彼女は爆弾
神楽坂いちるは超能力者だ。
咳をすると、彼女の周りにある無生物をランダムで爆発させてしまう。
そんなに威力はなくて、精精突風に飛ばされたくらいのものなんだけど。
彼女は、歩く爆弾といわれている。
だけどこの街のみんなはのんきみたいで、彼女に何か吹っ飛ばされても、台風にあったくらいにしか思わない。
よくもそんな人たちが一つの街にあつまったもんだ!
だからこそ、彼女はみんなと一緒に住んでいられるんだね。
一部の臆病な人たちも、下手につついて彼女に爆発されても困ると、追い出すことも出来ないらしい。
彼女が明るくて、性格もいい子だからというのもあるんだけどさ。
彼女がこの街に住むようになってから、住人たちには義務が課せられるようになった。
そう、彼女が風邪やインフルエンザにかかることなどないように、定期健診や予防接種は絶対にしなければならないことになっているんだ。
日本一健康管理が出来ている街として有名なんだよ。
これは僕たち街の住人の自慢かな。
そんな彼女と僕は最近付き合うようになった。
僕も風邪を引いたり、インフルエンザにかかったりしないよう健康管理には気を配っているさ。
彼女とのんびりした時間を過ごしたいからね。
いきなりものが吹き飛んだりしたら、穏やかな時間なんてふっとんじゃうだろ?
でも、さ。盲点が一つあったんだ。
着実に着実に仲を深めていったのはよかったんだけど。彼女にとって、僕は初めての恋人だったから、一つ一つのステップはやっぱり重要だろ? いい思い出にしたいじゃないか。
一つ一つ、ゆっくりゆっくりと。手をつなぐことから、スキンシップ、そしてキスへと―――盲点だったのは、キスの仕方を予め教えてあげてはいなかったということだ。
唇を軽く合わせるだけのキスをしているうちはよかった。
段階を深めていった時に、漸く僕は自分のミスに気づいた。気づいた頃には手遅れだった。
ほんの少しだけのつもりだったのに。
いちる、ああいう時は鼻で息をするんだよ。
覚えておいてくれよ?
と泣きそうな気持ちで、咳き込む彼女に教える嵌めになった。
ああ、頼む。
君は僕の理性まで爆発させるのか。
――キスをした後、服まで爆発させるのはやめてくれ。我慢できなくなるから。