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「――冒険者達よ。よくぞここまで辿り着いた」
耳の奥に響くような重低音の声で、その存在は私達を労った。
骸骨の馬にのった、漆黒の鎧を纏った騎士。その身体に首は無く、兜を被った頭は左腕に抱えられている。
その存在を、私は知っていた。
「デュラハン……」
首の無い骸骨の馬にのった、首無し騎士は、腕に抱えられたまま笑みを浮かべていた。
「勇士達よ。そなたらの健闘を称えてこれを授けよう。受け取るがよい」
デュラハンは片手を伸ばし、私達に何かを差し出した。
それは、デュラハンの鎧のように真っ黒な宝玉だった。
「リンちゃん、ほら、受け取りなよ」
「え?」
「そうですねー、今回はリンの頑張りで攻略できましたし、リンの物にしてもいいと思いますよー」
「え……いいの?」
露草とユノの言葉に私が躊躇うと、トオル、さやかちゃん、ユキトさんもうなずいた。
「いいんじゃないか。まだ何に使うかはわからないが、持っていても邪魔にならないだろうしな」
「さやかもいいよー。リンお姉ちゃんのおかげで勝てたし、このロッドも貰えたから」
「僕もいいよ。さやかもこう言ってるしね」
「皆……ありがとう」
胸が熱くなる。私は笑顔でお礼を言って、そっとデュラハンに近づいた。
異様な騎士は、静かに待っている。
「ありがとうございます」
デュラハンの手から宝玉を受け取り、私が頭を下げると、豪快な笑い声がそれを吹き飛ばした。
「礼など無用。そなたらの武勇に値する物を渡したまで。では、さらばだ」
笑い声が響く中、私は唐突に目眩に襲われた。揺れる視界に目を瞑る。
次に目を開けた時、私は一階の玄関前に立っていた。
「……え?」
皆も私と同様に、ぽかんとした顔で立っている。
「ここ、一階だよね? 転移されたのかな」
辺りを見回しながら、ユキトさんがつぶやく。転移。そうか、飛ばされたのか。
「でも、やったね! お化け屋敷、クリアー!!」
露草が私に抱きついてきた。
「やりましたねー!!」
次にユノが飛び付いてくる。
「あー、さやかも混ぜてー」
続いて、可愛らしく頬を膨らませてさやかちゃんもくっついてきた。
「ピィ、ピーィ!!」
私の首に巻き付いていたレヴィが肩に移動して、機嫌良く鳴いた。
トオルもユキトさんも笑顔で私達を見ている。
私は宝玉を持った方の手を頭上に突き出して、笑った。
「お化け屋敷、クリア! 黒の宝玉、ゲットー!!」
「おーっ!!」
皆がノリ良く拳を上げてくれる。そして顔を見合わせて、笑い転げた。
やったね!!
お化け屋敷の外に出ると、綺麗な夕焼け空が広がっていた。
「あーあ。後十日でβテストも終わりかー」
「楽しかったですねー」
「それを言うのは、まだちょっと早いよ」
露草が伸びをして溜め息と共につぶやき、ユノがしみじみと言う。私はユノに笑いながら首を振ってみせた。
「そういえば、聞いたかい? 最終日には大規模戦闘が用意されてるらしいよ」
「大規模戦闘? どんなのだ?」
ユキトさんの言葉に全員が注目する。トオルの質問に、ユキトさんは頭をかいて苦笑した。
「そこまでは知らないけどね。でも、全プレイヤーに参加を求めるらしいよ」
「さやかもユキ兄と参加するんだよ!」
「ピーィ?」
さやかちゃんが楽しそうに胸を張り、レヴィが私を覗き込んで小首を傾げた。
多分、参加するの? だろう。
「楽しそう! リンちゃん、参加するよね?」
「参加しましょうー」
「……まあ、最後だしな」
露草、ユノ、トオルが私を見る。私は皆にうなずいてみせた。
「うん、もちろん! 最後に大騒ぎしようね!」
「おーっ!」
「おーっです!」
露草とユノがまたまた腕を振り上げて笑い、トオルが私を眩しそうに見つめた。
「え、なに?」
「いや……会った時と比べると、少し変わったな、と思ってな」
「え? そうかな?」
「ああ」
変わった……のかな?
私は夕焼け空を見上げて、今までの出来事を思い出した。
βテストが始まって約一ヶ月余り。その間には、いろんな事があった。
人見知りの私なのに、たくさんのフレンドを作れた。
……なんて幸運なんだろう。
「……まあ、まだ後十日あるけどな」
「うん、そうだね」
いつの間にか、皆も私と同じように茜色の空を見上げていた。
なんとなく、離れがたくて、私達はしばらくそうしていたのだった。
……βテスト終了まで、後十日。最後まで目一杯遊んで、楽しもう。
そう思う、私だった。
今回で【お化け屋敷編】も終了です。如何でしたでしょうか。
感想などいただけると嬉しいです。
さて、いよいよ終わりが見えてきました。最後までのんびりと頑張るつもりですので、よろしければお付き合い下さいませ。




