66
吹きすさぶ風に白い髪がなびく。
不気味な赤い空の下で、フール君の雪のような髪も赤みを帯びてしまっていた。
「遅くなってごめんね、リンお姉さん。ちょっとイベントで時間を取られちゃって」
グリフォンに乗ったままフール君に申し訳なさそうに謝罪され、私は慌てて首を振った。
「う、ううん。助けてくれてありがとう。でも、イベントって?」
「うん。下に降りたら説明するよ」
そう言ってフール君がグリフォンを地面に降ろすと、皆が注目していた。そのなかでも、イリスさんの反応は意外だった。
「真白!」
フール君を見たとたん、彼女もペガサスを地面に降ろして駆け寄ってきたのだ。
「あなた、いったい今まで何を……!」
「うるさいな」
誰の声かと思った。それぐらい、冷ややかな声音でフール君はイリスさんの言葉を封じた。
「君に言わないといけない義務はないはずだよ。――リンお姉さん、下に降りられる?」
「え、あ、うん」
私に対しては、いつものように穏やかな声だ。
イリスさんが唇を噛み締めているのに気まずい思いをしながら、私はグリフォンから降りた。フール君も続けて降りると、インベントリからなにかを取り出す。
それは、箱だった。長方形の、宝石箱のような箱。
でも、どうして宝石箱だと感じたのだろう。自分の思考に疑問を抱いた私は、もう一度よく箱を眺めてみて、それに気付いた。
「フール君、それ。蓋に飾られている玉って、もしかして……」
「うん」
フール君は微笑みを浮かべ、箱の表面をなぞりながら言った。
「僕が集めた、精霊の宝玉だよ。そしてこの箱が、あの巨人達を倒すために必要な物なんだ」
フール君が持つ箱の蓋には、白、赤、翠、そして茶色と青色の宝玉がはめられている。
穴は全部で八つあった。つまり、宝玉は全部で八個あるのだろう。
「巨人を倒すために必要な物……?」
「そう。これを手に入れるのに時間がかかっちゃったよ」
さっき言っていたイベントは、この箱がらみなのだろうか。私が箱を眺めていると、フール君がそれで、と続けた。
「リンお姉さんが持っている宝玉も渡してほしいんだけど。いいかな?」
言われて思い出した。オアシスに連れていってもらった時、そんな話をしたんだった。
「えっと。ちょっと待ってね」
私はトオル達を探すと、急いで事情を話してフール君に黒の宝玉を譲っていいか尋ねた。
「うーん。まあ、うちはリンちゃんがいいなら構わないけど」
「リンの物ですから、好きにしていいですよー」
露草がまず了承してくれて、ユノもそれに同意した。続けてさやかちゃんもうなずく。
「さやかもそれでいいよ。あの巨人さんを倒さないと大変なことになるんだよね? だったら、協力しなくちゃダメだよね?」
「そうだね。僕もそう思うよ」
さやかちゃんの言葉にうなずいたのはユキトさんだ。
「今のままだと《白の都》は崩壊してしまうだろうからね。やれることがあるなら、やった方がいいと思うよ。ね、トオル君」
「……そうだな」
トオルは憮然とした顔で渋々というように答える。
「あいつは正直気に食わないが、今はそんな事を言っている場合じゃないからな……リン、お前の好きにしろ」
「うん。皆、ありがとう!」
皆にお礼を言って駆け出そうとした私だったけど、その時くぐもった低い声に呼び止められた。
「リン殿。しばし待たれよ」
「え? あ、えっと、東雲さん」
私を呼び止めたのは、黒ずくめの男性、東雲さんだった。
「話は聞かせてもらった。これも持っていって欲しい」
「これは……宝玉?」
東雲さんが差し出したのは、銀色の宝玉だった。脳裏に浮かぶのは、黒の《塔》にいた、銀色の鳳凰だ。
東雲さんが、黒の《塔》を先に攻略したプレイヤーだったのか。
「あ、と、その。いいんです、か?」
「ああ。我には無用の品。役立ててくれ」
「ありがとう、ございます」
東雲さんは、漆黒の眼を優しく細めると、私に銀の宝玉を渡し、消え去った。 いつ見てもどうやって消えているのかわからないけど……これで宝玉は全部で七個だ。
私はフール君の元に急いで戻ると、黒と銀、二つの宝玉を差し出したのだった。
「最後の一つは、多分火山にあったと思う。でも、時間が足りなくて攻略出来なかったんだ」
黒と銀の宝玉を嵌め込みながら、フール君は溜め息を落とした。
「火山って、確かすごく北にある場所だよね?」
「そうだよ。行ってはみたんだけどね、攻略のための条件が揃わなくて、クリア出来なかったんだよ」
「……行けるだけで凄いと思う」
火山なんて、存在していることぐらいしか知らなかった。砂漠よりも遠く、厳しい地帯だと聞く。
私が驚きを通り越して呆れのような感情を抱いていると、フール君はいつもの笑みを浮かべた。
「まあ、リンお姉さんのおかげで七個になったしね。さて、これでよし、と」
そう言って、フール君が七個の宝玉が嵌め込まれた箱を掲げる。
いったい、何が起こるのだろう。
皆が固唾を飲んで見守る中、フール君は不敵に笑った。
「さあ、巨人を倒そうか」
フール君の手が箱の蓋にかかる。
そして、箱が開いた。




