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《白の都》は今日も賑やかだ。
とうとう最終日を明日に迎えた今日、私はとあるクエストに挑むことにした。
鍛えに鍛えた、この一月と二週間。今なら、そう今ならこのクエストも達成出来るのではないだろうか。
――クエスト《街の便利屋さん、その5》……私が初めて行った突発クエストで、初めて失敗したクエストでもある。
その後、何度か挑んだものの、全て失敗に終わっている。でも、今日こそは!
「リンちゃん、リラックスリラックス!」
「そうですよ。肩の力を抜いて頑張ってくださいー」
「……まあ、頑張れ」
露草、ユノ、トオルが私を励ましてくれる。今日の話をしたら、なぜか応援に来てくれたのだ。
「うん、ありがとう」
小路を歩きながら、私はしっかりとうなずく。
ここまではばっちり拾ってきた。クエスト発生条件は整っている筈である。
緊張をほぐすために深呼吸をして、私は坂道へと足を踏み出した。
いつかの光景が、そこにはあった。
急斜面の坂道をゆっくりと登っていくロバを引いたお爺さん。ロバに付けられた台車には、丸い野菜や果物がこれでもか、と言わんばかりに積まれている。
「…………」
私は無言で背負っていた籠を下ろし、身構えた。
トオル達が道の端に立ち、こちらを見ている。
音楽が鳴り、システムからのメッセージが表示された。
――クエスト《街の便利屋さん、その5》
落とし物を全て拾ってあげよう!
……オーライ。今日こそはクリアしてみせる。
――スタート!
私は坂道を転がり落ちてくる野菜や果物に向かって駆け出した。
まずはたまねぎやオレンジ、リンゴなどの軽い物。拾ったそばから邪魔にならないように置いた籠に放り込む。
次にかぼちゃやメロンなど。これも全部拾って籠に入れる。
そこからは難しくなる。
まず、スイカが十数個一気に転がってきた。前回はここで失敗してしまったけど、今回は大丈夫。
「リンちゃん、籠置いたから!」
「頑張れ、ですー!」
露草とユノが新しい籠を置いてくれる。友達って、本当にありがたいな。
私はスイカを拾う度に籠に放り込んだ。
よし、後は樽をキャッチするだけだ!
「来たぞ!」
トオルの言葉に前を向くと、坂道を勢いよく転がり落ちてくる樽が見えた。
はっきり言って、まともに受けるのはよっぽど力がある人じゃないと無理だと思う。
「だから、小細工させてもらう」
つぶやいて、私は投げナイフに手を伸ばした。
スキル【狙い撃ち】の力を借りて、ナイフは真っ直ぐに飛ぶと、樽の進行方向に突き刺さった。
ナイフに一瞬引っ掛かり、樽の勢いが僅かに削がれる。それを投げナイフの数だけ繰り返せば、樽のスピードは大分落ちていた。
そこを、全力で止める。
「くっ……!」
重い。これ、中身入ってるよ!
ワインか何かが入っているらしい水音をたてながら、樽は――止まった。
「やった……!」
とうとう、全部拾えた……というか、受け止められた。私が喜びを顕にしようとした、その瞬間。
「ひょええー!!」
まさかのお爺さんが坂を転がってきた!!
ちょっ、運営ーっ、何考えてんのー!?
私は驚き呆れながらも、体当たりするようにお爺さんを受け止めた。
見事なローリングで落ちてきたお爺さんは、私を見ると親指を立てた。
「グッジョブ」
……捨てていいかな。
思わずそう考えた私の耳に、盛大なファンファーレが聞こえてきた。
――クエストクリア! おめでとうございます!
ソロでクリアしたあなたには称号【街のお助け人】が装備品と共に送られます!
そんなメッセージと共に出現した装備品は、【鎮静のカチューシャ】だった。
頭装備:【鎮静のカチューシャ】DEF+3 INT+5
備考:麻痺、眠り、混乱などの状態異常を受けにくくなる。
おお! これで麻痺に悩まされることが少なくなる!
感覚が鋭いせいで麻痺などに弱い獣人の私にとっては、嬉しい報酬だった。
「リンちゃん、おめでとー!」
「やりましたね、リン!」
「……まあ、なんというか。とりあえず良かった……のか?」
露草が、ユノが、そして首をひねりながらトオルが祝福してくれる。いつの間にか、坂道には他のプレイヤーやNPCもいて、拍手してくれた。
「あ、ありがとう。ありがとうございます!」
いつもなら逃げ出したくなる筈だけど、今は興奮状態なのか、それとも嬉しいからなのか、平気だった。
皆に良かったな、ソロで、ってすげえな、と声をかけてもらい、それに笑顔で応える。
うわあ、やったあ。とうとうクリアしたんだ!
じわじわと喜びが湧いてきて、私はトオル達の元に笑顔のまま駆け出した。
クエスト《街の便利屋さん、その5》、完全クリア!!
ちなみに、称号の方は、街のクエストやイベントが発生しやすくなる、というものだった。
本サービスまで引き継げられるなら、なかなか便利かもしれない。
こうして、心残りも解消し、私は最終日を迎えたのだった。




