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 βテスト最終日。その日はわずかな緊張をはらんだ興奮によって迎えられた。


「イベントが始まるまであと少しかー。楽しみだね、リンちゃん」

「うん、そうだね」

「最近、露草がリンにばっかり話かける件について。あんまり冷たくすると拗ねますよー。ですよねー、トオルさん」

「なんで俺に話を振るんだ……?」


 時計台広場の一角で、私、露草、ユノ、トオルは、イベントが起きるのを待っていた。イベントが起きるのが《白の都》なのは、時間と共に告知されているので、広場にはたくさんのプレイヤーがいる。

 以前ならとっくに逃げ出しているだろうけど、今日は皆が一緒だからか、少しは慣れたのか、まだ我慢できる範囲だった。



「あ、リンお姉ちゃーん」


 可愛らしい声に振り向くと、さやかちゃんがユキトさんとこちらに向かって歩いてくるところだった。

 その後ろには、与一さんとマリアロッテくんの姿もある。


「お久し振りです、リンさん。今日はお互い頑張りましょうね」

「わんこのおねーさん、お化け屋敷をこーりゃくしたんだって? やるねー」

「お久し振りです与一さん。はい、頑張りましょうね。マリアロッテくん、その話は誰から?」

「あ、僕がだよ。言ったら駄目だったかな?」

「ユキトさんがでしたか。いいえ、大丈夫ですよ」


 与一さん、マリアロッテくんが私に声をかけてくる。それに対して返事を返し、そのまま喋っていると、さやかちゃんがいきなり声を上げた。


「あっ! 紅蓮お兄ちゃんだ!」


 その言葉に、私は頬を引きつらせる。思い出すのは、昨日のことだ。

 クエスト《街の便利屋さん、その5》をクリアした後、私達はばったりと紅蓮達に会った。失敗だったのは、私がトオル達に紅蓮の話をしていなかった事だ。

 その後の騒ぎは思い出したくない……。

 ちらり、と横を見るとトオルの目が険しくなっている。ああ、面倒になる予感がする。

 憂鬱になる私を余所に、紅蓮はさやかちゃんに気付くとすぐにやってきた。


「よう、チビ。元気だったか?」

「チビじゃないよ、さやかだよ」


 むう、と唇を尖らせたさやかちゃんだったが、すぐに機嫌を直して笑顔になった。


「さやかは元気だったよ! 紅蓮お兄ちゃんは?」

「おう、元気だったぜ。まあ、たった今気分は悪くなったけどな」


 言いながら紅蓮はトオルを睨み付ける。いや、睨んでいたのはトオルが先だから、睨み返す、の方が正しいかな。

 とにかく、またトオルと紅蓮は一触即発の空気を撒き散らし始めた。


「気分が悪いならログアウトしたらどうだ、チンピラ」

「手前がいなくなりゃあ、問題ねぇよ」

「ちょっと、ストップ! こんな場所で昨日みたいな騒ぎはよそうよ!」


 睨み合う二人の間に、私は無理やり割って入った。昨日は決闘騒ぎにまで発展してしまったのだ。あれを繰り返させるわけにはいかない。

 そう考えていると。


「おお。なにやら楽しい事になっているじゃないか」

「あら、そうね。頑張ってね、トオル」

「頑張れー」

「女の子を巡っての睨み合いとは……いやー、青春してるなあ!」


 そこへひょっこり現れたのは、ルーゼフさんを始めとした、さつきさん、リカさん、マグロっちさん達、ギルド《トリック・ビリーヴ》の面々だった。

 紅蓮と睨み合っていたトオルは彼らを見て仏頂面になる。


「マグロっち、別にそんなんじゃねーよ。変な言い方すんなよな」

「まあまあ、照れるなよ」

「そうよー。女の子の取り合いなんて、少女漫画みたいで素敵だわ」

「うんうん。彼女さんはあれ言わないとね。ほら、“わたしの為に争わないで”ってやつ」


 マグロっちさんに続いて、さつきさんやリカさんまでもが悪乗りし始める。私がいきなり増えた人数に固まっていると、紅蓮は舌打ちして踵を返した。


「しらけちまった。またな、チビ、犬女。おい、行くぞ」

「あ、紅蓮お兄ちゃん」


 紅蓮は与一さん達と話していた仲間に声をかけると、そのまま雑踏に紛れてどこかに行ってしまった。


「紅蓮お兄ちゃん、行っちゃった……」


 淋しそうなさやかちゃんの頭を撫でた時だ。


 ごーん、ごーん……


 時計台の鐘が鳴りだした。

 騒ぎが静まり、皆が一斉に時計台を見る。すると、まるでホログラフのように映像が時計台に映し出された。


『王都の人々よ。聞こえますか?』


 映っているのは、以前見たことがあるNPCだった。

 長い緑色の髪を後ろで一つにまとめた、エルフの女性。確か名前はリシャラザートさんといったと思う。この国の、筆頭魔術士らしい。

 リシャラザートさんは、凛とした声で続ける。


『今日、二の刻に大いなる災いが訪れると予言がおりました。住民の中でまだ避難していない者はすぐに避難してください。そして、我々に力を貸してくれる冒険者達よ。あなた方に我が国の王太子と王女よりお言葉があります』

『ご機嫌よう、冒険者の諸君』

『はじめまして、皆様』


 リシャラザートが画面から消えて、かわりに二人の見目麗しい男女が映し出された。


「うわ、きんきら美形!」


 驚いたような露草の言葉通り、王太子と王女は輝くような美貌の持ち主だった。

 しかも、両者とも金髪金目。豪華な衣装を纏っているのもあって、まさに“きんきら”とした美しさだ。

 私も思わず見惚れてしまう。

 画面の中でまだ若い青年の王太子は微笑んで話しだした。


『我が国の未曾有の危機に共に立ち上がってくれることを深く感謝する。何事が起こるのかはまだわからないが、君達と我が国の兵士が力を合わせれば、必ずや災いを退けられるだろう。期待している』


 そして、次に可憐な王女が映し出される。


『どうか皆様、わたくし達をお助けくださいませ』


 花のような美少女に助けを求められ、男性プレイヤー達がどよめく。任せてくれ、とか、王女様名前はー? とか、一気にうるさくなった。

 王女様はそれらの声に、にっこりと微笑んだだけで後ろに下がり、再びリシャラザートさんが前に出た。


『そろそろ二の刻です。さあ、戦いの準備を』


 リシャラザートさんの言葉に、騒いでいたプレイヤー達も静かになり、皆、自分の装備やアイテムを確認し始める。

 私もちゃんと確認する。うん、大丈夫だと思う。


 そして、再び時計台の鐘が鳴り響く。


 ごーん、ごーん……


 しばらくして鐘が鳴り終わると、皆が息を飲んで辺りを見回した。

 いったい、何が起きるというのだろう。

 息詰まるような緊張の中、一人のプレイヤーが空を指差した。


「見ろ! 空が変だぞ!!」


 皆が空を見上げ、驚きをあらわにする。私も皆と同じように目を見張った。

 今は昼の二時。今日も《World》は晴天で目に痛いほどの青空が広がっている――筈だった。


「空が、赤い……」


 まるで夕暮れ時のように、空は赤く染まっていた。

 いいようのない不安感が広場に広がっていく。

 ざわめくプレイヤー達。

 さやかちゃんがユキトさんの服を握り締めるのが見えた。


「さやかちゃん……」


 何か声を掛けてあげようとしたが、出来なかった。

 突然、地震のような揺れが私達を襲ったのだ。


「なになに、地震?」

「早く避難しないとですー」


 露草とユノが頭を抱えて地面にしゃがみこむ。

 だけど、トオルはその二人の言葉に首を振った。


「いや、これは、違うみたいだぞ。揺れがどんどん大きくなっている」

「え? どういうこと?」


 私が戸惑った時だ。


「ピィ!」


 おとなしく隠れていたレヴィがポケットから頭を出して、鋭く鳴いた。同時に、与一さんが空を指差す。


「見てください、何かが近づいています!」

「え、……っ!?」


 与一さんが示す方向を見て、私は唖然とした。

 大きな大きな影が、こちらに向かって歩いていた。

 しかも、一体ではない。

 それは、雲に届くほどに大きな四人の巨人達だった。


ついに最終イベントの始まりです。上手く書けるかはわかりませんが、頑張ります。

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