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エピローグ

 勝利の宴は盛大に行われた。


 《白の都》の人々は巨人から守ってくれた事を感謝して、次から次へと惜しみなく豪勢な料理を振る舞い、笑顔で冒険者プレイヤー達を褒め称えた。

 謎の箱がなければ巨人倒しは無理だったと知っているプレイヤーは複雑な顔をしたが、それでも立ち向かってくれた事に変わりはない、と言われて表情を緩めた。

 なにより、今日はβテストの最終日なのだ。

 皆、最後だからと笑顔でジョッキを傾け、ご馳走を貪り、大いに騒いでいた。



 私もトオル達と時計台広場の一角で、豪華な料理が並んだテーブルにつき、舌鼓を打っていた。


「あ、花火が上がったよ」


 露草の言葉に空を見ると、夜空に大輪の花が咲いた瞬間だった。


「たーまやーですー」

「えっと、かーぎやー……だっけ?」


 ユノに続いて言ってみたけど、少し恥ずかしい。

 誤魔化すように手に持ったジュースを飲み、周囲を見渡した。

 同じテーブルに座っているのは、トオル、露草、ユノ、それからさやかちゃんとユキトさん。そして何故かフール君もいたりする。

 トオルは嫌そうな顔をしたけど、巨人倒しの立役者だからか、面と向かって文句を言う事はなかった。今日ぐらいは大目に見てやる、とぼそりとつぶやいたくらいだ。

 私がそんな事を考えながら再び花火を眺めていると、運営からのメッセージが空に現れた。


 ――クラスを開示します、と。


 私達は、もう一ヶ月半もこのゲームをプレイしている。本来なら、私達はとっくになんらかのクラスに就いていてもおかしくなかった。

 だけど、βテストということで、最終日の今日まで自分が何になったのか表示されずにいたのだ。

 それがとうとう明かされる。皆は緊張と興奮に満ちた顔で、それぞれステータス画面を呼び出した。

 当然、私も。

 …………。

 ……え。




「な、なんだよこれはー!?」


 しばらくしてあちこちから悲鳴のような声が上がった。


「ユーゴ、どうしたんだ?」

「お、俺のクラスを見てくれ……」

「なぁに? えーと、……ぷっ! なにこれ、やだー、あはは」

「なになに? ええっ!? 【コメディアン】って……それ、クラスなのな?」

「ううっ……確かに、巨人戦でもぷちっと踏まれて直ぐに死に戻ったけどさー。称号とかも【やられ役】とか、【人気者(笑)】だとかばっかりだけど……あんまりじゃないかよー!」


 魂の叫びのような悲痛な声を上げるユーゴさん……かわいそうに。私は自分自身のクラスの事を考え、深く同情した。


「なんというか、普通だな」

「だねー」


 そんなユーゴさんとは逆に、淡々とつぶやいたのはトオルと露草だった。


「え。ど、どんなのだったの?」


 私が尋ねると、トオルと露草はお互いを見てから口を開いた。


「俺は【初級鍛冶士】だ」

「うちは【成り立て裁縫士】だよ」

「……普通だね」


 二人のクラスは確かにごく一般的と思われるものだった。それを聞いたユノが、むう、と眉を寄せる。


「いいですねー。わたしなんて、【魔女】ですよ? 薬師を目指していたのに、悔しいですー」

「ま、まあまあ。僕なんて【弱気な槍使い】だよ。一言余計だよね。さやかは?」

「えっとね。【ちびっこ回復士】……さやか、ちびじゃないのにー」


 さやかちゃんもユノのように眉を寄せて、頬を膨らませた。

 それに笑い、皆の視線が私に集まる。私は慌ててフール君に話し掛けた。


「ふ、フール君は?」

「僕は最後がいいかな。リンお姉さんはなんだったの?」

「うっ」


 藪をつついて蛇を出してしまった。それを聞かれるのを避けていたのに……。

 ずばりと聞かれてしまい、私はうつむきながら小さく答えた。


「……暗殺者」

「あ、ああ……そうか」

「納得ですー」

「あ、うん……だろうなーというか、リンちゃんファイト!」


 トオル、ユノ、露草が微妙な雰囲気を漂わせながらうなずく。それに対して、私はさらに深くうつむきながら続けた。


「それも、ただのアサシンじゃなくて」

「……なくて?」

「……【首狩り暗殺者】、だった」

「く、首狩りアサシン……」


 皆が引きつったのがわかった。ううう……た、確かによく急所狙いをしてたし、自分でもアサシンっぽいかもと心配してたけど!

 首狩り暗殺者なんて物騒なクラスになっちゃうなんて思ってなかったよ!

 運営の馬鹿ー!!


「それじゃあ、僕の番かな」


 私が心の中で泣いていると、穏やかなフール君の声が聞こえた。

 きっとフール君も普通にサモナーとかなんだろうな……。

 やさぐれた気分でフール君を見ると、彼はいつもの笑みを浮かべて言った。


「僕は【魔王候補者】らしいよ」


 沈黙が落ちた。フール君は楽しげに続ける。


「魔物達の王なんて、サモナーにとっては光栄なクラスだよね。頑張って目指そうかな」

「そ、そっか」

「……えっと、頑張ってくださいですー?」

「……なんか、ぴったりな気がするね」


 皆が私の時以上に複雑な笑顔でフール君を見る。フール君、ここにいてくれてありがとう。ある意味仲間だよね!

 感謝の視線を送っていると、フール君がふと空を見上げた。

 それに合わせたかのように、ひらり、となにかが降ってくる。


「え、なに? 雪じゃないし……?」


 蛍に似た光の粒は、雪のように舞い降りては地面に落ちて消えていく。

 賑やかに騒いでいた他のプレイヤーも光に気付き、なんだなんだと空を見上げる。


「わあ……」


 夜空に光の幕が広がった。

 空に揺らめくグラデーションの幕に、歓声が上がる。


「うわー、キレイー! あれ、なあに?」

「オーロラ、かな。運営も派手なことをやるね」


 さやかちゃんの疑問に答えながら、ユキトさんが苦笑する。


「へえ、最後にいいもの見れたねー」

「あ、メッセージが出ましたよー」

「なになに? ……βテスト参加のお礼と、製品版の宣伝か。なんかちゃっかりしてるね」

「ですねー」


 露草とユノが話しているのを聞きながら、私はオーロラに見惚れていた。

 本当に、この世界《World》は、飽きないなあ。


「……なあ、リン」


 しばらく無言でオーロラを眺めていると、ふいにトオルが私の名を呼んだ。

 横を向くと、生真面目そうな橙色の瞳が真っ直ぐに私を見ていた。


「製品版、やるんだよな?」

「うん、そのつもりだよ」


 問いかけにうなずくと、トオルは「そうか」とつぶやき、滅多に見せない穏やかな微笑みを浮かべた。


「なら、また会えるな」


 その一言に、胸がつまった。

 返事を返せないでいると、フール君からも微笑みかけられる。


「僕もまた会いたいな。今度はもっといろんな所に行こうね、リンお姉さん」

「あ、リンちゃん、うちも! また一緒に遊ぼうね!」

「さやかもー!」


 フール君の言葉に露草とさやかちゃんが手を挙げてアピールする。ユノとユキトさんも笑顔を浮かべた。


「また、ですねー」

「今度は砂漠とか、新しいエリアを冒険したいね」

「あ、それいいねー」

「さやか、また海に行きたいなー」


 皆が口々に製品版をプレイして何をするか話しだす。

 私はそんな皆を見つめてから、口を開いた。


「あのね、皆」


 皆が一旦口を閉ざして私を見る。私はにっこりと笑いながら言った。


「これからもよろしくね!」


 返事は、皆の笑顔。

 ひらひらと舞い落ちる雪のような光の中、βテストは賑やかに終了したのだった。




「あ、お姉ちゃんゲーム終わったの?」


 私が水を飲もうとして部屋を出ると、ちょうど階段を上がってきた奈緒が尋ねてきた。


「うん。これでβテストも終了だよ」

「そっか、お疲れ様」


 微笑みながら労いを口にした奈緒は、それで、と続ける。


「お姉ちゃんは、なんのクラスに就いたの?」

「……え、と」

「やっぱり無難に短剣使い、とか?」


 無邪気に追及してくる奈緒から私はそっと目を逸らした。言えない。あなたの姉は何故か首狩り暗殺者なんて物騒な職業に就いてしまいました、なんて言いたくない……。

 どう誤魔化そうかと悩んでいると、奈緒は首をかしげて笑った。


「まあ、今すぐ聞かなくてもいいか。どうせわかるしね。それより、お姉ちゃん」

「な、なに?」

「今更聞くまでもないとは思うけど……初めてのオンラインはどうだった?」


 私はゆっくりと目を瞬いた。奈緒はまるで答えがわかっているかのように楽しげに笑みを浮かべている。

 つられるように笑顔になりながら、私は口を開く。

 初めてのオンラインがどうだったか、それは。


「もちろん、楽しかったよ」


 たくさんの思い出を一言に詰め込んで、私はそう答えたのだった。



 fin

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