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 吹きすさぶ風に白い髪がなびく。

 不気味な赤い空の下で、フール君の雪のような髪も赤みを帯びてしまっていた。


「遅くなってごめんね、リンお姉さん。ちょっとイベントで時間を取られちゃって」


 グリフォンに乗ったままフール君に申し訳なさそうに謝罪され、私は慌てて首を振った。


「う、ううん。助けてくれてありがとう。でも、イベントって?」

「うん。下に降りたら説明するよ」


 そう言ってフール君がグリフォンを地面に降ろすと、皆が注目していた。そのなかでも、イリスさんの反応は意外だった。


「真白!」


 フール君を見たとたん、彼女もペガサスを地面に降ろして駆け寄ってきたのだ。


「あなた、いったい今まで何を……!」

「うるさいな」


 誰の声かと思った。それぐらい、冷ややかな声音でフール君はイリスさんの言葉を封じた。


「君に言わないといけない義務はないはずだよ。――リンお姉さん、下に降りられる?」

「え、あ、うん」


 私に対しては、いつものように穏やかな声だ。

 イリスさんが唇を噛み締めているのに気まずい思いをしながら、私はグリフォンから降りた。フール君も続けて降りると、インベントリからなにかを取り出す。

 それは、箱だった。長方形の、宝石箱のような箱。

 でも、どうして宝石箱だと感じたのだろう。自分の思考に疑問を抱いた私は、もう一度よく箱を眺めてみて、それに気付いた。


「フール君、それ。蓋に飾られている玉って、もしかして……」

「うん」


 フール君は微笑みを浮かべ、箱の表面をなぞりながら言った。


「僕が集めた、精霊の宝玉だよ。そしてこの箱が、あの巨人達を倒すために必要な物なんだ」


 フール君が持つ箱の蓋には、白、赤、翠、そして茶色と青色の宝玉がはめられている。

 穴は全部で八つあった。つまり、宝玉は全部で八個あるのだろう。


「巨人を倒すために必要な物……?」

「そう。これを手に入れるのに時間がかかっちゃったよ」


 さっき言っていたイベントは、この箱がらみなのだろうか。私が箱を眺めていると、フール君がそれで、と続けた。


「リンお姉さんが持っている宝玉も渡してほしいんだけど。いいかな?」


 言われて思い出した。オアシスに連れていってもらった時、そんな話をしたんだった。


「えっと。ちょっと待ってね」


 私はトオル達を探すと、急いで事情を話してフール君に黒の宝玉を譲っていいか尋ねた。


「うーん。まあ、うちはリンちゃんがいいなら構わないけど」

「リンの物ですから、好きにしていいですよー」


 露草がまず了承してくれて、ユノもそれに同意した。続けてさやかちゃんもうなずく。


「さやかもそれでいいよ。あの巨人さんを倒さないと大変なことになるんだよね? だったら、協力しなくちゃダメだよね?」

「そうだね。僕もそう思うよ」


 さやかちゃんの言葉にうなずいたのはユキトさんだ。


「今のままだと《白の都》は崩壊してしまうだろうからね。やれることがあるなら、やった方がいいと思うよ。ね、トオル君」

「……そうだな」


 トオルは憮然とした顔で渋々というように答える。


「あいつは正直気に食わないが、今はそんな事を言っている場合じゃないからな……リン、お前の好きにしろ」

「うん。皆、ありがとう!」


 皆にお礼を言って駆け出そうとした私だったけど、その時くぐもった低い声に呼び止められた。


「リン殿。しばし待たれよ」

「え? あ、えっと、東雲さん」


 私を呼び止めたのは、黒ずくめの男性、東雲さんだった。


「話は聞かせてもらった。これも持っていって欲しい」

「これは……宝玉?」


 東雲さんが差し出したのは、銀色の宝玉だった。脳裏に浮かぶのは、黒の《塔》にいた、銀色の鳳凰だ。

 東雲さんが、黒の《塔》を先に攻略したプレイヤーだったのか。


「あ、と、その。いいんです、か?」

「ああ。我には無用の品。役立ててくれ」

「ありがとう、ございます」


 東雲さんは、漆黒の眼を優しく細めると、私に銀の宝玉を渡し、消え去った。 いつ見てもどうやって消えているのかわからないけど……これで宝玉は全部で七個だ。

 私はフール君の元に急いで戻ると、黒と銀、二つの宝玉を差し出したのだった。




「最後の一つは、多分火山にあったと思う。でも、時間が足りなくて攻略出来なかったんだ」


 黒と銀の宝玉を嵌め込みながら、フール君は溜め息を落とした。


「火山って、確かすごく北にある場所だよね?」

「そうだよ。行ってはみたんだけどね、攻略のための条件が揃わなくて、クリア出来なかったんだよ」

「……行けるだけで凄いと思う」


 火山なんて、存在していることぐらいしか知らなかった。砂漠よりも遠く、厳しい地帯だと聞く。

 私が驚きを通り越して呆れのような感情を抱いていると、フール君はいつもの笑みを浮かべた。


「まあ、リンお姉さんのおかげで七個になったしね。さて、これでよし、と」


 そう言って、フール君が七個の宝玉が嵌め込まれた箱を掲げる。

 いったい、何が起こるのだろう。

 皆が固唾を飲んで見守る中、フール君は不敵に笑った。


「さあ、巨人を倒そうか」


 フール君の手が箱の蓋にかかる。

 そして、箱が開いた。



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