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流石巨人というべきか、私の回復したHPは追撃の一撃でゼロになった。
「リン!」
「リンちゃん!」
「うわわ、リンがやられてしまいましたー」
トオル達の声が聞こえる。
大規模戦闘の間は、死に戻りをしても所持金は減少せず、所持品も無くならない。だけど、ステータスが一定時間ダウンするらしいのだ。
どのくらいの間落ちるのかはわからないけど、戦闘中にステータスダウンだなんて、手痛いペナルティである。
……だから、対策を取っていた。
――ぱりん、と。硝子が砕けるような音が鳴り、私が懐に入れていた小さな人形が壊れた。
同時に私のHPバーが全快し、私はもう一度追撃されないように急いでその場から離れる。
その拍子にアクセサリ【身代わり人形くん】の残骸が、砂となってこぼれ落ちていった。
「ガシャでゲットした【身代わり人形くん】を装備していて良かった……」
「ピーィ」
海賊達を倒した報酬として貰った王国金貨でガシャをやってみたところ、一度だけ戦闘不能を身代わりしてくれるアクセサリ【身代わり人形くん】を入手した。
それを、念のために装備しておいたおかげで、こうして死に戻りしなくて済んだのだ。備えあれば憂い無し、というやつである。
「リン、大丈夫なのか!?」
「あ、トオル。うん、大丈夫。それより巨人は?」
駆け寄ってきたトオルに答えながら巨人を見ると、片膝をついた状態で棍棒を振り回していた。
踏み潰し攻撃が出来なくなった分、攻撃はしやすくなっているらしく、皆は勢いづいて攻撃している。
チャンスである。
「リンちゃん、いける?」
「レッツゴーですよー!」
露草とユノが私を誘う。私は大きくうなずきを返して攻撃に加わった。
巨人が振るう棍棒を避けながら、流水で斬り付ける。
少しづつだけど、巨人のやたら長いHPバーも削れてきて、このまま順調にいけば倒せるかもしれない、と皆が思い始めた頃。
不気味な咆哮が空に響いた。
「え、な、なに?」
「ピィィ」
私が辺りを見回していると、巨人が咆哮に応えるかのように叫んだ。
「ヴォオオォオヴ!!」
ビリビリと肌が痺れる感覚。鎮静のカチューシャを装備していなかったら、麻痺していたかもしれない。
巨人は何度も咆哮を上げる。
その身体が徐々に赤く染まっていくのを、私達はただ眺めることしか出来ずにいた。
やがて全身が赤色になった巨人は両足で立ち上がり、二つ(・・)の黄色い目玉をぎょろりと動かし、私達を睨み付けた。
「えっ……!? 怪我が、治っている!?」
巨人に与えた傷がいつの間にか綺麗に治っていた。削ったHPはそのままだけど、まだ半分以上残っているのに、怪我が治ってしまうなんて……。
しかも、凄く嫌な予感がする。
「皆、気をつけて!」
「何かきそうだぞ!」
「巨人から離れてください!」
私と同じ予感を感じたのか、獣人達が警告を発する。
だけど、巨人の攻撃は素早かった。
「グルゥガアァアアア!!」
雄叫びを上げると、巨人は棍棒を両手で振り上げ、地面に叩きつけた。
大地が割れ、地面から槍のような岩が隆起する。岩に貫かれダメージを負ったプレイヤーは、動けないところを巨人に掴まれて握り潰された。
私もピンチだった。
「うわわっ……!」
逃げても避けても地面から岩が突き出してくる。四方を取り囲まれ、逃げ場を無くしたところで、巨人が棍棒を振り上げるのが見えた。
私に対して、なんだかやけに恨みを持っていませんか。
ああ、これは死に戻りかなー、と半ば諦めて立ち尽くしていると。
「助力する」
低くてくぐもった声が聞こえ、浮遊感が私を包んだ。
「え」
棍棒が地面に叩きつけられる。
それを私は少し離れたところで見ていた。その……黒ずくめの男性に、横抱きにされて。いわゆる、お姫様抱っこである。
「あ、う、えっと、あの」
「礼は無用。共に闇に生きる者同士、助け合ねばな」
「あの、その、あな、たは」
「うむ。我は名を東雲という。そなたはリン殿だろう? そう呼ばれているのを耳にした」
人見知りが発動してどもりまくっている私に、黒ずくめの男性……東雲さんは笑ったりせずに、きちんと返事を返してくれる。マイペースな感じもするけど、いい人なんだろうな。
でも、闇に生きる者同士? 以前も同業者だとか言っていたけど、私をなんだと思っているんだろう……。
「リン!」
などと考えていたら、トオルがやってきた。それを見て東雲さんは私を地面に降ろすと「ではな」と姿を消した。毎回思うけど、どうやって姿を消しているんだろうか。
「リン、大丈夫か? 今の怪しい奴は?」
「う、うん。大丈夫。今の人は東雲さん。あの、前に話したハンプエッグを倒す方法を教えてくれた人なの」
「例の不審者か……」
「ふ、不審者って」
確かに、怪しいけど。怪しくないとは言えないけど。
フォロー出来ずに苦笑していると、誰かの声が響き渡った。
「おい! 見ろ、結界の様子がおかしいぞ!!」
声に示されて結界を見る。すると、白く輝いていた結界が、ぼんやりとした光になっていた。
そこへ、筆頭魔術士であるリシャラザートさんの声が聞こえてきた。
『冒険者の皆さん。結界が保つ時間はあと一時間もありません。一刻も早く巨人を倒してください』
「あと一時間!?」
「まだイベント始まってから二時間もたってねーぞ!?」
リシャラザートさんの言葉に皆が騒ぎだす。巨人は、と見ると、再び結界に攻撃を加えていた。
巨人が棍棒を振り下ろす度に、結界の光が弱まっていく。
「ど、どうしよう。あと一時間で巨人を倒さないと!」
「ピィ!」
「だけど、まだあいつのHPは半分以上残ってるぞ。いったいどうやればいいんだ……」
トオルが眉を寄せて巨人を見上げる。私は流水を握り締めて、駆け出した。
「おい、リン!」
「また足首を狙ってみる!」
とにかく、これ以上結界に攻撃をされないようにしないと。そう考えた私は、もう一度膝をつかせるために足首を狙うことにした。
けれど。
「ギャギャアアアア!!」
「えっ!?」
私が近づいたとたんに、巨人が怒りだしたのだ。
巨人が私目がけて棍棒を振るう。慌てて避けたけど、次は岩が突き出してきた。
「あっ!」
岩の一つに足をとられ、私は転倒した。そこへ、巨人の手が迫る。
呆気なく捕まってしまい、このまま握り潰されるのか、と思った時だ。
なにかが、私を掴んでいる巨人の手に体当たりしてきた。
巨人の手が緩み、私は宙に投げ出されて落下する。
そんな私を、引き寄せてグリフォンの上に乗せてくれたのは。
「大丈夫? リンお姉さん」
《World》のトップランカー真白君こと、エルフの少年、フール君だった。




