい早さで何かが鏡から出て行き、結界をも通り抜け、ダフネをつかむ魯庵の手のあたりへと飛び込んだ。バチバチッと火花が散り、「うわっ」と叫び手を離す2人。


「んもう、頑固者は女の子にもてないわよぉ、ロ・ア・ン。執念深いダフネみたいなのも、ね!」


 パリンと音がしたと思うと、ルエラの前にオーロラのようなものが見え隠れする。ルエラを睨み付けていたダフネが思い切り彼女の方へ突進していく。

 しかし、つかみかかる直前に、見えない壁にぶつかるようにはじき飛ばされるダフネ。

 悔しそうに声を上げながら、ダフネは何度もその壁に体当たりしては飛ばされた。

 そんなものをものともせずに、ニッコリ笑ったルエラは、おもむろに両手を高く上げ、呪文を唱えながらその手を円を描くように両側へゆっくりと降ろしだした。

 手の通る所から順々に出来上がっていく魔方陣。


「こ、これは」

 魯庵は信じられないと言う顔で出来上がっていく魔方陣を見やる。

「死の魔方陣…?ルエラ、それはあんまりでは」

 すべて作り終えたルエラが可笑しそうに言う。

「ちがうわよ~。これは仮死の魔方陣。いくら何でも殺したりはしないわよぉ。でも、滅びの魔法を使おうとした人には、言われたくなかったわね」


 そしてダフネめがけてそれを放つと、魔方陣はどんどん小さくなってシュウッとダフネの眉間に吸い込まれていった。

 しばらく「ヴォー」と苦しげな、恐ろしげな声を上げていたダフネは、いきなりカチンと凍り付いたように動かなくなって、その場に倒れ込む。

 それとともに、凶暴化したアンドロイドも動きを止める。

 だがホッとしたのもつかの間、しばらくすると、もとの戦闘用に姿を変えて隊員たちに襲いかかる。


「じゃあ魯庵、行くわよ。みんなごめんなさいね~。今、ダフネを仮死状態にしたの。でも、あんまりこのままにしておくと、ホントに死んじゃうから、大急ぎで異界へ帰って蘇生しなきゃならないの。あっちには私よりすごい薬草マイスターのルシアがいるから、彼女に頼めば安心なのよー。それにルシアって、人を改心させる天才なの、ふふ」

 そこまで言ったあと、ルエラは魯庵の鼻先に指を突きつけていたずらっぽい顔になる。


「私には可愛い一直いちなおがいて長く異界へ行ってられないから、魯庵にも同行してもらうわ。そのくらいのバツは受けてよね、魯庵」

「わかりました」

「じゃあこれでね~。あとのことは任せたわよ、バリヤのみんな」

 ルエラはダフネに呪文をかけて鏡の中へ送り込み、魯庵を先に行かせて自分も鏡の中へと消えていった。





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